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外国人の日本株売り崩し、まもなくスタート? 合図は米税制改革法案の成立か=E氏

外国人投資家が売り越しに転じて約1ヶ月。今、日本株を高値で買い越しているのは本邦投資家です。ずっと売り越してきた国内勢が耐え切れず買いに転じたところが株価のピークというケースは過去にもありましたが、今回もそのパターンになる恐れがありそうです。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

プロフィール:E氏
国内大手生保、ゴールドマン・サックス、当時日本最大のヘッジファンドだったジャパン・アドバイザリーでのファンドマネージャー経験を経て、2006年に自らのヘッジファンドであるINDRA Investmentsを設立し国内外の年金基金や富裕層への投資助言を開始。2006年10月からのファンド開始後はリーマンショックや東日本大震災で、期間中TOPIXは5割程度下落した中で、6年連続のプラス(累積30%)のリターンを達成。運用歴25年超。

年明け前後は下方サイドに波乱含み。円高・株安のリスク大きく

米FOMCを通過して見えてきたシナリオ

米連邦準備理事会(FRB)は、13日まで開いた連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.25-1.50%に0.25%ポイント引き上げることを決定しました。利上げは今年6月以来で、今年3回目となります。

また、10月から開始している保有債券の売却(保有債再投資の縮小額)は、来年1月以降米国債が月額120億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)が同80億ドルに拡大すると明らかにしています。

これら、今回のFOMCで決定された内容はほぼ全てノーサプライズです。9月のFOMCにおける見通し及びそれ以降のFOMCメンバーによる発言などで説明されていた内容と全く変更がないので想定内です。

例えば、来年以降の利上げの見方に関しては、2018年と2019年はそれぞれ3回ずつ利上げが実施されるとの見通しを示していますが、これは今年9月のFOMC時の見方と同様ですし、保有債券の売却額拡大の次期についても予定通りとなっています。

従って、サプライズのない結果だったのですが、マーケットはサプライズ的な反応を示し、FF金利先物はやや上昇、米国債利回りは低下、ドルは急落という動きになりました。

本日はこういったマーケットの反応がなぜ生じたかということと、今後の見通しについて書いてみたいと思います。

直近のドル円と金利から分かること

まず、ドルが下落し、米金利が低下したのは、9月以降のマーケットが過剰な利上げ期待を織り込んでいたからです。冒頭で書いたように、9月のFOMCで、年内あと1回、来年の利上げ回数は3回というフォーキャストが出ていたのに対し、マーケットはそれ以上の利上げを織り込み始めていました。

具体的には、FF金利先物12月限は年内15bps以上の利上げを織り込む動きになり、来年末のFF金利先物は3回以上の利上げを想定するように短期金利先物が下落していたのです。

イエレンFRB議長を始めとするFOMCメンバーは9月以降、利上げを加速させるような表現を使ったことがなく、相変わらず「従来どおりの緩慢なペースでの引き締めが望ましい」と発言していたわけですが、にも関わらず、マーケットがタカ派的な反応を予想していたのは、恐らくですが、この1年でFOMCメンバーの見方がタカ派に傾いてきたからでしょう。

つまり、FOMCメンバーが慎重に過ぎるので、日を追うごとにタカ派的な見通しに変わるはずだという期待感があったからだと思われます。

しかし、出てきた声明や会見でのイエレンFRB議長のコメントは、9月のFOMC時と全く変わらない内容だったばかりか、今回の利上げに2名のメンバー(ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁とシカゴ連銀のエバンス総裁)が反対票を投じたので、予想外にハト派のメンバーが多いことで、先行きの利上げペースの見方の修正を迫られたわけです。

もっとも、両総裁は前からハト派的発言をしていたので、反対票を投じたのはサプライズではありませんが、個別の総裁の発言経緯を無視して、勝手に利上げ期待を高めていたマーケットには予想外にハト派の内容と映ったのです。

つまり、FOMCメンバーは従来から市場との対話を丁寧に行っており、従来の見通しとなんら変わらない決定をしたが、FOMCの見方以上のタカ派修正と勝手に暴走していたマーケットが軌道修正を迫られたわけです。

この軌道修正の結果、短期金利見通しの修正は大方終了しましたので、これ以上の短期金利低下はないでしょう。一方、長期金利は目先の金融政策以上に経済対策などによる期待インフレ率の変化の影響が大きく、現在は税制改革法案に対する期待感が強いため、米10年債利回りは調整未了感、即ち金利低下余地が依然として残っています。

ただ、これも法案が通れば材料出尽くしになる可能性が高いです。というのも、税制改革法案による経済成長率押し上げは現時点で最大限に織り込まれている一方で、税収減による財政悪化というネガティブな側面はほとんど考慮されていないからです。

財政悪化になれば、米債発行のニーズの高まりに伴う需給悪化懸念から、FRBの保有債券売却スケジュールは予定通り進まなくなる可能性が高まるので、想定より引き締めスピードが遅れることによって通貨ドルは下落しますし、金利も低下すると見込まれるからです。

つまり、現在は税制改革法案のポジティブな面を最大限に評価したことによる長期金利上昇とドル上昇を織り込んでいる一方で、税収減というネガティブな面をスルーしたことで、ドル下落リスクなどをほとんど織り込んでいない状況なのです。

Next: 強まるドル安・円高圧力。リスクオフの下地は完成しつつある



米国株は調整不可避? ドルは再び下落トレンドへ

通常、こういったイベントは、決定までは期待のみを織り込みますが、決定後はネガティブな側面を織り込みに行くため、税制改革法案が通った場合でも、材料出尽くしで米金利は低下しやすく、ドルは9月上旬までの下落トレンドに戻りやすいといえます。

一方において、米国株はFOMC前後でほとんど変化がなく堅調に推移していますが、それはこのところ米国株は金融政策を無視して過剰な期待感を持ち続けているからです。

期待感と言っても、その時々で主役は変わり、昨年の大統領選でトランプ氏が当選した直後数ヶ月はトランプ氏の積極的な財政政策や保護主義的な政策で、将来的に企業収益が底上げされるという期待感で上げ、その後は減税期待やハト派的な金融政策見込みで上げ続けるという具合に、その都度都合が良い解釈をしながら好感する材料を乗り換えて今に至っています。

当然、この1年でネガティブな材料も多く出ており、トランプ期待が消失してもおかしくないロシアゲートや、ハト派的な金融政策期待を打ち砕くような強い経済統計、大統領選挙選で期待を持たせたマニュフェストの多くが実現しなくても、ポジティブ視する材料を都合よく乗り換え続けてきました。

今回の税制改革法案は株式市場に関係する政策としては初めて通る法案といっても良いので、未だ金融政策を無視し期待が続いているのでしょうが、法案が成立したあとも上げ続けるかどうかは疑問です。それは先ほど書いたように、現在は税制改革法案のポジティブな面しかマーケットは見ていないからです。

そもそも、この1年相次いで利上げされたにも関わらず、米国株はほとんど反応しませんでしたが、資本市場の過熱を冷ますためにも引き締めをしている以上、過去引き締め時も株価が持続的に上昇したことはありません

特に、この10月からは過剰流動性相場の原動力だったドルの回収を行っている他、欧州ECBの量的緩和も縮小に向けて動き出そうとしている以上、今後は株式市場に流入する超過マネーが減少し、引き締めによってリスク許容度が上昇していくため、株価は下落すると考えられます。

このように、今回のFOMCは税制改革法案の成立に向けた期待感が高まっているピークで決定された内容なので、材料出尽くしによるリスクオフへの調整が遅れていますが、法案が成立すれば早晩従来どおりにネガティブな側面も着目されていくでしょうから、徐々に金利低下、ドル低下、米国株調整というリスクオフ的な反応になっていくでしょう。

Next: 外国人投資家が日本株を売り崩してくる可能性は十分



2014年初頭の売り崩し相場が再来?

最後に日本市場の見方ですが、税制改革法案後にドル安が進みやすく、米株式も調整しやすいということを考えると、日本円は上昇しやすく、日本株はリスクオフに向かいやすいでしょう。

9月下旬からの日本株の急上昇を演出した外国人投資家の歴史的な買いは既に売り越しに転じて1ヶ月程度が経過しています。その代わりに、高値で本邦投資家が買い越しているのですが、この結果、先週時点で外国人投資家の先物ロングはかなり解消されています。

一方の現物は、9月以降に買い越しした半分程度しか売っていませんが、法案成立となって出尽くしになれば一気に売りを増やす可能性は高いと思われます。

外国人が高値まで買い上がり、ずっと売り越してきた国内勢が耐え切れず買いに転じたところが株価のピークというケースは、直近では新興国通貨危機で日本株が14000円まで暴落した2014年初頭がありますが、当時も外国人売りで調整する日本株を国内勢が押し目買いとばかりに必死に買いまくって、お腹一杯になってから新興国危機で急落したのです。

今回は当時より2ヶ月ほど、外国人の買いや売りのスタートが早いので、国内勢がふんだんに買い支えするのもまた早くなっています。このペースで外国人が売り続けると、恐らく年内にはロングは処分し終え、高値で国内勢に付け替えることに成功するので、以降の日本株を買い上げる主体はいなくなります

そうした中で、税制改革法案成立による出尽くしや金融引き締めによるリスクオフで世界的に株価が調整した場合、2014年初頭の危機同様の動きになるリスクは十分にあります。

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元々米国主導の株価上昇であり、日本固有の上げ要因がなかった以上、本邦投資家はここから買い上げるだけの確信を持ち合わせていません。確信を持って売り続ける主体に対し、安く拾うことしかできない投資家が押し目を拾い続け、十二分に買ったあとに起こることは売り崩ししかありません。

既に株価下落の兆しになりうるネガティブな金融政策や地政学的リスクが山積している以上、年明け前後からの日本株は下方サイドに波乱含みと言えるでしょう。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年12月20日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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