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業績好調「丸亀製麺」トリドールHD株は買いか?海外展開“うどん以外”で勝ち続ける理由=山口伸

丸亀製麺を展開するトリドールHD<3397>の業績が好調だ。21年3月期は落ち込んだものの回復し、今期まで快進撃が続いている。丸亀製麺のテイクアウト専用商品や期間限定メニューの売れ行きが、テレビCMの効果もあって好調なためだ。メディアでも丸亀の業績がよく取り上げられるが、実は海外事業も著しく伸びている。そして海外では「うどん」以外で勝負しようとする動きがみられる。国内事業の好調とグローバル戦略についてまとめてみた。(山口伸)

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プロフィール:山口伸(やまぐち しん)
本業では化学メーカーに勤める副業ライター。本業は理系だが、趣味で経済関係の本や決算書を読み漁っており、得た知識を参考に経済関連や不動産関連の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。

うどんのファストフード化で成長

株式会社トリドールホールディングスの主力事業は国内の「丸亀製麺」だ。丸亀製麺は注文した“讃岐うどん”とトッピングの天ぷらをセルフ形式で取るうどん屋業態であり、全店直営で運営されている。読者も一度くらいは訪れたことがあるだろう。

もともと和風焼鳥ダイニングなどを運営していた同社だが、2000年に丸亀製麺事業を始めて以降、業績が著しく伸び、2011年には国内500店舗を達成した。23年3月期末時点で833店舗を展開し、同事業の売上高は1,021億円と全体の半分以上を占める。

丸亀製麺が成功した理由はうどん屋を「ファストフード化」したことにある。セルフ方式はトッピングの自由度という魅力もあるが、時短にも貢献しているだろう。お昼時に駐車場が混んでいても客が入店するのは、すぐに食べられると認識しているからだ。丸亀は牛丼・バーガー・ラーメンに「うどん」という選択肢を加えることに成功したと言える。

ちなみに丸亀製麺は、讃岐うどんの本場・香川県では1店舗しか運営していない。発祥ではないにもかかわらず“丸亀”を名乗っているという負のイメージもあるが、より安く“讃岐うどん”を提供する地場の店舗が強いといった事情もあるようだ。ニューヨークの「丸亀もんぞう」に対して丸亀製麺がクレームを入れていたことが明らかになった際は、「お前が言うな」と炎上したこともあった。とはいえトリドールの粟田社長は丸亀市の文化観光大使に任命されており、“和解”したようだ。

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コロナ禍で売上が伸びる

冒頭の通り、トリドールの業績は伸び続けている。21年3月期こそコロナ禍の影響で赤字となったがすぐに持ち直し、今期に至るまで売上が伸び続けている。

2020年3月期から23年3月期の4年間で売上収益と営業利益は以下のように推移した。22年3月期の利益が突出しているのは、政府補助金によるものである。

売上収益:1,565億円 → 1,348億円 → 1,534億円 → 1,883億円
営業利益:43.7億円 → ▲73.4億円 → 142.4億円 → 74.7億円

トリドールホールディングス<3397> 業績(SBI証券提供)

トリドールホールディングス<3397> 週足(SBI証券提供)

増収に貢献したのは主力である国内の丸亀製麺事業だ。特に22/3期以降は新商品とテレビCMの影響が大きい。21年4月には持ち帰り専用メニューとして「丸亀うどん弁当」を発売、これがヒット商品となった。また、ロードサイド店舗中心にテイクアウト専用窓口を設置し、店内客対応とバッティングしないようオペレーションの改善も行っている。

23年5月には透明のカップ容器に入った「丸亀シェイクうどん」を発売、同商品も持ち帰り専用であり、振ってから味わう斬新さがうけた。発売直後にカエル混入事件を引き起こしているが影響は少なく、涼しさを思わせる同商品は夏も売れ続けた。これら商品の好調もあり、もともと2%程度だった丸亀のテイクアウト比率はコロナ禍で20%弱まで伸びている。

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一方のテレビCMに関しては、著名芸能人を活用した広告が効果を発揮しており、丸亀シェイクうどんでは俳優・原菜乃華のダンスCMが話題となった。打ち立てやゆで立ての“シズル感”を出したCMも効果を発揮している。ちなみに丸亀は2015年にも武井壮を起用したスタミナ系メニューのCMが成功し、失速していた業績が伸びている。テレビCMでの宣伝は丸亀が得意とするところだ。

Next: 天ぷら屋としてアピール?海外事業も「現地化」で好調



海外事業も好調

国内丸亀事業の好調と共に、実は海外事業も伸び続けた。

21年3月期から23年3月期にかけて313億円→411億円→615億円と推移しており、3年間で2倍に伸びている。海外店舗数も626→644→707と拡大した。「Marugame Udon」として展開する海外の丸亀製麺は2011年のハワイ進出がきっかけだが、現在ではインドネシア、台湾、フィリピンなど店舗数の多くがアジア圏にある。

そして海外の丸亀は日本と違い、現地化されているのが特徴だ。

最も店舗数の多いインドネシア店には日本と同じ「かけうどん」もある一方、鶏白湯やカルボナーラなどの現地化メニューも多い。天ぷらは日本と同じようなものが多く、かき揚げや海老、ちくわやさつま揚げなどがある。ただし、ご飯ものに関しては、国内がおにぎりやいなりがメインである一方、インドネシアには牛丼・鶏丼・チキンカツカレーなどもあり、うどん屋というよりも「ジャパニーズレストラン」として展開していることが分かる。さらにはカフェラテ・ホットコーヒー・ソフトクリームなどのデザート類まである。

海外店の運営方式は日本と同じセルフ式、そしてオープンキッチンだ。ちなみに海外では、うどんよりも天ぷらの方が知名度は高い。そのため店名の下には「JAPANESE NOODLES & TEMPURA」という文言がついている。

とはいえ海外事業は丸亀製麺だけではない。24年3月期第3四半期の段階で海外店は856店舗を占めるが、丸亀は257店舗だ。他にも様々な業態店を展開しており、2018年に買収した香港企業が運営する「Tam Jai」も海外事業の一角を占める。

「Tam Jai」はスパイシーヌードル(米線)業態で、同社サイトによると世界では香港189店舗を含む229店舗を運営している。22/3期に29店舗、23/3期に40店舗出店するなど出店ペースも著しい。中華圏での知名度はうどんよりも圧倒的に高く、出店の余地があるようだ。今後、「Tam Jai」が最大ブランドになるかもしれないと、別メディアの取材で同社社長は語っている。

トリドールが海外で展開するブランドは数多く、他にもシンガポール発の日本式カレー店「MONSTER CURRY」やオランダ発のアジア料理ファストフード「Wok to Walk」なども手がけている。コロナ禍では、丸亀以外の事業も拡大したことで海外事業の売上が伸びた形だ。円安の影響も大きい。

目標は5,500店舗

23年3月期から始まる6年間の中長期経営計画において、トリドールは28年3月期の店舗数5,500店舗、売上高3,000億円を目標としている。

計画の内容をざっくりまとめると、既存ブランドについては新商品展開や人材教育で商品・サービスの質を上げ、新規開拓では多ブランドで展開するといった内容が書かれている。

人材教育の例としては国内丸亀製麺における「麺職人制度」がある。丸亀製麺では全店に製麺機を置き、店内ですぐ茹でる方式だが、調理技術の向上を目的としてこの制度をとっているようだ。従業員のモチベーションアップにも貢献しているだろう。

Next: 丸亀製麺に匹敵するブランドが生まれる?トリドールの世界戦略



新規開拓の多ブランド展開については海外事業の項目で紹介した通り、丸亀だけでなく様々な業態での規模拡大を進めている。

今期24/3期にはイギリスのFulham Shore社を買収した。同社はピザ業態の「Franco Manca」やギリシャ料理業態の「The Real Greek」を手がけ、23年6月段階で100店舗弱展開している。欧州では麺類以外の道を模索する。

これまでの海外事業を振り返ると、すでに展開されている飲食チェーンを買収し、他国への横展開を目指すような動きがみられる。

丸亀製麺のイメージが強いトリドールHDだが、いずれ丸亀を超える世界的ブランドが生まれるかもしれない。

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image by: beeboys / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年3月20日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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