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アップルを苦しめる“脱中国化”の意外な盲点。韓国サムスンが成功し、アップルが苦戦する理由とは?=牧野武文

これまでアップル製品の部材の多くは、中国フォクスコンが製造していました。しかし、近年の世界企業の脱中国化の流れを受け、アップルも中国への依存から抜け出そうとしております。しかし、現時点では成功しているとはいえません。そこにはアップルブランドを維持するための苦悩が見て取れます。(『 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』牧野武文)

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プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

“脱中国化”を図るアップル

みなさん、こんにちは!ITジャーナリストの牧野武文です。

今回は、アップルの脱中国化ついてご紹介します。

アップル製品の多くが、中国フォクスコンにより製造されているということはよく知られています。しかし、その中国が米中デカップリング政策やコロナ禍に揺れ、アップル製品の出荷が滞っていることもたびたび報道されます。

アップルは、2010年代中頃から脱中国化というよりも、各市場で販売する製品はその地域の生産拠点で生産する地産地消化を進めています。現在、米国、EU、中国がアップルの大きな市場で、生産拠点もこの3地域に集中をしています。米国とEUに関しては生産拠点が多くないため、不足する分を中国から供給しているという図式です。

ところが、インド、EU、米国などが保護主義的な関税をかけ始めるようになっています。自由貿易の考え方には反することですが、各国とも自国産業を保護するために関税をかけていき、利益の一致する国とは個別に戦略的に自由貿易協定を結ぶという体制になりつつあります。

この中で、経済大国となってきた中国は孤立をする傾向にあり、特に米国は中国に対して制裁関税をかけています。世界の工場だった中国で製品を製造すると、販売地域に移転する際に多額の関税を支払わなければならなくなりつつあるのです。

これにより、アップルはますます地産地消を加速させています。現在、インドとベトナムでの生産が始まっていますが、いったいどの程度進捗しているのでしょうか。

今回は、アップルが進める脱中国化の現状と、アップル自身が抱える課題についてご紹介します。

アップルサプライヤーという名誉

初期のiPhoneには、背面に「Designed by Apple in California, Assembled in China」(カリフォルニアのアップルにより設計、中国で組立て)という文字が刻印されていました。この刻印を見て、個人投資家となっていた雷軍(レイ・ジュン)が「こんな素晴らしいスマートフォンを中国でもつくれるのだ」と感動して、小米(シャオミ)の創業を決意したのは有名な話です。

現在でも、iPhoneは中国を中心に生産されていますが、製造工場は他国にも広がっています。そのため、アップルはこの刻印をやめ、公式サイトなどでは「Designed by Apple in California, Made by People Everywhere」(世界中の人々によって製造)という言葉を使うようになっています。

アップルは、毎年、部品供給や組立てを行う企業(サプライヤーリスト)を公開しています(https://www.apple.com/jp/supplier-responsibility/)。このアップルのサプライヤーになることは、製造企業にとって、これ以上ない名誉なことです。生産品の品質が高いことがアップルに認められたということだからです。

アップルはサプライヤーに対して、工場の設備、環境対策、労働問題などを高い水準で求めています。どのようなことをサプライヤーに求めているかも、「サプライヤー行動規範とサプライヤー責任基準」という文書で公開されています。つまり、アップルのサプライヤーであるということは、高い品質の製品をつくり、環境にも配慮し、従業員の人権や健康を守る先進的な企業であるということになるのです。

Next: 日本の中堅企業にやって来たアップルから突然の連絡



ある日突然やってくるアップルからの連絡

ご迷惑がかかることになるので、業種、時期などは伏せますが、アップルのサプライヤーになった日本の地方中堅企業の経営者の方にお話を聞いたことがあります。ある日突然、アップルから連絡があり取引をしたいと言われてびっくりしたそうです。その企業は、業界の中では名が知られている中堅企業でしたが、世界的に名が知られているとは思っていなかったので、よくアップルが見つけてきたなと驚き、そして、またとないチャンスだと感じたそうです。

話を進めると、アップルのチームがやってきて、1週間以上にわたって工場の内部をすべて調査をしていきます。アップルのサプライヤーになるためにはアップルが定める基準をクリアしなければならず、その調査だというのです。

その結果、いくつかの小さな問題点が発見されましたが、アップルは解決策も提示をして、同意をしてくれるのであれば、サプライヤー認定が可能だという話になりました。そして、肝心の部品の納入価格の交渉に入ります。

利益ゼロの納入価格を提示に仰天

その経営者が驚いたのは、アップルはいきなり「利益ゼロ」の納入価格をずばりと提示してきたことでした。あてずっぽうではなく、業界の相場やその企業の業務プロセスを分析した上で出してきた価格だと感じたそうです。

利益ゼロでは契約することができませんが、アップルは、工場内のプロセス改善提案をいくつかしてきて、それをやり切れば、コストが下がって利益が出る価格になります。

経営者は同意をしました。アップルの提案を実行するのは簡単ではない苦労が伴いますが、アップルと取引ができ、なおかつ工場の業務プロセスは最先端のものとなり、決して大きいとは言えないものの利益が出て、しかも大量注文であるために、企業としても成長ができるからです。一方で、アップルは同類の部品を業界最安値水準で調達することができるのです。

アップルは、単に価格だけを比べて最安値の部品を市場から調達するというのではなく、信頼できる品質を出せるサプライヤーを選び、そこの業務プロセスを改善させることでコストを下げさせ、安値で部品を調達するということを行なっています。

さらに、アップルは製造装置の自社開発もしています。最先端の製造装置を大量に開発することでコストを下げ、これをサプライヤーに貸し出し、高品質の製品を低コストで製造します。

アップルは、同じ部品について複数のサプライヤーに製造させています。これは、万が一の場合、供給が滞って生産ができなくなることを避けるためのリスクヘッジですが、サプライヤーにしてみれば、常に他社と競争状態にあり、手を抜けない仕事となります。しかも、製造装置は自社のものではなくアップルの所有物ですから、最悪の場合、製造装置を引き上げられてしまうということも頭をよぎります。

サプライヤーにとってアップルの仕事は非常に厳しい仕事になります。しかし、その報酬として、技術レベルがあがり、何よりアップルが品質を認めたということですから、他のビジネスはしやすくなります。ですので、製造業としてはなんとしてもアップルの仕事は取りたいですし、手離したくない仕事なのです。

Next: アップル最大のEMS企業、中国フォックスコンの実態



アップルのEMS企業、中国フォックスコンの実態

中国のフォクスコンは、アップルのEMS(Electronics Manufacturing Service)企業=受託製造企業として有名で、過去、その労働条件の悪さがたびたび話題になりました。しかし、アップルの信頼を得て、アップル製品の多くを組み立てしているということは間違いありません。

今回は、フォクスコンが、どのようにして成長し、アップルの製造を受け持つようになっていったのかをご紹介します。そして、最近話題にのぼる「脱中国化」=中国以外での製造の現状がどのようになっているのかをご紹介します。

中国フォクスコンの親会社は、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)で、製造部門のブランドが、中国では「富士康」(フーシーカン)、英語圏ではFoxconnという名称になっています。

その中国での巨大さは想像を絶しています。深センの拠点には常時45万人が働いていて、工場内には社員寮はもちろん、飲食店、スーパー、病院、ネットカフェ、銀行、病院があり、消防署まで備えられています。もはや、企業、工場ではなく、ちょっとした地方都市の規模です。

その他、鄭州、崑山、北京、杭州、上海、天津、太原などにも製造拠点があり、合計で80万人以上が働いています。そのため、ネットではこんな笑い話のような実話が流布されています。あるフォクスコンの工員が、より高い給料をもらうために、フォクスコンを辞職をして2年間専門学校に通いました。そして、卒業する時に勧められたのが、やっぱりフォクスコンだったという話です。

創業者の郭台銘(グオ・タイミン)は、非常に厳しい人で、「経営者は正しい暴君であるべきだ」というのが持論です。そのため、フォクスコンでは残業が奨励をされ、残業をすればするほど報酬は高くなり、上級職に就くことができるようになります。

また、工場規律は軍隊のものを参考につくられ、勤務中に私語が許されないのはもちろん、笑顔を見せただけで注意をされます。すべての作業にマニュアルができていて、この作業は2秒、この作業は6秒と標準時間が細かく定められ、左手を使うのか、右手を使うのかまで定められています。

フォクスコンのある工員が、ウェイボーに書き込んだ内容が今でも語り草になっています。それは「フォクスコンに行って機械をつくるのだとばかり思っていたが、自分が機械になった」というものでした。

この厳しさが、2010年に16人の工員が次々と飛び降り自殺をするという悲劇につながりました。

しかし、決してブラック企業というわけでもないようです。実際に働いている人に話を聞くと、フォクスコンで働くことに価値を感じている人もいます。フォクスコンで働いている人の多くが農村出身者で、中学や高校を卒業して入社してきます。そのような農村出身者にとって、自分ががんばれば毎年給料があがっていくということ自体が新鮮なのだと言います。

一般的には、実家の農家を手伝うか、都会に出て飲食店のスタッフとして働きますが、このような仕事では給料はあがらないか、あがったとしても時間がかかります。しかし、フォクスコンでは、残業をすれば手取り収入を増やすことができますし、自発的に研修を受け、新たな技術を身につけると職位があがって給料が増えます。自分の努力次第で給料が増えていくという仕事はそうそうありません。

また、そうやって給料をあげることに成功をした先輩たちが、勉強会などで自分の体験を話してくれるので、そのような人たちをロールモデルとして自分のキャリアデザインが描けるというのもフォクスコンの大きな魅力になっています。

もちろん、楽をしてお金を稼ぎたいという考えから、不平や愚痴ばかりを言う人もたくさんいますが、努力をすればしただけ報われる仕組みにはなっているようです──

中略

脱中国化を図るアップル

アップルは、2013年にすべての製品の最終組み立て地を公表したことがあります。また、サプライヤーの企業名は毎年公表しています。

アップルの場合は、欧州にインド、中東、アフリカを含めています。すると、欧州、中国、北米、アジア太平洋(ベトナム、タイなどの東南アジア)の4つが重要な生産拠点であることがわかります。

これは、アップルの地域別収入の割合と一致をしています。

アップルの市場は、北南米が最大のもので、それに続いて、欧州と中国があり、そのさらに下に日本とアジア太平洋地域があります。つまり、アップルの戦略としては、最大消費地である北南米、欧州、中国に生産拠点を持ち、生産拠点数が不足する北南米、欧州には中国生産の製品を輸出する形で補うという体制になっています。

しかし、報道されている通り、アップルは生産拠点の脱中国化を進め、特にインドとベトナムに生産拠点を転換しようとしています。

ロイターの報道によると、2019年までの5年間は、アップル製品の44-47%が中国で生産されていました。しかし、2020年には41%に低下をし、2021年は36%に低下をしたということです。

この脱中国化は、コロナ禍によるサプライチェーンの問題が原因に挙げられることが多いようです。特に2022年にフォクスコンの河南省鄭州市の生産拠点で、新型コロナ陽性者が確認され、工員が離脱をし、生産ができなくなりました。さらには戻ってきたら支払うと約束された臨時手当が支払われないなどの理由から抗議活動が起きたという事件とよく結び付けられます。

また、中国が台湾侵攻の意思を高めているということから、台湾有事になった場合の製品供給という地政学的リスクを理由に上げる報道もあります。

Next: アップルが脱中国化をする本当の理由



アップルが脱中国化をする本当の理由

もちろん、こういった理由もありますが、それはどちらかというと後付けで脱中国化を後押しさせる要因であって、脱中国化の本質的な理由は関税と人件費の2つです。

その典型的な例がインドです。インドは国内産業を成長させるために、IT関連製品の海外製品の輸入を制限する政策をとっています。スマートフォンについては、2014年から関税の引き上げをたびたび行い、現在では20%の関税がかけられるようになりました。この措置は、WTOの協定違反であるという見方もあり、日本政府も紛争解決機関による審理を要請しています。
参考:インドによるICT製品の関税引上げ措置についてWTO協定に基づくパネルが設置されました-経済産業省

これだけ関税が高くなると、中国で生産したスマホをインドに輸入にして販売するのではなく、インドで生産して、インド市場で販売しようと誰もが考えるようになります。そこで、各メーカーは、インドに製造拠点を置き、地産地消を進めていくことになります。これがインド政府のねらいでもあるわけです。

このインドにうまく対応したのが、小米(シャオミ)でした。シャオミは、中国の下沈市場(地方市場)とインド市場がきわめて似ていることに着目し、格安のエントリーモデルのサブブランド「紅米」(ホンミー、Redmi)を2013年からスタートさせ、中国地方市場とインド市場の両方を同時に攻略する戦略を取りました。そして、インドが関税による国内産業保護策をとることを察知すると、EMS企業であるフォクスコンとFlexの合弁によりインド工場を設立し、現在では、インドで販売するスマホの99%は、インドで生産するにまでなっています。

インドは中国と国境問題が存在していることもあり、反中国的な空気の強い国です。たびたび、中国製品の不買運動が起きますが、そのたびにシャオミは「Made in India」「Mi from India」を強調し、インド市民からも準国産品のような扱いを受け、2017年以降はサムスンを抜いてインド市場で最大シェアをとり続けています。

アップルも同じ考え方で、インドで販売されるアップル製品のインドでの現地製造を進めています。2014年にはフォクスコンがチェンナイに、2015年にはマハラシュトナに工場を置き、2017年にはWistronがインドのカルナータカ州に工場を設立してiPhoneなどの製造を始めています。

脱中国化で起きた2つの問題

しかし、難航をしているようです。ひとつは熟練工不在による製造品質の問題、もうひとつは労働条件をめぐる問題です。特にフォクスコンはチェンナイ工場を放棄し、マハラシュトナ工場も製品の納入はまだ行われないという状況です。

唯一、製品納入が行われていたWistronの工場でも2021年に大規模な暴動が起こり、放火をされ、大量のiPhoneが掠奪されるという事件が起きました。原因は工員側とWistron側で食い違っています。工員側は労働時間が延ばされたのに、報酬が引き下げられたと主張をしていますが、Wistron側は人材派遣会社に以前と変わらない正規の賃金を支払っていると主張しています。間に入った派遣会社に問題があったようです。

インドには、この他、Pegatron、Flexなどもアップル製品を生産する工場を置いていますが、やはり労働問題と製品の品質問題に悩まされ続けています。

米国でも関税が問題になっています。2018年にトランプ政権は、米中の経済を分離させるデカプッリング政策に基づき、中国に対して制裁関税を課しました。いわゆる通商法301条関税です。この措置については国際貿易裁判所で訴訟が起こされていますが、判決が出るのはまだまだ先のことになります。

アップルは中国で生産されていたアップル製品を、米国に輸入して米国で売るという仕組みであったため、生産工場を中国以外に移転をすることが必要となりました。

その任を担ったのがフォクスコンで、ベトナムやブラジル、米国に工場を置き、アップル製品の生産を始めています。また、ベトナムにはLuxshare、GoerTek、Compalなども工場を建設して、アップル製品の生産を始めています。

2019年にはLuxshareがベトナムでAirPodsのテスト生産を始め、現在のAirPods3では、全体の15%程度をベトナムで生産するようになっています。

しかし、熟練工不足による品質問題を抱えているようです。AirPodsの接合部から余った接着剤がはみ出すという問題が起きていて、この問題を解消するのにそうとうな苦労をしているようです。このような製品は、出荷前の製品検査で不合格品となるため市場に出回ることはありませんが、工場の合格品率は大きく下がります。

また、フォクスコンもベトナム工場を設立し、2021年末からiPadとMacBookのテスト生産を始めています。しかし、こちらも熟練工不足に悩まされているようです。

このため、アップルでは設計を改善し、簡素化を進めています。特にMシリーズのSoCは非常に性能がよく、必要な半導体はSoCの中に組み込むことで、基盤設計を大きく簡素化することができます。これを利用して、MacBookとiPadの基盤設計を共通化しようとしています。この共通化はかなり進み、素人の見た目にはMacBookとiPadの基盤は見分けがつかないところまできているそうです。

Next: 脱中国化を成功させた韓国サムスン



脱中国化を成功させた韓国サムスン

脱中国化を先に完了しているのは韓国サムスンです。サムスンは2008年という早い時期からベトナムでの生産に挑戦をし、2018年には中国から生産を完全撤退しています。ひとつは、中国で販売施策を誤ったことにより、中国市場でのサムスンのスマホシェアが1%を切るという状況になり、もはや中国はサムスンの市場ではなくなってしまったことがあります。中国で売ることができないのであれば、中国で生産をする意味もあまりないことになります。

そのため、安い人件費を求めて、ベトナムの生産を始めましたが、やはり熟練工不足に悩まされました。それが軌道に乗るのは10年かかり、ようやくサムスンのスマートフォンの半分程度がベトナムで生産されるようになりました。

しかし、今度は、ベトナムの賃金が早くも上昇を始めています。そのため、サムスンは現在、インドネシアとインドに工場を建設する計画を進めています。

このサムスンの例を見ると、アップルのインド生産、ベトナム生産が軌道に乗るまでにはまだまだ時間がかかりそうです──

中略

今後アップルブランドを維持できるのか?

アップルのものづくりは非常に精密で、簡単に言えば、腕時計の手法を電子機器に持ち込んだと言っても過言ではありません。MacBookやiPadの筐体は、アルミの塊を削り出すという手法で製造されますが、これは本来、腕時計のような小さな製品に使われる手法です。削り出しであるので、薄くても強度のあるボディが製造できます。パソコンのような大きな製品に適用したら、削り出しの時間は膨大にかかりますし、何より、素材の多くを削りカスとして捨てるというムダが出ます。それでもアップルは、「薄くて、強度があり、何より美しい」という理由で、この手法を採用しています。

これがアップルのブランド価値を高めている大きな要因のひとつですが、同時に生産拠点の移転という点では大きな障害になっています。他社の製品であれば、中程度の熟練工を育てれば生産ができるのに、アップルの場合は職人のような高度な熟練工を育てる必要があります。

そのため、アップルは製造の難易度を下げる設計を取り入れるようになっています。例えば、2015年まで、MacBookの背面(ディスプレイ裏)のアップルロゴが光っていたのを覚えておいででしょうか。カフェなどで、MacBookを使っている人を見かけると、ロゴが光っていて、非常に目立ち、アップルファンを増やす大きな原動力となりました。

この点灯ロゴ部分は、筐体がレーザーカッターによりロゴの形にくり抜かれ、そこに着色されたポリカーボネートパネルが嵌め込まれていました。嵌め込みなのです。ロゴの形に整形されたパネルを嵌め込むという非常に難易度の高い加工をしていました。精度が少しでも悪ければ、指で強く押すとロゴが抜けてしまうという事故が起こりかねません。工芸品でよく使われる象嵌細工にも通じる手法です。そのため、当時のMacBookのロゴ部分を指でなぞっても、本体部分とロゴ部分の段差が感じられません。きれいに一体化した平面になっていました。

しかし、今では、ロゴの形にくり抜いた開口部の裏から、四角いパネルを貼り付けているだけになっています。そのため、ロゴ部分を指でなぞると、段差を感じることができますし、細かい埃のようなものが段差部分に溜まることもあります。

機能に直接関係のないところなので、そこまで凝らなくてもいいという考え方もあるかと思います。しかし、そこまで凝るからこそ、アップルのブランドに価値があると考える人もいます。

アップルは脱中国化を図るとともに、このアップルのブランド価値についても考え直す必要に迫られています。アップルブランドを支えている精密加工が、生産拠点移転の大きな障害になっているからです──

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2021年12月配信分
  • vol.104:2021年中国テック業界10大ニュース。1位はやはりテック企業への規制強化(12/27)
  • vol.103:商品はショートムービーで紹介するのが主流。タオバオを起点にショートムービーで展開する興味ECの仕組み(12/20)
  • vol.102:TikTokに使われるAIテクノロジー。最先端テックを惜しげもなく注ぎ込むバイトダンスの戦略(12/13)
  • vol.101:交通渋滞を交通信号を制御することで解消。都市の頭脳となる城市大脳が進めるスマートシティー構想(12/6)

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2021年11月配信分
  • vol.100:コロナ後に急増したネット詐欺。ねらわれる若い世代。被害者の6割以上が20代(11/29)
  • vol.099:アフターコロナ後の消費者心理はどう変化したか。「健康」「環境」「デジタル」「新消費スタイル」の4つ(11/22)
  • vol.098:なぜ中国政府はテック企業の締め付けを強化するのか。公正な競争とVIEスキーム(11/15)
  • vol.097:始まった中国の本格EVシフト。キーワードは「小型」「地方」「女性」(11/8)
  • vol.096:国潮と新国貨と国風元素。中国の若い世代はなぜ国産品を好むようになったのか?(11/1)

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image by:skyme / Shutterstock.com

知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』(2023年1月19日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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