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日経報道「止まらぬ円安、縮む日本」という考えの浅はかさ。円安こそ日本の工業立国再興の大チャンスとなる理由とは=山崎和邦

先週、財務省は円高に歯止めをかけるべく市場介入したが、ファンダメンタル要素で円安になっているのだから、円安傾向は変わらないだろう。だが、円安で日本経済が縮むよりも成長する余地のほうが大きいのではないか?(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2022年9月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。

プロフィール:山崎和邦(やまざき かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴61年、前半は野村証券で投資家の資金を運用する「セルサイド」、後半は自己資金で金融運用する「バイサイド」、晩年は現役研究者と、3つの立場で語ることを信条とする。2022年85歳で国際コミュニケーション学博士号を取得。

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財務省・日銀は、単独で市場介入

1998年の大蔵省・日銀の大幅な為替市場介入は、国際協調のもとに行われたものであるが、 今回は日本の財務省・日銀が単独で行った相場操縦である。

円安の原因は言うまでもなく、主因は日米の金利差にある。これはますます広がる。しかも、日銀は金融政策決定会合で、大規模な金融緩和を今後維持すると決めて、利上げを進める米国との金融政策も反対だから、円安・ドル高に拍車がかかるのは当然である。

鈴木財務相は「為替は原則としては市場で決まるものだ」と前置きはしているが、日米金利差というファンダメンタルな要素には全く触れずに、需給関係だけで円安を阻止しようとするのであるから、明確な相場操縦である。株価操縦と違って、為替は国家ぐるみの相場操縦が許容される世界だ。

他国と足並みをそろえる協調した相場操縦ではなく、単独の相場操縦だった。1998年6月以来、24年ぶりの円買いドル売りの相場操縦に踏み切ったが、今回の場合は他国との協調介入ではなく、単独の相場操縦である。

ファンダメンタルはもちろん日米金利差であるが、このファンダメンタル状態はそのまま放置されるか、ますます円安方向に動くから、今回の相場操縦がどこまで効果を持続できるかは明らかではないと筆者は考える。

ただし、為替相場も株式相場と同様に勢いで動く。したがって、財務省・日銀が介入した途端に146円近いものが140円台に入った。実際に相場操縦を担当するのは日銀ではなく、財務官僚であるが「断固たる措置をとる」と言った。「断固たる措置というのは、為替介入のことか?」と質問してきた記者に対して「そうです」と答えた。それは22日の15時の株式相場の取引終了直後の記者会見である。そして実際に相場操縦に入ってから1時間足らずで、146円弱は140円台に入った。

マイナス金利は日本一国になった

ところで、マイナス金利は日本だけになった。米は0.75%き上げた。日米の金利差は15年ぶりの大きさとなった。日米の2年債利回りの差も15年ぶりの大きさとなった。これが、24年ぶりの円買いにつながる急速な円安を呼び込んだ。22日には欧州中央銀行とスイス中央銀行が、マイナス金利政策の解除を発表した。したがって、政策金利がマイナスになっているのが日本一国だけとなった。

それでも、22日午後に日銀本店で記者会見した黒田総裁は「当面金利を引き上げることはない」と断言した。

日本の“忍び寄るインフレ”とアメリカの“劇的インフレ”

アメリカは1970年代後半、それから80年代前半にかけてのFRB議長ポール・ボルカーが直面したような事態を恐れている。ポール・ボルカー以来のインフレ率である。彼はその時に大統領の言うことも聞かずに、中央銀行の独立性を主張して徹底的な引き締めを行い、徹底的な景気後退を起こさせた。しかし、それは短期間で済ませた。それの代償としてレーガン以降、株価は30倍になるという大発展を遂げた。その「伝説のFRB議長ポール・ボルカー」は徹底したインフレファイターであり、高い代償を払ったが、次の躍進のもとをつくったという点にある。

我が国では、家計も企業も銀行のバランスシートも今は健全であるから、リーマンショックの時のような金融システム危機の劇的な衝撃はないであろう。しかし、2000年のITバブル崩壊の時のような、企業業績悪化による株価下落と、それに輪をかけた更なる調整ということはないとは限らない。

日本では賃金が上がりにくいために、賃金とインフレとのスパイラルなインフレというものは今のところはあり得ない。その点は、欧米に比べてはるかに低いインフレ率ではある。

プーチンがぶち壊したグローバリズムはモノやコトに関する輸出入に関しては時代が変わったと言っても良いが、金融市場は依然としてグローバリズムである。

日本は賃金が上がらないから、欧米のような賃金物価スパイラルインフレは起きない。しかし、日本では賃金が上がらないだけに、かなり低いインフレ率でも、家計にはかなり大きな負担になる。日本では、家計はGDPの6割を占める。我が国の長期停滞の原因は、環境の変化に適応した政策転換などの思い切ったことをやってこなかったことである。これは常識的な見方であるが、筆者もそう思う。

Next: 円安は大歓迎、本当は成長し続けている日本



日本のドル建てのGDPは、ドイツと並んで世界4位

30年ぶりに、ドル建てで言えば4兆ドル(560兆円)を割った。日経新聞の9月19日版の第一面のトップ記事の大見出しは「止まらぬ円安 縮む日本」とある。そしてOECD(経済協力開発機構)によると、日本の今年のGDPは553兆円の見通しだという(140円で換算)。ドイツと並んで4位になった。2010年までは2位だった。1990年には日本のGDPは世界の18%を占めた。今は5%である。これを「縮む日本」と日経では言っているのであろう。しかし、筆者には少々の異論がある

国の栄枯盛衰は戦争によるよりも、経済の盛衰による。これが古代ローマ以来、中世近世のスペイン王朝も、中国王朝も、英国王朝も、共通の趨勢であった。したがって、経済の盛衰は世界機軸通貨のドルで言うのが当然ではあろう。

だが、国内で見れば、円安は決して「縮む日本」ではない。国内の豊かさは日本の場合は円で示される。円で考えれば、円安はトクになる。強力な輸出力となる。資源がなくて、資源を輸入して、工業で付加価値を付けてきた輸出立国の日本は、資源の輸入にとって、円安は極めて不利である。しかし、その不利を補って、工業で付加価値を付ける力の方が大きい。そして輸出は有利となる。

今年の始めには110円だった。そこから30円以上も上がっているとなれば、1円違えば売上利益が100億円違ってくるトヨタは、3,000億円以上の売り上げ利益が「自動的に増える」ことになる。トヨタを例に出しただけであって、工業力で付加価値を付ける日本が輸出をする場合に、円安ほどトクになるものはない。したがって、ここで日本は大いに経済力をつけるべきだ。

GNPで考えれば、日本は成長し続けている

平成初年頃、日本が爛熟期を終えて「失われた20年」が始まる頃からGNPをGDPで計算することになった。GDPとは文字通り、一国の国内での1年間の付加価値の合計である。ところが、平成初年より前は長年GNPで計算されてきた。GNPのNはNationality、つまり国籍である。アメリカでも、ベトナムでも、タイでも、日本人が出かけていって工場を作って、そこで作った付加価値は、全部が日本国籍だから日本の付加価値合計に算入される。よって、今GNPで計れば日本の成長率はアメリカ並みにはあるであろう。1%台ではなくて、3%ぐらいあるかもしれない。

計量経済学的に筆者は計測したわけではないが、円高時代に海外へ工場を移転して、海外で作ることが流行った。海外で付加価値を作ることが流行った。GNPで計算すれば、それは全部日本の経済力に算入される。そして、これから円安時代には海外へ出していた工場が日本に戻る傾向が急速に進むだろう。そうなれば、日本の雇用も増える。生産力も増える。付加価値も増える。GDPは必然的に増える。

「止まらぬ円安 縮む日本」いう日本経済新聞のトップ記事の見出しは、以上述べたようなことを考えていない。皮相的である──

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<山崎和邦の投機の流儀vol.538 9/25号>

第1部:当面の市況
(1)買い場探し─週明けは安く始まろう。
(3)株式市場では、年初来安値が3ヶ月ぶりに多く出た→超目先的な相場の反転は近い。
(4)40年ぶりの円安
(5)7月の貿易赤字は1.4兆円に膨らみ、月次ペースとしては歴代7番目の大幅赤字
(6)岸田内閣の支持率凋落が加速している。
(7)岸田内閣支持、発足後最低支持率43%
(8)インフレファイターを名乗って出た、パウエル議長
(9)中ロの首脳会談は成功しなかった。
(10)短期的な流れの「CPIショック」と長期的な流れ─循環的な流れの必然性の法則を見ると同時に、歴史的な流れの地政学や通貨の国際性という原理の必然性も見ていかなければならない。

■ 第2部:中長期の見方
(2)日中関係は、我が国の経済・株価動向に極めて重要だ。
(4)「新しい資本主義」について
(5)景気の長期波動について
(6)中長期の見方─「アナリスト予想の落とし穴」
(7)成長と循環との結合について
(8)今流行の「パーパス経営」、今後も流行るであろう。

■ 第3部;読者との交信欄
読者H様との交信(下線は筆者付す)

■ 来週号に回す項目
〇「アメリカで広がるESGヘイトの教訓」
〇日本企業から「老害」はなくならない。

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山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2022年9月25日号)より一部抜粋
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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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