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安倍総理が気づかない、世界を根底から覆す「トランプ政権の闇」=岩崎博充

トランプ政権の概要が徐々に分かってきたところで、日本のメディアでは何となく楽観的なムードになりつつある。しかし、トランプ政権がこれまで続いてきた秩序を根底からひっくり返すものであることに変わりはない。(岩崎博充の「財政破綻時代の資産防衛法」

※本記事は、『岩崎博充の「財政破綻時代の資産防衛法」』2016年12月16日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

「大本営発表」が伝えないアメリカ新時代、本当の幕開け

従来の秩序を根底からひっくり返すトランプ政権

トランプ政権の概要が徐々に分かってきたところで、日本のメディアでは何となく楽観的なムードになりつつある。しかし、トランプ政権がこれまで続いてきた秩序を根底からひっくり返すものであることに変わりはない。

トランプ政権の概要を把握して、そのベースに流れるものがなんであるかを正確に理解しないと、トランプ政権の真の方向性や政策の意図を図ることはできない。トランプ氏がなぜ大統領選に勝利したのか。様々な要因はあるが、そのベースに流れている「アメリカの闇」を忘れてはいけない。これまで米国が脈々と築いてきた「価値観」をトランプがひっくり返してしまった事実を忘れるべきではないだろう。

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イスラム教徒を締め出し、メキシコの国境に壁を建設。ロシアのプーチン大統領に取り入り、白人至上主義者を側近に置く人物。そんなトランプ氏が米国の次期大統領になるわけだ。「政治観があれほど偏見と憎悪に根差している人物のホワイトハウス入りは米国の悲劇であると同時に、西側の悲劇でもある」とは、ファイナンシャルタイムスのコラムニスト「フィリップ・スティーブンス」の言葉だ。

「アメリカによる平和」の時代

そもそも米国は、1820年代に「モンロー主義」と呼ばれる、欧州に対して相互不干渉を唱えた考え方があった。トランプが提唱する「America First(米国第一主義)」は言い換えれば「孤立主義」であり、「米国の利益最優先」も、いわばその根幹にはモンロー主義に似たような考え方があったと言って良い。

1914年に始まった第一次世界大戦でも、戦後「国際連盟」を設立しておきながら、参加しなかった第2次世界大戦でも、1935年に制定された「中立法」によって交戦国への武器輸出を禁止したこともあり、米国は最後まで参戦せずに「孤立主義」を貫いていた。

結局、日本軍に「真珠湾攻撃」をされて慌てて参戦したのだが、米国がもっと早期に態度を決めて参戦していれば、ヒットラーやムッソリーニ、日本軍部の暴走を招くこともなかったかもしれない。

そんな歴史上の教訓から、ジョン・F・ケネディ大統領は就任演説の時に、これまでの歴史的教訓に学び、「あらゆる友人を助けて、どんな敵とも戦う」と宣言した。米国第一主義ではなく積極的に国際化を図ることが、世界の平和と繁栄を維持できると宣言したわけだ。

これ以降、米国は多少の温度差はあるものの、アメリカファーストを捨ててグローバリズムを推進してきた。こうした考え方が、世界をグローバル化の大きな波に引き入れ、その結果としてソ連は崩壊し、中国も同じ自由主義経済に取り込まれてきた。

ところが、その一方でグローバリズムはどんどん推進され、とりわけ2008年に起きたリーマンショックでは、さらなるグローバリズムが進展し、保護貿易に進もうとしていた世界各国に対してNAFTA(北大西洋自由貿易機構)TPPといった新自由主義、グローバル化の進展によって、景気を回復させようとしたわけだ。

Next: ウォール街の行き過ぎたグローバリズムに「NO!」を突き付けた白人



ウォール街の行き過ぎたグローバリズムに「NO!」を突き付けた白人

その結果、何が起きたかといえば、白人の中流家庭から数多くの雇用が奪われ、その代わりに移民が増えて社会全体に「格差」が拡大することになる。

とりわけ、それまで米国政府が推進してきたグローバリズムや新自由主義、ネオコンといった世界全体をよくすることが、米国の繁栄と成長につながるという言葉を信じてきた白人中流階級が、職を失い、行き場を失いつつあった。

世界の警察官として、中東など世界中に兵を送って戦ってきた「復員兵」の存在も、今回の大統領選挙では大きな力を持ったといわれる。いわば、米国が第2次世界大戦後、半世紀以上にわたって維持してきた「価値観」が今回は問われてしまったというわけだ。

考えてみれば、あらゆるところにその兆候は表れていた。とりわけ、リーマンショックで大幅に規制されるのではないかと思われていた、ウォール街主導の「金融資本主義」はかえって拡大し、数多くの若者をデモや座り込みに参加させた「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」運動などもその一つだ。

さらに、世界の99%の富はわずか64人の大富豪によって独占されている、といった不公平な社会に対しての不満が鬱積していた。その不満が移民排斥人種差別といったものに転嫁されていったわけだが、そこに付け込んで勝利を手にしたのがトランプだ。

トランプは「ポピュリズム(大衆迎合主義)」の手法を取り入れて勝ち上がってきており、そうしたものを受け入れる土台が、現在の米国には形成されてしまっていたともいえる。

ドイツでヒットラー政権が成立した時も、第1次世界大戦で莫大な戦争賠償金を課せられて鬱積がたまっていた時代背景があった。ヒットラーは、人々の鬱積を巧みに突いてファシズム政権を作り上げて、独裁政治にまで昇華させてしまった。

そういう意味では、トランプ大統領の誕生は、戦後米国が築き上げてきたリベラルの世界秩序を根底からひっくり返す可能性があるということだ。

Next: 米国民は「世界の平和」よりも「自国の豊かさ」を選んだ



米国民は「世界の平和」よりも「自国の豊かさ」を選んだ

トランプ大統領の誕生がもたらした影響は、とてつもなく大きい。日本にとっても、ロシアや中国にとっても、今回の米国大統領選は深刻な影響をもたらしそうだ。ポピュリズム的な手法で勝利をもぎ取った英国のブレグジット(EU離脱)や、フィリピンのドゥテルテ大統領が勝利したのとはわけが違う

これまで、米国は自国の利益のためには、世界中の様々な秩序を強引に変更してきた。ちょっと前までは世界最強の軍事力にものを言わせて、様々な場面で口を出し、軍隊も派兵してきた。ただ、残念ながらベトナム戦争では軍事的に敗北し、イラク派兵では勝利したものの、結果的にタリバンやIS(イスラム国)といった過激なテロ集団を誕生させてしまった。

トランプの主張する「America First(米国第一主義)」は、これまで世界に君臨してきたリーダーの座を勝手に降りることを意味している。

駐留米軍の負担増や日米安保条約の見直しもほのめかしているトランプの主張は、ある意味で米国の孤立化を意味し、世界の秩序はあっという間に崩壊していくことが予想される。

ロシアは、旧ソ連の東欧や中欧諸国に介入し、再びソ連邦の勢力を取り戻そうとするかもしれない。中国は、東シナ海や南沙諸島に対して、今まで以上に自国の領土アピールをしてくるはずだ。

世界中の国が、これまではある程度米国に頼ってきた自国防衛のコストを負担しなければならなくなり、経済的にも大きなダメージを受けることになる。

日本では、米軍が撤退したら、日本の消費税は17.5%になるというシミュレーションがすでに出ている。

Next: 「リーダーをやりたくない」トランプ米国は、どんなリーダーになるか?



「リーダーをやりたくない」トランプ米国は、どんなリーダーになるか?

トランプ大統領の誕生は、どちらにしても世界中の秩序を危機にさらす可能性がある。

保護貿易が蔓延し、環境保護も進まない。そんな状況では、米国にも平和は訪れない。トランプがこのままこれまで主張してきた政策を実現させたとしても、結局は世界のリーダーとしての地位を復活させなければならないだろう。

前回の大統領選でも、やはりオバマは「世界のリーダーにはなれない」と宣言したことがある。「Gゼロの時代」とも言われた。しかし、リーダー不在の時代はそう簡単には継続できない

Gゼロという言葉は、政治学者のイアン・ブレマーが2011年に指摘した言葉だが、リーマンショックISの拡大などを見てもわかるように、近年G7(先進7か国首脳会議)が指導力を失い、G20(20か国首脳会議)も機能しない時代を迎えていた。

本来なら、米国がリーダーとならなければいけなかった時期に、オバマ政権は民主主義を守るという理想にこだわるあまり、経済的にも、軍事バランスの面でも、常に腰が引けている状態だった。

トランプの登場によって、世界はどう変化するのか。いま。世界がかたずをのんで見守っている状態だ。
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※本記事は、『岩崎博充の「財政破綻時代の資産防衛法」』2016年12月16日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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岩崎博充の「財政破綻時代の資産防衛法」』(2016年12月16日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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