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「酎ハイに消毒用アルコール」でも底堅い鳥貴族の株は買いなのか?=八木翼

今回分析するのは、アルコール誤使用事件を起こしたばかりの鳥貴族。事件の株価への影響は軽微のようですが、それでもこの企業に投資する価値があるのかを検討してみます。(『バフェットの眼(有料版)』八木翼)

会社名:鳥貴族<3193>
現在株価:1877円(2016年8月19日終値)

※『バフェットの眼(有料版)』では、読者からのリクエストも踏まえ、毎号さまざまな企業を詳しく分析しています。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

お騒がせ「鳥貴族」の企業価値をバフェット流12の視点で分析

鳥貴族が繰り返す「単純作業」とは?

鳥貴族は、以前に分析したハイデイ日高と同様、伸びる可能性が高い企業です。

なぜか?

それは、単純作業を繰り返す会社だからです。

私はこれまで、様々な企業を分析してきました。あからさまに成長した企業もありますし、
分析結果は悪くないけれど、あまり成長しない企業もありました。

安定感」と口で言うだけなら楽なのですが、その「安定感」をどうやったら判別できるのか、これまでずっと疑問でした。しかし、実は案外簡単な方法で判別できることが分かったのです。

それは、EPS成長率の直線性(R2乗の数値)です。

【関連】なぜ「日高屋」ではビールが進むのか? バフェット流12の視点で分析=八木翼

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普通、世の中は複雑で、利益は乱高下して、株価なんて予測できません。これはほとんどの業界に当てはまる事象ですし、私もそう思います。

しかし世の中には、「儲かるコンセプトを持つ店があって、店舗を増やすだけで儲かるビジネス」というのが存在します。

具体的に言えば、ニトリABCマートステップ(学習塾)などです。これらの株のEPS成長率のR2乗(直線からのずれ)を見てみると

となっています(1に近いほど直線性があります)。

「世の中の事象は簡単に予測できない」ことを述べている『ブラックスワン』という有名な本の中にも、「実際、型にはまっていればいるほど予測もうまくできるようになる」との指摘があります。

いかに「型にはまっている」企業を探すか?それは、利益の上昇に直線性があるかどうかに着目することで、案外簡単に見つかるのです。

以上を踏まえて、最近、アルコール誤使用事件で世間を騒がせたばかりの鳥貴族を見ていきましょう。

Q1:その企業は消費者独占力を持っているか

持っています。鳥貴族は1商品が280円固定の居酒屋です。最近の居酒屋は、高級路線に走る店が多く、割安の居酒屋が歓迎されています。サイゼリアで結構お酒が消費されているのがいい例でしょう。

飲み会と言うと、一人5,000円程度が相場でしたが、280円であれば、一人4品頼んでも1,200円程度です。私も行ったことがありますが、ボリュームもあります。

また、一人用、二人用、団体用の席が用意されており、一人でも入りやすい雰囲気が確保されていました。その点も、他店にはない工夫です。お一人様が増えている昨今、貴重なお店だと思います。

Q2:その企業を理解しているか

理解しています。居酒屋を経営するチェーン店です。飲食店ですので、店舗の増加に合わせた売上増、利益増が期待でき、予測しやすい業種と言えます。

半導体や銀行など、技術革命やローンによる波の影響を受けにくい業種とも言えます。

Next: 「鳥貴族」の業態は、今から20年後も陳腐化しないのか?



Q3:その企業の製品・サービスは20年後も陳腐化していないか

万一、焼き鳥という食品自体が見直されれば、陳腐化する可能性は高いです。鳥インフルエンザなどが流行すれば、調達コストは上昇します。それにより鶏肉が陳腐化する可能性はゼロではありません。

しかし、焼き鳥をメインとした飲み屋の全国で有名なチェーン店は、あまりありません。低価格を売りとして、一気に攻めることができる可能性は高いと考えています。

Q4:その企業はコングロマリットか

居酒屋店舗事業に特化していて、コングロマリットではありません。

Q5:その企業の1株当たり利益(EPS)は安定成長しているか

さて、この企業はまだ上場して若い企業です。10年分の財務諸表はありませんので、5年分を確認することにしましょう。

ちなみに、コチラの1株当たり利益についても、以前に分析したハイデイ日高以前分析したハイデイ日高と同様、日経新聞などのEPS数値では、株式分割が考慮されていません。

有価証券報告書では、「平成26年3月24日付で普通株式1株につき100株の株式分割、平成27年2月1日付で普通株式1株につき2株の株式分割、平成27年8月1日付で普通株式1株につき3株の株式分割を行いました」とあります。それを修正した1株当たり利益を掲載します。

決算年  EPS(円/株)
H27.7  56.97
H26.7  52.4
H25.7  27.52
H24.7  8.32
H23.7  11.61

年平均EPS成長率:37.5%

かなり速い速度で上昇していることが分かりますね。相関係数も0.8933と高い値を示しています。

Q6:その企業は安定的に高いROE(株主資本利益率)をあげているか

決算年  ROE
H27.7  17.4%
H26.7  27.5%
H25.7  30.1%
H24.7  11.3%
H23.7  18.7%

平均ROE:21.0%

基本的にはこちらも安定しています。問題はなさそうです。

Next: 気になる「鳥貴族」の財務基盤をチェックする



Q7:その企業は強固な財務基盤を有しているか

財務基盤を見る際は自己資本率が良く使われますが、それはバフェット的にはNGです。長期債務に対して、どれだけ稼ぐ力を持っているかが重要と考えています。

今期の長期負債(円)  1,509,822
今期の税引き後利益(千円)  585,486
長期負債/税引後利益(年)  2.58(長期負債を税引き利益で返済するのに必要な年数)

5年以下です。問題ありません。

Q8:その企業は自社株買い戻しに積極的か

自社保有株式は、発行していないとみなしています。

今期発行済み株数  3,784,100
10年前の発行済み株数  2,530,600
過去10年間に減少した株数  -1253500.00
減少した割合  -49.53

株はむしろ増えてしまっています。成長中の企業ですので、これは致し方ないと言えるでしょう。

Q9:その企業の製品・サービス価格の上昇はインフレ率を上回っているか

常に一定の価格で販売しています。しかし、日本はそもそもデフレ状態ですので、価格に反映していなければ、問題ありません。価格は変わっていないので、全く問題ないと言えそうですね。

Q10:その企業の株価は、相場全体の下落や景気後退、一時的な経営問題などのために下落しているか

うーん、足元の株価は、アルコール誤使用問題があった割には下がってこないですね。あくまでバイトのミスとして受け入れられたのでしょう…安くはないです。

Next: 現在の株価は確かに高いが、高い成長性が魅力的



Q11:株式の利回りと利益の予想成長率を計算し、国債利回りと比較せよ

以下は計算です。まずは株主資本の予想成長率を求めましょう。

【1.予想成長率を求める】

(必要な値)
・10年平均ROE:21.0%
・配当性向:25%

(式)
・株主資本の予想成長率=10年平均ROE(1-配当性向)

(答え)
株主資本の予想成長率:15.8%

【2.予想BPSを求める】

さらに、今求めた、株主資本の予想成長率を使って、10年後の予想BPSも求めます。

(必要な値)
・直近のBPS:402.83
・株主資本の予想成長率:15.8%

(式)
・10年後の予想BPS=直近のBPS×(1+株主資本の予想成長率)^10

(答え)
10年後の予想BPS:63996.6円 ¥1,739.1

【3.予想EPSを求める】

この10年後の予想BPSに、平均ROEをかけます。すると、10年後の予想EPSが得られます。

(必要な値)
・10年後の予想BPS:¥1,739.1
・10年平均ROE:21.0%

(式)
・10年後の予想EPS=10年後の予想BPS×10年平均ROE

(答え)
10年後の予想EPS:¥365.22

【4.10年後予想株価を求める】

さて、予想EPSを求めたら、これに10年平均PERを掛ければ、10年後の株価を求めることができます。

(必要な値)
10年平均PER:31.3
10年後の予想EPS:¥365.22

(式)
10年後予想株価=10年平均PER×10年後予想EPS

(答え)
10年後予想株価:¥11,431.30

【5.年間期待収益率を求める】

10年後の予想株価を使って、年間にどれくらいのリターンが期待できるのかを計算します。

(必要な値)
・10年後の予想株価:¥11,431.30
・現在の株価:¥1,877

(式)
・年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1

(答え)
年間期待収益率:19.8%

【結果】

おお、予想以上の結果です。株価が高すぎるのでは?とも思いましたが、成長性は債務というリスクも取りつつ、かなり良いです。株価は確かに高いのですが、今後の展開を考えれば、現在の価格であっても投資を検討することに意義はあると思います。

Next: 結論:鳥貴族への投資はあり?なし? 最大の懸念点とは



Q12:株式を疑似債券と考え、期待収益率を計算せよ

【1.10年後BPSを求める】

まず10年後のBPSを求めます。過去10年の平均EPS成長率に1を足して、10乗したものに、現在BPSをかけます。これが10年後のBPSとなりますね。

(必要な値)
・年平均EPS成長率:37.5%
・現在BPS:402.83

(式)
10年後BPS=年平均EPS成長率^10×現在BPS

(答え)
*10年後BPS(円/株):9699.5

【2.10年後EPSを求める】

今求めた10年後BPSに過去10年平均ROEをかけます。これが10年後のEPSです。

(必要な値)
・過去10年平均ROE:21%
・10年後BPS(円/株):9699.5

(式)
10年後EPS=10年後BPS×過去10年平均ROE

(答え)
*10年後EPS(円/株):2036.9

【3.10年後予想株価を求める】

さらに、過去10年の平均PERをかけることで、10年後の予想株価が算出されます。

(必要な値)
・過去10年平均PER(倍):31.3
・10年後EPS(円/株):2036.9

(式)
10年後予想株価=過去10年平均PER(株価/EPS)×10年後EPS(円/株)

(答え)
*10年後予想株価:63,754.9

【4.年間期待収益率】

この予想株価を現在株価で割り、0.1乗し、マイナス1したものが、年間期待収益率となります。
(必要な値)
・10年後予想株価(円/株):63,754.9

(式)
・年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1

(答え)
*期待収益率(%/年):42.3%

【結果】

コチラも文句なし。超高水準です。事業も悪くありませんし、今後の業績も安定度は高いです。これまた素晴らしい企業です。

ただ、1つ懸念点も。新しい会社であるだけに、情報が不十分です。通常であれば、過去10年の業績を参考にしますが、今回は上場して間もないということで、情報が入りにくいため、5年分のデータしか分析していません。

つまり、鳥貴族がリーマンショックを経験したときのデータがないわけです。次の「リーマン級ショック」でも、飲み会は減少するでしょう。そのとき企業が存続できるのか?

もちろん、安めの価格設定ですので、不景気になってむしろ伸びる可能性も秘めていますが、飲み会の数自体が減少するようにも思います。

つまり、不景気になった時の底堅さは、証明されていないということです。期待収益率は申し分ありませんが、その点は覚悟しておきたい部分です。

結論:鳥貴族への投資はあり?なし?

鳥貴族はいい企業だと思いますが、まだ若い企業です。正直、何が起こっても不思議ではありません。さらに有名になり、さらに大きな問題を起こした時に買うのもアリなのかなとも思います。

もちろん、全くナシとまでは考えていませんが、やはり10年分の再現性が欲しいですね。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年8月22日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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