遺言書で財産を渡す相手は、配偶者や子など家族のほか、友人など戸籍上の他人も指定できます。では、遺言書で寄付をしたいと書けば、その内容は必ず実現するのでしょうか。(『こころをつなぐ、相続のハナシ』山田和美)
プロフィール:山田和美(やまだかずみ)
1986年愛知県稲沢市生まれ。行政書士、なごみ行政書士事務所所長。大学では心理学を学び、在学中に行政書士、ファイナンシャルプランナー、個人情報保護士等の資格を取得。名古屋市内のコンサルファームに入社し、相続手続の綜合コンサルに従事。その後事業承継コンサルタント・経営計画策定サポートの部署を経て、2014年愛知県一宮市にてなごみ行政書士事務所を開業。
事前の確認、遺言執行者の選定…遺言書を残す前にやるべきこと
実現するとは限らない「寄付したい」という遺言書
遺言書では、自分の死後の財産の行先を、ある程度自由に決めることができます。
遺言書で財産を渡す相手は、もちろん配偶者や子どもなどの家族でも良いわけですが、お世話になった友人などの戸籍上の他人も指定することができます。また、活動を応援したい団体や企業に対して、財産を寄付することも可能です。
では、遺言書で寄付をしたいと書けば、その内容は必ず実現するのでしょうか。
実は、遺言書で「寄付をする」と書いたことが、必ず実現されるとは限りません。遺言書に書いたところで、相手方(寄付先)に受け取る義務が生じるわけではないのです。
例えば、あなたが行ったこともないような遠い場所で、しかも価値が低く、使い勝手の悪い土地をあげると言われても、管理の手間などを考えると「いらない」という場合もあるでしょう。
同じように、せっかくの善意ではあっても、相手方にとっていらないものであれば、受け取ってもらえないのです。
多くの団体や企業では、ちょうど敷地を拡充したいときにその隣の土地を寄付されるといったような特別な事情のない限り、土地などの不動産は受け取りません。また、上場していない株などをもらっても困りますから、これも受け取らないでしょう。
受け入れてもらえる可能性が高いのは、現金や預金など、そのまま使える「お金」です。これであれば、そのまま使えるので、感謝してもらえるでしょう。
しかし、「お金ならすべての団体や企業が受け取ってくれる」のかと言えば、実はそうではありません。
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意外と多い、お金でも受け取ってもらえないケース
団体によっては、事務処理の負担や、受け入れたことによる税金面の負担、その他の不安等や運営の考え方などから、お金であっても受け入れない場合があります。
私は、遺言書の作成をサポートする際に「あの団体に寄付を考えている」という遺言者さまの希望を受けて、いくつかの団体や企業に確認したことがあります。ですが、その約半数が「ご厚意はありがたいのですが、受け取れません」との回答でした。受け入れない企業や団体は、意外と少なくないのです。
事前に確認をすれば遺言書を書く段階でわかりますので、寄付先を変えれば良いだけです。ですが、この確認を怠ると、実際に相続が起きてしまってから寄付を断られ、寄付する予定であった財産が宙に浮いてしまうことになります。そのため、団体や企業への寄付を希望する場合には、あらかじめ寄付先に受け入れる体制があるのか、確認されると良いでしょう。
実際にお金を動かす「遺言執行者」を指定する必要がある
また、寄付先の団体・企業が受け入れるといったところで、相続が起きた後、「自動的に」その団体にお金が振り込まれるわけではありません。遺言書の内容を実現するためには、実際に「誰か」が動き、遺言書の指定通りにお金を動かす手続きをする必要があります。
このように遺言書の内容を実現する責任者のことを、「遺言執行者」と言います。これは、専門家がなることもありますし、家族の中の信頼できる人を指定することも可能です。
遺言書で「遺言執行者」の指定がなければ、相続が起きた後で「誰を執行者にするか」という手続きが必要になり、いろいろと面倒です。特に寄付をする場合には遺言執行者は必須ですから、必ず事前に候補者と相談し、遺言書で指定するようにしましょう。
以上のように、企業や団体への寄付は、遺言書にただ希望を書いただけでは実現できない可能性があります。そもそも受け入れてもらえるのか、そして、実際に誰がその手続きを行うのか。それらをしっかりと確認してから、遺言書の作成されることをお勧めします。
『こころをつなぐ、相続のハナシ』(2017年3月8日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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