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From Wikimedia Commons Haruhiko Kuroda | Janet Yellen | matthi / Shutterstock.com

荒れる2017年相場のキーワードは「カネ余り」その矛先はどこへ向くか?=矢口新

2016年の金融市場は激動した。日銀のマイナス金利政策やブレグジット、トランプ氏の勝利に象徴される既存システムの綻びは、2017年も引き続き懸念であり続ける。一方で、デフレを理由にした緩和的政策が供給サイドにしか働かないために、更なるデフレを生んでいる。2017年も世界は空前のカネ余り状態が続くのだ。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

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世界の金融市場はこう動く――2016年の回顧と2017年の見通し

空前のショックが続いた2016年

2016年の金融市場は内外ともに大変な年だった。大きな出来事を3つ挙げると、(1)日銀のマイナス金利政策(2)ブレグジット(3)トランプ氏の米大統領選勝利だ。

(1)日銀のマイナス金利政策

マイナス金利政策は、理論的には可能だった。しかし、借り手が貸し手から金利を受け取るという政策は、市場機能、市場経済の否定だ。そんなことが認められると、貸し手である銀行の経営基盤が揺らぐことになる。実際に、金融庁は「地銀の6割以上が本業で赤字になる」と予測した。

黒田総裁自身がマイナス金利政策の弊害に言及している。

一般的に、金融機関は、『短期調達・長期運用』を基本構造としているほか、 調達の主な手段である預金金利がマイナスとなりにくいため、イールドカー ブ全体にわたって金利水準が低下したり、短期金利と長期金利の差が小さくなることは、預貸金利鞘の縮小をもたらし、収益にマイナスの影響を及ぼします。特に、わが国の場合、預金残高が貸出残高を大幅に上回っていること、 長期間にわたって金融機関間の競争が続いたため、預貸金利鞘が既にきわめて低水準となっていることなどから、マイナス金利が金融機関の収益に与える影響が相対的に大きいと考えられます。

出典:金融緩和政策の「総括的な検証」[PDF] – 日本銀行

まさか、銀行を束ねる中央銀行が、そのような行動に出るとは思わなかったのだ。

マイナス金利政策を先行して導入した欧州では、銀行経営が危機的な状況だ。中銀に対する利払い負担だけでなく、貸出し利ザヤ縮小で収益力が激減した。また、企業が資本市場で低金利調達を進めたため、銀行を必要としなくなった。

その結果、銀行は軒並みコスト削減を強いられ、世界最大の銀行の1つドイツ銀行でさえ、経営不安が囁かれている。ドイツの銀行の不良債権比率はユーロ圏では例外的に英米の銀行並みに低いが、ドイツ第2のコメルツ銀行でさえ、1万人近い人員削減を9月末に発表した。

(2)ブレグジット

ブレグジットは、英国民が欧州各国の連合体に見切りをつけたものだ。欧州は単一通貨、単一金利政策における不公平が、許容できないところまで広がっている。

2007年の米サブプライムショック、2008年のリーマンショック以降は、欧州連合を主導する独仏以外はマイナス成長が続いている。それなりの規模の国で唯一の例外は、リーマンショック後にユーロ政府の財政規律を制裁覚悟で無視して、成長政策を採ったアイルランドだけというのは、皮肉と言うべきか、欧州連合を離れたブレグジットの正しさの証明ともなり得るものだ。

また、統一に向けての国境検査の廃止が裏目に出ているので、移動の自由や、移民政策にも何らかの対策を迫られている。

驚きだったのは、欧州連合体に最初に見切りをつけたのが、ユーロ圏ではない英国だったことだ。独自の通貨、独自の金利、独立した経済政策を持つ英国は、欧州のみならず、先進国で1、2を争う経済優等生だった。

その英国が、EU離脱による(少なくとも短期的な)デメリットを受け入れてでも、EUを見切ったのはショックだった。特に、メディアが行っていた圧倒的な残留支持の報道が敗北したことは印象的だった。

(3)トランプ氏の米大統領選勝利

トランプショックも同様だ。メディアの論調を見る限り、トランプ氏の米大統領選勝利は、当初からほぼゼロの確率だった。しかし、トランプ氏を支持したのは、古き良きアメリカ、米国の屋台骨を背負ってきた、白人中間層だった。

最新の調査では、米国人の平均寿命が22年ぶりに低下した。顕著なのは、中年白人層の死亡率上昇で、この層では、1998年から2013年にかけて死亡率が毎年0.5%上昇しているとのことだ。肥満や健康問題だけでなく、自殺や薬物の過剰摂取、アルコール中毒の急増が要因だ。

米国の既存システムが機能していない。米国の白人中間層は共和、民主両党の既存政治家を信じず、リスクを取って、トランプ氏に米国の将来を委ねたのだ。

2016年は他にも、年初のチャイナショック原油安、米国で10月から始まった債券から株式への資金大移動、年末にかけてのOPECと非加盟国の原油減産合意イタリア国民投票米利上げなど、ビッグイベントが目白押しだった。

これらのことは、2017年にも引き続き懸念であり続ける。

Next: 「ユーロ、欧州連合の存続が危うくなる」2017年はどんな年に?



2017年はどんな年に?

日欧の金融政策は、少なくとも、2017年いっぱいは緩和的だ。超低金利と量的緩和が続く。これは、銀行経営の難しさと、カネ余りとを意味する。銀行は生き残りのために、投機的にならざるを得ず、その成否が、経営そのものを左右する。

欧州の銀行が立ち直る見通しが立たない。イタリア第3の銀行で、世界最古の銀行、モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行は12月21日、預金者などの引出し要求に即座に応じられるネット流動性ポジションは現在106億ユーロで、4カ月後には資金不足に至るとの見通しを発表した。

イタリア政府は23日に民間銀行支援のための200億ユーロの基金を設立、モンテパスキは直ちに資本注入を要請した。イタリアでは過去最大規模の銀行国有化となる。

一方、欧州司法裁判所は、スペインの住宅ローン問題をめぐり銀行の責任を制限した同国裁判所の判定を覆し、スペインの銀行に対し顧客への賠償を命じた。判決を受け、サバデル、バンコ・ポピュラール、カイシャバンク、リベルバンクなどの株価が急落した。

今回の判決は確定で、上訴は認められない。これによりスペインの銀行は顧客に対し40億ユーロ以上の返済を余儀なくされる。

欧州連合は機能していない。少なくとも、米サブプライムショックやリーマンショックなどの大型の危機には対処できず、不平等が拡大した。

ECBは23日、ユーロ圏の債務危機が始まって以来、ユーロ圏では富の集中が加速し、これまでにない資産価値の落ち込みにより貧しい世帯が苦境に陥っているとの調査結果を発表した。

ユーロ圏の世帯資産の中央値は14年までの4年間で約10%減少、10万4100ユーロに落ち込んだ。ギリシャとキプロスでは中央値が約40%下落、イタリアやポルトガル、スペインでも15%を超える大きな下落となった。

これに対して、ドイツの中央値は同じ期間に10%上昇、オーストリアやフィンランド、ルクセンブルクでも数値は上向いた。2010年には上位5%の世帯に純資産の37.2%が集中していたが、14年にはその率は37.8%に増えた。一方で下位5%の世帯は負債だけを抱えている。イタリアやスペイン、ポルトガル、ギリシャなどでは経済格差が広がった。

ブレグジットやトランプ氏の報道にも見られたように、メディアやメディア系識者は常に権力寄りだ。欧州政府のドイツ寄りの政策に対し、フランスを含むすべての政府が抵抗したが、例外なく転覆させられ、欧州政府寄りの新政府が登場した。それを選んだのは各国の国民たちだが、メディアやメディア系識者が果たした役割は大きい。

その流れを覆したのが、ブレグジットトランプ氏勝利で、年末のイタリアの国民投票がそれに続いた。2017年には3月のオランダ下院選挙から始まり、フランス大統領選挙ドイツ総選挙などと続く、先の国民投票で首相が変わったイタリアも総選挙が避けられないと見られている。

ユーロの中核国である独仏伊の国民が、仮にユーロ政府寄りの現政権に「ノー」を突き付けるようなことがあると、ユーロ、あるいは欧州連合の存続そのものが危うくなる。

私はその可能性はゼロではないと見る。ドイツはもとより、フランスやオランダも、ユーロの恩恵を得てきた国々だ。逆に言えば、大きな犠牲を払わずにユーロを見切ることができるとも言える。

ユーロ、欧州連合のデメリットが、メリットを凌ぎ始めている。例えば、ドイツは今ならユーロ体制を自国の利益のままに終えられるが、このまま存続させれば、支援負担や移民問題で、自らの身にも損失が膨らみかねない

ギリシャなどはGDPが毎年1割、2割と減少し続けている。人材や銀行預金は国外に流出し、港湾や有力企業などはドイツや中国のものとなった。こうなってしまうと、もはやユーロや欧州連合を離れられるだけの体力すらないのだ。

Next: 市場が歓迎した「原油の協調減産」はいつまで続くのか?



原油の協調減産はいつまで続くのか?

OPECと非加盟国は12月に原油の協調減産で合意した。合意はサウジアラビアの大幅譲歩により成立したが、原油価格さえ上昇すれば、大産油国であるサウジの原油収入は増加する。

非加盟国であるロシアも減産に同意したが、減産幅はミニマムで、それも6カ月にわたって漸減させるというものだ。あるいは、6カ月後には合意が反故になっていると見越しているのかもしれない。そう思うだけの根拠がある。

非加盟国の米国が減産要求から免れたのは、原油安で、既に大幅減産となっているからだ。民間企業が採掘する米国では、原油価格が下落すると、採算割れとなる油田、企業が撤退を始める。しかし、40ドル台でも大型の油田は拡大基調で、50ドル台になると中堅どころでも再参入を開始する。

とはいえ、再参入後に再び50ドル割れになると採算が合わなくなるので、原油価格下落に備えたヘッジが急増している。原油先物を向う何年にもわたって売っているのだ。50ドル台にはそういった売りものが、価格が上げるほどに膨らんでくる。

例えば、50ドルなら利益が出る油田があるとする。そのコストが一定であると仮定すると、50ドル以上で原油先物を2018年まで売ると、その年まで事業継続の計算が立つことになる。1、2年で事業を終えたいとする企業家はいないので、埋蔵量がある限り、原油需要の急増でも見込めない限り、最低限の利益確保の動きは継続する。

そういった油田、企業のヘッジ売りが、原油価格の上昇と共に増え続けるのだ。

また、カザフスタンのように、巨額の資金をかけたプロジェクトが、ようやく10月に輸出開始となったところでの減産は、力で抑え込まれたと見るのが自然だ。サウジアラビアだってどうなるか分からない。

減産しても値上がりすれば増収とはなるが、減産して45ドル時の収入を確保するには47ドル17セント以上である必要がある。それ以下になると、増産でしか収入を確保できなくなるのだ。

Next: 続くカネ余り。大荒れ必至の2017年相場で勝ち残るのは?



続くカネ余り

米サブプライムショック後、米連銀は政策金利を1年余りで5.25%から0%にまで引き下げたが、リーマンショックを防げなかった。そこで開始した量的緩和は、劇的な効果があった。景気拡大は7年と1四半期続き、失業保険受給者はピークの3分の1以下に減少した。株価は最高値を更新中だ。

米労働省データから筆者作成

問題は、そうして供給した巨額資金をまだ市場に置いたままにしていることだ。利上げは2015年末から開始したが、まだ0.50%という超低金利のままでいる。

最強の経済にそういった超緩和的政策を採り続けられると、弱い日欧は超超緩和的政策に追い込まれる。その結果、世界は空前のカネ余りとなった。

ここでの更に大きな問題は、カネ余りが偏在し、需要が伸び悩んだことだ。供給サイドはカネ余りだが、一般大衆には行き渡らず需要は低迷したままなのだ。

つまり、デフレを理由にした緩和的政策が、供給サイドにしか働かないために、更なるデフレを生んでいる

これを変えるには、既存システムではもう駄目だと、英米伊の国民は意識しないまでも気付いている。「ポピュリズム(大衆迎合主義)」の対義語は、「富裕層1%迎合主義」かと気付き始めている。ここで英米伊の政治家たちが、国民の潜在ニーズに応えられないと、世界は更に不安定になる。

金融市場で言えば、投資運用の根っこは国債利回りだ。ここを基準に、すべての金融商品の割安、割高が計算できる。反対に、ここを基準にしない割安、割高の判断は、根っこがないために、過去や類似商品との比較といった漠然としたものにならざるを得ない。

日欧がその国債利回りをマイナスとしたことは、投資運用の根っこを腐らせる政策だった。

根っこがない運用は投機的になる。投機が悪いというのではない。投資と投機とはやり方が違うので、銀行や年金、保険会社には、少しばかりハードルが高いのだ。また、資金が巨額過ぎると、事実上、投機ができない。これは世界の運用者が一様に抱える問題だ。

2017年もカネ余りで、根っこのない状態はまだ続く。欧州の政治、ユーロ、欧州連合、原油価格を鑑みても、相場は荒れると見るのが自然だ。そんな中で、利上げを継続すると思われる米国に、世界の資金が集まると見ている。

※矢口のメルマガが、下記の「まぐまぐ大賞2016」を受賞しました。
資産運用(予想的中!)部門 第1位

image by: Wikimedia Commons Haruhiko Kuroda | Janet Yellen

【関連】消費税は廃止しかない。財務省データで暴く財務官僚「亡国の過ち」=矢口新

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年1月1日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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