アップルとカード会社で箝口令が敷かれ、さっぱり内情が伝わってこないApple Pay。そんななかでも、できるだけアンテナを伸ばしてキャッチした情報を一気に公開します。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)
※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2016年10月15日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
クレカの達人・岩田昭男氏が取材で掴んだ「箝口令」の裏とは?
カード業界が音をたてて変わり始めた
箝口令が敷かれていたこの1ヶ月で、電子マネー、クレジットカード業界の勢力図は大きく変わりました。
これまで電子マネーの1つに過ぎなかったスイカが、Apple Payの主人公として急速に浮かび上がってきたのです。
また、Apple Payに載ることのできたカード会社と載れなかったところの差が、今後問題になりそうです。
利用者としても、自分の持っているカードはぜひ載せてみたいと思っているのに載っていない。それでは、他のカードに変えようかとなります。そうしたところで、カード会社の間に体力差がでてくるのではないかと心配しています。
ここから7つのテーマを立てて、Apple Payによって変化するクレジットカード業界とカードライフの実態について紹介します。
Suicaの一人勝ち
Apple Payに対応するのがフェリカと決まったために、その盟主であるスイカがクローズアップされています。
これまでは単に乗車もできる電子マネーに過ぎなかったのですが、フェリカの開発主体がソニーだったこともあり、アップルとの相性は抜群でした(アップルはソニーを目指してスティーブ・ジョブス以来やってきたから、ソニーは憧れの企業なのです)。
そのためアップル側の期待も大きく、スイカのために様々な機能が追加されました。スイカの情報を取り込むためにiPhone7にはフェリカのリーダー(読み込み機能)を新たに付け加えるなどしています。
アップルとすれば、スイカという世界一使われている電子マネーを搭載できるチャンスを得て、この日本版iPhone7を世界のショーケースにしようと考えているようです。
日本ではスイカをガラパゴスとか呼んで卑下していましたが、アップル側ではソニー由来の日本の優秀な技術と見て尊敬しているのです。そのために、JR東日本とは共同研究もたくさん行ない、世界初の機能も組み込みました。
スイカの情報をiPhone7に移行させる2つの方法
まず、スイカカードを平らなところに置き、その上にiPhone7をかぶせてそれからリーダーを読み込むと、カード内にあるカード番号や有効期限 定期券情報、名前等がすべて瞬時にiPhone7に移行されます。
また、スイカを持ってない人もiPhone7の中で簡単にカードが作れます。それを応用すると、関西や九州などスイカ販売圏外に住んでいてもスイカを持つことができるのです。
スイカは、Apple Payの力を借りて、念願の全国共通カードに仕立て上げたわけで、なかなかしっかりしています。
JCBとトヨタファイナンス、ドコモと三井住友カードが浮上
一方、Apple Payには電子マネーのスイカだけでなく、クレジットカードも載りますが、クレジットカード業界は、混乱するかもしれません。
その原因となるのが、Apple Payに参加するのに条件が設けられていること。参加したいクレジットカード会社は、後払い方式の電子マネーiDとクイックペイ(QP)の陣営のうちのどちらかに入らねばならないという条件があるからです。
「iD」はドコモと三井住友カード、「クイックペイ」はJCBとトヨタファイナンスがそれぞれ仕切っています。今後この4つのカード会社の力が増していくことが予想され、それにつれて、メガバンク主導のクレジットカード業界が徐々に姿を変えていきそうです。
現在は三菱UFJニコス、三井住友カード、JCB、クレディセゾンといった3大メガバンクの系列会社が取扱高ランキングの上位に顔を揃えていますが、今後はこの序列が変わり、思わぬカード会社が入る可能性もあります。
一方、Apple Payの存在自体がカード業界を脅かす要因にもなりそうです。利用者重視、プライバシー重視に立脚したアップルの哲学は、利益至上主義の日本のカード業界とは相容れないところが多いからです。
それについてはあとで詳しく述べますが、クレジットカード業界は、いまの護送船団方式を見直さざるをえない時が来ているのかもしれません。もう国際ブランド頼みではやっていられない、アップルのように自分たちも自らの頭で考え、行動しなければ生き残れない、そういう時代になろうとしているのかもしれません。
Next: 国際ブランドVisaの誤算/東京五輪を見据えたSuicaの野望とは?
なぜVisaはApple Payに消極的なのか?
国際ブランドのVisaにとって悩ましいのは、「このままApple Payが日本に定着すると、自分たちの計画が思うようにいかなくなる」ということでしょうか。
その計画とは、Visa、マスターカードが2020年東京オリンピックに向けて進める非接触ICを使った展開(こちらは世界標準のNFCタイプA、タイプB)で、デバイスは世界標準のPay-WAVEというクレジットカードをスマホに入れて使う予定です。
海外から来る人たちに一番使ってもらえる規格ということで、オリンピックを控えてこれから端末を全国に配置しようという矢先に、アップルの参入で出鼻をくじくかれたのです。
加盟店とすれば、フェリカの端末でフェリカ方式のスイカやクレジットカードで便利にやれるのなら、新たな投資もいらないので、それで十分だと考えるかもしれません。
そうなると、わざわざタイプA、Bの新しい端末を入れることには躊躇するかもしれません。
そうした事態になると大変です。Visa、マスターカードの考える新しい端末の普及は進まないことになります。計画が頓挫しかねないのでやきもきしているのです。
Visaがアップルとの付き合いに消極的なのは、こういう理由があるからだと思うのですが、いかがでしょうか。
2020年東京オリンピックを見据えた壮大な計画
非接触ICのNFCにはタイプA、タイプB、それにフェリカがあります。
このうちタイプA、タイプBは国際標準規格と呼ばれて、世界で認められ広く使われています。それに対してフェリカは、国際標準を取れなかったために今までは日本でしか使われませんでした。
しかし 、その性能が良かったためにJR東日本のスイカは人気となり、急速に普及しました。今回アップルはそのスイカの性能の高さを買ってApple Payに搭載したのですが、実はNFCのタイプA、タイプBも搭載しています。
さらに世界で出ているiPhone7のうちのグローバルタイプと呼ばれる機種には、すでにタイプA、タイプBのほかにフェリカも搭載されていると言われています。
つまり、海外でも一部の機種に日本限定といわれたフェリカがすでに搭載されて、いつでも使える状態にはなっているということです。
そして私は、このフェリカはおそらく、2020年のオリンピックを目指したものではないかとみています。
海外からの観光客が殺到するその時に、iPhoneにスイカをダウンロードして、日本に到着してからは成田空港ですぐにチャージして、電車に乗ったり、東京に着いたら買い物にも使ってもらおうとアップルは考えているのではないでしょうか。そしておそらく日本政府は、そういう目論見があったからアップルに懇願したのではないかと思われます。
そしていちど日本でスイカの便利さを味わった外国人たちは、母国に帰ってからも、また次の日本行きで、スイカを使うのを楽しみにすることでしょう。
その噂が広まって、その国でも日本政府が鉄道システムを入れるときにスイカも一緒に入れるということになるかもしれません。そこまでみると、スイカが厚遇されている意味がわかるような気がします。
Next: アップルペイとスイカが世界を制覇する、これだけの理由
徹底した利用者重視の哲学
Apple Payの特徴は、徹底した利用者重視の哲学にあります。スイカ情報の取り込みでもそうですが、なるべく利用者の負担にならないように考えてくれています。
登録するのに必要なのは、生年月日と、スイカの裏に記載されたカード番号の下4桁のみで十分です。
10年前にガラケーでモバイルSuicaを使ったときは、それは大変でした。さまざまな個人情報を入力しなければならず、それにかかった時間は半日、とても大変だったことを記憶しています。
それに比べれば、今回は比較にならないほど楽だったので嬉しかったです。この利用者重視の考え方は、アップルではいろいろなところで見られます。
スイカに比べるとクレジットカードの登録は少々面倒ですが、簡単にするために工夫がされています。登録すると自分のクレジットカードが「iD」か、「QP」かが分かるように画面の中のカードにレッテルが貼られるのです。
これがあると、自分のクレジットカードがどちらのグループだったか迷ったような時でも、画面を見ればいいから便利です。
お店で買い物する時も極めて簡単です。スイカの場合、「スイカで」とレジでいって、そのまま端末機にiPhone7をかざすだけで支払いは終わります。その際ホームボタンに指をおく必要もないし、画面をオンにする必要もないのです。スリープ状態でも反応してくれます。
一方、クレジットカードの場合、一般に必要とされるサインがいりません。そのかわりホームボタンに指を触れながら端末機リーダーにかざすだけ。面倒なサインが入らないので大変に楽です。これも利用者の利便性を重視したサービスと言えるでしょう。
徹底したプライバシー保護
カード利用する際に一番気にかかるのが、自分の買い物情報が外に漏れないかということです。
専門的には購買履歴情報とも呼びますが、それをカード会社が収集したり、ウェブ業者が収集しています。中には転売するところもあります。そんなことをされたら、誰だって、嫌な思いがするでしょう。
アマゾンも集めていますから、サイトを開くと、昨日買った本に関連した本の広告が今日出ていたりします。本当に役に立つものならいいけれども、そうでないことが多いので、とても腹が立ちます。
購買履歴はアマゾンだけでなく、Yahoo!や楽天なども盛んに収集して、自分たちのマーケティングに活用しています。
私たちはそれを知らぬ間にやり過ごしていて、それが当然のこと思ってるのですが、アップルの場合はちょっと違います。
自ら、そうした購買履歴は決してとらないと宣言しているのです。それはアップルがそういうデータを使って広告を展開する気が一切ないということを言っているわけです。利用者が不愉快な思いをすることはやらないという哲学ががあるからです。
そうした会社はまだ少ないので、あまり目立ちませんが、カード選びにおいては大切な点だと思います。アップルは利用者のプライバシーを守ることを重視している。これは創業以来一貫した企業ポリシーだそうです。
米国でも、こうした厳しい姿勢を示す企業は多くはありません。アップルがその最右翼と言っていいでしょう。
ただ、ヨーロッパでは、2018年にさらに厳しいプライバシーポリシーが制定され、日本にも影響が来そうです。
これは、個人情報を収集する会社に対し、収集する基準をつまびらかにしなければ収集を認めないという規制なのだそうです。違反すると罰金を取られるという厳しいものです。
私たちも何気なく過ごしていますが、そろそろ高還元率ばかりでなく、購買情報の収集や販売などにも気をつけるようにしたいものです。
Next: これから「大激変」を迎える私たちのクレジットカード・ライフ
徹底したセキュリティーの対策
アップルは購買情報を取らない会社だというのでよく知られていますが、同時に、カード番号を加盟店に知らせないサービスをApple Payで始めています。
これも利用者保護を考えてのことです。というのも、よくニュースで、カードを使ったらその店で番号を抜き取られて不正利用されたという話を聞きます。
店の店員が、送られてきた伝票を見てカード番号を盗み、それを悪用したというケースです。
それを防ぐために、アップルはApple Payにおいてカード番号を加盟店に送らず、そのかわりトークンと言う別の方法でやりとりをしています。
また、アプリのセキュリティも完璧です。App Storeに集まるアプリはアップルが何度も審査しているために、中にウイルスが入ったものなど絶対にないと言います。今後金融系のアプリが増えることが予想されますが、そのときにもこの体制があるから安心できます。
もう1つセキュリティー面で嬉しいのは、カードのたくさん入ったスマホをなくした時にどうすればいいかということです。
アップルには、iPhoneを探してくれるサービスがあり、位置情報で居場所を特定できます。
また、遠隔からロックをかけ、カード情報をすぐに消す方法があります。その他にも、なくしたiPhoneに対してメッセージ送ることもできるなど、いろいろな方法があります。
まとめ
以上のような特徴を持ったApple Payが普及すると、カード業界への影響も大きいものがあると思います。それと同時に、利用者へのインパクトも強いものがあるでしょう。
プライバシーやセキュリティについては、これまで考えてもみなかったという人が多いと思いますが、Apple Payの新しい試みを見ると、やはりこれは還元率やポイントのお得に優先すべきものだと思うようになります。
むしろ、こうした機能を中心にカードライフを組み立てていくのが正解ではないかと思います。「お得よりプライバシー」といったらいいのでしょうか。そうした変化こそ、これからのカードの持ち方、使い方なのかもしれません。
私たちもApple Payを使って、この機会に新しいライフスタイルを作っていくきっかけにしたいものです。
※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2016年10月15日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』(2016年10月15日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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世の中すっかりカード社会になりましたが、知っているようで知らないのがクレジットカードの世界。とくにゴールドカードやプラチナカードなどの情報はベールに包まれたままですから、なかなかリーチできません。また、最近は電子マネーや共通ポイントも勢いがあり、それらが複雑に絡み合いますから、こちらの知識も必要になってきました。私は30年にわたってクレジットカードの動向をウォッチしてきました。その体験と知識を総動員して、このメルマガで読者の疑問、質問に答えていこうと思います。ポイントの三重取り、プラチナカード入会の近道、いま一番旬のカードを教えて、などカードに関する疑問にできるだけお答えします。