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東芝ショック4つのシナリオ~経営破綻確率は15%、上場廃止は五分五分=栫井駿介

東芝<6502>が危機的な状況に陥っています。米国の原発事業での大規模な損失計上により、第3四半期終了時点で債務超過に陥ることが決定的となりました。一歩間違えば上場廃止や経営破綻の可能性もあり、一瞬たりとも目が離せない状況です。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

「東芝のこれから」4つのシナリオ。早ければ6月に上場廃止も…

ウェスチングハウス幹部による「不適切なプレッシャー」

東芝が急速に危機的状況になってしまったのは、東芝の米国子会社であるウェスチングハウス(WH)が2016年に買収した会社(CB&I)が原因です。買収金額は約300億円とただ同然の価格でしたが、現在進行中の原子力発電所建設プロジェクトで想定以上に費用が膨らむことがわかり、費用の増加分が損失として計上されることになったのです。その金額は約7,000億円にも上ります。

この買収に関し、今になって様々な問題が噴出しています。まず、買収前の調査はきちんと行なったのかということです。買収金額こそ大きなものではありませんが、通常買収を行う前には「デュー・ディリジェンス」と呼ばれる、被買収企業の財務や事業の状況の詳細な調査が行われます。

きちんとした調査が行われたのならば、買収決定からわずか1年でここまで大きな損失が発生するとは考えにくいものです。買収の主体となったWHは、東芝が2006年に買収した会社であり、少なくとも東芝はWHに十分に目が行き届いていなかったと考えられます。

問題をさらに複雑にしているのが、「内部通報」の存在です。東芝の報道発表資料によると、WHの経営幹部からCB&Iの買収を担当した弁護士事務所のK&Lゲイツに「不適切なプレッシャー」があったというのです。

プレッシャーの具体的な内容は明らかにされていませんが、この問題を抱えているために、正式な第3四半期決算の発表は1ヶ月先送りされました。これは金融商品取引法で定められた期限(期末から45日以内)を大きく超過するものであり、異常な事態です。

内部管理体制の不備が東芝を上場廃止へと導く

内部管理体制の問題は、今の東芝にとって巨額損失よりも重大な問題です。

東芝は2015年に発覚した不正会計問題により、東証から特設注意市場銘柄に指定されています。特設注意市場銘柄とは、「上場企業としてふさわしい体制が構築されていないので、注意してください」と投資家に呼びかける、いわばブラックリストです。これが原因で、東芝は財務状況を改善するための公募増資を行うことが実質的に困難となっています。

特設注意市場銘柄に指定されると、指定日から1年6ヶ月以内に「内部管理体制確認書」を提出し、状況が改善したことを東証に報告しなければなりません。東証は確認書の審査を行い、それでも不十分だと判断した場合は上場廃止となります。

東芝が特設注意市場銘柄に指定されたのは2015年9月15日です。そこから1年6ヶ月となる2017年3月15日が確認書の提出期限です。東芝は、昨年9月に確認書を一度提出しましたが、その際は不十分だとして特設注意市場銘柄の指定が継続しています。

すでに異常な状況にあるにもかかわらず、「不適切なプレッシャー」が実際に行われていたとしたら、ただでは済みません。コーポレート・ガバナンスの強化が叫ばれている中で、東証がみすみす見逃すことは考えにくいでしょう。上場廃止の可能性は急速に高まっているのです。

「大企業だから最後は何とかなる」「国が助けてくれる」などと思ってはいけません。日本航空(JAL)も、そう言われながら最後は経営破綻してしまいました。金融庁や東証の「お目こぼし」には期待すべきではありません。

Next: 東芝はこれからどうなる? 考えられる「4つのシナリオ」



東芝のこれから「4つのシナリオ」

東芝はこれからどうなってしまうのでしょうか。考えられる4つのシナリオを挙げてみたいと思います。(確率はあくまで主観的なものです。)

ケース1:経営破綻(確率15%)

東芝はすでに債務超過に陥ってしまっています。小さな会社であれば、銀行が融資を引き揚げ、倒産してしまう可能性の高い状態です。

一方で、原発事業の損失は将来の損失を反映したものなので、すぐにお金が出ていくものではありません。日々の資金繰りに困っているわけではなく、銀行が融資を継続すれば、当面の破綻は免れるでしょう。

しかし、あまりに銀行の不信感を招くようであれば、支援の継続が難しくなる可能性も否定できません。銀行もビジネスなので、ちょっとした引き金があれば一斉に引き揚げてしまうことも十分にあり得ます。

会社更生法や民事再生法の適用により経営破綻してしまうと、上場廃止が濃厚になるばかりか、100%減資となれば株式の価値がゼロになってしまいます。株主にとって最悪のケースですが、JALで実際に行われたように、決して可能性は低くないでしょう。

ケース2:上場廃止(確率50%)

私が最も確率が高いと考えているのが、経営破綻こそ免れるものの、上場廃止となってしまうケースです。東証に提出する内部管理体制確認書が却下となれば、6月頃にも上場廃止が決定してしまいます。

上場廃止になれば、その後株式を市場で売買できなくなります。しかし、株式の価値はゼロになるわけではありません。上場廃止時点で株主であれば、引き続き非上場会社である東芝の株主ということになります。

2004年に西武鉄道が有価証券報告書の虚偽記載により上場廃止となりましたが、約10年の時を経て2014年に再上場を果たし、株主は再び株式を売買できるようになりました。再上場時の株価が上昇すれば、利益が出る可能性はあります。

しかし、再上場がいつになるかも分からず、その間に増資などにより株式の希薄化が生じてしまったら株式の価値は下がってしまいます。上場廃止後の経営破綻など、その他の悪材料が出た場合も株式を売却できないため、保有するメリットはほとんどないでしょう。

ケース3:東証2部転落も上場は維持(確率30%)

東証の規定により、3月末時点で債務超過が解消されていなければ、東証1部から東証2部へ転落してしまいます。これは昨年のシャープと同じ状況です。

シャープは2016年3月末の債務超過を受けて、8月に東証2部に転落しました。その後、鴻海による資本増強を受け、今では債務超過の状態は解消されています。

【関連】東証2部転落のシャープを鴻海はどうするつもりか? 3つのシナリオ=栫井駿介

個人投資家としては、東証1部でも2部でも同じように株式を売買することができるので、大きな問題ではありません。シャープの株価は東証2部転落してから大きく上昇しましたから、そこで利益をあげた投資家も少なくないでしょう。

一方で、機関投資家は社内規定により東証2部銘柄を購入できないことが多く、資金を引き上げるファンドも少なくないでしょう。そのため、東証2部転落でも上場廃止の危険性が遠ざかれば、かえって投資のチャンスが訪れるかもしれません。

ケース4:東証1部残留(確率5%)

東証1部に残留するためには、3月末時点で債務超過が解消され、なおかつ内部管理体制確認書が承認される必要があります。債務超過解消のためには、半導体部門の売却が完了するか、同部門で予想以上の利益が出る必要があります。

すでに半導体部門の年度内売却は諦めたとの報道があり、利益の急増も現実的ではありません。東証2部に転落しても実害はほとんどないことから、このシナリオの可能性は非常に低いと言えます。

Next: 問題が解消されなければ6月にも上場廃止。長期投資家はとても買えない



残された柱を評価する

東芝は現在、絶好調の半導体部門を売却することで資本を増強しようと考えています。当初、分社化した会社の株式の2割未満しか売却しないとしてきましたが、現在は全株式を視野に入れた過半数の売却を検討しているようです。

株式の過半数を売却できたとしたら、大幅な資本増強が見込め、当面の財務的な危機は回避できるでしょう。しかし、株主にとって目下の課題は財務状況ではなく、内部管理体制の問題です。

3月15日時点で内部管理体制に不備があれば、6月には上場廃止が決定してしまいます。内部通報など不透明な部分が拭えず、長期投資家にとっては到底投資できる状況ではありません。

東芝は会計不正発覚後、約1年前に経営の3つの柱として「ストレージ」「社会インフラ」「エネルギー」を掲げましたが、「エネルギー」は原発事業の大規模損失、「ストレージ」は半導体事業の売却により、早くも2つの柱を失ってしまうことになります。

既に家電や医療部門も売却してしまっていることから、残された柱はエレベーターや空調などの社会インフラ部門だけです。この部門は決して高収益とは言えないものの、ストック型のビジネスであり、安定した収益を生み続けます。浮き沈みの激しい半導体部門とも違い、私が評価しているところです。

問題の解決にはまだ半年以上を要すると見られますが、一段落してまだ上場しているようであれば、その時に改めて投資対象として検討したいと思います。

つばめ投資顧問は相場変動に左右されない「バリュー株投資」を提唱しています。バリュー株投資についてはこちらのページをご覧ください。記事に関する質問も受け付けています。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年2月19日)

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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