2月24日にロシアがウクライナに侵攻したというニュースを受けて、株価が乱高下しています。
これからどうなっていくのか、解説します。表面的なことだけではなく、本質的に何が起こっているのかを理解していただきたいと思います。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
ロシアのウクライナ侵攻はなぜ起こった?
ウクライナは、元々はソビエト連邦の一国で、1991年のソ連崩壊によって独立した国です。
まずは地理的な条件を把握してください。
このように、ロシアとヨーロッパの間にあります。
元々ソ連だったこともあり、独立したとはいえロシアとのつながりは深いものでした。
しかし、2014年にゼレンスキー大統領という親欧州派の大統領が誕生しました。
そうなると、ウクライナはロシアよりも豊かでまとまりがあるように見えるヨーロッパあるいはNATO(北大西洋条約機構)に加盟したいと言い出しました。
加盟できれば経済的なつながりも深くなり、NATOという軍事同盟に加入すれば安全保障的にも有利に政治を進めていけるわけです。
ところがこのNATOは元々社会主義国に対抗するために冷戦時にできたもので、ウクライナが加盟すると、いよいよ地理的にはNATO加盟国とロシアが隣接してしまうこととなります。
仮にウクライナがNATOに加盟し、それを口実にアメリカ軍がウクライナに駐留することとなると、ロシアとアメリカが目と鼻の先にあるという、冷戦は終わったとはいえ未だに緊張関係が続く両者にとって望ましくない状態となります。
プーチン大統領にとってそれは非常に受け入れがたいことなので、ウクライナにNATOには入るなと脅しをかけていました。
一方で欧米もウクライナをNATOに入れたいというありながらも交渉によってロシアのウクライナ侵攻を避けようとしていましたが、プーチン大統領の言い分としては、欧米がウクライナをNATOに入れないと約束すれば侵攻はしないと言っているのに一向にその約束を守らないと、両者の間に溝があったわけです。
さらに言えば、ウクライナは元々ソ連で、民族的にもロシアにかなり近いということで、ウクライナはロシアのものと言わんばかりに踏み込んできていました。
ウクライナにも「親ロシア派」の人々がいて、プーチン大統領の口実として、ウクライナでいじめられている親ロシア派を救うためにロシアがウクライナに手を出して、民族を取りまとめようというのが表向きの言い分ではないかと思います。
しかし、これには新型コロナウイルスの影響もあると思います。
各国ではこのウイルス対策に苦慮していて、支持率が下がっています。
独裁者であるプーチン大統領にとっては国民の支持が無くなると政治的に苦しい状況になってしまうので、内部ではなく外に目を向けることで支持率を高めるという狙いが一般的にはあります。
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早期決戦?泥沼化?経済的影響は
では、ロシアのウクライナ侵攻によって何が起こるでしょうか。
欧米諸国はロシアに対して、輸出をストップしたり金融取引をさせないなどの経済制裁を行いました。
これによってロシアが経済的に苦しくなるのは間違いなく、ロシア株も大きく下がっています。
同時にロシアも対抗措置を取ります。
主な対抗措置として、原油や天然ガスの輸出を制裁を科した国に対してストップするということが考えられます。
ロシアは原油や天然ガスの巨大輸出国なのです。
原油では世界2位、天然ガスでは世界一の輸出量となっています。
ロシアの輸出先の半分はヨーロッパで、それが止まると当然原油価格が上昇します。
また、ロシアからパイプラインを通じて天然ガスをヨーロッパに輸出していて、特に影響が大きのがドイツです。
ドイツは経済的にも政治的にもロシアとのつながりが深く、天然ガスに関しては4割がロシアからの輸入ということで、それが止まると経済的なダメージが大きいです。
したがって、ドイツ株も下がっています。
各国が原油や天然ガスをロシア以外から調達しなければならなくなると、原油価格が上昇します。
それ以前に人手不足や船が出ないなどの理由で今原油価格が7年ぶりの高値というところまで上昇していて、原油価格はあらゆる商品の価格に影響があるので、世界各国でインフレが懸念されている状況です。
ここでさらに原油価格が上昇するとなると、インフレのさらなる加速が想定されます。
世界はそれを警戒し、それに伴い株価も下がっています。
最悪のシナリオとして想定されるのが、今インフレを抑えるために金利を上げるテーパリングを行って景気を冷まそうとしていますが、その一方で原油価格が上がり、不景気下でのインフレ、つまりスタグフレーションが発生することです。
そうなると多くの企業はかなり苦しい状況となってしまうので、市場は警戒しています。
もっとも、原油価格の上昇が金利の上げ幅を抑える役割を果たす可能性もあり、物事は常に一方向に動くわけではなく、あらゆることが総合的に作用して動くものだと認識してください。
ロシアの強行で、欧米諸国は対話による解決を目指していましたがそれもままならなくなってきました。
プーチン大統領としては、ウクライナを完全に手中に収めてしまおうとするのではないかと思います。
このまま放っておいても、ウクライナがNATOに加入する可能性がくすぶり続けることになりますから、ならいっそロシアの中に取り込もうという思惑です。
そうやることで、対外的にも対内的にも、強いロシア、強いプーチンを印象付けられるということになります。
欧米諸国も、現時点ではウクライナはNATOに加盟していないので、集団的自衛権を行使することもできず、おいそれとアメリカ軍やNATO軍を派遣することも現実的にはできません。
よってこの戦闘に第三者が介入する可能性は低く、ロシア対ウクライナの戦争になるのではないかと思います。
そして、ロシアの方が強いということも確かかと思います。
一方でロシアとして苦しいのが経済制裁です。
どこかで手を打つことにはなるかと思いますが、安易な道筋があるわけでもなく、事態が泥沼化する可能性もあります。
もっとも、経済的なことを考えると欧米諸国としてもなんとかしたいわけです。
このまま原油価格が上昇するとスタグフレーションが現実味を帯びてきますので、それは避けたいところです。
こうしてみると、多くの人はこの戦争を早く終わらせたいと思っているのではないかと思います。
一方でアメリカなんかは軍事産業の声が強く、戦闘が続いた方がいいと考えるかもしれないので、確定的なことは言えません。
ここで漁夫の利を得ているのが、中東諸国であったり原油を生産している企業であったりします。
Next: 今、投資家(特に初心者)がやってはいけない3つのこと
今、投資家(特に初心者)がやってはいけない3つのこと
こういった状況で、投資家としてはどのように動くべきでしょうか。
今回の件で参考になるのは、1991年の湾岸戦争です。
この時はイラクがクウェートに侵攻したことで原油価格が大きく高騰し、元々40ドル程度だったものが一度は80ドルまで上昇しました。
しかし、欧米諸国によるイラクへの空爆が行われ、そこからは比較的短期間で終結したこともあり、原油価格の高騰は一瞬で終わりました。
その時の株価を見てみますと、1990年8月のイラクのクウェート侵攻のタイミングでS&P500は大きく下がりましたが、下がる期間は1~2か月で、その後はむしろ上昇を続けて、1991年5月には当時の最高値をさら新するまでになりました。
こう考えると、一般論としては戦争は株価としては買いだというパターンが多いわけです。
しかし、今回の件は長引く可能性もあり、毎回同じことが起こるわけではないということは頭に置いておかなければなりません。
この状況で、投資初心者がやってしまいがちですがやってはいけないことを挙げたいと思います。
<やってはいけないことその1:空売り>
ひとつは空売りです。
今は悲観が高まっているので、株価指数などに空売りすればいいのではないかと考える人もいるかもしれませんが、それは投資家がやってはいけないことです。
戦争が始まった時は確かに株価が下がりますが、ネガティブな情報は出た瞬間にほぼ全て株価に織り込まれ、むしろ行き過ぎるほどとなります。
コロナショックの時が代表的ですが、その後のリバウンドはかなり大きくなります。
空売りの損失は青天井なのでそもそも初心者がやるべきではありませんが、こういった局面でやるのはさらにいただけないものです。
<やってはいけないことその2:レバレッジをかけて投資する>
じゃあ逆に原油関連などにレバレッジ(信用取引)をかけて、上がる方に乗ればよいのではないかと思ってしまいますが、それもやってはいけません。
いま原油価格が高騰していて、戦争が泥沼化してしばらく高騰が続くという見方は確かにありますが、これも空売りと似たようなもので、情報はすぐ織り込まれます。
いま原油価格が上がることは誰しも分かっていますから。みんなそこに群がります。
そしてどこかで、しかも情報が確定するよりも早い段階で一気に上昇から下落へ転じる可能性があります。
その反転のタイミングが分からない以上、そこにレバレッジをかけてまで投資するのはリスクが大きすぎます。
湾岸戦争の時も、原油価格が40ドルから一気に80ドルまで上がりましたがその後すぐに40ドルに戻りました。
もし高値で掴んでいたなら悲惨な状況です。
信用取引もそもそも初心者がやるべきではないですが、もし考えている方がいるなら一度考え直してください。
Next: やってはいけないことその3は?短期か長期か、期間別の投資戦略
<やってはいけないことその3:原油価格上昇を価格に転嫁できない企業に投資する>
3つ目のやってはいけないことは、原油価格上昇を価格に転嫁できない企業に投資することです。
原油価格は予想できないものですが、中期的なシナリオとしてはこの高騰とインフレ傾向はしばらく続く可能性が高く、逆にデフレになる可能性は低いと思われます。
インフレになると原材料価格が上がります。
原材料価格が上がった分販売価格が上がっても売れるような強いブランド力を持った企業なら良いですが、競争が激しかったりして価格を上げられないような企業が価値を伸ばしていくのは難しいです。
そもそも原材料価格の上昇を商品に転嫁できないような企業は、少なくとも長期では持つべきではありません。
投資期間別戦略
ここからは、短期(数週間)、中期(1年~5年)、長期(5年以上)の投資戦略を示していきます。
私が行っているのは長期投資ですが、それぞれの戦略を理解することで自分の投資を確立することにつながると考えます。
<短期(数週間)の投資戦略>
まず短期としては、原油価格の高騰に賭けるというものがあると思います。
一般的にモノの価格が上がると儲かりますから、そこに人々が殺到して供給量が増え、やがて価格は下がります。
上がり続けるということはありません。
ただ、原油に関しては、新たに生産しようとしてすぐに生産できるものではありませんから、そこに1~2年のタイムラグを要します。
そのタイムラグの間は足りない状態が続きますから、その期間は上がる可能性があります。
しかし、上がって一気に下がる可能性もあるので下がったらすぐに退散する必要がありますが、そういうところには歴戦の猛者たちが集まるので、初心者が太刀打ちできる相場ではないと考えます。難易度の高いギャンブルです。
<中期(1年~5年)の投資戦略>
中期の戦略としては逆張りです。
紛争も原油の高騰もいつかは終わり、平常回帰すると考え、例えば過去5年のPER等を見て今割安だと思える企業を仕込むというのはアリだと思います。
特に過剰反応した銘柄です。
例えば、新型コロナウイルスが発生した初期には原油先物価格がマイナスになるという状況でしたが、その時に、原油は結局必要になってくるとして買っていたなら、今では相当な利益を上げているということになります。
逆張りというのは目先ではなく中期で考えるものだと思います。
もちろんここで買うのは、平常に戻ったらしっかりと利益をあげられる企業ということになります。
<長期(5年以上)の投資戦略>
そして長期の戦略としては、状況でそれほど変わるものではありませんが、長期的に利益をあげられる優良銘柄を安く買うということです。
このような混乱の状況ではどんなに良い企業であってもまとめて下がるという局面があります。
そういう時に仕込んでおければ、企業の成長に伴って、あるいは混乱からの復帰によって株価が上がる可能性が高まります。
もちろん、相場の動きは読めるものではなく、業績が伸びている企業であっても株価が付いてこないということもありますが、本当に良い企業であれば、5年もすればほぼ確実に利益をあげられると思います。
そのために私たち長期投資家は「良い企業とは何か」ということを分析探索しています。
期間別の投資戦略をまとめると、上記となります。
Next: 長期投資家が探し求める「良い企業」とは何か?
長期投資家が探し求める「良い企業」とは何か?
私(つばめ投資顧問)の戦略は非常にシンプルで、『良い企業を安く買う』というものです。
そういう企業を見つけておいてこういった混乱期に買い、あとはその企業の成長を見守り続けます。
この投資の良いところは“安心できる”ところです。
良い企業を買っておけば、原油価格なんかを気にする必要もありません。
逆張りするには不安要素のある銘柄を買う必要があるのでそれも落ち着かないものがあります。
すごく大きな利益を得られるわけではありませんが、少なくとも企業の成長に伴ったリターンを得られる可能性が高いということになります。
事業の長期見通しに関係の薄い混乱は買いの時だと考えます。
それと、PERが割安ということにこだわりすぎると弱い企業を選んでしまいかねないので、そこに固執することなくPER15倍~20倍といったところで長期で成長する企業を買うようにしています。
目先でリターンを期待できるものではありませんが、5年・10年経った時には企業の成長に伴ったリターンが得られるということは確定的だと考えています。
そして、条件に沿った銘柄であれば、米国株・日本株に関わらず選定しています。
成長している銘柄は確かに米国株に多いですが、日本株がダメというわけではなく、ワールドワイドにシェアを取っていなくても日本国内で成長している企業もありますし、これから世界に出ていこうとしている日本企業もあります。
とにかくそういった素晴らしい企業を、今のような混乱期に買っておくべきだと思っています。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2022年02月26日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。