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FXディーラーが活用する通貨ごとのクセ/「レート先回り」売買の謎=岡嶋大介

今回が短期連載の最終回になります。テーマは、高金利通貨で特に顕著な「通貨ごとのクセ」と「レート先回り」売買についてです。レートの先読みができているとしか思えない異常な高勝率のトレーダーは確かに存在します。(岡嶋大介)

プロフィール:岡嶋大介(おかじまだいすけ)
1976年東京生まれ。ソフトウェア作家兼投機家。株式会社ラガルト・テクノロジー代表取締役。東京大学理学部情報科学科卒業。相場好きを生かして開発したトレーディング・ディーリングツールを証券会社等に提供する一方、独自開発のFX業務パッケージ「TFTrader」までを手掛ける。

「レートの先読み」ができるとしか思えない超高勝率の秘密に迫る

高金利通貨で顕著な通貨ごとのクセ

この連載では説明を簡単にするためにドル/円しか出てきませんでしたが、通貨によって取引の傾向は異なってくるので、ディーラーはそれも頭に入れておかないといけません。

顕著なのは、南アフリカランド、トルコリラといった高金利通貨です。これらの通貨は、スワップ狙いでロングポジションを長期保有するトレーダーが多くいる一方、ショートポジションは数が少ないうえ短期で決済される傾向があります。

もっとも、ポジションがロングかショートか、に偏りがあっても、FXではどこかで反対売買をするため、(長期で見れば)買いか売りかに偏りがあるわけではありません。しかし、こういった通貨が下落している局面では、

  • 既にロングを持っていた人は投げるわけにはいかず(長期スワップ狙いなので持っていれば報われると考えるのは当然です)、持ち続ける傾向にある
  • ショートポジションの買戻しは少ない(もともとショートポジションはあまりないのでこれも当然です)
  • 下落を待っていたトレーダーの押し目の新規買いがわんさか入る

といったことから、下落局面では買いが多くなる傾向がはっきりあります。

この性質を利用して、顧客のポジションを呑む戦術を調整することができます。

下落時には買いが多くなるということは、インターバンク市場に対しては売りを多く入れる動機になります。下落局面なら顧客の買いが自然に入ってくるので、早めに売り注文を入れておけば合計で売りに傾いたところでうまく解消されてくれるだろう、という読みが背後にあります。

逆に、通貨の上昇局面では既存のロングポジションの決済が多くなり、新規のロングが少なくなるため、売りが多くなります。このときはインターバンク市場に対してはロングポジションを持つのが賢明です。

スワップ狙いは間違った戦略

これは個人投資家の取引傾向がカモにされているわけですが、その理由は、高金利通貨のスワップ狙いというのが作戦としては誤っていることにあります。

金利が高いということはその国はインフレの状態ということですし(概ね、金利と物価上昇率は連動します)、インフレの通貨は価値が低下していくので、理論的には通貨価値の下落と金利が拮抗して「通貨価値の目減り分だけ金利が貰える」というのが定常状態なのです。

金利のような周知の情報はみんなが知っているものなので、単に見かけの金利が高いからといってそれが有利に働くものではないのです。

株でいえば、配当利回りの高い銘柄を買っていればいつかは勝てるというのと似たようなもので、こういった通貨や銘柄は下げるときには利回りが軽く吹き飛ぶ強烈な下げを見せるものです。

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通信レイテンシを活用か?「レート先回り」売買の謎

インターバンク市場は、世界各国の主要な金融機関の提示するレートの集合体です。

そのレートや注文のデータもインターネットを通じて送られるので(一部例外もあります。書籍『フラッシュ・ボーイズ』に出てくるような、世界最速の専用回線を引くような連中も世の中にはいます)、レートの合成と配信にはいくらかのタイムラグがあり、通信時間による影響があります。

ニューヨークで合成されたレートは、ボストンにはすぐ到着しますがロンドンはそれより遅くなりますし、東京にはさらに遅く着きます。遅く着いたレートをみてから発注しようとしても、そのレートは誰かに既に取られていて約定しない、ということはよくあります。

日本のFX会社のサーバは大抵東京にあるので、もしヨーロッパや北米で生成されるレートを東京に着くよりも早く知り、かつ東京のサーバに発注する(ここが難しい)ことができれば、FX会社が提示するレートが切り替わる前に事前情報に基づいた発注をかけることができます。

すると、FX会社のレートが切り替わったときには既にポジションを持っている状態になるので、このレート先読みにより有利に取引をすることができます。1回の差は1pipにも満たないものでしょうが、何度も取引を繰り返す前提であればその差の累積は相当なものになります。

しかし、そこまでレートの先読みをする設備は大がかりすぎて個人が持つのは現実的ではないですし、筆者にもどのようにレートの先読みをしているのかは調査した範囲では全くわからず謎につつまれているのですが、取引履歴を見るとレートの先読みができているとしか思えない異常な勝率だった、という事例が確かにありました。

相場の世界も奥深いので、このような「何かよくわからないが、凄い」ことをしている人が、ひっそりとですが確かに生息しているのです。

最近の映画『マネー・ショート』にもありましたが、相場の世界には偏屈で世間的には目立たないが、知恵と工夫で莫大な利益を上げている人が確実にいるのです。

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最後に~「マネーゲーム」と蔑む誤りとトレーディングの尊さ

これまでいくつかのエピソードを書いてきましたが、これらは筆者が仕事でディーリング業務に絡んだプロジェクトをやったからこそ知ることができたものばかりでした。

個人投資家としてトレーディングをするだけでは想像もつかないことが多く、改めて相場の世界の奥深さを思い知ることになりました。

よく、相場で投機的利益を上げることをマネーゲームと蔑んで実業と差別する人がいますが、それは大きな誤りです。相場での利益というのは、短期では運だけで勝つこともありますが、長期ではプロとプロの真剣勝負に勝つ必要があり、負ければ資金を失うリスクを負った上での利益なのです。

そして、たくさんの投資家が注文を自由にぶつけあうことが、「適正なレート」という世界全体にとって有用な情報を生成する唯一の手段であることを考えれば、トレーダーの行動というのはたいへん尊いものなのです。

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岡嶋大介(ソフトウェア作家兼投機家)

株式会社ラガルト・テクノロジー

「ラガルト」はスペイン語で「とかげ」です。2005年10月に、私がバルセロナに旅行したときに訪れたグエル公園の有名な像を見て思いつきました(この像はとかげじゃなくて蛙という説もあるのですがまあいいですよね)。この会社は、どちらかというと私の個人的な活動を下支えする色彩が強いので、自分の気に入ったものを使って命名しようと思いました。この他、最近は更新が滞りがちですが、個人のtwitterアカウントblogがそれぞれあります。

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