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ドル円105円台タッチで感じた米国の「見えざる手」=江守哲

ドル円は一時105円台に触れました。相当の売り圧力が掛かっており、背景に政治的な匂いがします。ドル安にもっていかなければならない事情が米国にあるのでしょう。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2018年2月19日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

政治ファクターで動くドル円。2018年全体と2月の想定レンジは?

ドル円に強い売り圧力、一時「105円台」へ

ドル円は下げましたね。105円台を付けました。ここまで下げるとは考えられませんでした。というのも、2月の弱気シナリオのレンジ下限を下抜けているからです。それだけ弱いといえます。

米ドル/円 日足(SBI証券提供)

相当の売り圧力が掛かっていますね。背景に政治的なにおいがします。ドル安にもっていかなければならない事情が米国にはあるのでしょう。

日本サイドは動かすことができませんので、浅川財務官などが発言しても何も効果がありません。残念ながら、為替相場は米国が決めていますから、仕方がないですね。

私はそう考えていますし、そのように理解すべきであると考えています。それ以上は言えませんが。

表面上は金利で動き、大局的には政治で動く

為替相場は、「表面上は金利で動き、大局的には政治で動く」。この法則を知っておけば、いまのドル円の下げも仕方がないと割り切ることができます。

それを、無理やり需給や経常収支などで説明しようとするから無理があるわけです。その結果、アナリストたちの「今の円高はおかしい」などの発言になってしまうわけです。これではいけません。

もっとも、テレビなどで「米国が操作している」などと言おうものなら、出入り禁止でしょうから、口が裂けても言えないでしょうね(笑)。

しかし、今回はさすがに105円台に突っ込んで目先の下値を付けたのではないでしょうか。

といっても、大きく戻して円安局面に入るとは全く考えていません

基本は戻り売りでしょう。まずは108円台半ばを超えられるかを見ていくことになります。中期的には110.50円を超えていかないと、上昇基調に入るとの判断にはならないでしょう。

世界的な株安の動きが一服しましたので、目先は一般的に言われる「安全資産とされる円を買う動き」は止まるでしょう(ちなみに、いつも解説しているように、この考え方は間違っています)。

Next: 大局的にはドル安材料ばかり。今後の動きは?



大局的にはドル安材料ばかり

とはいえ、大局的にはドル安材料ばかりです。

1月の米消費者物価指数(CPI)は、食品とエネルギーを除くコアCPIが前月比0.3%上昇し、1年ぶりの大幅な伸びとなっていましたが、金利は上昇してもドル買いにはつながっていません

週末には多少ドルは戻していますが、これはそれまでの下落の反動でしかないでしょう。

トランプ政権による法人税減税や歳出増大で景気過熱への警戒感がくすぶる中、市場ではドルを売って円を買う動きは今後も続くでしょう。

財政と貿易の「双子の赤字」が膨らむとの観測も、ドル売り地合いにつながりやすいといえます。

トランプ大統領はレーガン大統領を心酔していますが、1985年当時に起きたのがプラザ合意です。当時と今では経済環境は違いますので、一概には言えませんが、通貨切り下げで景気を良くしておきたいとの考え方は、根本的には同じかもしれません。

そうだとすれば、ドルが上昇することはありません。まして、個人の金融資産のことを考えれば、金利上昇・ドル高を抑制しなければならないことは自明であり、これも今の政策の継続につながるでしょう

ドル安傾向の継続を前提にすべての資産の方向性を見ていく必要がありそうです。

やりづらい日本の為替政策

一方、日銀が次期副総裁に積極的な金融緩和を唱える「リフレ派」で早稲田大教授の若田部氏を充てる案を検討中との一部報道を受けて、円が売られる場面はありました。

実際に若田部氏が副総裁に就任する方向になりますが、すでに緩和策はやり切っており、さらに国債買い入れを増やすべきとの若田部氏の考え方は相当古いように思います。そう考えると、新鮮味がないといえそうです。

また、今回の円高局面で、麻生財務相が為替介入に消極的な発言をしていました。これは米国にくぎを刺されている可能性がありますね。日本の政策担当者は本当にやりづらいと思います。

いずれにしても、米長期金利が上昇してもドル買いにはならない事実をよく理解しておくことでしょう。

為替は理論だけでは動かないということです。

Next: 金融緩和策に固執して孤立する日本



日本だけが金融緩和策に固執している

いまの日米実質金利差からみたドル円の理論値の推計は、1月末で112.80円、5-30年債利回りスプレッドから見た理論値では112円台半ばです。

これらの理論値からずれているとき、特に円高方向にあるときには、私は「いまのドル円は政治ファクターが効いているな」と考えます。

理論的に無理やり説明することは考えません。意味がないですし、実際にそうだからです。

繰り返しますが、為替は大局的には政治で動きます。

2013年以降の円安がなぜあれだけのものになったのか、その背景は政治以外にありません。最後は米国主導での貸し借りの世界です。そして、いまは米国がドル安を強く推し進めているので、日本もこれを受け入れざるを得ないわけです。

これは、黒田総裁の続投で日銀の緩和策が継続するから円安になるわけではないということです。

世界的には、緩和策ではインフレにはならないという結論が出ています。日本だけがいまだに現在の政策に固執しているわけです。

黒田総裁は繰り返し、これまでの緩和策を継続するとしていますが、各国中銀が緩和策の解除を進めている中、日銀だけが緩和的な政策を継続できるのか、疑問があります。

しかし、それでも継続する方針を示し続けるでしょう。「アベクロ体制」の維持が前提ですので、2020年まで今の政策が続く可能性は十分にあります。

高すぎるユーロドル

一方、ユーロ圏の景気は堅調です。これがユーロを支える構図は変わらないでしょう。

あとは、ユーロが高くなりすぎないことが肝要です。上昇しすぎると、景気拡大をけん引してきた輸出に悪影響が出ますので。

そう考えると、9月に終了予定の資産購入を本当にやめられるのか、疑問もありますね。ECBも難しい判断を迫られることになりそうです。

ちなみに、欧米実質金利差からみたユーロドルの理論値1.14ドル程度です。また、ドイツ-米国の30年債利回りスプレッドから見たユーロドルの理論値も1.17ドル程度です。

今のユーロドルがいかに高すぎるか、ということです。それでも1.24ドルや1.25ドルの水準にあるのは、やはり政治ファクターが効いているからなのでしょう。

そう考えると、納得がいきます。また、そのように考えられるかが、きわめて重要です。

Next: 2018年全体と2月の想定レンジは?



2018年全体と2月の想定レンジ

最後に、18年全体と2月の想定レンジも確認しておきましょう。

【ドル円:2018年の想定レンジ】

強気シナリオ110.55円~126.40円(18年末124.25円)/弱気シナリオ100.60円~114.90円(18年末103.00円)

【ドル円:2月の想定レンジ】

強気シナリオ112.80円~118.00円/弱気シナリオ108.23円~114.15円

【ユーロ円:2018年の想定レンジ】

強気シナリオ132.05円~147.00円(18年末145.90円)/弱気シナリオ119.45円~136.80円(18年末121.55円)

【ユーロ円:2月の想定レンジ】

強気シナリオ132.84円~138.65円/弱気シナリオ128.51円~133.89円

【ユーロドル:2018年の想定レンジ】

強気シナリオ1.1750ドル~1.3125ドル(18年末1.2970ドル)/弱気シナリオ1.1595ドル~1.2175ドル(18年末1.1210ドル)

【ユーロドル:2月の想定レンジ】

強気シナリオ1.1820ドル~1.2185ドル/弱気シナリオ1.1522ドル~1.1968ドル

【ポンド円:2018年の想定レンジ】

強気シナリオ148.85円~166.75円(18年末165.15円)/弱気シナリオ132.40円~154.60円(18年末134.00円)

【ポンド円:2月の想定レンジ】

強気シナリオ149.76円~157.44円/弱気シナリオ144.20円~151.90円

【ポンドドル:2018年の想定レンジ】

強気シナリオ1.3225ドル~1.4710ドル(18年末1.4525ドル)/弱気シナリオ1.2390ドル~1.3665ドル(18年末1.2595ドル)

【ポンドドル:2月の想定レンジ】

強気シナリオ1.3349ドル~1.3785ドル/弱気シナリオ1.3006ドル~1.3475ドル

【豪ドル円:2018年の想定レンジ】

強気シナリオ86.20円~98.30円(18年末97.15円)/弱気シナリオ77.40円~89.90円(18年末81.05円)

【豪ドル円:2月の想定レンジ】

強気シナリオ86.64円~92.01円/弱気シナリオ84.61円~89.31円

【豪ドル/米ドル:2018年の想定レンジ】

強気シナリオ0.7665ドル~0.8765ドル(18年末0.8650ドル)/弱気シナリオ0.7060ドル~0.7930ドル(18+年末0.7200ドル)

【豪ドル/米ドル:2月の想定レンジ】

強気シナリオ0.7769ドル~0.8065ドル/弱気シナリオ0.7544ドル~0.7879ドル

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本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2018年2月19日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した日米株式市場に対する強気の分析や、金、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

【関連】黒田続投というマンネリを世界は許すのか? 変化するFRBと取り残される日銀=近藤駿介

2018年2月19日号の目次

・マーケット・ヴューポイント~「荒れた市場は行き過ぎが理由」
・株式市場~米国株は反発で目先の底を確認、日本株も戻り局面
・為替市場~ドル円は不安定、ユーロもやや買われすぎ
・コモディティ市場~金も原油も反発
・今週の「ポジショントーク」~急落に耐えられるようにする
・ヘッジファンド投資戦略~「金のエクスポージャーを積み上げる」投資戦略構築のポイント
・ベースボール・パーク~「週末は大阪でセミナー&野球」
・セミナー・メディア出演のお知らせ

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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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