米FOMCの利上げは幅は市場予想通りの0.75%でいったん落ち着いた米市場。しかし、その後の「利上げ停止時期を語るのは時期尚早」としたパウエル発言で、そろそろ金利引き上げ打ち止めと期待していた層は完全に裏切られた。テスラやGAFAMの秋霜の時期はまだまだ続きそうだ。(『新天地の株式投資日記』)
※本記事は有料メルマガ『新天地の株式投資日記』2022年11月3日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月分無料のお試し購読をどうぞ。実際に配信されたサンプル号もお読みいただけます。
プロフィール:新天地
祖父の影響で子どもの頃から株の売買を行う。証券会社で自己売買業務を経験後に退社、現在はデイトレーダー。メルマガでは主に脱初級・中級者向けに、東証・NYの市況(市場雑感)、相場の考え方、取引手法などを解説。一般に書かれることが少ない空売り戦略や取引アルゴリズムに関してもプレーヤーの立場から丁寧にフォローする。
悪材料出尽くしで指数は一旦プラス
アメリカ市場は結局パウエル会見を受け下げて引けた。 下げ出すと「アメリカ人楽観的だからさげたら買っちゃうんだよね」も不発におわって安値引け。引け味はかなり悪い。
民間調査によるADP雇用調査が強く出て利上げ警戒が強まったこと、FOMCによる実際の利上げ発表と、その後のパウエル会見に備えてポジションを減らす動きが先行。指数は小安く推移した。
FOMC終了後、実際に日本時間朝3時に発表されたFFレートの利上げ幅は、市場の予想通り0.75%。これで一旦「悪材料出た」ということで逆に買い戻しやポジションを増やす動きで指数は一気にプラスまで戻す。 そしてパウエル会見開始をまった。
パウエルのタカ派発言で市場は売り優勢に
流れが変わったのが日本時間3:36ころ。パウエルが「利上げの停止時期について語るのは今はまだ時期尚早」と発言。
(It is very premature to talk about pausing interest hikes.)
これは一部の経済記者やメアリーデイリーなどが事前に示唆していた「そろそろ金利引き上げを終了させる時期が近づいているんでは」という論調を明確に否定した発言だった。「very」って強調したところが意味が深かった。
市場は「景気悪化が見えてきたのでFRBは来年の3月にもFFレートを5%にして利上げを打ち止めするんでは?」という期待感で株が買われてきた事情がある。
それだけに来年早期の金利引き上げ打ち切りを否定するパウエルの政策転換・ピボット反対な『タカ派的な発言』によって、金利上昇に弱いグロースが多いナスダック中心に大きく売り優勢になった。
ナスダック日中足
パウエルは従来考えていたよりもターミナルレート・最終的な利上げ金利は高くなるとも示唆。マーケットが期待していたよりもかなりタカ派な姿勢を誇示したと受け止められている。つまり各種のインフレピークアウト的な指標・経済悪化の指標にかかわらず、夏のジャクソンホール会見から今だ一歩も引いていないということだ。
Next: パウエル発言を一言でいうと「急ブレーキは緩めるけど止めないよ」
急ブレーキは緩めるけど止めないよ
元来、去年利上げに否定的な時期からパウエルは「利上げ効果は1年以上遅れてやってくる」と主張していた。いわゆるマネタリーラグと言われるものだ。
実際に利上げに踏みきった今もまだまだ利上げが実際のインフレを抑えてはいないし、利上げ開始からまだまだ一年以上経っていない。今ここで手を緩めればインフレ退治はできないと考えていることをマーケットに改めて示した言える。
機関投資家がベンチマークにするS&P500も戻りは3892まで戻した後、90分余りでストーンと2%下げておりなかなかスピードの早い、強烈な下げに見舞われたと言える。
後でも書くけど、GAFAMやテスラの下げが指数よりもきつめ。昨年まで明確に指数を上回って市場を牽引してきたビッグテックやテスラに晩秋の風が吹いている。
なお、今のようにFFレートを事実上の政策金利として使用するようになって以来、4回連続の0.75%利上げは初めてだそうな。言われてみるとそうだよね。昔は0.5%当たり前だったし、近年は0.25%利上げでできるだけショックを与えないようにするのが当然とされてきたから。
要するに「スピードが出過ぎたために今まではガツンとブレーキを踏んできた」
ただこれだと今度は速度が落ちすぎるんでブレーキの踏み具合は緩めますよ。 でもじゃあブレーキから足を離すかっていうとまだまだそういう時期じゃないよと。市場の「政策ピボット(転換)」の期待は脆くも崩れ去った。
当初「引き締め効果が現れるまでタイムラグがある」という一文をみてマーケットは強気に出た。
利上げってすごく強力な手段だけど「即効性は少ない」。
だから、その効果・遅効性を見込んで利上げはすでに終盤に入っていると市場は理解したというわけ。
しかし・・・。
グロース株には逆風が強く吹く
さらに利上をある程度続けないと、物価をさます効果は大きく減る。これがパウエルの今の考えだった。利上げ効果が十分に発揮されるためには初動での思い切った利上げと、いったんある程度利上げした以降は利上げスピードを緩めるべきだが、パタっと止めてしまうとその効果が発揮されない、そういうふうに考えていることを内外に示したと言える。
結果的に「景気減速や後退をできるだけ避けたいとは思ってる」「しかしながら十分な物価下落を招くために、景気減速回避のための利上げ打ち切りはしない」とうことだね。
種々の事情を考えると結論として「景気減速や後退を完全に避けるのはかなり難しい」ことを再認識させたと思われる。金利上昇局面が続くことは、成長のためにも資金調達が必要とされ。なおかつインカムのすくない発展途上のグロース株にはより逆風が強くなったと言えるだろう。
Next: テスラとGAFAM、激しい下げに見舞われるグロース株
テスラとGAFAMは激しい下げに見舞われる
テスラとGAFAMの下げがキツくなった。
相場が下げる時は時価総額の大きな株を売れっていうセオリー通りでもあるし、彼らには下げる理由もあった。
テスラは5.6%安。ここはイーロンマスクがTwitterの経営陣を解雇したことで「マスク本人がかなりの時間を割いてツイッター経営に当たらざるを得ないので、テスラの経営に携わる時間が短くなりひいては成長戦略に蹉跌をもたらす」という不安感で下げ幅が大きくなった。
悪いことは重なっていて、中国でロックダウンのためにニーオが一部工場での生産を停止。中国工場を抱えるテスラにも連想売りが嵩んだ。EVではリビアン5.8%安、ルーシッド2.0%安、フォード2.5%安。
売買代金2位のアップルも富士康・フォックスコンでの生産制限懸念が下げを加速。グロース銘柄だけに(アップル自体は十分なキャッシュフローがあるから資金調達の必要性は薄いけどね)割高感からの売りも多かった。
メタが4.9%安、52週安値を更新。アルファベットも3.8%安で52週安値更新。金利上昇が長引く中で、景気が悪くな広告収入が減少する思惑で指数よりも下げ率が大きい。
Amazonの下げも大きくこれは人件費上昇懸念(Amazonは宅配やるので人件費負担割合が大きい)と景気悪化での消費減衰懸念が合わさっているから。Amazonも52週安値更新となっている。
参考 アップル日足
アップルはまだジャクソンホール会見の後の下げより上にいるんだが・・・、
参考 メタ日足
サードパーティクッキー廃止という構造問題と、業態変換(多額の開発費がいる)の過渡期にいるメタはほとんど戻ることなく下げ続けている。特に150ドルのレンジ下限を下はなれてからは下げが加速した結果になった。
参考 アルファベット日足
参考 アマゾン日足
参考4社とナスダック比較1年前を100とする
構造的問題(サードパーティクッキー問題と、将来のための業態転換に伴う産みの苦しみ)で、春からナスダック指数を大きく先行して下げてきたメタに加えて、ここにきて利上げ継続と景気悪化から懸念Amazon、アルファベットが52週安値を更新して「ついにナスダック指数よりも下げを先行し始めた」のが、今の下げの最も注目すべき点だと思う。
相場全体はじつは大騒ぎするほど下がってないわけだが、それは「企業業績の下方修正がまだそれほど出ていないから」。今後実際に利上げや景気悪化の業績への影響が拡大すれば。市場全体としての株価への影響は避けられないだろう。
メタ、Amazon、アルファべットに続くグロースにも売りが嵩んだ。
同じく広告収入に依存するスナップ6.9%安、ピンタレスト2.9%安、スポティファイ6.4%安。そのほかロク4.3%安、ウーバー3.1%安、ショッピファイ3.7%安、アドビ4.7%安、セールスフォース6.1%安、ペイパル4.4%安など。
Next: 利上げ継続による需要減見込みで石油株も下げ
利上げ継続による需要減見込みで石油株も下げ
金利上げ継続で需要減との見方もあって石油株が冴えなかったのも特徴の一つ。
デボンエナジー12.7%安、エクソンモービル2.0%安、シェブロン2%安。
さらに景気悪化懸念から消費関連が売られた。ビザ2.9%安、ホームデポ2.5%安、コストコ3.3%安、ブッキンHD5.9%安、業績も悪かったエアビーアンビー13.4%!の急落。マスターカード4%安、ディズニー3.9%安。
(筆者注:このメルマガは新天地の考え方を書いたもので、特定の銘柄及び指数に関する商品の売買を推奨または指示するものではありません。銘柄の値動きについては想定と違う場合もあります。投資される場合は読者の方独自の責任で
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行われるようお願いします。)
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『新天地の株式投資日記』2022年11月4日号より一部抜粋
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