記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2017年7月13日号「グローバリズムに回帰する?アベノミクス」より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
プロフィール:島倉原(しまくら はじめ)
1974年生まれ。経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。1997年、東京大学法学部卒業。株式会社アトリウム担当部長、セゾン投信株式会社取締役などを歴任。経済理論学会及び景気循環学会会員。
歴史に学ばない安倍政権。自由貿易と緊縮で「格差」だけが広がる
国際紛争を呼ぶグローバリズム
7月6日、日本とEUの首脳協議で経済連携協定(EPA)が大枠合意されました。
安倍首相によれば「アベノミクスの重要な柱」とのことで、合意後の共同記者会見では「自由貿易の旗手として手を携え、世界の平和と繁栄に貢献していく」と宣言されました。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO18529550W7A700C1MM8000/
http://www.nikkei.com/article/DGKKASFS06H49_W7A700C1MM8000/
しかしながら、自由貿易を推進して経済的な利益を追求する、いわゆるグローバリズムは、むしろ経済的な権益を巡る国際紛争の機会を高めるというのが歴史の教訓です。
事実、19世紀後半以降に本格化した「第1次グローバル化時代」の下での貿易の拡大は、経済権益の獲得と結びついた「帝国主義」という名の国家のエゴをエスカレートさせ、その結果として生じた第1次世界大戦によって終焉を迎えました。
そのことは、基軸通貨国として当時のグローバル化の中心にあった、イギリスの貿易依存度(=輸出入額÷GDP)の推移からも読み取ることができます。
日米英と世界全体の貿易依存度(=輸出入額合計÷GDP)の推移を示したグラフ。グローバル化の時代でも、貿易拡大に依存しない内需主導経済の国の方が発展する、というのが歴史の教訓です。
↓参考記事「グローバリズムに回帰する?アベノミクス」https://t.co/vjYSYkxw0N pic.twitter.com/UMvCjA4IHV— 島倉 原 (@sima9ra) 2017年7月11日
「国際分業」というと何やら聞こえが良さそうですが、貿易の拡大は生産労働者と消費者の分断を促進し、低賃金労働を求める企業が国境を越えて生産拠点を移すことが容易になるため、生産拠点が移される側(主に新興国)も含めて経済的な格差が拡大します。
その結果、社会は不安定化し、排外的な傾向が強まり、これもまた国際紛争につながります。
Next: なぜアベノミクスは「戦前的なグローバリズムへの回帰」に墜ちたのか?
「戦後レジームからの脱却」のはずが…
そもそも、グローバル化の背景にあるのは金儲けを追求する資本の論理。そこに国際的な資本移動の活発化が伴うのは、19世紀も現代も共通しています。結果として、各国の金融市場は不安定さを増して金融危機の発生頻度が高まり、それがまた、実物経済にも悪影響を与え、格差の拡大も助長しています。
その典型例が、現代においては2008年に生じたリーマンショック。また、1930年代の世界恐慌も、第1次グローバル化がピークアウトした後の事件ですが、それ以前の国際資本移動の進展によって増幅された経済危機であったと言われています。
その混乱がファシズムの台頭を招き、第2次世界大戦につながったとすれば、ここでもまた、グローバル化が国際紛争につながったと言えるでしょう。
しかも、グローバル化の下でも内需すなわち国内経済主導の経済運営を行い、長期的に貿易依存度を低下させる国の方がむしろ経済発展している。その典型例が第2次大戦以前のアメリカ、あるいは戦後から1990年代前半までの日本です。
対して、明治以降の日本は第1次グローバル化時代終焉後もグローバリズム路線を継続し、内需主導の経済成長につながる高橋財政の直前に満州事変を引き起こし、後戻りができないまま破滅的な太平洋戦争に突入しています。
格差の大きさも含め、当時の政治経済体制にはその意味で明らかな欠陥があった。これもまた、前項のグラフから読み取るべき歴史の教訓ではないでしょうか。
消費税増税をはじめとする緊縮財政によって内需を冷え込ませる一方で、グローバリズムを推進するアベノミクス。「戦後レジームからの脱却」を掲げた首相の下での経済政策が、「戦前的なグローバリズムへの回帰」となっているのは歴史の皮肉でしょうか。
『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年7月13日号より
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