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スズキ株急落~投資家は三菱自動車の「二匹目のドジョウ」を狙えるか?=栫井駿介

三菱自動車に続き、スズキも燃費の測定方法が国の定める方法に違反していました。不正発覚に伴い、株価は一時年初来安値を更新しました。三菱自動車は日産の買収でその後株価が上昇しましたが、スズキは「二匹目のドジョウ」となる可能性があるのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

スズキよお前もか…燃費不正問題、企業価値と株価への影響は?

問題の沈静化は早そう

スズキは、本来屋外のテストコースで実際に計測しなければならない燃費を、屋内で行った測定の積み上げにより算定し、結果を提出していました。違反の内容は三菱自動車と同様です。

【関連】ゴーンCEOの見つめる先~日産はなぜ三菱自動車を買収するのか?=栫井駿介

定められた測定方法を行わなかった理由についてスズキは、「屋外のテストコースで車を走らせる方法では風の影響などで測定結果のばらつきが大きくなる傾向があり、限られた開発期間の中でデータをそろえるのが難しかった。風の抵抗を受けない、室内試験のデータを積み上げて申請した」と説明しました。
また、「燃費をあえてよくしようという意図の形跡はなかった。不安定な作業の中で、より効率を上げて的確なデータを得たいというのが動機だった」として、燃費の数値を恣意的に上げようとした意図はないことを強調しました。

出典:「燃費データ問題の行方」 – NHKニュース

三菱自動車と大きく違うのは、燃費をよく見せようとしたわけではないということです。実際に燃費を測る方法では手間も費用もかかってしまうため、それを避けたと説明しています。実際に計測された燃費では三菱自動車ほどの大きな乖離は見られていないようなので、会見の内容に偽りはないように思われます。

燃費をごまかす意図がなかったことから、三菱自動車よりも悪質性は低いと考えられます。正式な計測方法との乖離もなく、販売中止等の措置は行わないということです。三菱自動車の陰に隠れて、問題の沈静化は早いと考えています。

Next: スズキの現在株価は割安?割高? 成長著しいインドで圧倒的な強み



成長著しいインドで圧倒的な強み

株価下落により、スズキは本来の価値よりも割安な水準になっているでしょうか。ここで改めてスズキという会社について振り返ってみます。

スズキ<7269> 日足(SBI証券提供)

売上高に占める割合は、9割以上が自動車です。自動車の他にバイクなどを販売していますが、その割合は1割未満にすぎません。日本では軽自動車を中心とする小型車に強みを持ち、シェアは毎年ダイハツと熾烈なトップ争いを繰り広げています。

特筆すべきは、スズキが日本以外で得意とする国です。実はインドで4割近いシェアを持ち、同国では圧倒的です。日本における自動車販売台数は70万台ですが、インドでは130万台も販売しています。他の自動車会社がインドを攻めあぐねている中で、スズキは唯一成功している会社といってよいでしょう。

インドは所得水準が低く、これまでは自動車が販売できるような状況ではありませんでしたが、経済発展に伴い自動車の販売台数も増えています。昨年の販売台数は340万台で、世界第5位の市場となっています。ちなみに世界1位は中国で2,500万台、日本は500万台で世界第3位です。

参考リンク:世界の自動車 販売台数 国別ランキング・推移 – GLOBAL NOTE

経済発展理論で言えば、一人当たりGDPが3,000ドルを超えると自動車が普及すると言われています。インドは現在1,500ドルであり、3,000ドル超える日もそう遠くはないでしょう。

ちなみに、一人あたりGDP1,500ドルというのは2005年頃の中国と同じ数値ですが、中国は2009年に3,000ドルを突破しています。12億の人口を抱えるインドは、経済発展が進むにつれて将来的には中国に次ぐ大市場となることが予想されます。

引く手はあまた

スズキの強みは、軽自動車に代表されるように、安くて小さな車を作ることです。インドのような経済発展がまだまだこれからという場所では、とにかく安くて丈夫な自動車が求められます。世界を見渡しても、同様の強みを持っているメーカーはほとんどありません。

スズキの日本における1台あたりの平均売上高は140万円ですが、インドでは70万円とかなり金額が抑えられています。それでもインドにおける営業利益は日本を上回っており、安く作ることに関しては相当なノウハウを持っていると考えられます。

独自の強みを持つスズキですから、他社にとっては非常に魅力的です。今年はじめにトヨタがスズキと提携するという観測報道も出ましたが、それがまことしやかに語られるほど、よその会社は欲しがっているのです。

トヨタ自動車が、苦手分野のてこ入れをねらう「次の一手」が浮上した。新興国市場に強いスズキとの幅広い提携を検討する一方、小型車を得意とするダイハツ工業を完全子会社化する方向だ。ただ、スズキとは正式な協議に入る前の段階で、思惑通りに提携が実現するかは予断を許さない。

出典:トヨタ、苦手分野の解消へ一手 スズキとの提携検討 – 朝日新聞(2016年1月28日)

Next: PER11倍(コンセンサス予想)のスズキは三菱自の「二匹目のドジョウ」になるか



三菱自動車の「二匹目のドジョウ」になるか

自動車業界は、アップルやグーグル、マイクロソフトなどの異業種まで巻き込んだ次世代技術開発競争時代に入り、各社には研究開発費の負担が重くのしかかります。スズキも例外ではありません。今回の不祥事も、研究開発費を少しでも削減しようとしたことが一因となっています。規模がなければ、莫大な研究開発費を捻出することはますます厳しくなっていくでしょう。

また、国内においても、軽自動車税の増税以降、軽自動車の販売台数は減少を続けています。これからはガラパゴスとなっている軽自動車頼みを脱却し、世界で通用するコンパクトカーの開発を進めなければならない状況です。

そのような背景事情を考えると、日産が三菱自動車を買収したように、株価下落に乗じてスズキを手中に収めようとする会社が出てくるかもしれません。なお、三菱自動車株は、日産による買収発表後ストップ高まで上昇しました。

三菱自動車<7211> 日足(SBI証券提供)

【関連】日産による三菱自動車買収が「究極のバリュー株投資」と言える理由=栫井駿介

スズキが同じようなことになれば、まさに「二匹目のドジョウ」です。昨年フォルクスワーゲンとの提携を解消し、合従連衡が進む自動車業界において数少ない「独り身」になっています。スズキの鈴木修会長はすでに85歳の高齢であるため、後継者問題も関連して話が一気に進む可能性もあります。

PERは11倍(コンセンサス予想)と、インドにおける成長性を考慮するともっと高くてもおかしくありません。単純に割安なのはもちろんですが、自動車業界における「ピカピカの嫁入り候補」として、これからのスズキの動向から目が離せません。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年5月21日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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