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欲しがる米国と、NOと言う中国。北朝鮮「レアアース」が鍵を握る世界覇権レース

北朝鮮に埋蔵されているレアアースを巡る情勢が騒がしくなってきた。トランプが北朝鮮に接近し、なおかつ非常に妥協的な姿勢を示している背景もここにある。(『未来を見る!ヤスの備忘録連動メルマガ』高島康司)

※本記事は、未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 2018年6月29日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

逃すと世界覇権が危うくなる?米国がどうしても手に入れたい理由

北朝鮮に優しくなったトランプ

北朝鮮に埋蔵されているレアアースを巡る情勢について解説したい。これはことのほか重要で、トランプ政権の北朝鮮に対する融和的な姿勢のもっとも重要な背景である可能性がある。

トランプ政権は、アメリカの要求する即時の非核化とは異なる、段階的な非核化で合意した中国と北朝鮮に強い不快感を示し、経済制裁を継続するとしている。

しかしながら、米艦合同軍事演習の無期限停止非核化に期限を設けないことなど、北朝鮮の要求を基本的に容認する方法で動いている。

日本の主要メディアでは、あれほど強硬だったトランプ政権が、なぜここまで北朝鮮に対して妥協的になったのか理解できないとする報道が目立つ。

すべては「米国の覇権」を守るため

当メルマガでは、基本的にトランプ政権は、権力を国民の手に取り戻す革命政権どころか、軍産複合体とネオコンに吸収され、その利害を代表する政権であると見てきた。

そうしたトランプ政権の一貫した外交政策は覇権の永続化であり、いま実施している保護貿易的な政策も、軍事産業の基盤である製造業を国内に引き戻し、覇権を強化する目的があるとしてきた。

そしてそのよう覇権永続化を目標として、将来的な米軍駐留の可能性を展望しつつ、拡大する中国を牽制する手段として、北朝鮮をアメリカ側へ引き寄せる判断をしたと見てきた。

北朝鮮には世界最大のレアアースが埋まっている

実は、覇権の永続化を目標にしたトランプ政権が北朝鮮に接近し、なおかつ非常に妥協的な姿勢を示していることの背景には、北朝鮮で比較的最近になって発見された世界最大のレアアースの鉱床の存在があると見ることができる。

ちなみにレアアースとは希土類元素とも呼ばれ、31鉱種あるレアメタルの中の1鉱種で、スカンジウム、イットリウムの2元素と、ランタンからルテチウムまでの15元素の計17元素の総称である。現在はその95%を中国が握り、世界的な供給を独占する位置にある。埋蔵量は2000万トンである。

最近発見された北朝鮮の鉱床は、ピョンヤンの北西150kmの地点にある。世界最大の埋蔵量のこの鉱床は開発されると、レアアースの世界的な供給は劇的に変化することは間違いない。

Next: 米国が欲しがるのは当然。ハイテク兵器には必要不可欠なレアアース



ハイテク兵器にはなくてはならない存在

これだけ見るとレアアースは、大きな利益の源泉となる希少資源の獲得を巡り、アメリカと中国が北朝鮮の支配を争っているように見えるが、そうではない。事情はこれよりもはるかに深刻である。

実は、高度なIT機器に依存した現代のハイテク兵器の機能は、実質的にレアアースに依存しているのだ。

たとえば、ヴァージニア級潜水艦では一隻に4,140kg、イージス巡洋艦一隻で2,340kg、そしてF-35ライトニング戦闘機では1機あたり414kgのレアアースを使っている。

おもにレアアースは、下記などに多用されている。

  1. ミサイルなどの誘導とコントロールのシステム
  2. 迎撃システムと電子攻撃兵器
  3. 電気モーター
  4. レーザーのトラッキングシステム
  5. 通信システム
  6. 最先端のジェットエンジン

こうした軍事テクノロジーは、レアアースなしでは機能できないのだ。その意味でレアアースは、IT機器に依存する現代の兵器システムにとって、なくてはならないものである。

また、(3)の電気モーターのように、EV車の機関部品のもっとも重要な一部にもなっているレアアースもある。EVシフトの進展にはレアアースは不可欠だ。

アメリカには存在しないレアアース産業

このように兵器システムにとって不可欠なレアアースだが、現在、アメリカの軍事産業はこれを中国から輸入せざるを得ない状況にある。

しかしそれは、米国内にレアアースが存在していないからではない。アメリカは中国とならび、レアアースの推定埋蔵量がかなり多い国だとされている。ところが、いまアメリカにはレアアースを採掘、分離、精錬して製品化できるレアアース産業が存在していないのだ。

たしかにアメリカでも、現代ほどレアアースが注目されていなかった1990年代までは、レアアース関連の企業がいくつか存在し、採掘、分離、精錬の3つの工程を国内で行うことができていた。

ところが、1990年代の後半から安いレアアースが中国から入ってくるようになると、米国内のレアアース関連企業はこの分野から撤退した。最後の企業は2002年に破綻している。

この結果、米国内に兵器システムにはなくてはならないレアアースが存在していたとしても、それを使えるように製品化するための産業がもう存在していないのである。

いまでも少量のレアアースは採掘されているようだが、分離と精錬をする企業が国内にはないので、中国企業に依頼している状況だ。アメリカでレアアース製品化のすべての工程を担うことのできる産業を再建しようとすれば、少なくとも15年はかかると見られている。

このような状況は、国防予算を増やして軍事力を増強し、拡大する中国、ロシア、イラン同盟を押さえて覇権の永続化を目標にしたトランプ政権にとっては、なんとしてでも解決しなければならない死角になっている。

要するに、敵をやっつけるための兵器は、実は敵からの輸入に依存しているという逆説的な状況にあるのだ。

他方、中国は、レアアースの供給を独占するためのシステムを、すでに1990年代の始めから戦略的に構築してきた。レアアースの採掘、分離、精錬を一貫して行うことのできる産業の形成である。

現在世界では、中国だけがこのテクノロジーを持っている状況だ。

Next: レアアースを政治利用する中国。日本も被害者に…



中国・ロシアはレアアースに困らない

当然、中国やロシアのハイテク兵器でも事情は変わらない。

特にロシアは兵器システムの一部はアメリカよりも高度で、競合するものが世界にはない状況だ。S-300、S-400、そしてS-500などの最先端のミサイル迎撃システムは、レアアースが多用されている。これは中国の空母、「遼寧」や次世代戦闘機の「Jー20」なども同様の状況である。

しかし中国やロシアは、中国にレアアース産業があるので、供給が自立している。両国の同盟が今後も続く限り、供給は心配ない

レアアースを政治利用する中国

これは軍事力の基盤を再建し、覇権の永続化を狙うトランプ政権にとっては、危機的な状況である。なんとしてでもレアアースの中国依存からは脱却しなければならない

もし、世界最大ともいわれる北朝鮮のレアアースの鉱床すらも中国の支配下に入ってしまうと、軍事力の再建による覇権の永続化という目標は放棄しなければならなくなる。

中国にとってレアアースは、政治的な目的で使う戦略物資である。2010年、日本が尖閣諸島の領有権を巡って中国と鋭く対立しているとき、中国はレアアースの日本への禁輸処置を実施した。これは日本のハイテク産業の一部に甚大な影響を与えるとともに、レアアースの市場価格が100倍に高騰した。

もしアメリカとの関係がこじれた場合、中国はレアアースを禁輸し、アメリカのハイテク兵器の生産基盤に揺さぶりをかけることもできる。

米国「レアアースさえあれば万事解決」

一方、アメリカがレアアース産業の再建に成功し、国内のみならず北朝鮮の巨大な鉱床も実質的に支配し、開発するのなら、アメリカのこのような中国への危機的な依存状態から脱することができる。アメリカの兵器システムの完全な自立である。

さらにそれだけではなく、アメリカがレアアースの世界的な供給国となることで、ハイテク機器への依存度が深まる世界の兵器産業やIT産業で圧倒的な優位に立つことができる。

これを見ると、どんな妥協をしたとしても北朝鮮をアメリカ側に抱き込む強い動機が、トランプ政権にはあるのである。

米艦合同軍事演習の無期限停止や非核化の期限非設定など、大きな妥協と見えるトランプ政権の態度も、レアアースにまつわるこのような状況を見ると、よく理解できる。

Next: 習近平に相談を持ちかける金正恩。水面下でレアアースの奪い合いに



習近平に相談を持ちかける金正恩

ところで、北朝鮮の金正恩委員長は6月18日から20日にかけて訪中し、習近平主席と会談した。会談では、経済支援段階的非核化などが確認されたとされている。

ところが、ブラジルの著名な調査ジャーナリストであるぺぺ・エスコバル氏によると、この会談で北朝鮮のレアアース開発について話し合われた可能性が高いとしている。

中国もそう簡単には北朝鮮のレアアースの鉱床をアメリカの手に引き渡すことは絶対にないはずだ。

さらにペペ・エスコバル氏は、いまトランプ政権のポンペオ国務長官も北朝鮮とこの件について協議している可能性は大きいとしている。

いずれにせよ、近いうちに水面下でなにが起こっているのかもっとはっきりと見えてくるだろう。

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image by:Albert H. Teich | plavevski/ Shutterstock.com

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未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ」(2018年6月29日号)より一部抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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