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国内決算ウィークは「下方修正の山」から悪材料一巡の展開も/新興諸国通貨に留意=馬渕治好

今週は、日本国内では企業の決算発表が続きます。ただ、それ以外には世界的に大きな材料が乏しいです。米雇用統計を乗り越え、心配された円高の動きも限定的に終わったため、世界的に市場は落ち着いて推移すると期待できる一方で、先週主要な新興諸国通貨などがさえなかった動きが持続するかどうかが、気にかかるところです。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2016年5月8日号)

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過ぎし花~先週(5/2~5/6)の世界経済・市場を振り返って(1)

円の買い攻めはあったが限定的に終わり、軟調な米雇用者数統計でも世界市場は落ち着いた動き

【まとめ】
先週市場では、米国が円売り介入をけん制しているとの観測から、投機的な円買いが盛り上がり、ゴールデンウィーク中に円高に振れるのではないか、との懸念が強い状況でした。実際に円を買い攻める動きはあり、日本時間5/3(火)早朝には、対米ドルで一時105.50円に迫る動きとなりました。

しかし、そこで円高は一巡し、たびたび107円を回復しました。週末(5/6、金)の米雇用統計では、雇用者数の伸びが市場予想を下回りましたが、それによる米ドル安も一時的で、米ドル円相場は107円台で引けています。

この他には、RBA(豪州準備銀行)の利下げは予想外でしたが、それ以上に、RBAの物価見通しの修正を受けての豪ドル安の動きの方が、はるかに予想外でした。

【詳細】
これまで為替市場では、米財務省半期為替報告書(4/29(金)公表)で、日本が「監視リスト」に加えられたことなどを材料に、米国が日本の円売り介入に対するけん制を強めている、あるいは米ドル高を好ましく思っていない、との観測が強まりました。

このため先週は、投機筋による円の買い攻めが進む(ゴールデンウィーク中は国内投資家が動きづらいため、円の仕掛け買いが入りやすい、という傾向もあります)、との懸念がありました。

実際の米ドル円相場は、一時は円を買う動きが強まり、日本時間で5/3(火)の午前5時頃には、1ドル105.55円まで円高が進みました。この材料としては、ADB(アジア開発銀行)年次総会に出席するため、訪独していた黒田日銀総裁が、フランクフルト市内で「今のような円高というのは経済にとって好ましくない影響を与える恐れはあると思っている」と述べたため、それがかえって、逆に円を買って傷めつけてやろうとの投機筋の動きを招いた、との声が聞こえます。

しかしそれ以上の円高は進みませんでした。これは、先物市場などで既に円を買ってしまった向きが多く、いまさら大いに円買いを積み上げるような状況にない(円買いのポジションがいっぱいいっぱいになっている)ためだと推察されます。

また、日本時間で5/4(水)朝6時過ぎにかけては、急速に円安・米ドル高に振れ戻り、107円台を一時回復しましたが、この材料としては、麻生財務相が、やはりフランクフルトで記者団に対し、「投機的かつ急激な円高を懸念しており、必要なら対応する」「一方的で急激な動きは経済に悪影響を及ぼす可能性があり、望ましくない」と述べたことが挙げられています。

黒田総裁が円高は望ましくないと語ると円買いでいじめられ、麻生財務相が円高は望ましくないと語ると素直に円安になる、というのは、黒田総裁がかわいそうな気がしますが…。

さらに週末(5/6、金)には、4月の米雇用統計が発表されました。最も注目される統計数値である、非農業部門雇用者数前月比は、16万人増と、市場予想の20万人増を下回り、過去の数値も下方修正されました。今年に入っての、不安にとらわれやすい市場の地合いであれば、歯止めがかからないような米ドル安・円高が進んだり、米国株価が大きく下落したりしそうなところですが、実際には米ドルや米株価の下振れは一時的・限定的で、米ドル円相場は107円台を回復し、米株価は前日比上昇して、週を終えています。

こうした米ドル円相場を中心とした、事前の懸念に比べれば落ち着いた市場の動きは、世界市場の地合いが一段と落ち着いてきていることを表しているのかもしれません。

なお、米雇用統計については、雇用者数は述べたとおり弱いものでしたし、それを受けて、米連銀の利上げが一段と遅れる、との観測が浮上しています。しかしたとえば時間当たり賃金などは、伸びを強めており、結果として雇用者の週当たり総所得(非農業部門雇用者数×一人当たり週労働時間×時間当たり賃金)は、先週末発表された4月分は、これまでのピークであった1月の水準を上抜けて、史上最高値を更新しています。

Next: 過ぎし花~先週(5/2~5/6)の世界経済・市場を振り返って(2)



過ぎし花~先週(5/2~5/6)の世界経済・市場を振り返って(2)

ここで先週の、世界の主要な株価指数の騰落率ランキング(現地通貨ベース)をみてみましょう。

前述したように、先週の世界市場の波乱は限定的ではありましたが、波乱はあることはあったので、世界的には株価は総じて軟調に推移し、先週株価が上がった国は9つしかありませんでした。それは上昇率の高い順に、ルクセンブルグ、ギリシャ、パキスタン、モロッコ、スリランカ、ニュージーランド、豪州、ポルトガル、チリでした。

なお、米国の株価は週を通じて下落はしましたが、ダウ平均が騰落率ベスト11位、ナスダックが13位と、相対的に堅調でした。

株価下落率が高かった国ワースト10は、順にトルコ、チェコ、香港、ロシア、イタリア、ブラジル、オーストリア、シンガポール、スウェーデン、コロンビアでした。トルコは、ダウトオール首相が更迭されるといった、政治面の不安定化が嫌気されたものと考えられます。

なお、日経平均株価が下落率12位、TOPIXが13位と、円高による日本株の軟調さが目立ちました。

主要な外貨相場(対円)の先週の騰落率をみると、対円で上昇した(円安になった)通貨は、ミャンマーチャット1つしかありませんでした。また、述べたように対米ドルは、事前の懸念に比べて堅調に推移したため、対円で下落はしたものの、上昇率ランキングで3位でした。

対円で下落率が高かった通貨は、下落率の順に、南アランド、メキシコペソ、トルコリラ、コロンビアペソ、豪ドル、カナダドル、ブラジルレアル、マレーシアリンギット、ニュージーランドドル、ロシアルーブルで、日本の投資家にとってもなじみのある通貨が多く含まれています。

なお、豪ドルが騰落率ワースト10に入っていますが、これの豪ドル安の背景としてはまず、RBAが5/3(火)に開かれた理事会で、予想外の利下げ(政策金利を2.0%→1.75%)を行なったことが挙げられます。これで豪ドルは、81.50円前後から79.50円手前まで下落しましたが、それでも時折80円台を回復する動きをみせ、それなりに底固かったとも言えます。

この底固さの要因としては、たとえば5/5(木)に発表された3月の小売売上高が、前月比で0.4%増加し、2月の0.1%増(0.0%増から上方修正)より伸びを高めたなど、豪州の経済指標に堅調なものが目立つことが指摘できます。つまり、RBAは「念のため」利下げを行なったとも解釈できます。

ところがRBAの利下げ以上に予想外だったのは、5/6(金)に豪ドルが突然急落し、一時は78.50円をも割り込んだことでした。この豪ドル安の理由は、同日発表されたRBAの四半期金融政策報告で、今年の基調インフレ率(「基調インフレ率」については、この後の「理解の種」をご覧ください)見通しが、前年比2~3%から1~2%に引き下げられたためとされています。

この市場の動きを「予想外だった」と述べたのは、確かにRBAは物価見通しを下方修正しましたが、「GDP成長率と雇用見通しは2月の見通し(前回の見通し)と比べあまり変化はない」としているためです。この点で、市場の豪ドル安の反応は、行き過ぎの面があると考えています。

Next: 来たる花~今週(5/9~5/13)の世界経済・市場の動きについて



来たる花~今週(5/9~5/13)の世界経済・市場の動きについて

日本の決算発表以外は材料が少ない週、世界的なリスク回避的な兆しが気にかかる

【まとめ】
今週は、日本国内では、企業の決算発表が続きます。ただ、それ以外には、世界的に大きな材料が乏しいです。

米雇用統計を乗り越え、心配された円高の動きも限定的に終わったため、世界的に市場は落ち着いて推移すると期待できる一方で、先週主要な新興諸国通貨などがさえなかった動きが持続するかどうかが、気にかかるところです。

【詳細】
今週は日本では、3月決算期企業の決算発表が、多く行なわれます。決算発表が国内株価に与える影響については、これまで当メールマガジンで何回か述べてきました。すなわち、企業は慎重な2016年度の収益見通しを発表する(おそらく、企業側の収益見通しを集計すると、前年度比で減益になる可能性が高い)ため、決算発表自体は日本株の押し上げ材料にならないと懸念されます。

しかし、そうした企業側の見通しに「敬意を表して」、各社のアナリストが収益予想を下方修正するところが、下方修正の「山」(「谷」かもしれませんが)になり、その後は悪材料が峠を越す展開がありうると考えます。

また、収益に対する警戒感は、かなり市場に織り込まれているとも推察されます。

したがって、今週の企業決算発表の内容が悪く、株価が下押ししたとしても、下押し幅は限定的で、来週以降株価が上値をうかがってくる展開が期待できるでしょう。

日本以外の国については、大きく市場を動かしそうな材料が乏しいです。先週の市場においては、懸念されたような大幅な円高は起こらず、米雇用統計に対しても諸市場が落ち着いて消化したため、その地合いを受けて、今週は世界市場が堅調に推移する可能性があります。

一方で、「過ぎし花」の株価・通貨のランキングで述べたように、政局不安が嫌気されたトルコを別にしても、ロシア、ブラジルなど、主要な新興国の株価や通貨が不振だった点からは、またリスク回避的な動きが広がる兆しとも感じられます。

特にエマージング市場が売り込まれるような具体的な材料はありませんが、投資家の心理が不安定化しないかどうか、注視したいところです。

Next: 日仏あるいは日独首脳会談をどうみるか/基調インフレ率とは?



盛りの花~世界経済・市場の注目点

日仏あるいは日独首脳会談をどうみるか

先週は安倍首相が欧州主要国を歴訪し、5/2(月)はオランド仏首相と、5/4(水)はメルケル独首相と、会談しました。

この欧州歴訪は、5/26(木)~5/27(金)の伊勢志摩サミットで、日本が自国の経済対策を打ち上げ、他国にも財政出動などを働きかける形で、日本が世界経済のためにリーダーシップをとっている、という姿勢を示すために、その前段階として行なわれた、と解釈できます。

そうした観点から、たとえばメルケル首相がドイツの財政出動に後ろ向きだった、などの点が報道では前面に出ています。

しかし、最近の円高についても、独仏の首脳と意見交換が行なわれています。オランド首相は「為替相場の急激な変動は望ましくない」との見方で安倍首相と合意したと報じられており、メルケル首相とも、為替相場の安定を求める考えを示したとのことです。

安倍首相が日本からわざわざ来たので、独仏ともリップサービスした、という点は割り引くべきでしょうが、5/6(金)にIMF(国際通貨基金)のギマラエス氏(アジア局副局長)は、足元の急激な円高進行について「日銀からさらなるガイダンスが歓迎されるべき状況」にあり、為替市場の動向を「注視している」と述べています(先月のラガルドIMF専務理事の発言では、円高について「日本の市場を注視している」「(急激な為替変動があった場合には)為替介入は正当化される」とされています)。

米国が日本の介入をけん制していると解釈されている中、欧州主要国やIMFが日本の立場に理解を示している、という形になれば、「日本は介入の手を全く縛られており、円高で袋叩きになっても何もできない」という説が薄らぐものと見込まれます。

理解の種~世界経済・市場の用語などの解説

基調インフレ率、再び

豪州の物価統計における「基調インフレ率」については、当メールマガジンの第201号(2015年3月3日付)で解説しましたが、再度述べます。

豪州では、四半期ごとに公表される消費者物価指数について、様々な数値が計算されています。通常の消費者物価上昇率は、他の諸国と同様に計算されています。すなわち、消費量などに応じて各項目にウエイト付けをして、個々の物価の動きを加重平均し、その前年比を求めます。

しかし、そうした方法では、何かある物品あるいはサービスの価格が、極端に上振れあるいは下振れした場合、その項目に、全体の平均値がひきずられる恐れがあります。そこで豪州では、1)トリムされた平均値(trimmed mean)と、2)重みづけ中央値(weighted median)という指標も計算しています。

トリムされた平均値は、極端に価格が上昇した項目と下落した項目を外し、残った項目だけで同様に消費者物価を計算します。重みづけ中央値は、全項目を上昇率の順番に並べ、上と下から数えていって、ちょうど中間にある項目が示す上昇率を取ります。

ただし、そうしたやり方は中央値と呼ばれるものですが、消費者物価指数を計算するのと同じウエイトを各項目につけます。上と下から中央に向かう際に、ウエイトが高い項目を通過するのに、その分だけ時間がかかるようにします。

そうすると、たとえば、2%上昇したある項目の、上と下に位置する項目の数が同じ(この場合、単なる中央値は2%ちょうどになります)でも、2%より上昇した項目のウエイトが高く、2%より上昇率が低かった項目のウエイトが低ければ、重みづけ中央値は2%より上にずれます。

最後に、「過ぎし花」で述べた、豪州準備銀行が重視している基調インフレ率とは、トリムされた平均値の上昇率と、重みづけ中央値の上昇率の、平均をとったものです。

脇道の花~道草の話題

中国からの観光客減?

先日、自主開催セミナーのため、札幌に出張しました。セミナー前に、書店の営業回りや食事などで、市内の中心部を動き回ったのですが、前回より、中国からの観光客が減ったように感じました。

もちろん、たとえば泊まったホテルでは、それなりの数、中国人らしい人たちを見ましたが、前回は市内のどこに行っても海外からの観光客らしい人たちであふれかえっており、駅前のビックカメラでは日本人がほとんどいないと感じるほど他国の方たちばかりだったので、海外からの観光客の人数は確実に減っていたと思います。減ったとしても、季節要因とか日程によるのかもしれませんが。


本記事は『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2016年5月8日号)を抜粋・再構成したものです。ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。月初は特にお得です!

【関連】トレーダーを惑わせる「2つのランダム」 アルゴ取引は決定論の夢を見るか?=田渕直也

馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2016年5月8日号)より
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