マーケットが大きく乱高下を繰り返す現在、ヘッジファンドの動向にも変化が表れています。主要顧客だった「年金マネー」で、“ヘッジファンド離れ”が起こっているのです。(『海外ファンドで資産を作ろう!』荒川雄一)
プロフィール:荒川雄一(あらかわ ゆういち)
国際フィナンシャルコンサルタント、海外ファンドアドバイザー。金融機関に影響を受けない独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)として、投資顧問会社IFA JAPANほか、リンクスグループ3社の代表を務める。投資教育にも力を入れており、国立高知大学講師、大前研一氏監修BBT大学院大学講師などを歴任、講演回数800回以上。その他、日本経済新聞社、各マネー誌、フジTVなど執筆、出演も多数。
資金流出が続くヘッジファンド業界でCTAが好調を維持できた理由
平均リターン-1%、業界の苦しい現状
ヘッジファンドの主要顧客だった「年金マネー」では、昨年来、“ヘッジファンド離れ”が起こっています。カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)を初め、オランダ年金の大手PPZWも、ヘッジファンドでの運用を取りやめました。
要因としては、
- 過去4年間、ヘッジファンド指数は、S&P500種株価指数の収益率を下回っている
- 総体的にヘッジファンドの報酬は高い
- 透明性並びに流動性が低い
といった複合的な要因が考えられます。
世界的な量的金融緩和により、2015年6月末時点のヘッジファンド残高は、2兆9690億ドル(約330兆円)と、2年前より、残高を約30%も伸ばしていました。
ところが、昨年の10-12月期に、4年ぶりに「資金流出」に転じました。最大の理由は、“ 運用利回りの低下”です。
昨年1年間、S&P500の運用利回りが-0.7%だったのに対して、ヘッジファンドの平均リターンは、“-1%”でした。
アメリカの大手保険会社であるAIGは、今年1月にヘッジファンドへの投資額を半分にすると表明しました。現在、約110億ドルの運用額の半分が、資金流出することとなります。
また、上記の年金基金の撤退などを受けて、フィラデルフィア市の年金も、昨年12月末には、ヘッジファンドの投資比率を4割削減しています。
パフォーマンスの低下を受けて、ヘッジファンド業界全体としては、非常に厳しい状況に置かれていると言えます。
Next: 好調な実績を残したCTA(商品投資顧問業者)の運用戦略とは?
好調な実績を残したCTA(商品投資顧問業者)の運用戦略とは?
ヘッジファンド業界全体としては、非常に厳しい状況ではありますが、個別戦略を観ていくと、年明け以降、好調な実績を残している“ヘッジファンド戦略”もあります。
それは、“CTA(商品投資顧問業者)”の戦略です。
商品投資顧問と聞くと商品市場をイメージするかもしれませんが、実際には、コンピュータープログラムによって、100から400以上の取引市場において、24時間自動売買を行うヘッジファンドのことです。
CTAが、昨年来、好調を維持しているには、“理由”があります。それは、昨年、金や原油といった商品相場が、12年ぶりの大幅下落をしたからです。
商品相場下落の主要因は、
- 中東産油国や米シェール原油の増産による生産超過(過剰供給)
- 中国需要の落ち込み(中国の成長率の鈍化)
- 米ドル高(国際商品は、ドル建で取引されるため)
の大きく“3つ”が考えられます。
そして、ここまで明確に“下落トレンド”が出ている市場は、他にはありませんでした。まさにトレンドフォロー型のCTAにとっては、「原油」は、“絶好のターゲット”となったのです。大手運用会社をはじめ、多くのCTA業者が、この原油先物の“売りポジション”で収益を上げました。
マーケットの「リスクオンとオフ」が、目まぐるしく変わる市場においては、トレンドフォロー型のヘッジファンドは苦戦を強いられますが、トレンドのはっきりしている取引市場を選別することによって、好調を維持することができます。
今のところ、原油価格の上昇要因は見当たらない状況ですが、大きく反転する機会がくれば、逆に、その上昇トレンドに乗れるかどうかが、今後の腕の見せ所と言えるでしょう。
業界としては資金流出が続くヘッジファンドですが、個別戦略で生き残りをかけた競争が、しばらく続くこととなりそうです。
『海外ファンドで資産を作ろう!』(2016年4月29日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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