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日経2万円割れは「並ばず買えるバーゲンセール」もちろん買いで勝負だ=江守哲

投資家は評論家であってはなりません。日銀の金融政策を批判しても仕方がありません。その政策で市場がどう動くのかを考え、それに従って行動するだけです。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2017年7月31日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守 哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

多くの投資家が買いづらい膠着相場だからこそ、割安は正義となる

低PERの日本株は「いつ買っても同じ」

日経平均は先週も2万円を挟んだ動きになっています。先週末は下げてしまい、2万円は割れていますが、大した動きではありません

先週も書きましたように、日本の投資家がしっかりとしないと、日本株は堅調に推移する動きにはなりません。本当に自信がないというか、残念ですね。どの程度の強い決算になれば、日本株を買うのでしょうか。

いずれにしても、今のPERはかなり低い水準です。結局、いつ買っても同じだと思います。これ以上、下げないのであれば、押し目もありません。2万円を少しだけ下回って戻す動きが続いていますので、これでは買おうという投資家も出づらいのでしょう。

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これは、日銀のETF買いの弊害ととらえることもできるでしょう。下値が堅いので、結局は下げない。日銀が買うので下げないので、売りも限定的となる。この悪循環が押し目形勢の機会を奪っているということですね。

一方、日銀は現在の政策がなかなか目標の実現につながっていないことに悩んでいることを吐露しています。日銀の中曽副総裁は講演で、2%の物価上昇目標の達成時期を19年度ごろに1年先送りしたことに関して、「物価はやや弱めの動きとなっている。2%実現までなお距離がある」との認識を示しました。また、物価低迷の背景については、「賃金や物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が企業や家計に根強く残っている」としています。

さらに今後についても、「需給ギャップが着実に改善する下で、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化してくるが、そのタイミングは不確実性があり、楽観は禁物」としています。市場では2%の物価目標への批判も根強いのですが、これについては「物価の安定を実態的に確保するために、ある程度のプラスの物価上昇率が必要」と反論しています。

一方で、長短金利操作などの現行政策については、「きわめて緩和的な金融環境は、わが国の企業活動を強力にサポートしている」とし、「できるだけ早期に2%目標を実現するよう、現在の強力な金融緩和を粘り強く推進していく」と強調しました。

日本経済については、「景気は緩やかに拡大している。先行きも緩やかな拡大を続ける」とした一方で、「最大のリスク要因は海外経済の動向」とし、米国の経済政策運営英国の欧州連合の離脱問題地政学リスクなどをリスクとして挙げました。

現在の人手不足に関しては、「人手の足りない企業や産業に人材がスムーズに移動すれば、経済全体の生産性は高まる。政府の働き方改革は大きな意義があり、今の人手不足は日本経済の構造改革を強力に促す究極の成長戦略としての側面がある」と指摘しています。

中曽さんとは、10年以上も前に一度会食させていただき、コモディティ市場に関するお話をしたのを覚えています。すごく低姿勢な方で、日銀の中でもエリートであることが感じられる方でした。そして、実際に要職に就かれ、いまは副総裁にまで上り詰めています。

そのような方でも、上記のように政策を進めていくうえで、相当の難しさを感じながら対処されていることを考えると、金融政策の立案と実行、実現は相当難しい作業であると感じます。

しかし、金融当局には相応の責任が発生すると思います。実経済は日銀の実験の場ではないからです。結果が出なければ、責任を取ったうえで、別の人がそれを見直すのが筋です。

黒田日銀総裁の続投を「利用」せよ

黒田総裁の任期も視野に入ってきましたが、今の感じで行くと、次の総裁はまた黒田総裁になりそうです。

一方、日銀の審議委員が2人交代しました。すでに報じられている通りですので、ここでは詳しくは触れませんが、明確なのは、黒田総裁の意見に反対する委員が居なくなったことです。

これで、金融政策決定会合は半ば形骸化することになります。反対意見はもう出てこないでしょうから、これでは議論にならないでしょう。

それが良いかどうかは別にして、日銀の今の政策が確実に継続されることは、市場にはよいのかもしれません。政策内容を批判したり論じたりしても仕方がありません。投資家は評論家であってはなりません。その政策で市場がどう動くのかを考え、それに従って行動するだけです。

Next: 2019年半ばに向けた上昇トレンドの始まり。まず第一関門は20700円水準



第一関門は20700円水準

世界的に株価は少なくとも2019年半ばまで堅調に推移すると考えられ、日本株もその動きに追随するはずです。これまで通り、企業業績をフォローするようにしたいところです。

まずは15年6月高値の20900円水準を試す動きを確認したいところですが、8月の強気シナリオのレンジを確認しておきましょう。

ポイントは20700円水準です。これを超えてくれば、上昇に勢いがつくと思います。企業業績という株価形成において最も重要なファンダメンタルズ要因を重視すれば、上昇を見込むのが常識的でしょう。

これまで通り、2万円を固めながら、徐々に水準を切り上げていくとの考えは不変です。しかし、今のような動きが続くようだと、確かに投資家が離れてしまう可能性がありますね。株価が上げていけば、投資家の興味も高まり、状況も違ってくるのでしょうけど。

とにかく、割安圏であることに変わりありません。押し目を待たずに、2万円割れは買いと考えておきましょう。

【日経平均株価:2017年の想定レンジ】

強気シナリオ18335円~23400円(17年末23020円)/弱気シナリオ14970円~19915円(17年末15620円)

【日経平均株価:7月の想定レンジ】

強気シナリオ20335円~22035円/弱気シナリオ17190円~18840円

【日経平均株価:8月の想定レンジ】

強気シナリオ20720円~22315円/弱気シナリオ16045円~18310円

【TOPIX:2017年の想定レンジ】

強気シナリオ1473~1860(17年末1833)/弱気シナリオ1215~1574(17年末1270)

【TOPIX:7月の想定レンジ】

強気シナリオ1646~1776/弱気シナリオ1374~1497

【TOPIX:8月の想定レンジ】

強気シナリオ1672~1798/弱気シナリオ1300~1453

Next: 日経平均が5年で2倍に?著名ヘッジファンド創業者が描く強気シナリオ



著名ヘッジファンド創業者が描く日本株の強気シナリオ

ロイターに興味深い記事が掲載されていましたので、ご紹介します。

香港を拠点とするヘッジファンドであるオアシス・マネジメントの創業者であるセス・フィッシャーCIOは、「日本の企業統治改革が一段と進展すれば、日経平均は5年で2倍になる可能性がある」としています。しかし、「改革の道のりはまだ遠い」としており、今後の動きに期待を寄せています。

フィッシャー氏は、「日本の企業統治改革は現段階でマラソンに例えると最初の5キロ地点を終えた程度」としています。そのうえで、「その時点のタイムが良くても満足とは言えない。もちろん気分は良いだろうが、まだまだ先は長い」との認識を示しています。なかなかわかりやすい表現ですね。

一方で、核心を突いた発言もしています。それは、「企業統治が改善すれば、利益率上昇やバランスシートが今よりはるかに効率的に使われるなどのプラス効果がもたらされ、株主資本利益率(ROE)が劇的に向上する」という発言です。さらに、「そうなれば、日経平均は3年から5年で2倍を超える上昇となってもおかしくない」としています。

日本企業のROEが低いのは有名ですが、これを引き上げるのは非常に難しいとみられています。日本企業のROEは8%前後であり、世界標準の15~18%を大きく下回っています。しかし、フィッシャー氏は「到達できないという理由はない。実現は可能だ」としています。

東芝や任天堂も保有するオアシスの投資スタイル

オアシスは自らを「アクティビスト」ではなく、「対話する株主(engaged shareholder)」と位置付けています。そのうえで、中長期的な企業価値向上を目的に、徐々にエンゲージメントのステップをエスカレートさせていく手法を採用しているといいます。

同社は13年から数年にわたり、任天堂に対してスマートフォン向けゲーム市場への参入を求めたことなどで知られているようです。現在、任天堂の株価は安値から上げてきており、フィッシャー氏は「任天堂については、我々は現時点では満足した株主だ」としています。また、同社は東芝株も保有しているといいます。その理由は「これまでに株価が大幅に下がり、下値余地が限られているため」としています。なかなか面白い着想だと思います。

ロイターによると、一部の投資家は東芝の再建に日本政府が関与するのは、企業統治改革の精神に反するとみています。しかし、フィッシャー氏は「私は株主の権利を強く提唱しており、株主利益を最大化する上で資金と時間を投入する準備がある。だが国益が絡むとなれば、政府が動くことに問題は感じない」としています。見る人やその角度によっては、投資対象企業の価値も変わるということですね。

同社は日本株について「コーポレートガバナンス・コードの導入以降日本への投資を引き上げている」としています。そのうえで、総資産の50~60%を日本市場に投じており、1000億円以上の投資残高を有しているとしています。

東芝株については、過去にも解説したように、注目している海外のヘッジファンドが少なくありません。今後は私も注目していきたいと考えています。もっとも、投資するかどうかは別ですが。

なお、繰り返すように、最終的な投資判断は自己責任でお願いします。
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※本記事で割愛された全文(米株式市場、為替市場、コモディティ市場の詳しい解説ほか)を読むには、8月分すべて無料の定期購読手続きを完了後、7月バックナンバーをお求めください。

2017年7月31日号の目次

・マーケット・ヴューポイント~「原油が上げてきた」
・株式市場~米国株は上昇相場に乗り続ける、日本株は2万円割れで買い
・為替市場~ドル円はサポート割れで下落基調へ、ユーロは上昇基調が継続
・コモディティ市場~金は大幅上昇、原油は依然として割安圏
・今週の「ポジショントーク」~長期投資の方針は変わらず
・ヘッジファンド投資戦略~「日本株に強気な声も」-投資戦略構築のポイント
・ベースボール・パーク~「週末は高校野球観戦」
・セミナー・メディア出演のお知らせ


本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2017年7月31日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、8月分すべて無料の定期購読手続きを完了後、7月のバックナンバーをお求めください。本記事で割愛した米国株式、為替、コモディティ各市場の詳細な分析(約18,800文字)もすぐ読めます。

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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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