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From 首相官邸ホームページ

安倍首相「アベノミクスは7合目」もう後戻りできぬ頂上からの景色とは?=東条雅彦

安倍首相は8日午前、フジテレビの番組で「アベノミクスの進み具合は7合目」との認識を示しました。今回の選挙では、2013年から始まった「アベノミクス」に対し、初めて直接、国民の審判が下ることになると言われています。しかし日本という国は、仮に今後、政権交代が実現したとしても、もう後戻りできないところまで来ているのも動かしがたい事実です。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

衆院選で「審判」を下す前に、私たちが知っておくべき厳しい現実

アベノミクスとは一体、何だったのか?

安倍晋三総理は9月28日に衆議院を解散しました。10月22日に総選挙が行われます。2013年から始まったアベノミクスに対して初めて直接、国民の審判が下ることになるかと思います。

現在でも首相官邸のHPにはアベノミクス「3本の矢」を表す図解が大きく表示されています。

<アベノミクス「3本の矢」>

出典:首相官邸

第1の矢「市場のお金を増やして、デフレ脱却!」で、サラリーマン風の男性が走り出します。

次に第2の矢「政府支出でスタートダッシュ」で、男性の上半身の服がスーツから水色の服装に変わります。

最後の第3の矢「規制緩和でビジネスを自由に!!」で、男性はスーパーマンに変身して、空高く飛び出す予定でした。

2013年4月4日に、日銀は「量的・質的金融緩和(異次元緩和)」の導入を決定して、政府と共同で2%の物価安定目標を達するまで継続することを決めました。黒田総裁は「2年以内に2%のインフレ率目標を達成する」と宣言し、岩田副総裁は「今後、2年間で目標を達成できない場合は辞職する(後に撤回)」と表明していました。

マネタリーベースを増やせば、景気が良くなると考えたリフレ政策を推進した結果、本当にディマンド・プル・インフレが生じたかのどうか、ここが肝心です。

結果が出なかった「リフレ政策」

2013年時点では政府も日銀も、2年間、マネタリーベースを年間約80兆円ペースで増加させていけば、2%程度のディマンド・プル・インフレ(需要インフレ)が生じるはずだと固く信じていたはずです。

そして、その異次元緩和は4年半も継続されてきましたが、現在のインフレ率は0.7%(2017年8月)です。

<消費者物価指数 2017年8月分(9/29日公表)>

出典:総務省

一方、政府の方は毎年のようにコロコロと新政策を打ち出して、当初の「3本の矢」が置き去りになっています。

一体、いつになったら、2%のディマンド・プル・インフレが生じて、スーパーマンのように空高く羽ばたく日が来るのか?

明らかにリフレ政策は間違っています。リフレ経済学の理論通りの結果が出なかったということは、理論が間違っていたことを示します。

Next: なぜアベノミクスは失敗した?本当に着目すべきは「資金の流れ」



本当に着目すべきは「資金の流れ」

毎年、変化する政府の新政策が注目されがちですが、本当に着目すべきは「資金の流れ」です。

経済の主体は家計、企業、政府の3者です。日銀が四半期毎に公表している資金循環統計では、会計、企業、政府の3者と金融機関(中央銀行も含む)のバランスシートがどのように変化しているかがわかるようになっています。

異次元緩和が始まる前の2012年12月末時点では、次のようになっていました。

<2012年12月末 資金循環統計>

出典:日本銀行

一見、ごちゃごちゃしていて、とても見にくい図になっていますが、本質的には以下の4点を表しています。

  1. 誰かの資産は誰かの負債である
  2. 図の真ん中の金融機関はその資産と負債を仲介している存在である
  3. 家計、企業(民間非金融法人)、一般政府の経済の3主体と、それを仲介している金融機関の資産と負債の状況を表している
  4. 日本の対外債権は海外部門の負債(資金調達)であり、日本の対外債務は海外部門の資産となる

バランスシートの右側の負債は資金調達方法を示し、左側の資産は持ち物リストを表しています。

私達(家計)が銀行に100万円の現金を預けると、銀行の負債欄(資金調達)に「預金」、私達の資産欄(持ち物リスト)に「現金・預金」と記録します。銀行から見ると私達の現金は負債であり、預金者は債権者なのです。

反対に銀行から住宅ローンで3000万円を借りた場合、私達の負債欄に「借入」(借金)、銀行の資産欄に「貸出」(債権)と記録します。

このような個別の資金の流れを合計して、経済全体の資金の流れを示したのが、上記の資金循環統計となります。

資金循環統計を簡略化する

資金循環統計を簡略化すると、次のようになります。

<簡略版の資金循環統計>

金融機関は仲介しているだけで、誰かの資産は誰かの負債となっています。そのため、資産総額と負債総額は常にバランスしています。

一部の過激なリフレ派エコノミストの中にはドサクサに紛れて、このことを拡大解釈して、「政府は無限に借金を増やしても破綻しない」「中央銀行は無限に日本円を発行しても破綻しない」と主張する人もいますが、それは明確な間違いです。

家計、企業、政府、金融機関のいずれのプレイヤーも資金繰りがうまく行かなければ、破綻しますし、中央銀行が通貨を大量に発行し続けると、海外に資産が逃げていき、自国の通貨安を引き起こします(フリーランチは存在しません)。

Next: アベノミクスは国民生活ではなく、政府の財政を支援していた



政府財政を支援したアベノミクス

日銀が2017年9月20日に公表した「2017年6月末の資金循環統計」は、次の通りです。

<2017年6月末 資金循環統計>

出典:日本銀行

2012年12月末時点と比べて、大きく変化しているのは、中央銀行(日銀)の資産と負債です。

<日銀 2012年12月末 → 2017年6月末>

中央銀行は唯一、通貨「円」を発行できるため、負債の部の「日銀預け金」が急増しています(91兆円 → 363兆円)。

この発行した通貨「円」は「証券」に振り替えられています。資産の部の「証券」の大半は国債で、一部は日経平均連動型ETFとなっています。日銀は大量に日本円を発行して、政府の国債(年間80兆円程度)と日経平均連動型ETF(年間6兆円)を購入しました(124兆円 → 463兆円)。

政府の負債は毎年35~40兆円前後のペースで積み上がっていっています。

<一般政府 2012年12月末 → 2017年6月末>

1,272兆円 – 1,112兆円 = 160兆円

160兆円 ÷ 4.5年 = 約35.5兆円

毎年増加する政府の負債を主に買い支えているのが日銀です。日銀以外の金融機関には、政府の国債を買い支える余力が残っていません。預金取扱機関、保険・年金基金、その他の金融機関の資産の部を合計すると、次のように変化しています。

<2012年12月末 金融機関の資産(単位:兆円)>

↓ アベノミクス開始から4年半後 ↓

<2017年6月末 金融機関の資産(単位:兆円)>

日銀以外の金融機関の資産は、2,141兆円(2012年12月末)から2,105兆円(2017年6月末)になりました。4年半が経過して、資産が36兆円減少しています。

リフレ理論が正しければ、民間金融機関の資産が増加する流れになっていたはずですが、理論通りの現象は生じませんでした

今後、日本では人口減少が続き、かつてリフレ派が熱弁していたディマンド・プル・インフレも生じないことから、金融機関の資産が増えていく望みはかなり小さいという情勢です。このことは、長期的に日銀が政府の国債を買い支えていくこと(=半永久緩和)を暗に示しています。

アベノミクスを実行して生じた資金循環の結果は、次の通りです。

  1. 日銀の異次元緩和(国債大量買い)により、民間金融機関の保有する国債が日銀に集まった
  2. ⇒ 日銀の国債保有率が4割に到達した。

  3. 民間金融機関の総資産は減っており(2,141兆円⇒2,105兆円)、リフレ政策は失敗だった!
  4. ⇒ 民間金融機関に政府の財政を支援する余力は残っていない。

Next: 仮に政権交代が起きても、異次元緩和は停止できない



仮に政権交代が起きても、異次元緩和は停止できない

9月25日に突如、「希望の党」という政党が出現しました。野党第一党の民進党はリベラル系議員を除いて、希望の党から出馬することになりました。

一方、リベラル系議員は「立憲民主党」を結成して、かつてないほどに目まぐるしく状況が変化してきています。

そして、10月22日の総選挙は「政権選択選挙」になるというのがマスコミの触れ込みです。

しかし、仮に政権交代が実現しても、日銀は異次元緩和を停止できないでしょう。なぜなら、政府が毎年、積み上げる35~40兆円という国債を引き受ける余力が民間の金融機関には残っていないためです。

政府の国債を引き受けできるのは日銀だけです。つまり、2013年に開始したアベノミクス第1の矢「異次元緩和政策」は不可逆な政策だったのです。

「燃焼」という現象は不可逆です。紙を燃やしてしまった場合、灰になったものをもう一度、紙に戻すことはできません。

政府は毎年のようにコロコロと表面上の政策を変更しています。可逆的な政策であれば、途中で中止することも路線を修正することも可能です。ところが、第1の矢(=異次元の金融緩和政策)だけは、一度放ってしまうと、ずっと打ちっぱなしにしなければいけません。

そのため、当初2年間の予定だったものが、4年半以上も継続して、今後も続く予定になっているのです。これは、政府の財政持続が不可能になるか、大幅な通貨安が引き起こるまで続きます

不可逆な政策が間違っていた場合、本当にどうしようもなくなる!

1978年の映画『スーパーマン』で、スーパーマン(クリストファー・リーブ)が地球の周りを光速よりも速い速度で飛び、時間を巻き戻すシーンがありました。大悪党のレックス・ルーサーによって破壊されたアメリカ大陸を修復するには時間を巻き戻すしかなかったためです。

本来なら、2013年時点に戻って、アベノミクス「第1の矢」(異次元緩和)を停止する必要があります

不可逆な政策」というのは、本当に恐ろしいものです。途中で間違いに気がついても、変更できませんし、ずっと日銀は政府の財政を支え続けなければいけません

日銀の異次元緩和によって、案の定、既に政府の財政規律は乱れ始めています。安倍総理は9月25日の記者会見にて、消費税率の8%から10%への引き上げに伴う増収分の使途について約2兆円分を、国の借金返済から「人づくり革命(幼児教育や高等教育の無償化など)」に変更する考えを表明しました。

2020年に基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を黒字化する財政健全化目標は実質的に先送りにされて、表面的な政策はコロコロと毎年のように変更されています。

その一方で、着実に政府と日銀のバランスシートは変化してきており、財政持続が危うくなっていることは事実です。

2013年から開始した不可逆な異次元緩和政策は、国民からの信認を受けたわけでもなく、選挙でその政策が支持されていたわけでもありません。また、今回の選挙でも「異次元緩和政策」については、争点にならないし、どうしようもない状況になっています。

Next: 私たちが10年以内に遭遇する未来は? 想定される4つのパターン



私たちが10年以内に遭遇する未来は? 想定される4つのパターン

今後、私たちが10年以内に遭遇する未来を可能性の高い順に列挙すると次の4パターンです。

<ハードランディング路線(確率60%)>

1)日銀の国債保有率が50%、60%と上昇するにつれ、金利が急騰して、政府の資金繰りに問題が生じる。

2)日銀の異次元緩和により、通貨「円」の大幅な希薄化(円安)が起きる
⇒ 実質的に政府の財政が破綻する

<ソフトランディング路線(確率25%)>

3)1960年代以降のイギリスと同じように、日銀は金融抑圧を継続して、円の資産価値を長期的に減らしていく
(参考)1960年:1ポンド=1008円 / 30年後の1990年:1ポンド=235円

<一発逆転路線(確率15%)>

4)2020年代半ばから始まる第四次産業革命(AI革命)によって強力なディマンド・プル・インフレが生じて、財政危機から脱出する
⇒ これはイギリスが財政危機から脱出した「北海油田の産出成功(1980年代~)」に相当する

【関連】小池流「ユリノミクス」の経済学。結局、誰が得して誰が損するのか?=斎藤満

上記の可能性リストに「リフレ政策が成功して、スーパーマンに変身する」の選択肢は存在しません失敗だったという結果が出てしまったので、選択肢から外しました。

リフレ派エコノミストは、異次元緩和政策に効果がなかった現状を目の当たりにして、どう説明するつもりなのでしょうか? もし可能なら、スーパーマンのように地球の周りを飛び、時間をアベノミクス開始前の2012年に戻して、インチキだったリフレ政策はなかったことにしたい…そう感じます。

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2017年10月4日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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