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内閣府データが示す、10~15兆円規模の大型補正予算の必要性=内閣官房参与 藤井聡

記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年8月8日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

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内閣府のデータで一目瞭然。今日本に必要なのは大規模補正予算だ

デフレは需要不足がもたらしている

今、

そのすべては、日本経済が「デフレ」に陥っていることが原因です。

そして、「デフレ」という経済状況は、「需要(投資や消費の合計値)」が「供給(財やサービスの生産能力の合計値)」よりも下回ることで生ずるもの。

つまり、国内マーケットのあらゆるビジネスで「客」が少なくなってしまい、売上が減ってしまうことが、今日のデフレ不況の根源的原因です。

売り上げが減れば企業は儲からず、労働者の賃金は下がり、家計の所得も減り、結果、消費も投資もまた減ってしまう――そして、それがさらなる売り上げの縮小をもたらしてしまうという、いわゆる「デフレスパイラル」が生じてしまうからです。

したがって、「需要」と「供給」の差を「埋める」ことができれば、デフレは終わるのです。

政府が公表しているGDPギャップと物価は連動している

――こういったことから、政府では、需要と供給の差を「GDPギャップ」と呼んで、これを定期的に測定しつつ、需要不足がないかどうかをチェックし続けるという体制をとっています。

ここで、下記のグラフをご覧ください。

このグラフは、内閣府が公表しているGDPギャップの、バブル崩壊時の1990年以後の推移を示しています(青線)。

ご覧のように、1997年の消費増税以前においては「プラス」のこともあったのですが、増税以後、基本的にずっと「マイナス」基調となっています。これは、97年の増税前までは「需要が供給よりも多い」状況もあった一方、97年の増税後は「需要の方が供給よりも少ない」という「需要不足」状況になっていることを意味します。

その後、2000年代中盤に一時期、「プラス(需要の方が多い)」となったこともあるのですが、08年のリーマンショックのときに大幅に「マイナス」の需要不足となりました。その後、回復してきているのですが、やはり基本的には「マイナス」の需要不足状態が継続しているのが実態です。

さて、先ほど述べた論理を踏まえると、GDPギャップが「マイナス(=需要不足)」の時にはデフレになって「物価が下がり」、逆に「プラス(=需要過剰)」の時にはインフレ、つまり「物価が上がる」こととなります。

したがって、GDPギャップの推移物価の変化率の推移は、基本的に「連動」することが予想されます。

このグラフには、その点を確認する意味で、物価(=CPI)の変化率の推移も掲載しています(黄色の線)。なお、この黄色の線は、その時点での数値ではなく、「半年後(二四半期後)」の数値です。

ご覧のように、青い線(GDPギャップ)が上げれば黄色い線(物価変化率)も上がり、逆に前者が下がれば後者も下がるという形で、連動している様子が見て取れます。

つまり、今、政府が公表しているGDPギャップは、理論的に予測される通り、「半年後」の物価の変化率を「予測」する、あるいは「決定づける」力を持っているわけです。

Next: 消費増税による見かけの効果を除去すれば、さらに強い関係が見えてくる



消費増税による見かけの効果を除去すれば、さらに強い関係が見えてくる

なお、1点補足すべきは、「消費税率の増加」は、GDPギャップとは別に、物価そのものを上げる効果を持つというもの。そもそも消費増税は、モノの値段を一律2%や3%上げるのですから、当然、景気がよかろうが悪かろうが、強制的にCPI(物価)を上げる効果を持っているのです。

したがって、97年や2014年にCPI(物価)の変化率が大きくプラスになっていますが、これは消費増税による見かけ上の効果だということになります。

ですので、その点を加味すると、GDPギャップと物価(CPI)変化率との間の連動性は、より一層強いものであることがわかります(特に、2014年の増税時、物価の変化率が急激に一時的に大きくなっていますが、この「山」がないと考えれば、黄色線と青線はよりはっきりと連動していることがわかります)。

なお、両者の相関係数(完全連動の場合1、完全不連動の場合0の尺度)は、0.72という、非常に高い水準にありますから、両者の関係はやはり統計的に言って明白だと言えます(なお、消費増税の効果を除去すれば、さらに高い水準となります)。

政府のGDPギャップをゼロにしても、デフレは終わらない

ところで、「理論的」に言うなら、GDPギャップ(デフレギャップ)をゼロにすれば、デフレは終わるはず、ということになります。

しかし、このグラフを見れば一目瞭然ですが、GDPギャップが「プラス」の時(例えば、2006年、2007年ごろや2014年)でも、物価の変化率は「ゼロ」ないしは「マイナス」であったりします。

これは理論的にはオカシナことなのですが…、それは、このGDPギャップの測定の仕方に、問題があるからだ――ということは、例えば青木泰樹先生が本紙にて繰り返し主張しておられる通りです。
https://38news.jp/archives/03897
https://38news.jp/economy/10751

詳細は上記記事に委ねますが、今、政府が公表しているGDPギャップは、「本当に日本経済が持っている供給能力」を基準に測定されているのでなく、「実際の能力よりも低い能力」を基準にして測定されていることが原因です。

――しかし、そうした、理論的には特殊(あるいはオカシ?)な「GDPギャップ」指標ではあるのですが、それでもなお、上記グラフのように物価の変動を予測する、あるいは決定づける力を持っているのは、事実です(ただし、この特殊な性質により、GDPギャップは年々「右肩上がりに大きく」なる傾向があるのですが…)。

Next: 10~15兆円の財政政策で、ようやく物価が1%上がる



10~15兆円の財政政策で、ようやく物価が1%上がる

では、物価(CPI)の変化率と、GDPギャップとの間にどんな関係があるのかを、統計的に(重回帰)分析してみると、次のような関係式が示されました(1990年第一四半期から2997年第一四半期までのデータを使用)。

半年後のCPI変化率 = 0.28 × GDPギャップ + 0.117 – 0.02 × seq(※)
           (6.33)       (9.43) (-2.21)

※seq:1990第一四半期が1の連続自然数。()内はt値、R値は0.71、n=105
※データはいずれも四半期のものなので、年率換算の比率は上記数値と一致

これはつまり、CPIを年率1%上げるためには、GDPギャップを年率で3~4%程度大きくすることが必要だ、ということを意味しています。そして、GDPギャップを3~4%大きくするということはつまり、需要を15~20兆円(年)程度を拡大するということ。

ということは、単純に考えれば、政府支出を15~20兆円程度拡大すれば、CPIは1%拡大する、ということになります。

実際には、乗数効果(政府支出を1兆円増やせば、GDPは1.5~2兆円程度増えるという効果)があることを考えれば、10~15兆円の政府支出を拡大すれば、CPI、物価は1%程度上昇するだろうということが予期されることとなります。

そして言うまでもありませんが、物価が上がらなければ、賃金も増えず、ビジネスチャンスも拡大せず、投資は冷え込んだままとなり、デフレ不況は終わりません。

だからこそ政府は今、10~15兆円規模の大型の補正予算を組むことが、デフレ脱却のために是が非でも求められているのであり、それは、内閣府自身が公表しているデータから統計的に指示されているのです。

そして、日銀のターゲットが「2%物価上昇」であることを踏まえるなら、そのクラスの大型景気対策を、少なくとも2、3年間は継続することが必要なのです。

政府が理性的な経済財政政策を展開されんことを、心から祈念したいと思います。

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三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年8月8日号より

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