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【新春展望】2018年金融市場は「ビットコイン」と「日銀」が波乱要因に=近藤駿介

巷の2018年相場見通しは「強気」が主流となっている。しかし新年を迎え、投資家がまず肝に銘じるべきは、今年が「もはや2017年ではない」ということだ。そして、世界中でこれを最も強く意識しなければならないのは、他でもない日本人投資家である。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

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プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

「去年とは全てが違う」ことを痛感する1年に? 2018年市場展望

戌年のキーワードは「もはや2017年ではない」

「アメリカ・ファースト」を掲げ、世界が期待する「アメリカの品格」とは正反対に内向きになっていったトランプ大統領のアメリカ。2017年は、国内的にも主要公約をほとんど成立させられずにメディアから批判を受け低支持率に喘ぎ続けたのは周知の通り。

しかし、その「批判を受け続けたトランプ大統領就任1年目」の株式市場は、メディアが繰り返した批判が的外れ、フェイクニュースであることを証明しようとしているかのように史上最高値を更新し続けた。

そして、トランプ大統領はクリスマス休暇直前に最重要公約であった税制改革法案を成立させ、株式市場を史上最高値に導き2017年を締めくくってみせた。

トランプ政権にまつわる疑惑や政治手法に対する懸念、FRB(連邦準備制度理事会)による利上げバランスシート縮小政策など逆風をものともせずに史上最高値を更新し続けたことで、「空売り戦略」を採用するヘッジファンドの中には解散や大幅な資金流出に見舞われ、退場を余儀なくされるところも出ている。それと共に「弱気派」は影をひそめ、「強気派」が幅を利かせるようになってきた。

「強気派」の勢力が強まってきたことで、2018年の金融市場に対する見通しも「強気」なものが主流となっている。

しかし、2018年の金融市場のキーワードが「もはや2017年ではない」になる可能性があることは頭の片隅に置いておくべきだ。

株式市場をリードするビットコイン

2017年は、年間を通して世界の株式市場が好調であった。しかし、株式市場を遥かに上回る上昇を見せたのはビットコインを中心とした仮想通貨である。2016年末に11万円程度であったビットコインの価格は、12月半ばには年初の20倍となる220万円を上回る水準に達する急騰劇を演じて見せた。

ビットコインのこうした急騰劇によって、仮想通貨で1億円以上の資産を得た「億り人(おくりびと)」がメディア等で取り上げられるようになったが、もし「もはや2017年ではない」というキーワードが現実のものになるとしたら、それを真っ先に痛感するのはこうした人たちかもしれない。

ビットコインの急騰劇に対して「バブルである」との警告を発する専門家たちもいる。しかし仮想通貨に限らず、バブルであるかの判断基準は必ずしも価格ではない。より重要なのは、市場価格を押し上げている資金が持続性を持ったものなのかどうかである。

価格を押し上げている資金が持続可能ではない一時的な資金であった場合には、近い将来それが途切れることで結果的に「価格」は大幅に下落することになる。そしてこうした短期間に起きる価格の急騰・急落劇が専門家たちによって「バブル」と呼ばれるようになるのである。つまり、「バブル」だから価格が急落するのではなく、価格が急騰・急落するから「バブル」と呼ばれるようになるということである。

では、2017年の11月から勢いを増したビットコインの価格急騰は、一時的な資金の流入によって押し上げられたもので、近い将来「バブル」と呼ばれる状況が訪れるのだろうか。

おそらくその答えは「YES」である。

Next: ヘッジファンド「最後の賭け」仮想通貨相場の需給で占う2018年



ビットコインはなぜ昨年11月から上昇したのか?

注目すべきは、ビットコイン価格の上昇が勢いを増していったのが11月からであったという「時期」の要素だ。

ある市場をバブルであるというためには、そのタイミングで一時的な資金が市場に流入し価格を押し上げる必然性が存在したことを論理的に説明できなければならない。巷の「価格が割高に買われるのがバブルだ」という主張に欠けているのは、なぜその時期にバブルが発生し、そして崩壊したかという時期的な説明がないからである。

さて、ビットコインが上昇基調を速めたのは11月に入ってからで、同じ時期に米国株式市場も上昇基調を強めはじめている。では、なぜ11月から米国株式市場やビットコインは上昇基調を強めたのだろうか。

こうした市場の動きを演出した「陰の功労者」はトランプ大統領である。トランプ大統領誕生以降、米国株式市場は次から次に現れる悪材料にも関わらず上昇基調を崩さず、NYダウはクリスマスを控えた22日時点までで昨年末比25%強上昇してきている。

政権にまつわるスキャンダルも多く支持率も低迷し、地政学リスクを煽っているかのような言動を繰り返すトランプ大統領の姿勢は、本来「政治の安定」を望む市場から歓迎されるものではなく、投資経験豊富な投資家にとって「空売り」の採用は理に適った戦略であった。

しかし、こうした投資経験豊富な投資家が採用した「空売り戦略」は、トランプ大統領誕生という「悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち」続けた株式市場には通用しなかった。その結果「空売り戦略」を採用した投資家の一部は、市場からの退場を余儀なくされることになった。

ヘッジファンドの敗戦処理と「最後の賭け」

「空売り戦略」を採用するヘッジファンドの多くは11月から12月に決算を迎える。従って、市場からの退場圧力を受けているヘッジファンドは、それまでに保有資産の現金化を迫られることになる。その過程で「空売り」されていた銘柄、株価指数には上昇圧力が加わることになる。

11月に入り米国株式市場が上昇基調を強めてきたのも、こうした「空売り戦略」を採用してきたヘッジファンドによる敗戦処理があったからだと考えると筋が通る。

その一方、「空売り戦略」を採用してきた投資経験豊富なヘッジファンドは、単純に損失を確定していくほどお人好しな投資家ではない。決算までの短い期間で少しでも損失を取り戻そうと考えるのが普通である。

決算までの短い期間内で損失を少しでもカバーすることを目論んでいた投資家が、12月からCBOE(シカゴ・オプション取引所)とCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)で先物取引がスタートすることで注目を集めていたビットコインに目を付けるのは自然な流れだ。

ビットコインが11月から騰勢を強めたのは、トランプラリーによって市場から退場圧力を受け敗戦処理を迫られた投資家が、短期間で損失を埋め合わせられる可能性に賭けて参入したからだといえる。

Next: 最も傷付くのは日本。ビットコイン先物の低調が示唆するリスク



「ビットコイン先物」の低調が示唆するリスク

注目されていたビットコインの先物取引であるが、12月17日にスタートしたCMEでのビットコイン先物取引は低調な滑り出しとなり、それを反映した形でビットコイン現物価格も取引開始の12月17日を高値にその後は下落に転じた

先物取引が低調になった理由としては、証拠金の高さなど使い勝手の悪さが指摘されている。しかし、CMEビットコイン先物取引が低調なスタートを切ったという事実は、先般のビットコイン急騰劇がトランプラリーによって退場を迫られたヘッジファンド等による「断末魔の叫び」であった可能性が高いことを示すものである。

米国の金融市場はクリスマス休暇に入るため、それまでに売買を完了しておかなければならない。クリスマス休暇前の17日にビットコインが高値を記録した背景には、こうした時期的な問題があったと考えるべきである。

ビットコインの今後については、仮想通貨の将来性を高く評価し、今後も上昇するという意見も強い。確かに今後、仮想通貨が金融の一端を担う手段になっていく可能性は高いだろう。しかし、それはこの2カ月間の「ビットコイン価格の急騰」とは直接的に関係はない

この2カ月間の「ビットコイン価格の急騰」は「2017年の出来事」であり、今後もビットコイン価格が上昇していくことを示唆するものではない。

「もはや2017年ではない」

新年を迎えた投資家が、まず肝に銘じなければならないのは、こうしたことかもしれない。

ビットコイン市場でバブルがはじけたとしても、それがリーマン・ショックのような世界的な金融危機を引き起こす可能性は低い。ビットコイン市場は金融危機を引き起こすにはあまりにも小さいからである。

しかし、ビットコイン市場での円建て取引が4割前後を占めていることを考えると、ビットコインバブルが崩壊した場合に最も傷付くのは日本である可能性は否定できない。

Next: もう1つの「もはや2017年ではない」日銀が市場の最大リスク要因に



追い詰められる日銀

そして、ビットコイン市場と同様に「もはや2017年ではない」という動きを見せそうなのは日本銀行である。こちらは、金融市場に大きな衝撃を与えかねないパワーを秘めている。

2017年のトランプ相場の中において、日銀の存在はほとんど消えていた。実際にFRBは2017年に3回の利上げに加えバランスシート縮小にも踏み切った。そして2018年2月に任期を迎えるイエレンFRB議長の後任問題も大きな注目を浴びた。

そしてECB(欧州中央銀行)も量的緩和の規模の縮小を着実に進めており、市場の関心はいつ利上げという次の段階に進むのかに集まり始めている。

このように欧米の中央銀行が着実に金融緩和の「出口」に歩を進めている一方で、日銀は2017年に全く動かなかった

こうした日米欧の中央銀行の動きに関して注目すべきなのは、FRBとECBが2%という物価目標に届かない時点で「出口」に向かって進み始めたのに対して、日銀は2%の物価安定目標に届かない状況下での「出口論」は時期尚早だとして拒否し続けたことである。

黒田日銀が頑なに「出口論」を拒否するのは、「出口論」を口にすることで異次元の金融緩和の終了を市場に意識させ円高・株安を招く危険性が高いことや、政府日銀が政策目標として掲げ続けている「2%の物価安定目標」を達成するための手段として、異次元の金融緩和という将来にツケを残すリスキーな政策手段が有効なものなのかという批判を避けたいからである。

しかし、2018年に入ると日銀はこの「出口論」を先送りすることができなくなってくる。それは、黒田日銀総裁の任期が4月に迫っているからである。

黒田総裁が続投するにしろ、新総裁が誕生するにしろ、異次元の金融緩和に対する検証と評価を求められることは必至である。実際に、次期日銀総裁の有力候補の一人は、Bloombergのインタビューで「総裁・副総裁の任期が来春に迫ってもデフレ脱却への成果が出ておらず、日銀執行部の退任は当然だ」と指摘するとともに、物価上昇の水準を考えると、なぜ「続投できるのか」「レジーム(体制)を再構築しない限り、デフレから完全に脱却することは無理」と厳しい発言をしている。

つまり、「2%の物価安定目標」の実現までにはなお距離があるという理由で「出口論」を先延ばしすることはできない状況が、近いうちに訪れてしまうのである。

仮に黒田総裁が続投することになったとしても、「2%の物価安定目標」を達成できる見込みが立たない異次元の金融緩和を続ける理由などについての納得できる説明を求められることになるはずである。

Next: 波乱要因は日銀、最も影響を受けるのは日本人投資家



波乱要因は日銀、最も影響を受けるのは日本人投資家

世界の金融市場は「出口に向かう欧米」と「出口論すら拒否する日銀」という構図になっている。こうした環境下で誘発されるのは、円を「調達通貨」とした「円キャリートレード」である。

キャリートレードにおける「調達通貨」に必要なのは、金利が上がらないことと通貨高にならないことである。

もし、黒田総裁の任期問題とともに異次元の金融緩和の「出口論」が湧き上がり、日銀も「出口」に向かって歩を進めることになれば、「円キャリートレード」の必要条件が失われることになる。

すでに利上げを実施しているFRBや、近い将来の利上げが視野に入ってきているECBと比較すれば、日本で始まるであろう「出口論」は、いつ量的緩和の規模拡大を止めるかという段階であり、その格差は依然として大きく、そのこと自体がすぐに市場に混乱をもたらすとは限らない。

しかし、「出口に向かう欧米」と「出口論すら拒否する日銀」という構図が崩れていくことで、投資資金の流れに影響が及ぶ可能性は高いと考えておくべきだろう。こうした金融市場の構図を崩す要因を作るのは日銀であり、こうした構図の変化が金融市場に影響を及ぼすとしたら、それは日本にとってネガティブなものである可能性が高いからである。

ゴルディロックス(適温)相場の終わり

FRBの次期議長がパウエル理事に決まった今、日銀総裁人事に対する注目度は自然と高まっていくことになる。そうした状況で異次元の金融緩和に対する議論が活発になっていくと考えると、2018年も日銀が「消え続ける」ことはできない。場合によっては、日銀が金融市場の撹乱要因として金融市場に「再登場」することになるかもしれない。

税制改革法案を成立させ、「減税」と「利上げ」というアメとムチ政策で2018年も持続的経済成長を目指すトランプ政権に対し、「増税」と「異次元の金融緩和の出口」という2本のムチを振るって持続的経済成長を目指すことになりそうな安倍政権。

日本と欧米の間で政策的乖離が広がる気配が出てきている中、日本の投資家は2017年に堪能した「ゴルディロックス(適温)相場」に2018年も浸り続けられるのだろうか。

ビットコイン市場において円建て取引が4割前後に達していることや、異次元の金融緩和に関する議論を先送りできない状況に日銀が追い込まれたことを考え合わせると、日本人投資家が「ゴルディロックス相場」に浸り続けられる時間はそれほど長くはないかもしれない。

「もはや2017年ではない」

世界の中でこのことを最も強く意識しなければならないのは、日本人投資家だと言えそうだ。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年1月4日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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