記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2017年6月15日号「宅配便値上げをもたらしたデフレ経済の限界」より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
プロフィール:島倉原(しまくら はじめ)
1974年生まれ。経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。1997年、東京大学法学部卒業。株式会社アトリウム担当部長、セゾン投信株式会社取締役などを歴任。経済理論学会及び景気循環学会会員。
止まらない過剰サービス。「無償の親切」で日本が壊れる前に
「サービス競争」の興味深い考察
ヤマト運輸の運賃引き上げ方針決定以降、サービス業における「過剰サービス」や「人手不足」が話題に上ることが多くなりました。
そうした中、日本経済新聞の「経済教室」欄にも、「人手不足をどうみるか」と題して、複数の経済学者が寄稿されています。
応用経済学が専門で、『大相撲の経済学』などの著書もある中島隆信氏もその1人です。
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO17462310Y7A600C1KE8000/
中島氏は、内容やコストに見合った市場評価がなされない過剰サービスの背景分析として、サービス業そのものの成り立ちにさかのぼって分析しています。
現在では業者が提供しているサービスの多くは、家庭や地域コミュニティによって「内製」、すなわちカネのやり取りなしに提供されてきたもの(外食や保育などが典型でしょうか)。
ところが、産業の発達によって生活と仕事の場が分離され、家庭にせよ、地域社会にせよ、そうしたコミュニティ内での時間や空間の共有が難しくなる一方で、経済成長による所得の向上、言い換えれば人々の実質的な時給の上昇が相まって、サービスは内製するよりもカネで買う方が割に合うようになった。それに対応する形で、サービスの産業化が進んだと考えられる、としています。
ただし、サービスには大きく2つの要素が含まれている、というのが氏の議論。1つは、内製されていたものを単純に市場化した性格の強い「インフラ系サービス」。もう1つは、そこに業者独自の中身を付加したウェイトが高い「コンテンツ系サービス」。中でも、「内製とカネで買うのとどちらが割に合うか」で判断されやすいのがインフラ系で、経済成長が鈍化すると、価格の引き上げがより一層難しくなる、ということです。
実際に、1995年以降とそれ以前を比べると、1人当たり実質GDPの伸びと共に、家賃、タクシー運賃、理髪料、大学授業料といった、インフラ系サービスの価格の伸びも急激に鈍化している。
消費者が店に行くという行為を市場化したものと解釈できる宅配サービスもその1つで、時間指定や再配達といったサービス向上も料金にはほとんど反映されない一方で、顧客規模を必要とする事業特性を持つ結果、過剰サービス競争に陥りやすいとしています。
サービス産業化が進んだプロセスについては、異なる解釈も成り立つように思いますが、所得の向上に伴ってサービスもカネで買う方が割に合うようになるという部分と、インフラ系サービスは経済成長鈍化と共に過剰サービスに陥りやすいという部分は、確かにその通りではないかと思います。
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