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日本の格差が固定する日。クレヒスで人生が決まる「スコア社会」の恐怖=岩田昭男

私はこれまで「クレジットカードによる格差社会」の恐怖について、多くの記事を書いてきました。今回はその観点から、非常に興味深いドラマ作品をご紹介しましょう。もしこれが日本で現実になったらと思うと、さすがにぞっとする内容です。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)

※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2018年1月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
岩田昭男の上級カード道場:http://iwataworks.jp/archives/12912

「クレジット履歴がなければ人間ではない」スコア社会の恐ろしさ

ドラマ『ブラック・ミラー』が示唆するディストピア

いまネットテレビが熱いといわれます。そこで、私も世界一規模の大きい「Netflix」と日テレの資本が入っている「Hulu」に入ってみました。

しかし、Huluは米国製の大味な作品ばかり。派手なドンパチがあって、やたらにマッチョな大男の悪人が大勢出てくるだけで、あまり面白くありませんでした。それにくらべると、Netflixのほうが大人の鑑賞に堪えるはるかにまともな作品が多いとわかったので、Huluはすぐに解約しました。

Netflixは、イギリス映画や豪州のものが多くてとても静かな印象です。イギリスの作品が多いとこうも変わるのかと思うほどの違いでした。『ダウントンアビー』や『刑事モース』、『刑事フォレス』、アガサクリスティーの一連の映画、テレビドラマシリーズなどはどれもユーモアがあって洗練されていて、しかも、人情味があり、いずれも見終わった後で、とてもスッキリした気分になりました。

そんなわけで、面白い作品を求めてザッピングしていたら、凄いものを見つけました。『ブラック・ミラー』というイギリスのテレビドラマシリーズで、現在シーズン4まで進んでいます。

これは近未来のSFで、私が関心を持った理由は、シーズン3の最初の回が「ランク社会」というタイトルだったからです。

クレジット履歴で人生が決まる「スコア社会」との関連性

ここまで書いたらピンと来る人もいるでしょう。私はこれまでに、クレジットカードによる格差社会の恐さについて本を著したり、雑誌の記事を書いたりしてきました。それでこのドラマとはどんなものなのか、大いに興味をそそられたのです。

クレジットカードによる格差社会の到来とは、こういうことです。なんでもカードで買うようになってくるとカード履歴が蓄積されて、その人の経済状況がわかるようになります。さらに、それが進んでいき、個人の社会的な相対価値がわかるようになれば、それが偏差値化するのです。これを米国では「クレジットスコア」といいます。

このスコア(偏差値)は、もともと金融機関やカード会社の要請によって作られたものです。個人の信用力を個別に測っていたのでは、時間がかかり手間がかかります。それを合理化するために個人信用機関が一括して偏差値を出すことになったのです。

クレジットスコアが良ければ人生バラ色、悪ければ地獄

例えば、この偏差値が高い人に対しては、住宅ローンの金利が低く設定されます。逆に偏差値が低いとローンの金利は高くなります。また銀行預金の金利は偏差値が低いと低くなり、偏差値の高い人の金利は高くなると言う具合です。社会の格差を、この偏差値が決める方向に働くのです。

この偏差値が社会問題になったのは「サブプライムローン」のときでした。サブプライムとは偏差値の点数が低い人たちのことで、だいたい500点以下の人がそれにあたります。簡単にいってしまえば、低所得者層の人たちです。逆に600点以上はプライムな人、すなわち最も重要な人といわれます。つまり富裕層のことです。

Next: 結婚や就職にも影響。クレジットスコアが格差社会を固定化する



クレジットスコアが招いた「サブプライム危機」

アメリカの金融機関は十数年前、市場拡大を目指してサブプライムの人たちにも無理矢理融資を行ないました。その結果、最初は順調に返済が行われていましたが、もともと貧しい人たちでしたから、返済が滞るようになり社会的な問題となってしまいました。

そして当時、全米第4位といわれた投資銀行のリーマン・ブラザーズが経営破綻し、これが引き金となって世界的な金融危機となり、大不況が襲ったのでした。このサブプライムローン破綻を招いたのが、実はクレジットスコアだったのです。

スコアが結婚や就職にも影響する

クレジットスコアはローンに利用されるだけでなく、例えば、結婚就職住居を探すときにも重要な目安となっています。それがいま、アメリカの格差社会を固定化する元凶として大きな問題となっているのです。

そんな背景があって、私は『ブラック・ミラー』シーズン3の第1話「ランク社会」を観たのですが、その内容は私の予想をいい意味で大きく裏切る近未来の寓話でした。以下に紹介しましょう。

<作品紹介>

ブラック・ミラー』(今回紹介する「ランク社会」は『ブラック・ミラー』の中の1つのエピソードです)
2017年、Netflixオリジナル作品
イギリスTVシリーズ
エミー賞受賞作品

<あらすじ>

■生活のすべてをスマホが支配する社会
主人公のレイシーは都会の企業に勤める若い女性です。日本と同じように彼女が住む街でも皆がスマホを使って生活しています。電話連絡はもちろん、買い物にも本人確認にもスマホが大活躍。スマホがなければ生きていけません。

■他人を評価する手段としてスマホが使われている
ただ、この街の特徴は、通信、決済、本人確認の手段の他にも、他人を評価する手段として、スマホが使われていることです(むしろこちらの方が主流となっている)。仕事で誰かが手柄を上げると、周りのみんなが一斉にその人に「Good(いいね!)」を送ります。

ポケモンGOのようにスマホを向けてタップすると相手のスマホに「Good」が送られる仕組みです。「Good」は最大で星5つ(気分に応じて星の数を調整できる)で、評価してくれた人の数や星の数で、総合点数が出る仕組みです。

「Good」の評価だけでなく、「Bad(ださい!)」の評価もつけられるので、ダサイ服装で街を歩いていると、すれ違う人たちが次々「Bad」をつけてきて、自分の持ち点がどんどん減っていきます。

■仕事でも、レジャーでも、買い物でもスコアがつけられランキングされる
というように、この街の人々は皆スマホに点数を持っていて「Good」「Bad」を付けあって暮らしています。そして、獲得した点数でその人の評価が決まります

5点満点のうち、4.5点以上あると、セレブ・素晴らしい人となり、4.4から3.5点までが普通、3.4から3点が危ない傾向、2.9以下が人間以下・一緒に暮らしたくない人たちとなります(クレジットスコアが経済的な側面での評価だったのに対して、こちらは経済的側面も含めて、毎日の行動や貢献なども評価されるので、気を緩める暇もない社会といえます)。

■スコアで個人の幸せが決まる恐ろしい社会
このような序列がしっかりとできています。そして、上にいくほど、生活で優遇を受けることができます。逆に点数が低いと優遇が少なくなります。結果的に低得点だと生活困窮になる可能性が高くなります。

それでも、点数を上げれば上に行くことができると考えられているので、誰もが点数稼ぎに必死になっています。

Next: 現実にある「クレジットスコア社会」がモデルになっている



現実にある「クレジットスコア社会」がモデルになっている

<まとめ>

風刺の利いた佳作で、明らかに米国のクレジットスコア社会をモデルにした作品です。エミー賞受賞作品というのもうなずけました。

クレジットカードの使い方で点数を付けて社会的地位を決めるという仕組みが米国では完成しており、それが行き着くところまで行くとこんな社会になるということを予言する作品でした。

日本でも電車の中では多くの人がスマホを見てうつむいています。新聞を読んでいる人がいなくなってしまったことを考えると、アメリカやイギリス以上のスマホ社会が到来するのかもしれません。

すでにInstagramの「いいね!」の数に報奨金を出す企業が出てきているといいます。また、Instagramのフォロワー数が1万人という社員に月5万円のボーナスを出す小売りチェーン店も出てきました。

今後、日本のスマホ社会はクレジットカードで評価され、仕事や生活の仕方、考え方でも評価される時代が来るのではないでしょうか。

クレジットスコアのことを知っていた私には、まったく違和感がなく観ることができる作品でした。もしこれが日本で現実になったらと思うと、さすがにぞっとします。スマホがなくなったら生活できないという若いビジネスマンに、ぜひ見ていただきたい1本です。

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※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2018年1月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。1月15日配信の最新号「高還元率カードの次に来るものは?」もすぐ読めます。

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達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』(2018年1月1日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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世の中すっかりカード社会になりましたが、知っているようで知らないのがクレジットカードの世界。とくにゴールドカードやプラチナカードなどの情報はベールに包まれたままですから、なかなかリーチできません。また、最近は電子マネーや共通ポイントも勢いがあり、それらが複雑に絡み合いますから、こちらの知識も必要になってきました。私は30年にわたってクレジットカードの動向をウォッチしてきました。その体験と知識を総動員して、このメルマガで読者の疑問、質問に答えていこうと思います。ポイントの三重取り、プラチナカード入会の近道、いま一番旬のカードを教えて、などカードに関する疑問にできるだけお答えします。

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