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愚かな「悪い円安」論者に騙されるな。黒田日銀総裁が円安を放置する本当の理由=山崎和邦

エネルギーや食品のほとを輸入に頼る日本にとって、現在の円安は不利という「悪い円安論」が大勢を占めている。だが、客観的に歴史を見てみると、円安が日本に不利とはならず、むしろメリットの方が多いということがわかる。(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2022年6月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

今の円安は悪い円安なのか?

で「今の円安は本当に悪い円安なのか?」ということを問題にした。

そして「果たして今の円安が輸出立国の日本にとってトクなのか?あるいは食料品の7割を輸入に頼り、エネルギーのほとんどを輸入に頼る日本にとっては不利なのか?」という問題を挙げ、それについての考えを少々述べた。

今回は結論から言うと、円安は日本にとってはデメリットよりもメリットの方がはるかに大きいと断言したい。

筆者のパートナーの石原氏が5月25日の山崎和邦『週報 投機の流儀(動画解説版)』で「円安は本当に悪いことなのでしょうか?円安が日本にとって不利だと主張する人は一部の人々であって、円安でトクする人は黙っているから本当のことはよくわからないが…」と述べて、日米のマネタリーベースの円ドル比較がプラザ合意以降は、概ね円ドル相場とパラレルであるという客観的なデータを示した。

かのジョージ・ソロスがこのグラフの考え方で、アベノミクス時代の70円台後半から125円までの円安で10億ドルを儲けたという。そこで、このマネタリーベースの日米比較グラフを「ソロス・チャート」ともいうらしい。

円安はメリットの方が大きい

本稿では、筆者の意見をズバリ言いたい。筆者もマスメディアなどや一部の評論家の意見に惑わされる傾向はないことはないが、日本にとって円安はデメリットよりもメリットの方が断然大きいと言い切りたい。

マクロ計量モデルで旧経企庁(現在の内閣府内の経済社会総合研究所)や、日銀の全てのモデルの中で、円安はGDPの増加に寄与している。円安が進むと貿易収支は確かに赤字になるが、国家の「商売の力」を測るのは貿易収支だけではない。経常収支全体を見なければいけない。

経常収支全体では、黒字であるため円安がGDPの押し上げ要因になることは変わっていない。円安は輸出産業にとってはトクになることは間違いないが、輸出産業の一部分には、半導体不足などに伴う供給制約を受けることによって、円安のトクな影響を受けにくくなっている面があることもまた事実である。これは1985年のプラザ合意という「先進大国の悪巧み」にみすみす引っかかったことになる。

当時、アメリカは自らを被追尾国とし、日本を追尾国たる仮想敵と想定して、日本を経済的地位から追い落とすために仕組んだ極端な円高誘導策であって、当時240円のものが10年後には79円になってしまった。今の日銀総裁の黒田東彦氏は、その時に大蔵省外金局で「ミスター円」こと榊原英資氏の下に居たが、実質的に史上最大の円売り介入に出て140円台までもっていった。そして「失われた13年」の中腹にあった日本の金融危機を脱した。

今でも多少インフレだからといって気安く利上げをしないでいる黒田総裁は、中期的に見て賢明であると言える。筆者が言おうとしていることと同じ意見だと思う。日銀の金融政策を変更して円高に向かえば、製造業の海外進出や雇用の減少で国内産業の空洞化につながる。雇用を拡大するためには緩和的な金融環境の維持は必要だ。

円安が日本に不利だという側の意見は、極めて一面的にしか見ていない者の意見であると筆者は言い切りたい。

Next: 円安で設備投資はプラスになる。黒田日銀総裁の判断は賢明だった



黒田日銀総裁の賢明な判断

第一生命経済研究所主席エコノミスト永濱利廣、景気循環学会の中で

「輸入物価の上昇要因は円安だからではない。輸入物価を円ベースと契約通貨ベースで比較すれば、輸入物価上昇の為替要因は4分の1程度に過ぎない」

と述べている。

円安そのものよりも輸入品の値上がり、中でもエネルギー価格の値上がり、このような一時的な現象で金融政策の出口をいじるべきではない。その意味で黒田総裁は賢明だ。プラザ合意で240円から10年後には79円にまで行った円高の際に、史上最大の介入を行った実行者だっただけのことはある。

その時に表に出たのはミスター円こと榊原英資氏であったが、後ほど榊原氏に訊いたところによれば「ああいう大々的な為替介入は、乱数表を使った暗号表でやり取りする」と漏らしたことがある。為替介入は本質的にはそういうものであろう。

旧経企庁(今の内閣府内部)のマクロ計量モデル(政権や官庁の思惑が入らない客観的な数値である)によれば、円安は個人消費にとって1年目はマイナスだが、2年目からプラスになるということが明確になっている。国内経済の面を外需のみで判断するのは不十分だと言える。

日銀とは違ってFRBの使命には二つあって、一つは通貨の安定と同時に雇用の増加である。日本でも大切なのは(日銀の使命ではないが)雇用の増加だ。民主党政権下で超円高の時期には、ドル換算でのGDPは増えるが、雇用は喪失した。円高で国内産業が空洞化するから、ドル換算でのGDPが増えても雇用が減ってしまえば本末転倒である。

アベノミクス創始以来、円安のメリットは輸出増加も大いにあったが、それよりも企業の設備投資の増加の方が大きかった。

アベノミクスの三本目の矢を円安が実現

アベノミクスの三本の矢の三本目は「設備投資につながる成長戦略」であり、これは全く不十分ではあったが、結果的には円安によって企業の設備投資は増加した。アベノミクスの意図したものとは違う形で、円安によって雇用は増加した。もちろん設備投資と株価の連動性は高い。「株高→設備投資増加→雇用の増加」という経路を描いた。

したがって、円安はGDPのプラス要因になった。内閣府内部(旧経企庁)のマクロ計量モデルでは、株価を通じた影響は含まれないが、円安はGDPのプラス要因になっている。アベノミクス以降の雇用増加は円安の影響が大きかったと言える。円安の影響を受けやすい製造業の雇用が増えたことからも判る。輸入物価の上昇については金融政策ではなく、財政出動で対処すべきだ(例えば石油会社元売り会社への補助金の適用状況を拡大するなどの方法がある)。

この意味で、いつの時代でも、円安は日本にとっては有利なのだと今でも言い切っている武者陵司氏の説は正しい。

日米マネタリーベース比と為替相場(1980年以降)

現在の予測値ベースでのマネタリーベース比では133円水準が適正水準となる。

出典:FRB日本銀行データから作成)

為替相場(1980年以降)

Next: 円安論者が誇張する「50年ぶりの実質円安」と日本衰退論



誇張された「50年ぶりの円安論」

今の円ドルは、購買力平価からすれば、ニクソンショックの1971年時代に相当するという「50年来の実質円安論」が横行している。これが日本の衰退の象徴のように語られる。

これは「相場追認型円安論」と筆者は言う。確かに日本の相対的地位は低下し、30年前は日本のGDPは世界のGDPの18%を占めていたが、今は6%に過ぎない。30年前は一人当たりのGDPが世界で2位か3位だったが、今は23位になってしまった。30年前、一人当たりGDPは韓国の2倍~3倍あったが、今は韓国よりも下になってしまった。だから日本の相対的地位が低下していることは事実である。

しかし、今の円安は米金利上昇に伴う一つの循環現象だと筆者は思う。筆者のパートナーの石原健一が示したマネタリーベースの円ドルの比率と、円ドル相場とは、プラザ合意以降はほぼパラレルだ。「50年ぶりの円安論」は誇張が大きすぎる。相場追認型はだいたい全てが誇張される。

民主党時代に円ドル相場が70円台後半だった。その頃、同志社大学の浜矩子は「円は50円になる」と言っていた。また、筆者が信用していない副島隆彦氏は「50円どころか10円になることもあり得る」と自分の著書に書いている。相場追認型のバカバカしい議論の代表として、筆者はその本を今でも保管してある。

株でも、円ドル相場でも、相場追認型で語る者を筆者はまんざら信用していないわけでもなく、勉強のためにその話しは聞くが、話し半分に聞いておくのがよい。

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<山崎和邦の投機の流儀 vol.522 6/5号>

■ 第1部:当面の市況
(1)週明けの市況
(2)5月の国内市況は、このように終わった。
1:個人投資家動向 2:自社株買いの動きが急増 3:海外債券動向
(3)5月末~6月3日までの週末
(4)コロナ禍への対応、緩和マネー、約26兆円を吸収する。
(5)QT(量的引き締め)に構える市場
(6)東証プライム市場の売買低調、5週ぶりの低水準
(7)目先的には3月高値の28,252円、次に200日線だが、あまり細部は見ないで大局を見る方がいいと思う。
(8)日経平均は強まり、アメリカが安い間に日柄整理が進んだ。
(9)米利上げと株式相場について考える。
(10)内閣支持率66%、発足後で最高

■ 第2部:中長期の見方
(1)日経平均、高値更新する可能性はあるのか?
(4)米FRB、引き締め倍速、この先はどうなる?
(5)日本の貿易の24%を占める中国(対米比率よりもずうっと大きい)の成長率の下げが相次ぐ。
(6)中国共産党組織の日本への侵攻があれば、日本国を守れるか?
(7)ウクライナに関するロシアと旧ソ連について
(8)ロシア・ウクライナ戦について
(9)米のアジア関与は日本に重責がかかる。
(10)結党以来の「党是」たる改憲を出すか?
(11)トルコの金融政策難航

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※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2022年6月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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image by:World Economic Forum at Wikimedia Commons [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons

山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2022年6月5日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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