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EU離脱まったなし。米シンクタンク調査にみる英国民投票の「理想と現実」=矢口新

6月8日付のCNBCに、米ピュー研究所による面白い調査結果が出た。英国民投票は今月23日だが、EU残留支持が多い若年層のうち確実に投票すると答えたのは半数以下となっている。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

英国どころじゃない。これらのEU諸国はもっとEU政府が嫌いだ

迫る6.23 イギリス国民投票

英国が国民にEU(欧州連合)からの離脱の是非を問う国民投票の日、6月23日が迫ってきた。

EUの正式な設立は1957年だが、英国の加盟は1973年。英国は欧州の統一通貨ユーロに参加せず、域内を国境検査なしで通過することを認めたシェンゲン協定にも参加していない。そして、英国と他の欧州各国との最後の繋がりともいえるEUをも離脱しようとしている。英国とEUに何が起きているのだろうか?

【関連】英国離脱ならユーロは「最安値」に向かう~困るのはむしろEU=矢口新

ここで、前もって指摘しておきたいのは、EU政府は概念上の産物ではなく、人が動かしている実体だということだ。

例えばG7、あるいは国連やIMFが政府となり、日本の政治をつかさどるようになったとしよう。その際、これで各国の利害はなくなると考えるのが「理想」であり、逆に誰が実際にその政府を動かすのだろうかと考えるのが「現実」からの視点だ。

EUはまさに、その理想と現実の狭間にいる。

米シンクタンク・ピュー研究所の調査

6月8日付のCNBCに、米ピュー研究所による面白い調査結果が出た。ピュー研究所は、2016年4月4日から5月12日にかけて、欧州連合内加盟10カ国で調査を行い、1万0491人から回答を得た。これら10カ国は、欧州連合全28カ国中、人口で80%を占め、GDPで82%を占める。

Forget the UK: These countries hate the EU even more – CNBC

以下、この記事の要点を翻訳・引用する。

EU支持が全欧州を通じて(前年比6~17ポイント)減少している。中央値で51%がEUを支持しているものの、47%が不支持を表明した。19%がブリュッセルの欧州政府に、もっと権限を与えることが望ましいとした。27%は現状維持でいいとした。一方、42%の人々が自国政府に、より多くの権限を戻すことを望むと答えた。

ポーランドでは72%が、ハンガリーでは61%がEUを支持した。

一方で、ギリシャでは27%、フランスで38%、スペインで47%だけが、EU支持だった。

英国では、スコットランドの53%を含む、44%がEUを支持した。

調査10カ国中、英国を除く9カ国で70%は、英国の離脱でEUは悪くなると答えた。良くなると答えたのは16%だけだった。

全欧州を通じ年齢が若い程、EU支持が多く、年齢を重ねるにつれ懐疑派が増える。フランスの年齢格差が25ポイントと最も顕著で、若年層の56%がEU支持に対し、中高齢層では31%に下がる。英国が19ポイント、オランダが16ポイント、ドイツとポーランドが14ポイント、ギリシャが13ポイントと続き、いずれも若年層の方がEUを支持している。

このところ急激にEU支持が減っているのは、移民、難民問題の影響だ。欧州各国は国境検査を再開したり、分離壁を設けたりし始め、域内を国境検査なしで通過することを認めたシェンゲン協定は形骸化している。

つまり、EUに留まっていても、自由な行き来というメリットは、少なくとも一部の人にはもうない

Next: 「盟主・ドイツ」という矛盾/EU支持の若年層は投票に行かない



「盟主・ドイツ」という矛盾

理想と現実の矛盾、誰が欧州政府を動かしているかを示唆する実例を1つ挙げよう。ユーロ導入後の、独仏とPIIGS諸国の失業率の推移だ。

独仏とPIIGS諸国の失業率の推移

サブプライムショックのあった2007年まで最も失業率の高かったドイツが、2009年には最も低くなる。そして、その傾向は今も続いている。こういうことが起きたのは、私は、ECBがサブプライムショック後に利上げしたことが主因だと見ている。

この間、米英は急速に利下げしたため、住宅バブルが崩壊していたスペインやアイルランドは、景気後退期に利上げと、米英との金利差急拡大というダブルパンチを受けた。

ダブルパンチは他の諸国も同じだ。そして、(リーマンショックに加え)その結果の景気後退期に財政出動したフランスやPIIGS、その他の国の首長は総退陣させられ、代わった首長はEU政府主導の緊縮財政を受け入れた。トリプルパンチだ。

つまり、ユーロ圏の諸国は、自国の金融政策がないばかりか、財政政策も事実上ないのだ。

では、なぜECBは利上げしたのか、そのヒントが下の図にある。

ユーロ導入後のドイツ経済

ECBの母体である独ブンデスバンクは、インフレの番人として著名だった。ECBの利下げは、リーマンショックによりドイツ経済が落ち込んだ後からだったのだ。

これを穿った見方だと感じる人は、仮にG7が1つの政府になれば、G7すべての国民がより平和で、安全で、豊かになると理想を追う人だ。しかし、誰がG7政府を主導するのかと考えるのが現実的なのだ。

主導権を取る力がない国にとって、すべてを他国に委ねるのは、必ずしも理想的なことではない。理想と現実の狭間は、狭いようで、とてつもなく広い

EU支持の若年層は投票に行かない

英国の1973年生まれ以降のEU世代、若年層はEU残留を望んでいる。中高齢層は離脱を望んでいる。国民投票は今月23日だが、確実に投票すると答える若年層が半数以下なのに対し、中高齢層は7~8割が投票すると答えている。EUから離脱すればトリプルAから格下げする可能性を示唆したS&Pを始め、大勢は英国に残留を促しているが、さて、どうなることやら。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年6月12日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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