なぜか日本ではほとんど報道されていない、米露首脳会談の合意について解説したい。これは今後のイラン情勢を決定的に変化させることになるはずだ。(『未来を見る!ヤスの備忘録連動メルマガ』高島康司)
※本記事は、未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 2018年7月20日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
トランプとプーチンの本格的な会談は実は初めて。何を約束した?
具体的な成果はなかったとされているが…
7月16日、フィンランドの首都ヘルシンキの大統領府で、ロシアのプーチン大統領とアメリカのトランプ大統領の首脳会談が行われた。両者の本格的な会談としては、今回が初めてである。
それぞれの側の閣僚も出席するワーキキングランチの後、通訳だけが同席する両首脳の突っ込んだ会談が行われた。会談は2時間を越えたが、共同声明などはなく、話された具体的な内容は明らかになっていない。両大統領は、会談後に行われた記者会見で、米ロ関係の改善の必要性を改めて訴え、シリア内戦の収束などに向けて連携をうたった。
今回の会談について、世界的には具体的な成果は乏しいと見られている。一方、米議会や米主要メディアでは、ロシア疑惑の火種があるのに、トランプは側近の制止を差し置いて親ロに傾斜し、大統領選挙のロシアの関与をさえも否定したとして、大変な非難の対象として扱っている。
明らかにされない会談内容
そのような状況だが、目をロシアやEU諸国のメディアに転じると、関心は米国メディアのようにロシア疑惑ではなく、首脳会談で実際に話し合われた内容にある。
共同声明がなく、会談後の記者会見では関係改善に向けた意気込みだけが述べられただけなので、首脳会談の内容は少しも明らかになっていない。
ロシアや欧州のメディアが抱いているのは、もし具体的な成果が本当に乏しい会談であれば、首脳会談の時間が2時間を越えることなどあり得ないのではないかという疑念だ。報道されていないだけで、実際は相当に重要な内容が話し合われ、また合意された可能性もあるのではないかというのだ。
会談中のボディランゲージから内容を読み解くと…
その可能性を探るために、ロシアの国営メディア、「ロシア・トゥデイ」やイギリスの大手紙、「エクスプレス」などでは、ボディランゲージの専門家に依頼し、首脳会談におけるプーチンとトランプの感情の動きを読み取る試みをした。
その結果、どちらのメディアの専門家も、会談が行われる前にはトランプはかなり緊張し、またプーチンは相手を威圧するそぶりを見せていたものの、会談後の状況は大きく変化したと読み取った。
会談後、両者は非常に満足したそぶりを見せ、明らかに相互の信頼関係は深まったようだとした。
両首脳の会談前と会談後の態度の違いから見て、今回の首脳会談は成果の乏しい親善的なものどころではなく、プーチンもトランプも満足できるなんらかの具体的な合意があってもおかしくないのではないかという論評だ。
Next: 日本メディアは何をしている? イスラエルで報じられた驚きの合意内容
イスラエルのメディアが伝える合意内容
では、なんらかの具体的な合意があったとしたのなら、それはいったいなんなのだろうか?日本のメディアではまったく報道されていない。
それが、「タイムス・オブ・イスラエル」や「ハーレツ」などのイスラエルの新聞がいっせいになんらかの合意があったことを伝えた。それは、シリアのゴラン高原に関する合意であったという。
一触即発のゴラン高原
もし本当に米露の間でこうした合意があったとするなら、それはロシアがシリアからイランの影響下にある軍事組織を排除し、それにイランが応じない場合は、ロシアはアメリカによるイランの体制転換の動きを妨害しないということを意味する。
つまり、ロシアによるイランの体制転換へのゴーサインのようなものなのだ。ちょっと複雑な話なので、順を追って説明してみよう。
まずゴラン高原だが、ここはシリア南西部にあり、イスラエルと国境を接している地域である。ここはもともとシリア領だったが、1967年の6日間戦争でイスラエルが占領した地域だ。
シリアはゴラン高原の所有権を主張し、イスラエルと緊張した関係が続いている。1974年には、両国の兵力引き離し協定が結ばれ、この実施を監視するための国連PKO部隊が駐留している。1996年から2013年まで、陸上自衛隊も派遣されていた。
そのような状況で、いまゴラン高原の周辺地域には、イランが支援する武装組織のヒズボラが、ミサイル組み立て基地をはじめ、いくつかの軍事拠点を建設している。これは、ゴラン高原からイスラエルを追い出す動きではないかとも見られている。
もしゴラン高原にイランが支援し、徹底した反イスラエルのヒズボラが侵入すると、これは対岸のイスラエルにとっては安全保障上の大きな脅威となる。そのような状況になると、ゴラン高原で新たな戦端が開かれる可能性が高くなることは間違いない。
イスラエルの生存権を認め、ヒズボラを追い出す米ロ
そして、今回の米露首脳会談では、プーチンもトランプもイスラエルの生存権を認め、イスラエルの安全保障については特別な関心を払うことが合意された。これに対しイスラエルのネタニエフ首相は、ロシアとアメリカのこのような方針に感謝の意を示した。
さて、このような文脈から、1974年の兵力引き離し協定時点の状態にゴラン高原を戻すという首脳会談で合意されたと思われる内容を見ると、その重要な意味が分かってくる。
つまり、イスラエルの安全を確保するため、ヒズボラなどイランが支援する武装勢力をゴラン高原から排除することに、ロシアとアメリカは合意したということなのだ。
Next: イランとの同盟関係をあっさり捨てたロシア。その目的は…
イランとの同盟関係をあっさり捨てたロシア
なぜロシアがこれに同意したのか、不思議に思うかもしれない。
ロシアはイランとともに、アサド政権の崩壊をねらうアメリカやサウジアラビアに反対し、アサド政権の存続を支援してきた。シリア国内からはISや、それに準ずるイスラム原理主義の反政府勢力の多くは排除され、アサド政権の存続が決まった。これで決定的な役割を果たしたのは、イランが支援する武装勢力の地上軍とともに、2015年9月から始まったロシア軍の介入であった。
このような状況を見ると、シリアでは、イランとロシアはアサド政権の側に立つ同盟関係にあった。そのようなイランに対して、なぜロシアは、イランが支援する武装勢力のゴラン高原からの排除に同意したのだろうか?
中東の安定の確保
その答えは比較的に簡単である。それはシリア、および中東の安定の確保である。
もしイランが支援する武装勢力がイスラエルと国境を接するゴラン高原に侵入するようなことがあると、ゴラン高原は緊張し、この排除をねらうイスラエルとの間に新たな戦端が開かれる可能性が高い。イスラエルとイラン系武装勢力との戦争である。これは下手をすると、状況次第ではイスラエルとイランとの戦争に発展する可能性もある。
すでにロシアは1カ月ほど前、イランに対して、シリア内戦の終結後にはシリア国内のイラン系武装勢力の撤収を働きかけたことがある。だがイランはこれを拒否し、引き続きシリアにコミットする姿勢を明確にした。
こうした経緯から見て、ロシアがゴラン高原におけるイラン系武装勢力の排除に同意したとしてもなんら不思議ではないのである。
イスラエルの生存権の確保という点では、実はロシアの利害はアメリカとはからずも一致しているのが分かる。
イランが同意しなければ体制転換か?
では、イランが今回の米露首脳会談の合意に同意しなかった場合はどうなるのだろうか?
この答えも比較的に分かりやすい。いまトランプ政権は――
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※太字はMONEY VOICE編集部による
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