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なぜ「終の棲家」に戸建てよりもマンションを選ぶ高齢者が増えているのか?=廣田信子

賃貸アパートから分譲マンション、そして戸建てという順に住み替える「住宅すごろく」に異変が起きています。「あがり」であったはずの戸建てから分譲マンションへ、または分譲マンションから郊外の団地や格安リゾートマンションへ住み替えるといった、いわゆる「住宅ステップダウン」を選択する高齢者が増えているのです。無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』の著者・廣田信子さんは、なぜこうした現象が起こるのかを解説したうえで、我が国の深刻な住宅問題についても言及しています。

プロフィール:廣田信子(ひろたのぶこ)
マンション総合コンサルティング(株)代表取締役、一級建築士、マンション管理士 、元マンション管理センター総合研究所主席研究員。著書『2020年マンション大崩壊から逃れる50の方法!』好評発売中。

持ち家で苦しい老後に!? 始まった「住宅ステップダウン」の悪循環

高齢者の「大移動」が始まっている

かつて、収入が増えるとともに「賃貸アパート」→「分譲マンション」→「戸建て住宅」と、住み替えで住宅をステップアップさせていくことを「住宅すごろく」と言っていました。しかし最近では、分譲マンション止まりで、分譲マンションを終の棲家にするケースが一般的になっています。また、超高齢化とともに、すごろくの「あがり」であったはずの戸建て住宅での生活が不便になり、最後、分譲マンションに住み替えるという流れも出てきました。

さらに、バブル崩壊とともに負の遺産になっていた越後湯沢のリゾートマンションを買って移住する高齢者が増えているとニュースを見ました。長年ほぼ全部が空き家状態だったバブル期に造られた戸建ての別荘地にも、移住してくる人が見受けられるようになったといいます。

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リゾート地で老後を過ごしたい…というより、非常に安く購入できることから、年金のみの長い老後の暮らしに不安を抱える老夫婦が、終の棲家として購入するというケースが多いのです。家賃負担が不安で購入する人も、自宅マンションを売って、差額を老後の生活資金に当てるために購入する人もいるのです。

また、リゾートでなくても、都心のマンションを売却して、郊外の団地を購入する人も増えています。差額を老後の資金にするという目的が大きいのです。地域再生研究所の松本恭治先生の言うところの、高齢者の住宅ステップダウンが始まっているのです。

確かに、70歳を過ぎ、国民年金に頼る暮らしだったら、家にお金をかけずに、できるだけ生活資金を持っていたいという気持ちになるのもよくわかります。しかし、高経年で価格が格段に安くなっている分譲マンションは、維持管理に大きな費用が掛かる危険も大きいのです。越後湯沢のマンションは、管理費と修繕積立金で月2万円で、温泉に入り放題と紹介されていましたが、温泉施設をもつマンションが、今後、この金額で、きちんと維持管理できていくとは思えません。

また、郊外の団地も、こういったステップダウンの住み替えが増えれば増えるほど、お金を掛けた再生の合意形成は遠のきます。そうして再生できずに価格が下がると、また、ステップダウンの住み替えが増えるという悪循環に陥ってしまいます。

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真剣に考えられてこなかった「所有することのリスク」

そもそも、持ち家政策で住宅を個人の責任分野とし、老後の住宅に対するコストを考えない年金や高齢者施策には大きな矛盾があると思わざるを得ません。30年前、高齢者は家を借りられないことが大きな問題になっていて、無理してローンを組んででも自宅を持っていないと老後に住むところがなくなる…と、不安を感じさせる風潮が強く、それがマンション購入を促すことにもなったのです。

そして漠然と、購入しておけば何かあったら売却できる資産を持つことになる…と誰もが思っていました。所有することのリスクについては、ほとんど考えられていなかったのです。日本では、年齢が高くなるほど、持ち家率が高まり、しかも、住んでいる住宅も広くなります。家族の数に関係なく…です。で、広い持ち家に縛られもて余している高齢者もいるのです。

松本恭治先生の分析では、スウェーデンでは、高齢になるほど、賃貸住宅に住む傾向があります。55~64歳では、所有が61.1%、賃貸が22.2%ですが、85歳以上では、所有25.1%、賃貸52.7%と逆転しています。家族構成やサポートの必要度合いによって、住み替えることができるしくみがあるのです。

持ち家があれば住むところに困らないはずが、簡単に住み替えもできず、その維持管理に生活を圧迫するほどの費用がかかる…。日本の高齢者が直面している住宅問題が、そのまま、マンションの維持管理の課題に直結していると改めて思います。根深い問題です。

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まんしょんオタクのマンションこぼれ話』(2017年3月10日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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