ジャクソンホール会議でのパウエル発言以降、米国の10年国債は上昇し、3.2%近辺にあります。2018年のコロナ直後では0.7%でしたから、それに比べると雲泥の差になります。今回は国債の損得勘定について、初心者にもわかるように解説したいと思います。(『一緒に歩もう!小富豪への道』田中徹郎)
株式会社銀座なみきFP事務所代表、ファイナンシャルプランナー、認定テクニカルアナリスト。1961年神戸生まれ。神戸大学経営学部卒業後、三洋電機入社。本社財務部勤務を経て、1990年ソニー入社。主にマーケティング畑を歩む。2004年に同社退社後、ソニー生命を経て独立。
国債の損得勘定
アメリカの長期金利が上がってきましたね。
代表的な長期金利は10年物ですが、アメリカの10年債利回りは3.2%近辺にあります。
直近では2018年の終わりに3.2%越えがありましたが、いまの3.2%はそれに迫る水準です。
ここまで上がってきますと、多くの方は魅力をお感じではないでしょうか。
今回はジミではありますが、国債、とくにアメリカ国債の仕組みと、購入の損得勘定についてお話ししたします。
“利回り”と“利率”の違いとは
いま僕は三菱UFJ証券の「既発外国債券」のページを見ています、いくつか銘柄があるのですが、そのうち2033年8月31日に満期を迎える債券を例にとって説明させていただきます。
同社のサイトをみると、この銘柄につき以下のように書かれています。
・利率2.75%
・利回り3.289%
・販売価格99.48ドル
・償還日2033/8/31
皆さんが一番戸惑われるのは、“利率”と“利回り”の違いではないでしょうか。
たしかにややこしいですよねでも“利率”と“利回り”の違いは、債券投資のキモです。
では順を追ってお話ししましょう、まず“利率”というのは額面である100ドル(注)に対し、毎年もらえる利息の割合をさします。
注)アメリカ国債の額面は100ドルです
この債券の利率は2.75%とありますから、毎年もらえる利息は2.75ドル(注)ということになります。
・2.75ドル(毎年もられる利息)÷100ドル(額面)=2.75%
注)実際には半分に分け、半年に一度支払われますし、20%の源泉徴収分も引かれます。
では“利回り”とはいったい何でしょう。
利回りは
「満期までもらえる利息の合計」
に
「債券の本体部分の損得」
を加算して、保有する年数に応じて年率換算した収益率のことです。
例えばこの債券は満期までちょうど11年ありますので、利息の合計は
2.75ドル×11年=30.25ドル⇒(1)
です。
ではこの債券の本体部分の損得はいくらでしょう、上記のようにこの債券の「販売価格」は99.48ドルです、これに対して満期時に額面通りの100ドルが支払われますから、本体部分の利益は0.52ドルとなります。
・100ドル-99.48ドル=0.52ドル⇒(2)
つまり利息の合計(1)30.25ドルに加え、債券の本体部分で(2)0.52ドル儲かりますから、保有期間全体では30.77ドルの儲けということになるわけです。
・30.25ドル+0.52ドル=30.77ドル
これに対してこの債券の買値は99.48ドルです、上のように保有期間11年で30.77ドルの儲けですから、複利計算によって年あたりの儲けを逆算すると、年率3.289%という結果になります。
このようにして計算した年あたりの収益率(=3.289%)が、上記でいうところの「利回り」です。
ちょっとややこしいですが、大丈夫でしょうか、この“利回り”というヤツは債券投資のキモです。
すべての債券は日々市場で値が変わりますが、“利回り”という統一基準で比べれば、いま買えば、どの程度有利なのか、不利なのかがわかるのです。
言い換えればこの“利回り”は、債券の実力を計る共通の指標だといえるでしょう。
Next: 米国債の購入前に注意したい4つのポイント
コロナ直後の米国債は0.7%、今の金利はお得なのか
さてその前提で、さきほどの債券です。
・利率2.75%
・利回り3.289%
・販売価格99.48ドル
・償還日2033/8/31
冒頭のように11年後に満期が来る銘柄ですが、保有期間を通した“利回り”は3.289%にもなります。
債券の価格は日々刻々変動していますが、私たちが買った瞬間にこの“利回り”は確定するのです。
言い換えれば保有期間中に毎年支払われる利息の額と、満期時点で支払われる本体価格(100ドル)が決定されるということです。
しかも債券はすべて、満期まで持てば(発行体が破綻しない限り)、必ず額面100ドルで償還されます。
現在のように金利が高い時期に長期債を買いますと、その期間中、ずっと高金利を享受できますし、逆に低金利時に長期債を買いますと、満期まで延々と低い“利回り”に我慢しなくてはなりません。
この差は大きいです。
ご参考までに、つい2年半前のコロナ直前では、アメリカの10年債利回りは0.7%ほどに過ぎませんでした、あのころアメリカの長期債を買った人は、さぞかし悔しい思いをしていることでしょう。
逆に現在のような高金利下では、アメリカ国債は良い投資先になりえます。
米国債、購入前に注意したい4つのポイント
ただしアメリカの国債を買う際に、いくつかご注意いただきたいことがあります。
一つ目はアメリカの財政状態への懸念です、日本にくらべればまだまだ健全ではありますが、昨今アメリカの財政も徐々に悪化しつつあります。
万一のデフォルトがないとは言い切れません。
二つ目は為替の変動です。
足元は円安が進んでおり、現在のドル円レートは1ドル=139円代半ばですが、償還金や利息の支払いは、すべてドル建てです、受取時に円高に戻っていれば、円ベースの収益率は下がります。
三つ目は証券会社の店頭でなかなか買えないという点です。
証券会社からみれば、アメリカ国債は手数料が稼げる商品ではありません、彼らからみれば債券型投信を売っていたほうがよほど儲かるのです。店頭に米国債を買いに行って、ほかの商品を買わされたというお話も聞にします。
四つ目はアメリカの金利の上昇です、アメリカの金利がさらに上がるとどうでしょう、そこから見れば3.2%ですら低金利になっているかもしれません、「急いで買って失敗した」という懸念もあるのです。
このような点に対する注意は必要ですが、アメリカの金利がここまで上がってきますと、ペーパーアセットのなかでの分散先として、検討の余地があると思います。
『一緒に歩もう!小富豪への道』(2022年9月1日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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