かつてはバフェット銘柄の代表格だった「コカ・コーラ」。1988年当時のバフェットは、いったいどういう考えでこの株を買い、莫大な利益を得たのでしょうか。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)
コカ・コーラの急成長過程に見る「バフェット流投資の真髄」とは
「バフェット銘柄」コカ・コーラ今昔
バフェット銘柄の代表格とも言える「コカ・コーラ」の成長力が近年、かなり落ち込んでいます。直近10年の業績推移を確認すると、2013年からはマイナス成長が続いています。
バフェットがコカ・コーラへの投資を開始した1988年当時は、誰が見ても素晴らしい成長企業でした。その当時から比べると、今の苦境は想像しがたい状況です。
最高値を更新中のコカ・コーラ株を取得
バフェットは1988年からコカ・コーラ株を買い始めて、最終的に発行済み株式の7%を12.9億ドル相当で買いました。
買い入れたタイミングは1988年、1989年、1994年の3回です。当時、コカ・コーラの株価が最高値を更新する中でバフェットは買い集めました。
<コカ・コーラ 株価推移(1982年~1989年)>
株価だけを見ていると、天井圏で掴んでいるように見えます。
しかし、実際は「高値掴み」ではありませんでした。なぜなら、コカ・コーラの業績が成長し続けたからです。成長率が株価の上昇率と連動している限りにおいては、「割高」にはなりません。
当時のコカ・コーラは超・成長企業だった
当時のコカ・コーラは毎年のように、利益が概ね15%以上のペースで増えていっています。
1株当たりの価値で見ても、一直線に上昇しています。
<用語解説>
EPS=1株当たり利益
Cash Flow=1株当たり営業キャッシュフロー
BPS=1株当たり株主資本
ROE=株主資本利益率(EPS÷BPS)
ROEが常時、30%を超えていて、EPSの平均成長率は18%に達しています。
バフェットがこの投資で成功した理由は、間違いなく「コカ・コーラが毎年のように利益を増やしてきたから」に他なりません。高ROEだったとしても、まったくEPSが伸びなければ、株式のリターンは平行線のままです。
これではいくらROEが高くても、企業の価値は横ばいに推移します。
ちなみに、今年の1~3月期にバフェットが持ち株を減らしたIBMは、残念ながらこれに近い状況に陥っています。「成長力」の強さが投資の成否の鍵を握っているのです。
Next: バフェットはコカ・コーラ株をどの程度の「割安度」で購入していたのか?
盟友チャーリー・マンガーの言葉
当時のコカ・コーラが財務的にとても良い企業であることは、誰が見ても明らかです。しかし、財務だけでは投資すべき理由にはなりません。
バフェットの盟友チャーリー・マンガーは次のように述べています。
ベン・グレアムには、本質的な盲点がありました。高いプレミアムを支払ってでも買う価値のある企業が存在しているという事実を、あまりにも軽視していたのです。<中略>
少々高く支払ってでも、将来的に見れば関係を築いておいて損はない相手も、めったにいないけれど、いることはいる。
投資ゲームでは、常に質と価格の両方を考えなければならない。そのための秘訣は、支払った価格以上の価値を手に入れること。単純明快なことです。
「質と価格の両方」を重視しなければいけません。
当時のコカ・コーラのPERの推移
バフェットは当時、コカ・コーラ株をどのぐらいの割安度で購入していたのかを探っていきます。
当時のコカ・コーラ株のPERは、次のように推移していました。
バークシャーは1988年、1989年、1994年の3回にわけてコカ・コーラ株を買い増ししました。現在では、コカ・コーラの発行済普通株の9.3%に相当する4億株を所有しています。
1988年の買い付け時のPERが12~16倍の水準でした。コカ・コーラの株価は4~5ドルから一直線に上昇し続けて、1994年には19~26ドルまで上がって、6年前の5倍になっています。
バフェットは1994年にPERが20~27倍の水準でも、成長率が18%程度あるのなら割安だと考えて、最後の買い出動に向かったのでしょう。
圧倒的に割安だったコカ・コーラ株
1988年当時、コカ・コーラ株は圧倒的に割安でした。単純に1988年のPERが12~16倍で安かったと言っているのではありません。成長率と比較して圧倒的に割安だったのです。
1株当たり当期利益は毎年18%前後で上昇していました。その一方で、1988~1989年のPERは18倍よりも低い水準だったのです。
PEGレシオは一般的には次の公式で求められます。
<PEGレシオ>
PEGレシオ = 予想PER ÷ 予想利益成長率
<PERレシオで見る割安・割高度>
・1~2:標準的な範囲
・1未満:割安
・2超過:割高
このPEGレシオは、PERという単純な割安・割高指標に予想成長率を加味した指標です。下記の表のPEGレシオを確認すると、バフェットは「割安」の時にコカ・コーラ株を仕入れています。
1988年、1989年のPEGレシオは0.6~0.7だったのです。最も妥協した1994年でも0.9でした。1995年以降はPEGレシオが上昇してきたこともあり、買い増しを停止しています。
コカ・コーラは間違いなく「成長企業」でした。毎年18%前後で利益を増やす企業のPERが18倍以下だったら、これは「買い」なのです。
<PEGレシオの計算例>
18倍(PER)÷18%(予想成長率)=1(PEGレシオ)
バフェットは、PEGレシオという観点からも割安な水準でコカ・コーラ株を買い集めていたのです。
Next: 株価チャートだけでは判断できない「バフェット流投資の真髄」
株価チャートだけでは判断できない「バフェット流投資の真髄」
コカ・コーラ株で成功したバフェットの投資判断を今から振り返って分析すると、「質と価格のバランスが崩れている時」に買ったことが大きな成功要因だったと思われます。
当時の株価チャートを見ると、コカ・コーラ株は毎年のように上昇していました。特にバフェットが買い増した1989年は「超・強気相場」でした。当時のコカ・コーラ株はS&P500に対しても、大きく勝ち越している状況でした。
<コカ・コーラ株 VS S&P500 (1982年~1989年)>
この株価チャートを見て、ずっと株価が上昇しているので投資するのは危険だ、と判断するのは間違っています。
大切なことなので、繰り返しますが、コカ・コーラは当時、毎年18%前後のペースで利益を増やしていたのに、PERが18倍以下だったのです。
チャーリー・マンガーの「投資ゲームでは、常に質と価格の両方を考えなければならない」という教えに照らし合わせると、当時のバフェットはとても賢明な判断をしていました。
PERと予想成長率という2つの指標がアンバランスになっている時は、「大きな買い場」だと言えるでしょう。
まとめ
- バフェットは当時、コカ・コーラの成長率を18%程度と推測していた。
- 1988年、1989年のコカ・コーラ株のPERは14~18倍(中央値)で、予想成長率18%に比べて、割安な株価で放置されていた。
- 「質」と「価格」のバランスが崩れている時に買うことが大切である。
- 株価チャートが一直線に上昇していても、予想成長率がその上昇率を上回るのなら、「買い」である。
- 市場平均株価(S&P500)を大幅にアウトパフォームしていても、その銘柄が本物の成長企業であった場合、「割高」にはならない。
次回メルマガでは、このコカ・コーラについて、バフェットが投資を開始した1988年よりも以前の財務的な状況にスポットを当てて、どのようにして投資判断を下したのかを追っていきます。
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『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2017年7月9日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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