通貨と株価の動きを見ると、トランプ大統領就任演説は米国投資家の「想定内」だったとわかります。新政権がドル高かドル安政策かは、2月の予算案から読み取れるでしょう。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2017年1月22日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
波乱の2月相場になるか?予算案に固唾を呑むマーケット
市場はトランプ演説から20分で大きく動いた
トランプ米大統領の就任スピーチは、次の3つの意味で注目されていました。
- 復古的な選挙公約(3つの柱:保護貿易、減税、公共事業)を強調するものか
- それとも和らげるのか
- 別のことを言いだすのか
株価と通貨の10秒毎の反応を左のディスプレーに映し、嘘つきメディアと名指されたCNNを午前4時頃まで見ました。日米の株価と通貨(米ドル/円)が、トランプのスピーチで激しく動くと思ったからです。
就任式が始まる前は、新大統領を歓迎するような株高(米国ダウ、日経平均)と、ドル高(円安)でした。スピーチが始まり、保護貿易と雇用の増加を強調する内容がわかると、下記の動きがありました。
- ダウは、1万9840ドルから1万9760ドルへと0.5%下げた
- 米ドル/円は、115.2円から114.3円へと0.8%のドル安・円高に振れた
これは、たった20分の変化としては、大きなものです。
注目すべきは、「政治・経済・金融の、エスタブリッシュメントが得ている不当な利益を、国民に取り戻す」という、マルクス的な言葉でした。これが、トランプ氏が重視する「米国雇用の増加と保護主義」に結びついていたのです。
スピーチのあと、新大統領は早々と大統領令を出して、
- 「国内の雇用を奪う」とトランプ氏が見ている、北米自由貿易協定NAFTA(対メキシコ、カナダ)の見直し
- TPP(環太平洋戦略的経済協定:自由貿易)からの離脱
- 国民皆保険を目指していた「オバマケア」の撤廃
を指示したのです。
これは、関税で物価を上げて、国内雇用を守るという宣言です。経済学的にはこの3つは、目的とする「雇用の拡大」と論理的整合性がありません。しかし、トランプ氏は経済学説などまるで意に介さない独善を貫きます。
(注)北米のNAFTAや環太平洋のTPPでの自由貿易は、リカードの比較生産費論で明らかなように、生産性の低い労働の移動により、長期的には双方の国の生産性を上げてGDPを増やします。NAFTAのメキシコには、日本の自動車工業(部品・製品)も進出し、70%は対米輸出です。35%の差別的関税が課されると影響は甚大です
演説後には114.3円の円高だったので、日経平均もダウの後を追い、1万9300円付近から1万9080円へと1.1%下げました。これが、瞬間(20分間)の市場の反応だったのです。
今は1ドル113.6円、日経平均は1万8891円付近です(1月23日18時現在=本稿執筆時点)。トランプ相場は、今後2万円を超えたとしても瞬間で終わりそうな気配です。通貨と株価の動きから見ると、新大統領のスピーチは米国の投資家の「想定内」であったことがわかります。
Next: 株価と為替が大きく動くのは2月初旬/新政権内でドルの見解に矛盾
株価と為替が大きく動くのは2月初旬
2013年以降の日本株は「円安→株高」「円高→株安」という動きをします。原因は、ヘッジファンドの売買が市場の70%を占め、その売買の70%がHFT(超高頻度取引:1秒に数千回)であり、そのプログラムには「円先物売り(円安)=日本株買い」「円先物買い(円高)=日本株売り」が組み込まれているからです。
次に注目すべきは、2月初旬の「一般教書予算案」です。選挙公約だった減税、公共事業、財政赤字がどの程度であり、通貨政策がどうなるか、明らかになります。2月初旬に、株価と通貨は大きく動くはずです。
トランプ政権内でドルの見解に矛盾
新大統領は、米国の輸出増加と輸入の減少のために「ドル高は行き過ぎ」と言い、財務長官に指名されるムニューチン氏(元ゴールドマンサックス)は「強いドルが必要」と相反するメッセージを出しています。
(注)自由貿易は、変動相場(米国のように貿易赤字ならドル安)により、赤字と黒字が調整される仕組みです。関税を課していないNAFTAや、これからの自由貿易圏のTPPを解消すれば、関税で国内の海外製品を高くするしかない
トランプ政権は、輸入製品を高くして、貿易で負けていたコストの高い国内生産を増やす方法をとります。外資は別にして、国内資本の工場が新設工場を作る可能性は少ないので、関税で米国の物価を上げるだけに終わるでしょう。小売業でナンバーワンのウォルマートの製品は、食品以外では90%以上が輸入でしょう。
ドルについての政権内の発言の矛盾は、口先介入の効果が計算されたものではない。財務長官が言うドル高が必要なのは、海外が米国債を買っても、為替差損を蒙らないためです。ドル安になると、米国債と米国株の保有では損をします。
財政と経常収支で赤字国の通貨が、世界の貿易に使われる国際通貨であるという根本的な部分での矛盾があるため、トランプ氏(ドル安)とムニューチ(ドル高)の矛盾が出るのです。
世界の株価と経済にとって肝心なのは、新政権がドル高かドル安政策かです。ここがまだ不明です。しかし2月の予算案からは読み取れるでしょう。予算案がトランプショックの第二弾になります。
(注)トランプ相場の第一幕は終わった感じです
選挙公約の「10年で$6兆の減税と$1兆の公共事業」からは、年間で「$7000億(80兆円)」財政赤字が増え、現在の赤字「$7582億(87兆円:2016年IMF予想)」と合わせて「$1.45兆(167兆円)」という巨大な国債発行になります。
こうなると、「ドル安と、金利上昇(国債価格の下落)」に向かうからです。
Next: 「大統領就任時の支持率40%」という危うさ。さらに下がるのは確実
「大統領就任時の支持率40%」という危うさ
就任式には、90万人の参加があったという(オバマ大統領のときの約1/2)。要塞になっていた会場の周辺には、2万8000人の警官が動員されていました。そして、25万人のデモがあったという(団体数100以上)。就任式では異例です。
普通は55%以上はある就任時の支持率が40%しかなく、その後の支持率が下がった場合、任期を全うできるのか。就任時の支持率は、後で下がることに例外はないからです。
オバマ前大統領も就任時は80%という高い支持でしたが、2年目は48%に下がっています。30%以下に下がると、議会の与党議員も反逆して政策の実行ができず、政権の維持は困難になっていきます。
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・「アメリカ」はどこへ行くのか(1/19)
・トランプ政策の世界への影響予測(1/11)
・2017年の株価と通貨(1/4)
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『ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2017年1月22日号)より一部抜粋、再構成
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