アメリカではISM製造業のレポートが公表され、米国の景気鈍化の兆候が見えてくる中、昨晩のNY相場は大きく上げました。景気鈍化でなぜ株が上がるのかについて解説します。(『徒然なる古今東西』高梨彰)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。
景気鈍化なのになぜ株価が上昇するのか?
「景気鈍化で株価上昇…、ん?」の1日。NYダウは765.38ドル高29,490.89ドルです。
今の相場に求められているものが何か、相場自身が教えてくれた日でした。
イギリスでは減税案が撤回され、「英国財政、少しはマシかも」から英ポンド買い、英国債(金利低下)が入ります。
この動き自体は条件反射に留まるも、独国債(通称Bund(s)「ブンズ」と言います)や米国債も買われます。
金利が下がれば「株でも買いますか」です。
そしてアメリカではISM製造業のレポートが公表されています。景況感を示すPMIは50.9。8月52.8から低下した上に、基準となる50に近付いて来ました。
ISM製造業の業界コメントをみると「誰も手元に在庫を残したくない」「需要が和らいだ(減った)」など、控え目、慎重な言葉が目に付きます。
これも米国債買い、米金利低下に繋がります。米5年債は20bp(0.2%)もの金利低下。10年債利回りも同様に低下し、3.64%となっています。
「米景気が鈍化すれば、Fed(米連銀)の利上げ速度だって直に和らぐ」とばかりに米株は寄り付きから買われます。
その流れはほぼ終日続き、NYダウ2.66%上昇。ハイテック株中心のNASDAQ総合指数も2.27%高です。
米金利低下で米ドル売り
また米金利低下は米ドル売りも呼び込みます。ドル円は東京時間に145円台を試したものの、1日終われば144円台半ば。日本の財務省(MOF)の介入以降「値動きの荒いレンジ取引」となっていますが、米ISM製造業の弱さは一層そんな動きに拍車を掛けそうです。と言いますか、荒れるだけのレンジ相場って、日銭稼ぎ(実際には「日銭失い」)にしか成らず面倒なことこの上なしです。
「リスクオン・リスクオフ」を聞かなくなりました。元々、超金融緩和相場限定の言葉だったので当然と言えばその通りです。
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分散投資が効かない二者択一相場
でも、今の「インフレ退治」相場の中で、「インフレ率低下か否か」の二者択一環境もあまり健全ではありません。
何故って、あらゆる資産価格が同時に上下するため、分散投資の効果が効き難くなってしまうからです。
資産毎の値動きがバラバラの方が、資産運用に書いてある「分散投資が大切」を実感出来ます(ご興味ある方は「相関係数」と相場について調べてみて下さい)。
相場全体を見たとき、最も耐性があるのは「バラバラ相場」。分散投資が効いて、おカネの逃げ道が得やすくなります。
反対に危ういのが「みんな一緒に上がるか下がるか」。相関係数ってやつで言うと、あらゆる資産同士の関係が+1か-1に限りなく近くなる状態です。
昨日の相場を改めて振り返ると、「金利低下→株高・米ドル安」でした。9月は総じて「金利上昇(懸念)→株安・米ドル高」です。
せっかくNYダウが760ドル上がっても、不健全なものは不健全と申し上げるしかなく、寂しさが残ります。
結局、Fedの利上げが終わるまで、こんな日々です。反対に、各資産の相関関係が「バラバラ」になったとき、新たな投資機会開始の合図と受け止めようかと思っています。
まとめ
・米ISM製造業指数鈍化などを受けて、株価は値幅を伴った上昇
・分散投資の観点からは、値動きがバラバラの方が良いのですけど
・「インフレか否か」の二者択一で動いている限り、不健全なままなのです
『徒然なる古今東西』(2022年10月4日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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