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「資産は貯金だけ」がいちばん悲惨。日銀「緩和の副作用」で国民はますます貧乏に=斎藤満

日銀の長引く低金利政策で、知らないうちに家計は消費増税と変わらない負担を強いられています。株価低迷だけではない「金融緩和の副作用」について解説します。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年6月29日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

家計はすでに消費増税と変わらないほどの負担増を強いられている

リフレ派委員も「緩和の副作用」を認識

日銀は25日、今月開催の金融政策決定会合での「主な意見」を公表しました。

これを見ると、安倍総理が任命したリフレ派ぞろいの審議委員の間からも、物価目標達成の困難さと、金融緩和策の副作用に関する発言が広がってきた印象があります。

物価については、需要不足によるものではなく、企業の対応による面もあり、短期間に無理に需要を押し上げるような政策は適当ではないと発言しています。低金利の長期化で金融機関が保有する有価証券の評価損益が悪化し、低収益店舗の減損リスクの発生、国債市場の取引不成立など、市場機能の不全なども指摘されています。

日経系のテレビ番組で、長期金利と銀行株価の相関性が紹介され、日銀の金利コントロールが銀行株、ひいては日本株の重しになっている、とのコメントも聞かれるようになりました。

しかし、日銀の金利コントロールには、もう1つの「副作用」があることを、日銀の「資金循環勘定」が示唆しています。

金利を生まない1,800兆円の個人金融資産

日銀は27日に、今年1−3月の「資金循環勘定」を発表しました。

この残高表によると、今年3月末の家計の金融資産は1829兆円となり、前年比で2.5%増となりました(12月末からは減少)。

その半分以上となる961兆円が現預金で、前年比2.3%増となっています。増加率が大きかったのは株式の11.7%増で、199兆円に達しました。それでも全体の1割強にすぎません。

預金に次いで大きな地位を占めているのが保険の369兆円で、これは0.8%の増、国債など債券は5.5%減の23兆円となりました。

このうち、株式の増加は価格上昇によるもので、この1年で20兆円前後の増価があったことになり、2%以上の配当利回りから、年間4兆円余りの配当利益が見込めます。

半面、残る1,600兆円の金融資産は、超低金利でほとんど金利収入を生みません。家計所得面で、この影響は無視できない大きさになっています。

Next: 預貯金だけでは貧乏に。労働者にお金が回らなくなっている



預貯金だけの人は大きく資産を減らした

内閣府の国民経済計算年報から、これまでの家計の「財産所得」並びに利子所得の動きを見てみましょう。

家計部門(個人事業主を含む)の財産所得は、1990年前後では55兆円から60兆円近くに達していました。それが最新データの2016年度では受け取り財産所得が27兆円まで縮小しています。

特に、この内訳を94年度と16年度とで比較してみると、94年度は財産所得全体が48.8兆円に対し、利子所得が27.4兆円ありました。

これに対して、2016年度は財産所得27兆円に対し、利子所得は6.1兆円に減少、替わって配当所得が94年度の1.3兆円から2016年度には8.1兆円に拡大しています。

株を所有していた人は配当所得の増加を享受しましたが、預貯金だけの人は、大幅な所得減に見舞われています。

16年度においては、まだ金利が高かったころの預貯金利子が支えていた面がありますが、現在の金利は、普通(通常)預貯金で0.001%、定期預金は平均で0.012%(日銀による)となっています。

1,800兆円の金融資産といっても、現金を除き、国債を加えた900兆円の預貯金と国債がこれから生み出す金利収入は、せいぜい900億円(税込)という計算になります。

利子所得が年間30兆円もあった頃と比べると、低金利政策が家計の収入を大きく減らしたことが如実に表れています。

労働者にお金が回らなくなっている

この日銀による金利コントロールは、労働分配率(生産された付加価値のうち、労働者が賃金として受け取る比率)の低下に拍車をかけています。

国民所得統計で見た労働分配率を、国内総生産(GDP)に対する賃金報酬の割合で見ると、94年度はGDPが502.6兆円に対して、賃金報酬は232.1兆円で、労働分配率は46.2%となります。

これに対して、2016年度はGDPが539.3兆円に拡大したのに対し、賃金報酬は229.1兆円にむしろ減少し、労働分配率は42.5%に低下しています。

これだけでも消費を圧迫する形になっていますが、これに利子所得を加えた分配率でみると、94年度の51.6%から、16年度は43.6%にさらに大きく低下しています。

Next: 利子収入の大幅減で、家計は消費増税と変わらないほどの負担増に



利子収入の大幅減は「消費増税」に匹敵するダメージ

今日の異常な低金利で家計の利子所得が900億円にまで低下すると、家計の分け前はさらに低下します。

金融政策は所得分配に大きな影響をもたらしますが、家計の財産所得を大きく減らし、その分企業収益に貢献する分、通常の賃金面での分配率低下にさらに拍車をかける役割を果たしています。

国民所得統計で把握されているだけでも、家計が年間に受け取る利子収入が90年代から比べると20兆円も減っていますが、今のゼロ金利を長期化すると、16年度から比べても利子所得は兆円単位で減ります。

知らないうちに家計は消費税引き上げと変わらない負担を余儀なくされています。これでは消費は増えません。流通業界が声を上げてもよさそうなものですが――

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※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年6月29日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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6月配信分
・所得分配をゆがめる日銀の金利調節(6/29)
・ドル高、終わりの始まり?(6/27)
・貿易戦争に隠されたトランプの狙い(6/25)
・景気の陰りが広がった(6/22)
・なぜ日本で消費者物価が上がらないのか(6/20)
・無視できない米イールドカーブのフラット化(6/18)
・綱渡りのパウエルFRB(6/15)
・歴史的米朝会談と日本の困惑(6/13)
・日銀は物価見通しの引き下げ準備(6/11)
・日銀は密かに金利高め誘導か(6/8)
・個人消費の弱さは重症(6/6)
・FOMC前後の為替の動きに要注意(6/4)
・日銀に追い打ちをかけた弱い鉱工業生産(6/1)

5月配信分
・収まらない米中貿易戦争(5/30)
・FRBが直面するジレンマ(5/28)
・市場から見た米朝会談破談リスク(5/25)
・景気の減速は本当に一時的か(5/23)
・「ミニ石油ショック」でも油断は禁物(5/21)
・米朝会談までは新興国不安回避要請?(5/18)
・インフレ目標事実上のギブアップ(5/16)
・米長期金利はすでに上昇トレンドに(5/14)
・新興国にイラン不安の追い打ち(5/11)
・トランプ貿易戦争のインフレ性(5/9)
・FRBの姿勢変化に注目(5/7)
・トランプ大統領ノーベル賞を意識(5/2)

4月配信分
・窮地の安倍政権、解散か総辞職か(4/27)
・物価目標2019年度も黄色信号(4/25)
・米長期金利再上昇の重み(4/23)
・日米首脳会談も安倍延命にはならず(4/20)
・無視できない政治混乱の影響(4/18)
・無理筋な日銀の物価目標(4/16)
・米為替報告書に注目(4/13)
・米はシリアで多国間軍事対応を検討(4/11)
・安倍政権維持への3つのハードル(4/9)
・物価上昇の内容が変わる(4/6)
・FRBはどこまで利上げできるか(4/4)
・キーパーソンはH.キッシンジャー氏(4/2)

3月配信分
・ハイテク株にもトランプ・リスク(3/30)
・見えてきた点と線(3/28)
・見えてきたドル円の100円割れ(3/26)
・姿を現したパウエルFED(3/23)
・自動車業界と流通業界とのコラボ(3/19)
・日銀の金融政策も政権如何(3/16)
・安倍政権に春の嵐(3/14)
・雇用絶好調でなぜ賃金が上がらない(3/12)
・金利差円安論はすでに破たん(3/9)
・二転三転する黒田発言の真意は(3/7)
・トランプならではの貿易戦争リスク(3/5)
・エネルギー株に3つのリスク(3/2)

2月配信分
・親子バトルが銀行株を圧迫(2/28)
・裁量労働制論議で露呈した日本の問題(2/26)
・中央銀行の支配者(2/23)
・半島融和の裏で中東に火種(2/21)
・(金利差・ドル円・株の関係が崩れる2/19)
・米国債のバブル性(2/16)
・トランプ予算教書に2つの危険性(2/14)
・日銀人事の裏側(2/13)
・市場不安定化が3月利上げの負担に(2/9)
・適温経済と適温相場は別(2/7)
・米金利とドル円の関係、ここに注意(2/5)
・米金利高が日本の投資家を襲う(2/2)

1月配信分
・個人消費の低迷に歯止めがかからず(1/31)
・物価本位主義見直しの時(1/29)
・安倍総理の密かな戦略を探る(1/26)
・規律を失い惰性に走る財政金融政策(1/24)
・米長期金利上昇は「吉」か「凶」か(1/22)
・強まる中国への風当たり(1/19)
・地政学リスクとビジネス・チャンス(1/17)
・粉砕される円安期待(1/)
・デフレ脱却宣言を拒む実質賃金の低迷(1/12)
・北朝鮮問題に新展開か(1/10)
・インフレ如何で変わる米国リスク(1/5)

12月配信分
・新年に注意すべきブラック・スワン(12/29)
・新年経済は波乱含み(12/27)
・日銀の過ちを安倍政権が救済の皮肉(12/25)
・金利差と為替の感応度が低下(12/22)
・インフレ追及の危険性(12/20)
・日銀が動くなら最後のチャンス(12/18)
・不可思議の裏に潜むもの(12/15)
・制約強まるFOMC(12/13)
・生産性革命、人材投資政策パッケージを発表(12/11)
・米国に新たな低インフレ圧力(12/8)
・政府と市場の知恵比べ(12/6)
・長短金利差縮小がFRBの利上げにどう影響するか(12/4)
・原田日銀委員の「緩和に副作用なし」発言が示唆するもの(12/1)

11月配信分
・中国リスクを警戒する時期に(11/29)
・会計検査院報告をフォローせよ(11/27)
・改めて地政学リスク(11/24)
・低金利で行き詰まった金融資本(11/22)
・内部留保活用に乗り出す政府与党(11/20)
・日銀の大規模緩和に圧力がかかった可能性(11/17)
・リスク無頓着相場に修正の動き(11/15)
・トランプ大統領のアジア歴訪の裏で(11/13)
・異次元緩和の金融圧迫が露呈(11/10)
・戦争リスクと異常に低いVIXのかい離(11/8)
・変わる景気変動パターン(11/6)
・日本的経営の再評価(11/1)

10月配信分
・日本の株価の2面性(10/30)
・FRBの資産圧縮が米株価を圧迫か(10/27)
・リセット機会を失った日銀(10/25)
・低インフレバブルと中銀の責任(10/23)
・フェイク・ニュースはトランプ氏の専売特許ではない(10/20)
・金利相場の虚と実(10/18)
・米イラン対立の深刻度(10/16)
・自公大勝予想が示唆するもの(10/13)
・中国経済に立ちはだかる3つの壁(10/11)
・自民党の選挙公約は大きなハンデ(10/6)
・当面の市場リスク要因(10/4)
・景気に良い話、悪い話(10/2)

9月配信分
・アベノミクスの反省を生かす(9/29)
・高まった安倍総理退陣の可能性(9/27)
・日銀も米国に取り込まれた(9/25)
・安倍総理の早期解散に計算違いはないか(9/22)
・日銀は物価点検でどうする(9/20)
・中国経済は嵐の前の静けさか(9/15)
・トランプ政権はドル安志向を強める(9/13)
・気になる米国の核戦略(9/11)
・日銀の政策矛盾が露呈しやすくなった(9/8)
・ハリケーン「ハービー」の思わぬ効果(9/6)
・北朝鮮核実験の落とし前(9/4)
・内閣府は信頼回復が急務(9/1)

8月配信分
・個人消費の回復に疑問符(8/30)
・あらためて秋以降の中国リスクに警戒(8/28)
・米債務上限引き上げかデフォルトか(8/25)
・利用される「北朝鮮脅威」(8/23)
・バノン氏解任でトランプ政権は結束できるか(8/21)
・日銀の「ステルス・テーパー」も円安を抑制(8/18)
・中国習近平長期政権の前途多難(8/16)
・北朝鮮の行動を左右する周辺国の事情(8/14)
・経常黒字20兆円強のデフレ圧力(8/9)
・日銀の物価目標が最も現実離れ(8/7)
・内閣改造効果に過大な期待は禁物(8/4)
・ユーロ悲観論が後退、なお先高観(8/2)
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マンさんの経済あらかると』(2018年6月29日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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