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米国株を空売りする天才アインホーンは「成長の罠の罠」に敗れるのか?=東条雅彦

著名投資家のデイビッド・アインホーンが気になる発言をしています。「バリュー株投資の有効性を疑いはじめた」「笑われるのは自分たちかもしれない」という弱気な内容です。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

もうバリュー株投資はオワコンなのか? FANG銘柄の売りで大損失

戸惑いを隠せないデイビッド・アインホーン

デイビッド・アインホーンは、ウォーレン・バフェットを敬愛していることでも知られ、過去にはバフェットと昼食をともにする権利を約263万ドルで購入したこともあります。

ただ、投資スタイルはバフェットとは少し異なります。バフェットが「買い」であるのに対して、アインホーンは「買い」だけではなく「売り」も行い、積極的に空売りを活用することでも知られています。

2008年、リーマン・ブラザーズの会計処理に疑義をいだき、いち早く空売りを実行してそれを公表しました。当初はメディアからもほとんど相手にされませんでしたが、その後、リーマン・ブラザーズが大きく減損処理を実施して最終的に経営破綻に追い込まれたことで、アインホーンの分析力や先見性の高さが明らかとなりました。

そんなアインホーンが最近、少し気になる発言をしています。以下に2017年10月25日のブルームバーグの記事を引用します。

バリュー(割安)株投資で有名なヘッジファンド運用者デイビッド・アインホーン氏は、この投資戦略がまだ実行可能なのか疑問を抱いている。

アインホーン氏は24日に投資家向け書簡で、グロース(成長)株がバリュー株をアウトパフォームする状況に不満を漏らし、投資家は株式の価値を考慮する際に明敏に判断しているのか疑問を呈した。

アインホーン氏はグリーンライト・キャピタルの顧客に宛てた書簡で、「今の動きの根強さを見ると、バリュー株投資が実行可能な戦略なのかという疑問につながる」と指摘。「型通りの直感」ではこのサイクルは転換間近に違いないと考えられるが、実際にそうなるのかどうかは分からないと述べた。

ブルームバーグ・ニュースが閲覧した同書簡でアインホーン氏は「何年も向かい風が続いた」とした上で、「株式の評価に恐らく本当に新しいパラダイムが出てきたのだろう。笑われるのは自分たちかもしれない。時がたてば分かる」と付け加えた。

出典:アインホーン氏:バリュー投資家に戸惑い-株評価に新パラダイムか(2017年10月25日配信)

アインホーンは明らかに現在の株式市場に対して懐疑的になっています。ハイテク企業などのグロース株が必要以上にもてはやされており、バリュー株が以前のように評価されなくなりました。

「新しいパラダイムが出てきたのだろう」と語る一方で、「やっぱりこれはオカシイのではないか!?」と思っているのでしょう。

Next: アインホーンも戸惑う、現在の株式市場の「異常性」とは?



現在の株式市場の「異常性」とは?

アインホーンが最近のグロース株に警戒感を露わにするのも理解できます。シーゲル博士の著書『株式投資の未来~永続する会社が本当の利益をもたらす』(P88)にもハッキリと「3桁のPERは避けよ」と書かれています。

そして、同書には高成長企業に投資する危険性について解説されています。シーゲル博士は「成長の罠」と表現して、グロース(成長)株には既に将来の成長が株価に織り込まれているため、投資家に大きなリターンをもたらすことはないと結論づけました。おそらくアインホーンも「成長の罠」を信じているがゆえに、近年のグロース株の高リターンに首を傾げている状態だと推測します。

以下のグラフは、バンガードのVTV(バリュー株)とVUG(グロース株)のリターンを比較したものです。

<バリュー株 VS グロース株(2004/2/6~2017/12/8)>

リーマンショックが起きる2008年以前は、バリュー株の方がハイリターンでした。ところが、リーマンショックを境にだんだんとグロース株がバリュー株をアウトパフォームするようになっています。さらに、直近1年で見ると、圧倒的にグロース株が大勝ちしている状況です。

<バリュー株 VS グロース株(2016/12/13~2017/12/11)>

そして、今年のS&P500の上昇分の20%以上は、FANG(Facebook、Amazon、Netflix、Google)の4社の株価上昇によってもたらされたリターンになっています。500社のうち、たった4社だけに資金が集中しているのはどう考えても異常事態です。

アインホーンだけではなく、グロース株の狂乱相場が終わって、バリュー株の相場がやってくるはずだと固く信じている投資家は多いはずです。

しかし、それはわからない。アインホーンですら、「笑われるのは自分たちかもしれない」と付け加えて、予防線を張っています。

Next: グロース株(成長株)の大暴落を予想するアインホーンの根拠とは?



グロース株(成長株)の大暴落を予想するアインホーン

アインホーンが最近、手がけている取引はグロース株の空売りです。米ネット通販大手アマゾン・ドットコム、米映像ストリーミング配信大手のネットフリックス、米電気自動車大手のテスラの株に売りを仕掛けてきました。

2017年8月にアマゾンが米生鮮スーパー大手ホールフーズを買収した際には「アマゾンが競合を潰せても、そうした競合の得ていた利益を横取りできるとは限らない」と、否定的な見方を示していました。

ところが、アマゾンは11月15%、通年で50%以上の上昇を見せて、アインホーンはコテンパンにやられています。さらにネットフリックス株も11月に+8.7%、通年で60%以上、上昇しており、とても好調です。唯一テスラだけが11月に5%下げましたが、通年では50%以上も上昇しています。

これらのグロース株は暴落しそうで、なかなか暴落しません。アインホーンの予想が当たる日が来るのでしょうか?

確かにアインホーンの予想が当たりそうな局面は何回かありました。しかし、ある程度、下げると、すぐに「買い」が入っている状況が続いています。こういう時は「売り」で入るのは危険だと思います。

アインホーンが売っている銘柄の共通点

アインホーンが売っていた銘柄「アマゾン(AMZN)」「ネットフリックス(NFLX)」「テスラ(TSLA)」の3社には次の共通点があります。

共通点1:高成長率
共通点2:高PER

次の表はアマゾン、ネットフリックス、テスラの売上高成長率になります。どの企業も年間30%程度の成長を記録しています。

<アマゾン、ネットフリックス、テスラの売上高成長率>

そして、これらの企業はいずれも損益計算書に記載されている純利益をほとんど計上していません。純利益は売上高から費用を差し引いた金額です。

<計算式>

売上高 - 費用 = 純利益

売上高が上昇していても、費用も連動して増やした場合、純利益はほとんど残りません。成長企業の場合、自社ビジネスへの投資を優先して費用を増やすため、手元に利益が残りません。そのため、PERで見ると「超・割高」になります。

<計算式>

株価 ÷ 1株あたり純利益 = PER

<アマゾン、ネットフリックス、テスラのPER>

アマゾンとネットフリックスのPERは3桁以上です。そして、テスラに至っては万年赤字の会社なので、PERを求められません。

シーゲル博士の教えに厳格に従うのなら、この3社は投資してはいけない株だと言えるでしょう。アインホーンの目から見ても、異常な光景に映っているはずです(いや、実際に「異様」だと思います)。

Next: アインホーンが恐れる「新しいパラダイム」とは?



アインホーンが恐れる「新しいパラダイム」とは?

アインホーンは「新しいパラダイムが出てきたのだろう」と発言しています。一体、この「新しいパラダイム」とは何を指しているのか?

私の考える「新しいパラダイム」は次の通りです。

第4次産業革命(AI革命)が起動し始めている
 ↓
・国境を超えて事業を拡大するハイテク企業の成長が止まらない
 ↓
・まるでベンチャー企業を評価するように、純利益よりも営業キャッシュフロー売上高に力点をおいて財務的な評価を行わざるを得なくなってきた

成熟企業の場合は純利益で評価できますが、ベンチャー企業を評価する際には「純利益」は使えません。

アマゾン、ネットフリックス、テスラ等の企業は、生まれたての「ベンチャー企業」のような資本政策を採用しています。つまり、純利益を出すことよりも事業拡大を優先しているのです。

そして、テクノロジーを武器にしている企業は国境を超えて、全世界の市場を同時並行で開拓しています。そのため、企業のライフサイクルの「成長期の期間」が異様に長くなってしまっています。以下の図はそのイメージです。

実際に、アマゾンの成長がいつまで続くのかを正確に予想できるアナリストはいないでしょう。

シーゲル博士は「成長株には既に将来の成長が株価に織り込まれている」ことが多いという事実を捉えて、「成長の罠」だと定義していました。そして、成長期に投資を開始した投資家は、その企業の成長力が衰えて、成熟期に移行したタイミングでメッキが剥がれ、株価が暴落してしまいます。そして、「あんなにスゴイ成長力を誇っていたのに…なぜ? 投資しなければよかった」と後悔するケースが多かったのです。

ところが、最近では成長株に投資している投資家自身が、「あれ? 事業も株価も一体、どこまで伸びるの?」と逆に驚くような状況になっています。

「成長の罠」の罠とも呼べる現象が巻き起こっているのです。

Next: 異変はやはり「リーマンショック」以降に起きていた



ベンチャー企業の評価手法を使うと、どうなる?

先程のアマゾン、ネットフリックス、テスラのPSR(株価売上高倍率)は、次のように推移しています。

<アマゾン、ネットフリックス、テスラのPSR>

PSRは「株価が1株あたり売上高の何倍で推移しているか」(計算式:PSR=株価÷1株あたり売上高)を示す指標です。事業規模を示す1株あたり売上高よりも株価が大きく上昇していた場合、「バブル」の可能性がとても高いと言えます。

上記3社のPSRは意外にも「今が特別に高い」という状態ではありません。確かに株価を見ると、これらの3社は一本調子で伸びていて、S&P500を大幅にアウトパフォームしています。

ところが、PSRは大幅に上昇していません(※:黄色、水色、紫色の網掛け部分を参照)。単に事業拡大に合わせて株価が上昇している状況が、長期に渡って続いているだけとなります。

異変はやはり「リーマンショック」以降に起きていた

21世紀型のグロース株が市場平均を大幅にアウトパフォームし始めたのは、2008年のリーマンショック以降となります。そして、グロース株が大幅に上昇し始めたのが2013年を過ぎたあたりからです。

先程の3社とS&P500のパフォーマンスを比較したグラフが次の通りです。

<アマゾン VS S&P500>

<ネットフリックス VS S&P500>

<テスラ VS S&P500>

アインホーンがこれらのグロース株を売りたがる理由もわかるような気がします。

もう5年以上もグロース株がS&P500をアウトパフォームし続ける異常事態が続いています。いつか暴落するのでは!?と予想しても、何も不自然ではないと思います。

しかし、前述の通り、21世紀型グロース株は期待だけで株価が上昇しているのではありません。売上高という事業実態が伴っています。

アインホーンのグロース株暴落の予想が的中するかどうかは、事業が不調になるという条件が加わらないとなかなか難しいと私は感じています。

逆に、もし業績とは無関係に株価が暴落するのなら、長期投資家にとっては「絶好の買い場」となるでしょう。

アインホーンの予想が正しいのかどうか、それはもう少し未来にならないと、わかりそうにありません。

Next: まとめ:21世紀型グロース株に見る「成長の罠の罠」



まとめ

【1】
アインホーンの予想が外れ続けているのはある意味、異常事態である。新しいパラダイムが出てきていることは確かである。

【2】
20世紀型グロース株:成長の罠
21世紀型グロース株:成長の罠の罠

【3】
21世紀型グロース株は国境を超えて、全世界の市場を同時並行で開拓していくため、「成長期」が異常に長い。実際にいつまで高成長が続くかは、現時点では誰にもわからない。

【4】
アインホーンが売りだと明言しているアマゾン、ネットフリックス、テスラのPSRは過去3年間、ほぼ同じ値で推移している。株価だけを見ていると、一直線に上昇していて、一見、割高に見えるが、業績も歩調を合わせながら拡大している。これが21世紀型グロース株の1つの特徴になっていて、事業の拡大というファンダメンタルズ要因が株価を下支えしている。

【5】
アインホーンのように、産業革命中にグロース株に対して「売り」で入るのは超リスキーな行為である。

追伸:これは私の「個人的な意見」です。ただし、アインホーンの投資姿勢そのものはとても素晴らしいと感じます。株式市場では常に「少数派」が勝ちます。だから、周りから笑われるぐらいのことをやっている投資家の方が、後から「大勝利」を手にしている…こういう場面を何度も見てきました。だから、全否定するつもりはありません。むしろ、尊敬しています。

image by:YouTube

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2017年12月17日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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