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東芝を訴えたGPIF~年金はいつまで「ダメ株」を掴まされる素人なのか?=近藤駿介

東芝の不正会計によって損害を受けたとして、GPIFが投資する約30兆円の日本株の資産管理を全額引き受けている信託銀行が、東芝を訴えた裁判が始まった。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

有報虚偽記載に伴う訴訟が10年で3回、GPIFには何が足りないか

GPIFが東芝を訴えた裁判はじまる

東芝の会計不祥事で損害を受けたとして、日本トラスティ・サービス信託銀行が約119億円の損害賠償を東芝に求めた訴訟の第1回口頭弁論が11日、東京地裁(鈴木正弘裁判長)であった。同行は公的年金を扱う年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用の委託先。東芝は賠償責任を争う姿勢を示した。
引用:東芝、会計不祥事巡り争う姿勢 GPIF委託先との訴訟 – 日経電子版10月11日付)

東芝の不正会計によって損害を受けたとして、GPIFが投資する約30兆円の日本株の資産管理を全額引き受けている信託銀行が、東芝を訴えた裁判が始まった。GPIFが信託銀行を通じて有価証券報告書虚偽記載に伴う訴訟を起こすのは、西武鉄道オリンパスフォルクスワーゲン AGに続いて4件目

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GPIFによる東芝告訴は正しい姿勢か

東芝の不正会計は、証券市場の根幹を揺るがす言語道断の行為であり、厳しく罰せられるべきものだ。しかし、GPIFが企業を訴えることには若干の疑問を感じてしまう。

それは、GPIFが行っている日本株運用約30兆円のうち、81.5%に相当する約25兆円が「パッシブ運用ベンチマークに設定された株価指数と等しい投資収益を目指す運用)」で行われているからだ。

パッシブ運用は、株価指数に採用されている全銘柄を、指数構成比率に合わせて保有するというのが一般的だ。つまり、GPIFから運用委託を受けた運用受託機関は有価証券報告書の内容を精査して東芝に投資したのではなく、ベンチマークに設定された株価指数に東芝が採用されていたから投資したのだ。

GPIFが自らベンチマークに設定した株価指数に東芝が含まれていたことによる投資損失を請求するという姿勢が、公的年金の運用を担う組織としてあるべき姿勢なのだろうか。

Next: 法的には正しいGPIFの主張、しかし東芝不正は「想定内のリスク」だった



GPIFにとって「想定されるリスク」だった東芝不正

過去GPIFが起こした同種の裁判では、西武鉄道の訴訟では142億円強、調停で終結したオリンパスの訴訟では21億円が回収されているので、法的にはGPIFの主張の正当性は認められているといえる。

しかし、GPIFが2006年の発足以来10年間で3回も有価証券報告書虚偽記載に伴う訴訟を起こしているということは、GPIFにとって有価証券報告書虚偽記載は「想定されるリスク」の一つだったともいえる。

もしGPIFが有価証券報告書虚偽記載について「想定されるリスク」の一つだという認識を持っていたとしたら、単純に「ベンチマーク運用」として委託するのではなく、運用を委託する運用機関が有価証券報告書虚偽記載等疑いのあると判断した銘柄には投資対象から外すよう指示するか、最初から銘柄選択の権限を運用受託機関に与える「アクティブ運用」の比率を増やすなどの対策がとれたはずである。

GPIFが目指すべき姿勢

GPIFは「日本版スチュワードシップ」を掲げ、投資先企業との対話を通して企業の持続的成長を促し、それによって中長期的な収益拡大を目指す方針を示している。

確かに世界最大の投資家であるGPIFとの対話は、企業経営上の緊張感を生む可能性が高い。しかし、GPIFがベンチマークに設定する株価指数に採用されていさえすれば、世界最大の投資家が株主になってくれるという状態では、緊張関係を維持するのは難しい。企業にとっての最大のプレッシャーは「GPIFに買って貰えない」ということだからだ。

「フォワードルッキング」な改革を目指しているGPIF。単に「スチュワードシップ・コード」を掲げ、有価証券報告書虚偽記載等が生じた企業に対しては訴訟を起こすという「バックワードルッキング」な運用責任を目指すのではなく、魅力なき企業・ガバナンスの怪しげな企業は投資対象から外すというような「フォワードルッキングなスチュワードシップ」を目指してもらいたいものだ。

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近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年10月13日号)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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