マネーボイス メニュー

日経平均、27年ぶり高値圏へ。今こそ身につけたい「誰でもバフェット投資術」=栫井駿介

9月28日の東京株式市場で日経平均株価は大きく値上がりし、一時は今年の最高値を更新して約27年ぶりの高水準となりました。今こそ天才投資家バフェットの投資手法を学び、人生100年時代の資産を築くために動く時です。

「私が目指す手法は、利益を増やし続けられる優良な会社のオーナーになり、あとはひたすら事業が上手く行っていることを確認するだけです。この方法こそが、株価の変動に惑わされず、幸せな資産形成を行う方法だと確信しています」。こう語るのは、つばめ投資顧問代表・証券アナリストとして活躍し、マネーボイスの人気著者でもある栫井駿介氏です。今回から新連載『誰でもバフェット投資術 ~ バイ・アンド・ホールドで人生100年時代の資産を築く』がスタート。栫井氏がこれまでの失敗談を赤裸々に告白しながら、バリュー投資の王道について解説してくれます。

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

なぜ人は投資で失敗するのか?バリュー投資の王道を学ぶ連載開始

失敗の多くは、考え方よりも「自分の行動」に問題があった

つばめ投資顧問の栫井(かこい)です。私は約2年前に投資銀行を退職して投資顧問会社を立ち上げ、代表兼アナリストとして個人投資家の皆様に投資アドバイスを行っています。

私が提唱している投資手法は「バリュー株投資」というものです。株式には企業が持つ「本質的な価値(バリュー)」があり、株価は長期的にそこへ向かっていくというオーソドックスな手法です。

この手法は、世界で最も有名な投資家であるウォーレン・バフェットを模しています。市場の変動に惑わされるのではなく、安くなったらしたたかに買うことで、長期的なリターンを目指すものです。

設立当初からバリュー株投資の姿勢で銘柄を推奨してきましたが、うまくいくことよりもどちらかと言えば失敗の方が多い2年間でした。失敗の要因を振り返ると、決して考え方が間違っていたのではなく、自分の行動に問題があったと結論づけられます。

目の前の利益確保を優先したら、その後の株価は2倍に

私は大学や投資銀行勤務、MBA(経営学修士)を通じて一貫して企業戦略や企業が生み出す価値について研究してきました。そのため、企業分析には自信があります。しかし、それを投資に応用するための行動原理が定まっていたとは言い難い状況でした。

私の最初の推奨銘柄であるJXホールディングス(現JXTGホールディングス)<5020>を例に挙げます。

推奨時は原油価格の下落の影響で株価が低迷していましたが、同社の利益の源泉は原油を加工して販売する「マージン」にあったので、私は本質的な価値は原油価格とは関係がないと判断しました。

さらに、東燃ゼネラルとの経営統合により市場シェアが5割を超えるため、価格競争力の強化やコスト削減により長期的なマージンの改善が見込まれていました。配当利回りも4%を超え、まさに「長期保有向き」の銘柄として推奨したのです。

推奨から約半年、原油価格の回復もあり株価は上昇してきました。そこで、45%上昇したところで「そろそろいいだろう」と、利益確定の推奨を行ったのです。早く利益を確定させて、顧客へ実績をアピールしたいという思いもありました。

※参考:JXホールディングス(5020)は+45%で着地 ー つばめ投資顧問(2017年3月2日配信)

しかし、この時の利益確定は何の原則にも基づかないものでした。想定した価値よりも安く、事業が不調になるような見通しもありません。ただ目の前の利益を確保したいがために売却したにすぎなかったのです。

その後、推奨時から株価は2倍以上に上昇しました。原油価格の上昇という恩恵はありましたが、同時に事業も想定通り好調だったのです。今考えると、短期間で売る必要など全くない銘柄でした。※推奨時377円(2016/8/12)、売却時546.2円(2017/3/2)、現在858円(2018/9/28)

JXTGホールディングス <5020> 週足(SBI証券提供)

弱気の虫に負けて大きな利益を逃す

似たような事例がTDK<6762>です。

電子部品大手ですが、スマートフォンの波に乗り遅れた会社でした。その後挽回を図るために積極的に事業入れ替えを行ったことで、売却した部門の利益が剥落し一時的な減収減益となりました。株価は表面上の数字に反応して下落しました。

事業を売却したとは言え、お金が足りなくなるような苦境に陥っているわけではなく、実質無借金で財務状況は健全でした。それでも、選択と集中により成長が見込める分野に投資する経営者の危機感を買って投資を推奨したのです。

しかし、事業投資は一朝一夕に実を結ぶものではありません。株価の反応も鈍く、また製造業の特性上景気の後退や円高に弱いことから、自分自身が保有を続けることに弱気になってしまったのです。PERも16倍程度と、大幅に割安とは言えない水準でした。

そんな精神状況にあったため、少し利益が出たところで利益確定を推奨してしまいます。この時も何ら原則に基づくことなく、ただ自分の気が楽になりたいばかりに行動してしまったのです。

売却した後になってから成果が現れ始め、株価はどんどん上昇していきました。景気も後退するどころか、どんどん加速していったのです。事業の改革はその流れに乗り、株価も現在まで2倍近くに上昇しました。※推奨時7,050円(2017/5/13)、売却時7,420円(2017/6/23)、現在12,390円(2018/9/28)

TDK<6762> 週足(SBI証券提供)

一応プラスの売買ではありましたが、「損小利大」の考え方からするとお世辞にも成功とは言えない取引でした。その原因は以下のような私の行動にあると思います。

しかし、失敗はこれだけにとどまりません。割安な優良銘柄を売却してしまったことが、その後さらなる苦境を招いてしまうことになります。

Next: なぜ描いていたストーリーを無視してしまうのか。スルガ銀での失敗例



スルガ銀行の公表資料を鵜呑みにし、傷口を拡大

2017年は一貫して株価が上昇した年でした。推奨していた株も順調に上昇し、私は早い段階から次々に利益確定を行ってしまいました。その結果、上昇相場が続く中で手持ちの銘柄がなく、相場に置いていかれることになってしまったのです。

バリュー株投資の考え方からすると、上昇相場だからと言ってむやみに割高な銘柄を買うのは正しくありません。そう考えて、新規の推奨を控えてきました。一方で、投資顧問として新規の銘柄を推奨できないのはいかがなものかという葛藤もありました。

今となって考えると、割安な価格で仕込んだ優良銘柄をただ持っていればよかったのですが、売ってしまっては後の祭りです。後悔の念に駆られながらも、今からでも買える割安銘柄を探し続けました。

上昇相場ではいい銘柄はどんどん上昇してしまいますから、残る割安銘柄は不祥事や何らかの問題がある銘柄がほとんどです。それでも、問題が一時的なら株価の下落はチャンスだと考えていました。

そこで飛び込んで来たニュースがスルガ銀行<8358>の問題です。シェアハウス投資に関するずさんな融資が報じられ、株価は高値から半分に値下がりしていました。

これまでの業績は右肩上がりで、地盤沈下が叫ばれる地銀の中で唯一気を吐いていました。シェアハウスの融資額は当初700億円とされ、3兆円の融資額に対しては小さく見えました。さらに同行の融資の3分の2は住宅ローンと公表されていたことから経営全体に与える影響は大きくないと考え、千載一遇のチャンスとばかりに推奨したのです。

しかし、傷口はどんどん拡大していきました。ずさんな融資はシェアハウスにとどまらず、不動産投資向け融資全体に及んでいたのです。それでも、不動産投資向け融資は6,000億円と公表されており、3兆円の融資に占める割合は限定的だと考え、ナンピン買いを勧めてしまいました

ある朝、とんでもないニュースが飛び込んできました。実は不動産投資向け融資は6,000億円ではなく2兆円で、そのうちの半分の1兆円がずさんな融資だったと言うのです。公表資料で「住宅ローン」に分類されていたものの多くが、実際は不動産投資向け融資だということでした。

このニュースを受け、それまでのストーリーが完全に崩れてしまいました。他の銀行では住宅ローンを借りられない人に対し、独自の審査により割高な金利で融資できるのが強みととらえていましたが、蓋を開けてみるとほぼ「無審査」で「不動産投資」に融資していただけだったのです。

スルガ銀行<8358> 週足(SBI証券提供)

ニュースを見て早朝に売却を推奨するメールを流しましたが、遅すぎました。すぐに売った人以外の大多数の会員はストップ安で売れなかったのです。会員の方々には、謝っても謝りきれません。

Next: バフェットが気付かせてくれた戦略ミスと投資の真髄とは?



「売らない投資」で時間をかけて資産を増やす

スルガ銀行の失敗を経て、投資に向き合う姿勢がどこか間違っていると思うようになりました。そこで、改めてバフェットの本に向き合うと、以下のようなことが書かれていました。

初めから売りを考えて買うような株は、10分たりとも持ってはいけない。

この言葉を読んではっとしました。私は長期投資を標榜していながら、どこかで利益が出たらさっさと利益を確定させてしまおうと思っていたのです。その結果、一方では優良株を早く手放し、一方では問題のある銘柄をリバウンド狙いで買ってしまっていたのです。

投資手法は様々あり、全てに適用できる原則はありません。しかし、重要なのはそれぞれの手法の中で一貫性を持つことです。

私の取る手法は、企業が生み出す価値に着目するもので、決して市場の動きに賭けるものではありません。市場の動きは基本的にランダムで、予想するのは極めて困難であると考えています。それならば、徹底的に企業の価値を追究すべきです。バフェットはまさにそのような行動を取っています。

企業の価値とは、事業を通じて生み出す利益のことです。利益が大きくなれば価値が増大し、株価はやがてついてきます。利益を増やし続けることが、企業活動の本質です。

純利益は株主のものとされていますが、企業はその一部を株主に配当として配り、残りはさらに利益を増やすために再投資します。再投資が実を結べば、利益は複利効果により増えていく無限の活動が価値の本質です。

例えば、ROE10%が続く企業なら、利益をすべて再投資に回すことで10年後の利益は2.6倍になります。同じPERで評価されるなら、株価も2.6倍になるでしょう。

この観点だと、利益を増やし続ける1つの会社を持ち続けるだけで、自動的に複利で資産を増やしてくれることがわかります。株主はオーナーとして何もせずに見守っていればいいのです。途中の株価の動きなど、気にする必要はありません。

私が目指す手法は、利益を増やし続けられる優良な会社のオーナーになり、あとはひたすら事業が上手く行っていることを確認するだけです。この方法こそが、株価の変動に惑わされず、幸せな資産形成を行う方法だと確信しています。

様々な研究でも、ひたすら株を持ち続ける「バイ・アンド・ホールド」が、売買を繰り返す方法よりも良いパフォーマンスを生み出すことが示されています。

【関連】そのまま持っていれば良かった…と悔やむ前に「売る必要のない銘柄」に投資しろ=栫井駿介

もちろん、いくら利益が増えるからと言って、高すぎる株を買うのは危険です。上記の事例で購入時のPERが30倍だとして、10年後に平均的な15倍の水準に下がっていれば値上がり幅はほとんどありませんし、利益が思うように増えなければマイナスになってしまいます。

バフェットは、投資の極意を以下のように言っています。

良い銘柄を良いタイミングで買い、良い会社である限り持ち続けること

この方法が成果を出すにはとても長い時間がかかります。しかし、私はこれから10年、20年、30年かけてこれが正しいかどうか証明していきたいと思います。良い会社の選び方や行動原則は、これからの連載でお伝えしたいと思います。


つばめ投資顧問では、株式投資による資産増加にとことん付き合うプロジェクト「スノーボール計画」を実施しています。ゆっくり幸せなお金持ちになる!「スノーボール計画」にあなたも参加しませんか?

※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

image by:Kent Sievers / Shutterstock.com

【関連】ZOZOTOWNとユニクロの全面戦争勃発!アパレル業界の覇権を握るのはどっちだ?=栫井駿介

【関連】ひとり負けの「かっぱ寿司」、好調のスシロー・くら寿司とどこで差がついた?=栫井駿介

【関連】ニトリにとどめを刺された「大塚家具」、久美子社長が犯した2つの戦略ミスとは=栫井駿介

【関連】日本人のビール離れが止まらない。大手4社の「生き残り」対策に明暗=栫井駿介

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年9月30日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問

[無料 ほぼ 平日刊]
【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。