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FOMC通過で見えた投機筋のポジション~ビットコインとドル円、日本株の行方=E氏

6月FOMC前後の相場の動きはファンダメンタルズでは説明不可能で、FRBの金融政策の方向性をいくら咀嚼しても理解は不可能なものでした。先週の円安とそれを好感した日本株高や、FANG銘柄高、ビットコイン高は、本来マクロ面でのサポートがなく、投機筋のポジション解消が始まれば消失する儚いものである点に注意が必要です。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

プロフィール:E氏
国内大手生保、ゴールドマン・サックス、当時日本最大のヘッジファンドだったジャパン・アドバイザリーでのファンドマネージャー経験を経て、2006年に自らのヘッジファンドであるINDRA Investmentsを設立し国内外の年金基金や富裕層への投資助言を開始。2006年10月からのファンド開始後はリーマンショックや東日本大震災で、期間中TOPIXは5割程度下落した中で、6年連続のプラス(累積30%)のリターンを達成。運用歴25年超。

足元の非合理的な相場の動きは「過剰ポジション解消」の兆候か

6月FOMCはノーサプライズ

14日に発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)は、FF金利誘導目標を25bps引き上げ、1.00-1.02%のレンジにしました。また、年内の利上げはあと1回という従来の見方を維持したほか、資産圧縮の詳細を示しました。

1ヶ月以上前から今回の会合での利上げは予想されており、年内の資産圧縮も多くのFOMCメンバーによって事前に説明されていたことから、今回の決定自体はノーサプライズです。

実際、発表前後で米国債やFF金利先物はあまり動きませんでしたし、週間での変化も小動きです。同様に米国株も、発表前の動きと大きな変化がなく、ダウは週間通じてフラット、NASDAQはこのところのFANG株の調整を受けて弱含みという発表前からの流れに大きな変化はありませんでした。

しかし、そんな中で発表前後に大きく動いたアセットがあり、それが為替であり、ゴールド原油です。

合理的に説明が困難な反応

特に、ドル円とユーロドルはサプライズがあったかのような激しい動きとなり、円は発表直前まで109円割れを伺う動きだったのに、FOMCを受けてドルが上昇するに伴い下落幅を拡大させ、週間では主要通貨で最も下落して終わっています。

また、従来から円相場との連動性が高いゴールドは、円の下落に呼応して下落したほか、原油は慢性的な供給過剰懸念があり弱含んでいたところ、FOMCを受けて急落しています。

ドルインデックスは発表前と比べ上昇して週末を迎えていますが、軟調な米国株、堅調な米国債の動きはどちらかというとリスクオフ的な動きと言えます。

FOMCは今年度の見方については想定通りでしたが、イエレンFRB議長が「インフレ指標の弱さは長続きしない」と示唆しているので、こうしたリスクオフ的な動きは次年度以降も利上げが続くことを懸念しての動きに思えるでしょうし、ドルの上昇もそうした流れにあると取れなくはありません。

こう考えると代替資産である原油を始めとするコモディティが弱含んだのは理解できますが、本来は買われるべき安全資産の円やゴールドが急落したことが説明できません。この、合理的に説明が困難な円の投機的ともいえる動きに釣られ、先進国で独歩の上昇となったのが先週の日本株です。

従って、日本株の先行きを見る上で、一見すると矛盾するゴールドや円相場の動きを理解しないことにはいけないので、予想通りのはずのFOMCだったのに、なぜ為替市場やゴールドだけで動きが生じたのかについて、本日は考えてみることにします。

Next: 投機筋の「お祭り騒ぎ」なぜ米国株は蚊帳の外だったのか?



投機筋の「お祭り騒ぎ」

まず、トランプショック以降の大雑把なおさらいをしておきます。事前に想定していなかった大統領の誕生で、当初はショートスクイズ主体だったマーケットは、やがてトランプが就任後に実行するであろう政策についても過剰な織り込みを始めました。

大型減税による企業収益増はもちろん、大規模経済対策によって、米国の成長率が劇的に上向き、それに伴いインフレ率が急上昇するという見方から、米国債利回りは急伸、ドルは急上昇、米国株も上昇という流れになったのが昨年末までの流れです。

しかし、昨年12月のFOMCでの先行きのインフレ見通しや、就任後の政策実行スピードが遅いといった現実に直面するにつれて、昨年末までのような過剰な成長を織り込んだ上での相場形成の修正が始まりました。

それが年初からのドル安基調であり、米国債利回りの緩やかな低下と、行き過ぎたリスクオンマーケットからの修正の結果ゴールドが強含む展開になったのです。

このうちのドル高とゴールド高に円が連動して相対的に上昇したことで、年初以降の日本株のパフォーマンスは先進国の中で相対的に劣位に置かれたのでした。

このリスクオフ的な流れを需給面でサポートしたのが、投機筋によるゴールド買い、円とユーロ、米国債のショートカバー等を年明けから続けた投機筋です。つまり、昨年11月以降のマーケットが過度なオーバーシュートになったのは、こういった投機筋がお祭り騒ぎのようにやり過ぎたからであり、その反動は自らの過剰ポジションを修正することで起きていたのです。

なぜ米国株は蚊帳の外?

この動きの中で蚊帳の外の動きをしたのが米国株です。

米国株もトランプショック以降急激に上昇しましたが、これは投機筋によるポジションの結果というよりは、トランプがあまりにも異質な大統領なので、もしかしたら選挙用のリップサービス的な政策を本当にしてくれるのではないかという期待感から、投資家層の裾野が広がったことと、投機筋による相場の柱となる代表的な特定銘柄への集中投資によって演出された側面が強いです。

年初以降の米国株は、下げても引け直前にかけてショートカバーのように下げを縮小させていることから、従来以上にETFによる買いが出ているのは事実ですので、401kなどの年金資金も出ているのでしょう。

ただこういった動きだけでは、就任後かなり経ってトランプの政策遂行能力に疑問が生じても、それどころか期間を全うすることなく弾劾でホワイトハウスを去るリスクが高まってきてもマーケットが失望に転じない理由づけにはなりません

つまり、就任後最初の議会演説を行った2末で、本来なら期待感の多くは出尽くしになって然るべきなのに、何が起きても調整せずに期待を維持し続けていたのです。

相場高を説明する要因がトランプによる政策期待しかないのに、政策遂行能力に疑問が生じ、あまりに不正が多く弾劾される可能性が高いのだったら、本来はトランプショック前の水準まで戻してもおかしくないし、実際、ドルインデックスや米国債利回りなどトランプショック以降のリスクオンで起きた変化は全てもとの木阿弥になっている以上、米国株もそうなっても不思議でないのに、以降もサポート材料なく相場が支えられていました。

この理由はずっと不明でしたが、特定銘柄の崩れをきっかけに、米国株のみが他資産との整合性なく強かった理由が徐々に明らかになってきました。

Next: 投機筋はFANG銘柄、そしてビットコインに集中投資していた?



FANG銘柄、そしてビットコインに集中投資

それは、やはり投機筋による過剰ポジションです。投機筋はS&P500やダウといった指数ではポジションをほとんど動かしていませんでしたが、(統計に出ないのでわかりにくかったですが)代わりに特定銘柄への集中投資でパフォーマンスを追及していたのです。

今年3月のトランプによる議会演説までは、政策期待で金融株への過剰ポジションを行い、議会演説で材料出つくしに転じると、そのロングをFANGと呼ばれるNASDAQの成長銘柄への集中投資ビットコインへと充てていました。

ご存知のように、FANG銘柄は市場創出によって成長をする企業なので、金融政策や経済政策に関わらず、自助努力での成長が期待されます。このため、今年3月以降の米国株がマクロや金融政策、さらには為替や米国債といった他資産との整合性を無視した動きになったのは、こうした指数寄与の大きな銘柄への集中投資によって指数全体が牽引されたからです。

これは、まるで日経平均が、指数寄与度上位の数銘柄で乱高下するのと同じことです。

このため、トランプの政策信認が懸念に変わり、さらには弾劾されるかもしれないという不安が台頭しても米国株はリスクオンのまま推移し続けたのですが、この他資産の動きと相容れない米国株の動きで、他の資産も時折、マクロや金融政策との連動性を失った動きをするようになってしまったわけです。

「犯人」はまたしても投機筋か

しかし、こうした動きは先月終わりから徐々に修正されつつありました。きっかけはFANG株の急落で、特段の下げ材料はなく先月末に調整が入ったのです。

しかし、これを契機に下げ癖がついたのか、FANG株の上値は重くなり、これに呼応する形でビットコインなど年初からオーバーシュートが顕著だった資産(金融政策とは関係なく、市場創出で成長が見込めるという点ではFANG株と同様です)も調整が入り始めました。

この説明としては、金利上昇を嫌気してのものだとか、トランプの司法介入などの報道を嫌気しているという説明がなされていますが、報道や政策発表と動きが必ずしも連動しているわけではない以上、あくまでも需給要因で過剰に牽引されたものである可能性が高まり、その犯人はまたしても投機筋の可能性が高いのです。

これは最初のFANG急落のあとのヘッジファンドの顧客向けパフォーマンスが悪化したという報道から推察されましたが、明確な統計は出ません。

しかし、以降もFANGやビットコインの連動性がリスクオフ気味に転じていることから、年初以降こういったアセットを過剰にオーバーウェイトしてきた連中が出口戦略を模索している可能性が高いです。

今、なぜこのタイミングかは当事者でないと判らないでしょうが、ロング資産を解消するということは、他のロング資産も同様の動きに見舞われる可能性が高いですし、反対にショートされていた資産はショートカバーで上がる可能性が高くなるということです。

Next: 過剰な建玉は解消される運命。投機筋のポジションを読む



投機筋のポジションを読む

ここで、年初からの投機筋のポジションを思い出してください。

先ほど書いたように、年初から投機筋はゴールドを積み増し、ユーロのショートカバーを進めドテンロングに転じ、円のショートカバーを進めていました。

そして、昨年秋以降積極的なロングポジションだった原油は供給過剰懸念が報道される中でもロングを維持し続けていましたが、この数ヶ月ほどでロングの解消を始めています。

と、ここまで書くと、先週のFOMCをきっかけにした一見不可解な動きの原因がなんとなくわかるでしょう。結局、先週のFOMC以降の動きは、投機筋が年初からロングだったアセットを解消し、ショートスクイズを行ったことによる可能性が高いのです。

先ほども書いたように、今、投機筋がポジションを解消している理由は不明です。解約が殺到しているのかもしれないし、半年から6ヶ月の投資期間なので入れ替え期に来ただけかもしれませんが、年初からのロング資産を削り始めているのは事実です。

いけいけのリスクオン銘柄であるFANGやビットコインと、代表的なリスクオフ資産であるゴールドや円が同じ動きをしたのは、こういった需給要因でしか説明できません。

つまり、依然としてマーケットは特定投資家の過剰ポジションの解消や生成で右往左往しているだけで、イベントをきっかけにポジション変化が起きているので、何か関連があるように見えても、実際は金融政策に対して合理的な判断の上の行動ではないことが多くなっているのです。

過剰なポジションは解消される運命

では、こういった動きがどこまで続くかですが、当事者でない以上、正確に判りませんし、投機筋といっても様々なスタイルの多くのファンドからなる集合体なので、この当事者でも全体の動きはわかりにくいでしょうが、少なくともいえることは、トランプショック以降のリスクオン相場で、連中が取った過剰ポジションは、米国債やドルインデックスなどに関しては全て解消され、トランプショック前の水準に指数が戻っているということです。

なので、一旦始まったアクションを途中で止めるよりは、解消するまで続くと見たほうが良いでしょう。

とすると、今後米国株は相場の牽引役だったFANGが崩れることでセンチメントが悪化しやすいでしょうし、安全資産であるゴールドも下げ易いでしょう。

一方の円ですが、円に関しては売りの持続性はそれほどないと思っています。それは、年初からショートカバーを進めたと言っても、投機筋は依然としてピークの半分程度のショートを持っているからです。

今は年初からの買い資産に関してポジション解消を行っていますが、円がショート建玉残高である以上、どこかでショートカバーに転じる可能性が高いです。

本来、ドルの下落の反対勘定として、円もユーロ同様に早々にカバーされて然るべきだったのに、そうならずに逆に4月下旬以降ショートが積み増された理由は、ユーロ買いに焦点が当たりすぎたため、下げ余地が乏しいドルより年初からの上昇の目立つ円を反対勘定にされたことも大きいでしょうし、円固有の買い材料が特段見当たらなかったということも大きいです。

もちろん、もしマーケットがファンダメンタルズや金融政策、そして政治の安定性といった、従来マーケットが気にしているファクターで動くのだったら、日本円には(北朝鮮問題、円安誘導していた安倍政権の支持率低下といった)買い材料が多いはずですが、今はファンダメンタルズで動く相場でないため、特定投資家による過剰ポジションの生成・解消といった需給要因が優先されてしまうのです。

しかし、先ほど書いたように、投機筋の円ポジションが既にショートである以上、ポジション解消をするのならば円は買われるので、日米欧通貨の中では今後は円が最も潜在的に上昇圧力が高いと言えますので、円下落に過剰に引きずられ、且つ、NASDAQにも牽引されてきた日本株は、両指数の逆転というダブルパンチに苦しむ時期がそう遠くない将来にやってくるでしょう。

このように、先週のFOMC前後の動きはファンダメンタルズでは説明不可能ですし、FRBの金融政策の方向性をいくら咀嚼しても理解は不可能です。残念ながら、今は過剰なポジションを取る投資家が池の中の鯨のように暴れまわっている以上、ファンダメンタルズとは乖離した動きになっている点に気をつける必要があります。

そして、何より注意すべきことは、先週の円安とそれを好感した日本株高は、本来マクロ面でのサポートがなく、投機筋のポジション解消が始まれば消失するような儚いものだということです。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年6月18日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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