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与党も野党も間違っている。「年金制度改革法案」の問題点とは?=島倉原

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年12月1日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

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「国の借金」問題と同じ構図。均衡財政・改革至上主義を警戒せよ

国民年金法改正案、衆議院を通過~争点は「賃金・物価スライド」見直し

11月29日に、国民年金法改正案が衆議院を通過しました。「現役世代の負担を抑え、将来の年金の安定につながる」という政府・与党に対し、民進党などの野党は、高齢者の年金減額につながる「年金カット法案」と批判しています。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO10097900Q6A131C1EA1000/

今回の法案で特に争点となっているのは、年金額改定に関するルールの見直し、なかでも賃金や物価の変動に応じて年金支給額を変える仕組みである「賃金・物価スライド」の見直しです。

賃金・物価が下落した場合には、年金支給額もその分だけ引き下げられます。しかしながら、賃金と物価の変動率は同じとは限りません。これまでは、賃金が物価以上に下落した場合、物価下落率が年金引き下げの下限でした。対して、「年金は世代間の仕送りである」という前提のもと、こうした場合には賃金下落と同じだけ年金も減額されるのが今回の法案です。年金支給額がその分下がりやすくなるのは確実で、その意味では野党が批判する通りです。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000116217.pdf

しかも、年金引き下げの影響を受けるのは退職した高齢者だけではありません。年金支給額は、前年までの支給額に賃金・物価・人口分布・平均余命の変化といった様々な要素を加味して、毎年変化していきます。したがって、退職世代が受け取る現在の年金支給額が引き下げられれば、
発射台が低くなった分、現役世代が受け取る将来の支給額が下がる可能性も高まります

にもかかわらず、政府・与党はなぜ「将来の年金の安定につながる」と言うのでしょうか。

Next: 年金問題は「国の借金」問題と全く同じ構図である



年金問題は「国の借金」問題と全く同じ構図である

冒頭で紹介した日本経済新聞の記事には、

ただ若者世代の立場に立ち制度の持続性を考えれば、
与党が足元の年金水準を徐々に下げることで、
将来の年金水準を維持すると主張している点は正しい。
支給額の抑制が進まなければ積立金が尽きたり、
もらえる年金が大きく減ったりするケースはあり得るからだ。

引用:年金安定へ支給抑制 改革法案が衆院通過 – 日本経済新聞 2016年11月30日

と述べられています。

実はこれ、いわゆる「国の借金」問題と全く同じ構図です。財政赤字によって政府の債務が増え続ければ、いずれ財政破たんする。同様に、退職世代が受け取る年金支給額が現役世代が払い込む年金保険料を上回り、年金財政の赤字が続けば、政府も支えられなくなって、年金制度が立ち行かなくなる。ゆえに、保険料の原資となる賃金の下落に合わせて、年金も減額しなければならない。いわゆる均衡財政主義の発想です。

しかしながら、通貨発行権を持つ政府は、自国通貨建ての債務で破たんすることはない。同様に、年金制度が自国通貨建てである限り、政府が支えきれなくなることはありえない

野党の批判に対して「誤解と悪意に満ちたものでありまして」と反論した安倍首相ですが、上記の現実からすれば、「制度の持続可能性」を掲げる今回の年金改革法案こそ、悪意があるかどうかはともかくとして、紛れもなく誤解に基づくものなのです。
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2923673.html

年金カットで景気はますます悪化

しかも、賃金が下落するのは通常景気が悪化する時期。そうした時に年金カットという緊縮財政を行えば、効果としては消費税増税と似たようなもので、不均衡を増幅し、景気はますます悪化する。その意味では、単年度ごとに賃金・物価に連動する仕組み自体に欠陥があり、今回の改正案は、それに輪をかけて改悪する内容と言えるでしょう。

本来、緩やかな賃金や物価の上昇が望ましいとするならば、短期的な賃金や物価、あるいは財政赤字の変動に振り回されるべきではなく、長期的に望ましい賃金・物価上昇率に沿ったコンスタントな年金支給額の引き上げこそが、景気変動による経済の不均衡を緩和するという意味でも、適切な政策であるはずです。

与野党問わず、均衡財政主義が根強くはびこる中で、そこまでの発想に至ることを期待するのは難しいかもしれませんが、経済全体への悪影響という視点だけでも、議論の前提に是非取り入れて欲しいものです。

また、今回の法案の内容は、「非現実的な世界観を前提とすると、『改革』という美名の下で、実態は『改悪』としか言いようがない、的外れな政策がしばしば行われる」ことを示した典型例かもしれません。そう考えると、昨今の風潮と言ってもいい「改革至上主義」。やはりどこかいかがわしく、警戒すべきものではないでしょうか。

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