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【展望】「買いの主体がGPIFに移行したか」東京株式市場のポイント(1/29)=國澤晃

先週金曜のNYの金利とドル円をみると、金利はやや低下傾向にあったのに為替は逆に円安になりました。また木曜は、円高にも関わらず日本株は上昇しました。これらを見てみると、それぞれの連動性というものが薄れてきているように思えます。(『KA.Blog(有料版)』國澤晃)

※本記事は有料メルマガ『KA.Blog(有料版)』2017年1月29日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:國澤晃
防衛大学校理工学部通信工学科卒業後、海上自衛隊幹部候補生学校(江田島)へ。退官後、東京八重洲の某東証1部上場証券会社(合併前)で6年間勤務するも、家族の事情で富山へUターンし退社。富山では会計事務所勤務を経て独立。証券アナリスト、FPなど金融・財務・税務関連の資格を保有し、企業業績や業界動向を読み解きながら、テクニカル分析で株価の動きを見極めるのが得意。新光証券(現みずほ証券)主催の仮想株取引「S-1チャンピオンシップ」において75000人中5位を獲得。

アノマリー通りに事が運ぶとは言い切れない、2月相場の幕開け

ドル円が金利や日本株と連動し辛くなった

金曜のNYは10-12月GDP速報値が予想より若干悪かったことや、主要企業の決算が悪かったことなどで上値が重く、一方NASDAQは最高値更新となりました。それを受けてドル円は115円を回復し、日経平均先物は19430円となっています。

毎週気にしているシカゴ短期筋のポジション動向ですが、一番懸念していたアメリカ長期国債のショートポジションについては沈静化の傾向。24日までの一週間でアメリカの長期金利は上昇(=債券価格は下落)したのですが、その間に利食いのポジション整理が少し進んだ格好です。

一方、引き続き積み上がる傾向にあるのが原油の買いポジション。先週に続いて過去最高水準を更新してきました。確かに私が「原油価格もこれ以上上がらないだろう」と見込んでいる割には頑強に高値をキープする所以がここにあります。

他方、シェールガスの稼働状況は順調に増加を続けています。そんな警戒感もあって、金曜の原油は一時2%超下がる場面がありました。
CFTC建玉明細 – 第一商品

NYダウ 15分足(SBI証券提供)


日経平均先物 15分足(SBI証券提供)


米ドル/円 15分足(SBI証券提供)


米国10年債利回り 15分足(SBI証券提供)

話をアメリカの金利に戻しまして、金曜のNYの金利の推移ドル円のチャートを並べてみると、金利はやや低下傾向にあったのに、為替は逆に円安になりました。話を更に戻して、木曜は円高にも関わらず日本株は上昇しました。

これらを見てみると、それぞれの連動性というものが薄れてきているように思えます。もっと言えば、「ドル円が金利や日本株と連動し辛くなった」あるいは「日本株はアメリカ長期金利との連動性が強い」という言い方ができるのかも知れません。

なので先般「ドル円が少し円安になれば(計算上115円になれば)あっさり高値更新というパターンも十分考えられます」としましたが、金曜に115円を超えても19500円すら届きませんでした。どうもゲームメーカー(買いの主体)が外国人から国内機関投資家(もっと言えばGPIF)に移ってきたような感触を受けています。

受渡日ベースでは既に2月相場入りですが、2月の月別日経平均騰落は、勝率が56.7%の6位ということで、中庸の良いとも悪いとも言えない平凡な月です。アノマリー的には3月の権利落ちに向けて高配当の銘柄が段々買われてくる月という特性はあります。

それに連動する形か、2月中旬辺りから4月にかけて為替は円安に振れやすい季節性も確かにあります。ただ、今はトランプ大統領による為替への牽制が大きく影を落とすでしょうから、アノマリー通りに事が運ぶとは言い切れません。

Next: 今週は日銀会合やFOMCより、英中銀の政策金利発表が重要かもしれない



今週の注目イベントの見通し

今週のイベントとしては個別企業の決算が引き続きありますが、全体的なものとしてはまず31日(火)に日銀金融政策決定会合があります。昨年はマイナス金利導入となった1月末の会合ですが、今回は何も無いと見られていますし、私も何も無いと思いますから重要度は低いです。

ただ今回は金利政策や日銀ETF買い入れに対しての出口論に繋がるような黒田総裁のコメントが出てくるかも知れない、という部分に焦点が集まっています。特に先日は短期債の買い入れオペをやらなかったことで、金利面での発言が注目されています。一応、まだ日米首脳会談も行われていませんから、アメリカからの外圧による姿勢の変化は現段階では出ないでしょう。

2月に入ると1日(月)にFOMCがありますが、こちらも基本は需要度合いが低いです。それでも今年何回利上げをするつもりなのか、という方向性を探る面で注目はされるイベントです。

実はそれらより2日(火)のイギリス中央銀行の政策金利発表の方が注目されているかも知れません。週末にはトランプ大統領とメイ首相が仲良く手を繋いでいる姿も報じられましたが、この米英首脳会談を受けて何らか方向性が決まったのかどうか。そのヒントが出てくるかも知れません。

しかしこうして考えると、Brexitといいトランプ大統領選出といい、アメリカとイギリスは歴史的な国民性を背景としてか未だ結び付きが強いんですね。

そして週末には雇用統計があります。トランプ大統領になってから初めての雇用統計ということですが、当然まだ色彩としてはオバマ大統領時代の成果である面が強いです。

ただトランプ大統領が最上段に掲げるアメリカ人の雇用を増やすという公約にとって、最も重要な指標がこの雇用統計になってきます。ですから、これからも場合によっては数字を操作してでも増やしにかかってくるのではないか、という気もします。

そもそもアメリカの現時点での就業者数は1.5億人を越えており、失業率4.7%で完全雇用に近い状態。失業者数は750万人程度ですから、トランプ大統領がどんなに「2,500万人の雇用を作る」と言っても、物理的に不可能です。

他方、移民を排斥するというのですから、益々実現は不可能と言えるでしょう。まあ、就任演説時の観衆数のように「実際には2500万人達成したけれど、マスコミ(労働統計局)が250万人って言うんだ」と言い張るんだと思いますが。

確かに高齢者や女性の活用といった日本的な手法で労働力を増やすことは可能ですが、自発的失業者だっているわけですから、実現確度は極めて低いです。

リーマンショック直後のような大不況時代の公約ならわかるのですが、既に世界中の富を集めてアメリカ株も揃って最高値更新中の好景気の中、更にアクセルを踏むというのはスピード違反。崖が目の前に迫っているのをわかっていない認知症のドライバーと言えるでしょう。

Next: 賃金と物価が上がるだけではダメ。停滞しつつあるアメリカ社会



賃金と物価が上がるだけではダメ

そんなわけで、現状のデータに論拠せずに雰囲気で語る輩はどうも私は嫌いです。それが「今AIが強まる時代、人間臭くて良い」という意見もあるかも知れませんが、勝手に内輪でやっているならともかく、外の人様に迷惑を掛けるようであれば害でしかありません。

どこぞの小国なら放っておけば良いのでしょうけれど、(将来的には過去形で語られるかも知れませんが)世界のリーダーたるアメリカが我々日本にまで火の粉を振りまいてくるようなら、何としてでも払わなければなりません。

ではそんなに無理矢理雇用者数を増やそうとしたらどうなるか。人手不足感が強まる→賃金を上げる→物価が上がる…ということになります。…おや、これは経済的には良い流れではありますね。

ところが、それには「実質所得が上がって皆が豊かになれば」という大前提があります。今後もしドル安政策や保護主義による関税障壁を採って輸入物価が上がるのであれば、いくら仕事が増えて賃金が上がったとしても国民は納得しないでしょう。

何故なら、トランプ大統領を支持した白人労働層は雰囲気で不満を言っているからです。彼らにいくら数字で語っても、体感や過去の経験、雰囲気で判断してトランプ大統領に投票した人達ですから、例え自分達の収入が1万ドル増えたとしても、NYに住む富裕層が100万ドル増えたら、決して納得はしません。相対比較感で気分が悪いからです。

そんな人々に「世界をご覧なさいと。お隣メキシコなぞは既に十分貧しいのに、にもかかわらずあなた方に一段と搾取されようとしているのだ」と言っても無駄なのは、映し鏡であるトランプ大統領一人を見ればよくわかります。

まあ、そんなメキシコも今は結局ペソがまた安くなっているので、例え25%の関税をかけたところでペソ安が25%進むなら、結局メキシコで作ってアメリカに輸出した方が良いということになるのですが。足元はメキシコに進出している企業の決算は良いでしょうね。

ちなみにトランプ大統領決定から、10%以上ドル高ペソ安が進捗しています。

他方、トランプ大統領以外の政治家、官僚は数字で理性的に判断しますから、物価が上がってインフレ感が強まってくるようであれば、利上げをドンドン繰り返すでしょう。それが賃金の上昇スピードに追いつけないのであれば、益々住宅は持てなくなってくるし、自動車は借り換えられなくなるし、学生ローンは返済できなくなる。未来のアメリカ経済はドン詰まり感しかないように思えます。

その時は今度一体誰のせいにするのでしょうか?もし自分の周りに事ある毎に人のせいにしてブーブー文句を言っている輩がいたら、決して友達になりたくはありません。向上心が感じられず、そんなヤツが先々成長するとは思えない。そのうち自分のせいにされるかも知れませんし。日本君ももっとお友達を選んだ方が良いと思うのですが…。世界から同類と見なされかねません。

現実問題として、アメリカ社会は停滞しつつあります。休日中にもイスラム系の国からの入国を禁止した大統領令に対して連邦裁判所が待ったをかけて空港が大混乱と伝わっています。毎週末にはデモが行われていますし、とにかく大混乱ですね。

Next: トランプが息巻く「メキシコ国境の壁」は、実現しない可能性も高い



「メキシコ国境の壁」は実現しない可能性も高い

一方、トランプ新政権の閣僚人事が未だに定まっていません。

一部候補者が辞退することで滞っている部分がありますが、それは単に「トランプ政権下で閣僚になったら、人格評価的にも経歴的にも傷が付く」と警戒している人だけではなく「どうせ自分が数字をもって正しく政策を実行しようとしても、トランプ大統領が雰囲気で○×を判断するだけだから、やり甲斐がない」と感じているからだと思います。

上司の顔色をうかがいながらやる仕事なんて、この世で一番つまらないものはありません。

…そんなわけでこの辺り書き出すと止まらなくなってしまうので止めますが、何だかんだ言っても最終的にはアメリカの良心に期待しかないのが歯がゆいですね。

ちなみにトランプ大統領が矢継ぎ早に大統領令で次々サインしているのは、あくまで「方向性」であって、それが実行に移されるどうかは別問題。実際、オバマ大統領はキューバにあるグアンタナモ収容所の閉鎖を就任時に大統領令としてサインしましたが、8年間遂に実現することはありませんでした。

今回も壁の建設の実効性を評価してセメント株が上がっていますが、少なくとも今の段階では単にお祭りなだけで、株式市場あるあるの一つですね。
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KA.Blog(有料版)』(2017年1月29日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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