今回分析するのは、(実は)自動車製造会社の工作機械が主力の山善<8051>です。Amazon等でよく見かけるジェネリック家電でも有名なこの企業に投資する価値はあるのか、バフェット流12の視点で検討します。(『バフェットの眼(有料版)』八木翼)
会社名:山善<8051>
現在株価:947円(2016年12月12日終値)
※『バフェットの眼(有料版)』では、読者からのリクエストも踏まえ、毎号さまざまな企業を詳しく分析しています。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
「山善」の企業価値をバフェット流12の視点で分析
波のある自動車業界で「山善」は成長を続けるか?
山善という会社は、いろいろな事業に取り組んでいます。
機械事業部
- 産業用ロボット
- マシニングセンタ
- CNC旋盤
- 測定機器
- 自動化周辺機器
- 射出成型機
- レーザー加工機
機工事業部
- 物流機器
- FA機器
- 環境改善機器
- クリーンルーム
- 切削工具
- 分析機器
- ポンプ etc…
というわけで分野が多岐にわたっています。
売上を大きく大別しますと、
・国内生産財事業
売上:81,746百万円
・海外生産財事業
売上:93,173百万円
・住建事業
売上:56,400百万円
・家庭機器事業
売上:75,159百万円
と4つに分けることができます。
以前、私が分析したことがある会社で工業関連製品と言えば、ナカニシ<7716>が思い出されます。ナカニシは、歯科用機器を国内・海外に販売する会社です。この会社はROEやEPS成長率も高く、安定した会社です。また、マニー<7730>という会社も手術用の器具を開発する会社です。コチラの会社の株は現在も保有しています。しかし、この2社が安定している理由は、機械の需要が医療という安定した分野に依っているためです。「どの業界の製品を作っているのか?」というのは、意外に大きな問題です。
日本は少子高齢化が進んでいて、子供関連製品は、今後の需要は縮小していきます。ですが医療については、寿命は延びているうえ、世界中にその傾向がありますので、成長分野です。さらに言えば、年を取ると体調にしても、歯にしても、不具合の起こる頻度は多くなります。そういった意味で、私は医療分野には注目しています。
「山善」は、残念ながら自動車関連製品です。もちろん、だからダメというわけではないのですが、この時点ですでに波のある業界にいるという覚悟を持った方がいいでしょう。自動車は、ローンで買うことができます。金利が下がればローンは組みやすいですが、金利が上がればローンは組みにくいです。ローンは需要に波を生みます。その波に耐え、成長を続けることができるのか?
分析してみましょう。
Q1:その企業は消費者独占力を持っているか
メインの売り上げとしては、自動車製造会社の工作機械ですね。しかし、消費者独占力を持っているのかと言われると、早速怪しいものがあります。
製造商品は多品種にわたっており、シナジー効果が得られている可能性も低いです。そうなってくると、営業に関しても、品種が違いすぎるので、一つの分野に特化しているというタイプではありません。そういう意味では特徴が見えにくく、あまりいい気配は感じません。
いい会社というのは、得意分野が一目でわかるものです。この会社は少し迷走しているように感じます。Amazonでもかなり商品を出しており、一見、安定して成長しているように見えますが、どうも怪しい部分があります。詳しく分析していきましょう。
Q2:その企業を理解しているか
理解しています。自動車部品製造装置を核として、様々な消費財関連事業に手を出しています。私が見てきた中でも幅広い、いや、幅広すぎる分野に手を出していますね。私が経営を任されて、まずすることは、利益率の低い部門の廃止です。
Next: 「山善」の製品は、今から20年後も陳腐化しないのか?
Q3:その企業の製品・サービスは20年後も陳腐かしていないか
陳腐化している部分も多いでしょう。さらに言うと、これだけ幅が広すぎると、進化にもついていきにくくなる部分が出てきます。
リスクヘッジのつもりで、幅を広げたのかもしれませんが、逆にリスクになっている可能性があります。
Q4:その企業はコングロマリットか
コングロマリットの可能性が高いですね。様々な分野に手を出しすぎているように思います。
Q5:その企業の1株当たり利益(EPS)は安定成長しているか
正直、微妙ですね。2006年から一株当たり利益はほぼ成長していません。また、EPSの上昇に直線性がありません。これは店舗を増やしたり、規模を拡大することで、単純に成長しやすい分野でないことが読み取れます。
2009年のリーマンショック時代を含めても、過去10年赤字になったことがなく、悪い会社ではありませんが、シンプルさに欠けますね。
決算年 EPS(円/株) 前年比成長率
2015 98.01 57.1
2014 62.38 6.1
2013 58.8 -11.8
2012 66.63 26.7
2011 52.6 13.1
2010 46.5 894.0
2009 4.7 -88.4
2008 40.4 -31.0
2007 58.6 -26.8
2006 80.0
年平均EPS成長率:2.0%
Q6:その企業は安定的に高いROE(株主資本利益率)をあげているか
決算年 ROE
2015 13.9%
2014 9.7%
2013 10.3%
2012 13.2%
2011 11.9%
2010 11.4%
2009 1.2%
2008 10.4%
2007 15.4%
2006 23.9%
平均ROE:12.1%
悪くはありませんが、やはり安定感に欠けますね。私の基準では、ほぼブレがなくROEを稼ぎ続けていることがベストです。
今は、アベノミクスやトランプ期待により、資金は緩和状態で、バブルになりやすい状態です。2009年のリーマンショック時に、大きく利益を下げている株を買うタイミングではありません。この会社もその一つと言えそうです。
Next: 気になる「山善」の財務基盤をチェックする
Q7:その企業は強固な財務基盤を有しているか
長期負債は半年で返済できます。問題ありませんね。製造業としては健全です。
今期の長期負債(円):5784000
今期の税引き後利益(百万):9192000
長期負債/税引後利益(年):0.63(長期負債を税引き利益で返済するのに必要な年数)
Q8:その企業は自社株買い戻しに積極的か
今期発行済み株数:93840310
10年前の発行済み株数:93840310
過去10年間に減少した株数:0
減少した割合:0%
全く購入していませんね。ここら辺が、長期的な成長と関係あるように思います。
利益は確かに出しているのかもしれませんが、その利益の使い方を株主還元する方向に生かしていなければ、意味がありません。そういう意味では、ファナックに入ったような外資ファンドが入ると一気に高騰する可能性はあります。
Q9:その企業の製品・サービス価格の上昇はインフレ率を上回っているか
為替が大きく影響する業界です。今の円安が続くようであれば、価格は上昇が期待できますね。トランプの緩和政策も追い風のはずですが、日本の自動車業界が締め出されるということになると、厳しいものがあるように思います。
Q10:の企業の株価は、相場全体の下落や景気後退、一時的な経営問題などのために下落しているか
PER:9.8倍(日経予想株価)
過去から見ると、割安というイメージではありませんが、アベノミクスなどからは放置されている貴重な銘柄と言えそうです。時期としては問題はないでしょう。
Next: 年間期待収益率は?株主還元に力を注がない、典型的な製造業か
Q11:株式の益利回りと利益の予想成長率を計算し、国債利回りと比較せよ
以下は計算です。まずは株主資本の予想成長率を求めましょう。
【1.予想成長率を求める】
(必要な値)
・10年平均ROE:12.1%
・配当性向:30%
(式)
・株主資本の予想成長率=10年平均ROE(1-配当性向)
(答え)
株主資本の予想成長率:8.5%
【2.予想BPSを求める】
さらに、今求めた、株主資本の予想成長率を使って、10年後の予想BPSも求めます。
(必要な値)
・直近のBPS:717.25
・株主資本の予想成長率:8.5%
(式)
・10年後の予想BPS=直近のBPS×(1+株主資本の予想成長率)^10
(答え)
10年後の予想BPS:63996.6円 ¥1,618.4
【3.予想EPSを求める】
この10年後の予想BPSに、平均ROEをかけます。すると、10年後の予想EPSが得られます。
(必要な値)
・10年後の予想BPS:¥1,618.4
・10年平均ROE:12.1%
(式)
・10年後の予想EPS=10年後の予想BPS×10年平均ROE
(答え)
10年後の予想EPS:¥196.00
【4.10年後予想株価を求める】
さて、予想EPSを求めたら、これに10年平均PERを掛ければ、10年後の株価を求めることができます。
(必要な値)
10年平均PER:9.6
10年後の予想EPS:¥196.00
(式)
10年後予想株価=10年平均PER×10年後予想EPS
(答え)
10年後予想株価:¥1,886.82
【5.年間期待収益率を求める】
10年後の予想株価を使って、年間にどれくらいのリターンが期待できるのかを計算します。
(必要な値)
・10年後の予想株価:¥1,886.82
・現在の株価:¥912(2016年12月7日時点)
(式)
・年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1
(答え)
年間期待収益率:7.5%
【結果】
低いですね。もう少し期待収益率は高くないと、厳しいです。株主還元に力を注がない、典型的な製造業ですね。
Next: 結論:山善への投資はあり?なし? 10年連続で黒字だが…
Q12:株式を疑似債券と考え、期待収益率を計算せよ
【1.10年後BPSを求める】
まず10年後のBPSを求めます。過去10年の平均EPS成長率に1を足して、10乗したものに、現在BPSをかけます。これが10年後のBPSとなりますね。
(必要な値)
・年平均EPS成長率:2.0%
・現在BPS:717.25
(式)
10年後BPS=年平均EPS成長率^10×現在BPS
(答え)
*10年後BPS(円/株):878.4
【2.10年後EPSを求める】
今求めた10年後BPSに過去10年平均ROEをかけます。これが10年後のEPSです。
(必要な値)
・過去10年平均ROE:12%
・10年後BPS(円/株):878.4
(式)
10年後EPS=10年後BPS×過去10年平均ROE
(答え)
*10年後EPS(円/株):106.4
【3.10年後予想株価を求める】
さらに、過去10年の平均PERをかけることで、10年後の予想株価が算出されます。
(必要な値)
・過去10年平均PER(倍):9.6
・10年後EPS(円/株):106.4
(式)
10年後予想株価=過去10年平均PER(株価/EPS)×10年後EPS(円/株)
(答え)
*10年後予想株価:1,024.1
【4.年間期待収益率】
この予想株価を現在株価で割り、0.1乗し、マイナス1したものが、年間期待収益率となります。
(必要な値)
・10年後予想株価(円/株):1,024.1
(式)
・年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1
(答え)
*期待収益率(%/年):1.2%
【結果】
こちらはEPS成長率を利用したものですが、10年前から大きな成長は見られていません。そういう意味で、期待収益率は非常に低いです。
また、この会社は、利益を着実に伸ばすタイプの会社ではないことが、過去の業績からわかります。つまり、ボラティリティ(変動)が大きいのです。変動が大きいうえ、今が絶好調。ということは、見える先はあまり明るくないように感じます。
一見過去10年、赤字もないので買いたくなりますが、私は危険だと判断しました。もちろん、今後もそのまま利益を伸ばし続ける可能性がないわけではありませんが、バフェットが推奨する銘柄ではありませんね。
結論:山善への投資はあり?なし?
私の投資している会社には、生活必需品という共通点があります。ニトリは家具、ABCマートは靴、JTはタバコです。これらの会社に共通することは何でしょう?それは以下のようなことだと思います。
- ローンすることなく、借金しないで変える製品
- 生活必需品の一つ
- 認知力を持つ
僕はこれまで、安定性というものを数値化して分析していませんでしたが、アナリストのレポートを見ても、そんなものは分析していません。ここであげた製品は、経済という大海原でローンという波からは隔離され、生活必需品という側面を持ち、さらにはそこで、選択されやすいという認知力を持った会社たちです。安定性は、EPS成長率の安定性で計測できます。
今回分析した山善が大躍進することもあるでしょう。しかし、その確率はローンや金利、さらには流行に左右され、僕たちには予測できません。そして、そんなものを予測しなくても、十分な利益を叩き出し続けてくれる会社を僕たちは知っています。
世界は混乱で溢れています。つい先日までヨーロッパでテロが頻発し、イギリスはEUから脱退。アメリカではトランプ大統領が当選し、韓国では財閥との癒着で大統領が大変なことに。中国は勢力を伸ばし、アジアも安定性に欠けています。
世の中は「わかりません」が答えの時がたくさんあります。僕たちがいた学校では、「わかりません」と答えることは、無能の証明のように扱われていました。ですが、少なくとも株式市場では、「わかりません」と答えられることには素晴らしい価値があると思います。
今回の山善は、自動車業界というローンの影響を受けやすい業界にいるため、先の動向はかなり読みづらいのです。
山善自体は、いい会社だと思っています。ブレやすい自動車業界で、10年連続で黒字を続けていますから。トヨタすらそれができていなかったわけです。そういう意味ではいい会社ですが、緩和水準が高い今、手を出すべき株ではないように思います。
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※『バフェットの眼(有料版)』では、読者からのリクエストも踏まえ、毎号さまざまな企業を詳しく分析しています。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
image by:Wikimedia Commons
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年12月12日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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