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貧困が引き金に。いま若い女性と児童・学生の「自殺」が増えているワケ。シングルマザー救済こそが日本の課題=原彰宏

コロナ禍の影響か、他人を巻き込んでの自殺が多発しているといいます。日本の自殺者数は多いという話をよく耳にしますが、全体数としては減る傾向にありました。それが2021年には上昇に転じ、とくに若年層の女性・児童や学生の割合が増加しています。その背景には、シングルマザーの貧困問題が見えてきます。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

【関連】日本の貧困層は飢えずに太る。糖尿病患者の半数以上が年収200万円未満の衝撃=鈴木傾城

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他人を巻き込む「拡大自殺」

「拡大自殺」という言葉を、最近よく耳にします。

他人を巻き添えに自殺しようとする犯行が続いています。犯行後に自殺する容疑者が多いですが、中には、自ら命を断つのではなく死刑判決を得るための犯行もあるようです。

他者を巻き込んで殺害して自分も死のうとする行為を、精神医学では「拡大自殺」と呼ぶようです。

2022年1月30日の九州ブロック紙である西日本新聞の社説に、拡大自殺に至る要因を6つ挙げています。

(1)長期間にわたる欲求不満
(2)他者のせいにする他責的傾向
(3)破滅的な喪失
(4)外部のきっかけ
(5)孤立
(6)武器入手

出典:拡大自殺孤立化防ぐ安全網強化を – 西日本新聞(2022年1月30日配信)

拡大自殺を試みるのは若者というイメージがありますが、そうではありません。大阪市の心療内科クリニックで25人が犠牲者となった昨年12月のビル放火殺人事件の容疑者は、クリニックに通院していた61歳の男性でした。

西日本新聞社説によれば、拡大自殺が日本社会で目立ち始めたのは、児童8人が命を落とした2001年の大阪教育大付属池田小の殺傷事件が起きた頃だと解説しています。

「失業率」と「自殺者数」に相関関係

「日本は自殺者が多い」……これはよく言われることですが、かつて年間3万人だった自殺者数は、徐々に減ってきていて、昨年は2万1,081人でした(警察庁調べ)。

大きく減ってはいますが、2020年に底を打って、2021年は若干増えました。右肩下がりで減っていたのが、2020年は11年ぶりの増加になりました。

ひょっとすれば「V」の字を描きだすのかもしれませんね。それも「新型コロナウイルス」まん延が影響しているのでしょうか。

新型コロナは「家計」を破壊しましたので、収入が途絶えた生活苦からの将来不安による自殺者が増えてこないか、非常に心配です。

自殺者のピークは2003年、それまでは右肩上がりに自殺者は増えていましたが、このグラフに失業率を重ね合わせると、見事に相関関係があることが伺えます。

完全失業率がピークに達するのも2003年になるのです。

一方、他殺事例は劇的に減っていて、ピークは1955年で、そこから右肩下がりに着実に減っていて、昨年が最も低い数字となっています。

Next: 全体数は減少も、増え続ける「20歳から29歳」の自殺者数



若者の自殺者数は増える傾向

自殺者に話を戻しますが、全体的に減ってはいるものの、年齢別では2019年から2020年にかけて増えているのが「20歳から29歳」の年齢層です。

生活苦がどうも透けて見えます。非正規雇用者も多いでしょうし、フリーターも多くいそうですからね。

特に、20歳未満は近年、上昇傾向にあるようです。

若い世代(10代〜20代)で死因の第1位が「自殺」となっているのは、先進国(G7)では日本のみです。

圧倒的に多い「無職」の自殺者

職業別で自殺者を分析すれば、圧倒的に「無職」者が多く、被雇用者が次にきて、自営業者は3番目に多くなっています。

2006年のデータになっていますが、無職者の自殺者数は1万5,412人、被雇用者では8,163人、自営業者で3,567人となっています。自営業者の倍の数になっているのが被雇用者、そのさらに倍が無職者という状況です。

自殺と経済、自殺と景気、自殺と雇用……これに若者の貧困をかけ合わせると、どのようなことが想像できますか。

自殺者を減らすには、経済が良くなければならない、景気が良くなければならないというのは、当たり前にわかっていることですが、それでもこういうふうに数字で見せつけられると、かなり深刻さが伝わってきますね。

経済苦が自殺に直結する

当メルマガではここまでいくつかの「日本の課題」を取り上げてきましたが、何十年も成長していない日本経済と、完全失業率は改善されていても一向に上がらない最低賃金が、日本人の生命を奪っているということに、愕然としてしまいます。

若者に未来の希望はあるのでしょうか。

世界ではずっと経済が成長していて、最低賃金も上がっている中で、日本だけが低成長で低賃金を維持し続けているというのは、やはり日本の政治に大きな問題があると言わざるを得ません。

それを、私たち日本人はどこまで理解し、自分ごととして捉えているのでしょうか…。

Next: コロナ禍でさらに増えてしまった「女性」の自殺者数



女性の自殺者が増えている

前述の通り、自殺者の年齢別では2019年から2020年にかけて増えているのが「20歳から29歳」の年齢層です。

気になるのは、この年齢層の自殺者には「女性の方が多い」ということです。

2021年に閣議決定した「自殺対策白書」では、職についている女性の2020年の自殺者数は1,698人で、2019年までの5年間の平均と比べて3割近く増加したとあります。

なぜ女性に自殺者が多く出たのか…。

新型コロナウイルスの感染拡大で、飲食・サービス業など、女性が多い非正規労働者の雇用環境が悪化したことが影響したとみられています。

2020年の自殺者数を新型コロナ感染を意識してみますと、年前半は例年より少なく、後半に増加しています。緊急事態宣言中の4月は前年より300人以上少なかった一方、感染が落ち着いていた10月は700人近く多かったようです。

必ずしも、経済活動が抑制される感染拡大期に増加しているわけではないですが、それは、じわじわと雇用に影響をもたらすのにタイムラグが生じているだけではないでしょうか。10月は無職女性の増加が目立ったようです。

新型コロナウイルスが破壊した労働環境、雇用の影響が出ているのではないでしょうかね。

動機別では「うつ病」など精神疾患を含む健康問題が多かったようですが、表面的なことではなく、経済や生活の問題など他の要因が精神疾患に発展するケースも多く、厚生労働省は要因を複合的に見るよう指摘しているのは当然のことでしょう。

児童・学生の自殺が増えている

もっと恐ろしいのは、2020年は児童・生徒の自殺者数が499人で過去最多となったということです。

3月の一斉休校の要請直後には大きく減少したものの、学校が再開した6月に一転して急増し、夏休み明けの9月にも増加が見られました。11月も大きく増加しています。

長期休暇明けの子どもの自殺は、かねてより社会問題になっていました。

学校の一斉休校は、思わぬところで“罪深い”ものになっているようです。ものごとを、一方向だけで見てはいけないですね。

就職や進路の相談時期と増加時期が重なっていることもあり、将来への不安などが自殺者増に関係している可能性があるとも言えます。

「自殺対策白書」にある自殺した女性の職業を見てみますと、一番多かったのが「事務員」、次いで「その他サービス職」、さらに「販売員」「医療・保健従事者」「その他の専門・技術職」と続いています。

Next: 貧しさが自殺に直結する。シングルマザーの貧困問題がより深刻に



シングルマザーの貧困問題

シングルマザーの貧困は、大きな社会問題となっています。母子家庭と言われる世帯の貧困は、年々厳しさを増しています。

国の援助はあることはありますが、それを受けることへの偏見、またその金額は果たして十分と言えるのでしょうか。

シングルマザーだけを手厚く手当をすることの是非もあるのでしょうが、他に無駄な支出、政治家の私利私欲による支出など、国民に向けて払われていない支出をすべて見直せば、シングルマザーだけでなく、多くの生活困窮者の援助になるのではないかという提案です。

母子家庭・父子家庭を援助する国の制度を紹介します。

・児童扶養手当

母子家庭や父子家庭を対象にした制度で、所得と子どもの数に応じて手当が支給されます。支給者は地方自治体で、0歳から18際に達して最初の3月31日(年度末)までの子どもがいる世帯が対象です。世帯に児童一人の場合、以下の額が基準です。

全額支給 42,500円
一部支給 42,490円〜10.030円までの10円きざみの額

児童二人以上の場合は、上記金額に10,040円〜5,020円の加算、三人目以降は6,020円〜3,010円ずつさらに加算されます。所得に応じた支給額となっているため、正確な金額はお住いの自治体窓口で確認することが必要です。

※出典:シングルマザー(母子家庭)の貧困率が高い理由とは?子どもの貧困の実状や原因、利用できる支援など – gooddoマガジン(2019年2月20日配信)

・児童手当

日本に住み、0歳から15歳(中学校修了まで)に達して最初の3月31日(年度末)までの間の子どもがいる世帯が対象です。旧称は「子ども手当」と呼ばれていたものです。支給額は以下のようになっています。

3歳未満の児童 15,000円/月(一律)
3歳以上小学校終了前 10,000円/月

(第3子以降は15,000円/月)
中学生 10,000円(一律)

児童手当には所得制限限度額が設定されており、制限以上の所得の世帯は、特例給付として児童一人につき5,000円/月が支給されます。

出典:同上

・母子家庭・父子家庭の住宅手当

ひとり親世帯で、民間の賃貸住宅に住んでいる場合に利用できる、住宅手当の制度です。支給額の相場は5,000円〜10,000円です。市町村によって、「そもそも制度がない場合がある」、「児童の年齢範囲や所得制限の条件に差がある」といった特徴を持つ制度なので、やはり、まずはお住いの自治体窓口で確認することが必要です。

出典:同上

この他にも引用したgooddoマガジンさんの記事には、医療費助成制度、税金が控除される寡婦控除など「ひとり親世帯」に向けた制度が詳しく書かれています。

さて、これらの制度をざっと見て、果たして十分だと思われますか。

Next: シングルマザーの貧困対策は「日本の課題」そのもの



シングルマザーの貧困対策は「日本の課題」そのもの

なにより、シングルマザーの労働環境、非正規雇用やパートタイマーの場合の実労働時間が確保できないことによる給料の低さもあります。

1つの案ですが、ベビーシッターの料金がもっと安ければどうでしょう。あるいは、費用を国や自治体で負担することは考えられないのでしょうか。

コロナ禍で、厳しい現実があぶり出されたかとも思います。

子どもは日本の未来の宝です。自殺者の増加、中でも女性の自殺者増加、児童・生徒の自殺者増加、その背後にあるシングルマザーの貧困問題……これらは最も大きな「日本の課題」と言えそうです。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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