日銀はなぜか短期金利を下げようとしませんが、長期金利については「異常な押し下げ」を行っています。今回はオペレーションの誤りについて解説します。(『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』児島康孝)
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なぜ長期金利だけ異常に下げる? 本来のターゲットは短期金利だ
金利がその国を景気を物語る。日本の低さは…
日銀はなぜか短期金利を下げようとしませんが、長期金利については「異常な押し下げ」を行っています。今回はこの背景と狙いについて解説します。
現状の日本の金融政策の議論では、短期金利と長期金利の話が混同されているのです。
まずは、長期金利の指標となる「10年物国債の金利(利回り)」から、各国の比較をしてみましょう(いずれも変動しますから、本稿執筆時点9月14日早朝の目安ということでご覧ください)。
日本:0.11%
アメリカ:2.97%
イギリス:1.50%
ドイツ:0.42%
10年物国債の利回りは、通常の経済状態なら「3%~4%ぐらい」あるのが普通です。
アメリカが2.97%でほぼ3%というのは、景気が上昇して経済状態が回復しているからです。
日本が0.11%なのは、日銀が10年物国債の金利がゼロ%となるようにオペレーションを行っているからです。
各国の数字を見て気が付くと思いますが、先進国の場合、長期金利は、景気が良いと高く、景気が悪いと低いという特徴があります。
もちろん、通貨の信任が失われるような事態で長期金利が10%に近づくような場合は、話が別です。しかし現状は、まったくそのようなレベルではありません。
ですから、先進国の長期金利は、景気が良い順番に高いといえます。
一方、景気が悪くなると安全志向が強まり、株式投資やその他の投資資金から、相対的に安全な国債に資金を移す動きとなります。
ですから景気が悪くなると、国債は安全志向で逃避資金が集まり「買い」の人気が高くなって、利回りは「ごくわずか」になってゆくのです。
日銀は長期金利に関与すべきではない
日銀の金融政策は、一言で「金融緩和」と報じられていますが、本来、中央銀行がターゲットにするのは短期金利です。
長期金利は「中央銀行が決めることはできない」という考え方も従来からあり、筆者も、「日銀は長期金利にはあまり関与すべきではない」と考えます。
ときどき、機関投資家である金融系企業のトップが、「長期金利はもう少し自然にゆだねてはどうか」とか「変動幅を許容したらどうか」と述べているのが散見されますが、これはもっともな話です。
Next: 本来、金融政策のターゲットは「短期金利」。それなのに日銀は…
定期預金の金利が上がらないと景気は上向かない
金融機関などのビジネスは、短期金利と長期金利の差(短期金融市場で資金調達し、長期で貸し付けること)で儲けるのが基本です。また、長期で運用することもあります。時間経過のリスクをとり、利益にするわけです。
しかし、これが「長・短金利がほぼ同じ(金利差がない)」ということになりますと、大きな弊害が出てきます。
年金などの運用でも、長期金利がほとんどないと困ることになります。また、定期預金の金利もです。
よく日銀の金融政策についての話で、「利下げをすると、預金金利がなくなる」という話になります。しかし、短期金利を利下げしても、これは主に普通預金への影響です。普通預金で「利息をあてにしている」という人は、あまりいないでしょう。利息をあてにするのは、3年とか、5年とか、10年の定期預金ですね。こちらは、長期金利の水準が影響します。
ですから、アメリカの10年物国債の金利(利回り)が3%に近づいているということは、これに連動してアメリカでは定期預金の金利も上がってくるという話です。
つまり、アメリカでは定期預金の金利が以前のように「戻る」動きがあり、インフレ率も「戻って」きているこういうことです。
日本経済も同じように正常化するには、「10年物国債の金利(利回り)が3%ぐらいにならないといけない」というわけです。そうなると、インフレ率も戻り、定期預金の金利も戻るわけです。
長期金利ばかり下げようとする日銀
ところが日銀は、短期金利を下げようとせずに、長期金利ばかりを下げようとしているようにみえます。
なぜ、景気回復を遅らせ、デフレ基調が続くオペレーションをしているのか?というのが、大きな疑問点なのです。
アメリカのムニューシン財務長官は、期間が短めの米国債を大量に発行して、資金を調達しています。ムニューシン財務長官は、さすがゴールドマン・サックスの共同経営者を長年勤めただけあって、そのあたりはよく心得ています。
ですから日本も、短めの国債を大量発行して、それを日銀が買い上げればよいわけです。しかし日銀は、長期国債を中心に買い入れています。
なぜ、短期国債でなくて、長期国債なのか? これが日本のデフレ基調につながっています。
Next: 長期金利を下げてもメリットはない? 日銀の戦略ミスとは
「住宅ローン金利」の議論も意味はない
よく、長期金利が上がれば、住宅ローンの金利が上がって大変という話を、聞くでしょう。この話は、その場で聞くともっともらしいのですが、これは意味のない議論です。
不動産投資をやっている方はすぐにわかりますが、住宅ローンは、金利が高いか低いかよりも、「融資が受けられるかどうか」の方がはるかに優先度が高いからです。
いくら、金利が低い・ゼロ近辺といっても、デフレで所得が低下し、非正規雇用になれば、住宅ローンを申し込んでも金融機関の審査で落とされます。
つまり、金利が高い・低いという議論は、みんなが同じように融資を受けられることが前提なわけですが、実際は、融資を受けられるか・受けられないかの問題であるわけです。
ですから、ゼロ金利の住宅ローンが受けられないよりも、昔の日本のように、3%でも4%でも、景気が良くて、雇用が安定し、住宅ローンを受けられる方がはるかに良いわけです。
中小企業への融資でも同じ
これは、中小企業などへの融資も同様です。
長期金利が上がると良くないという話ではなくて、全く融資が受けられないことが困るわけです。
全く受けられない金利ゼロ%付近の融資よりも、融資可能な金利10%なら、後者の方が企業にとっては良いわけです。
長期金利を下げてもメリットはない
いずれの話も、そもそも表面上の金利が低くても、まったく融資が行われなければ、無意味というわけです。
それよりも、長期金利が高くても、経済が活発で、高い金利でも融資が行われる方がはるかに良いということです。このように長期金利を下げるメリットは見あたらず、市場に任せるのが良いわけです。
しかし日銀は、長期金利にこだわり、短期金利はあまり下げようとしません。これは、デフレ脱却をめざすならば、大いに疑問を感じるオペレーションです。
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『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』(2018年9月14日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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