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さらに米利上げは加速する? FOMC声明に隠されたトランプ封じの巧妙な仕掛け=E氏

今回、FOMCの決定を受けても米国株を始めとするマーケットはあまり変わりませんでした。しかし、決してノーサプライズな内容ではなく、ややタカ派とも言える内容と私は考えています。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

プロフィール:E氏
国内大手生保、ゴールドマン・サックス、当時日本最大のヘッジファンドだったジャパン・アドバイザリーでのファンドマネージャー経験を経て、2006年に自らのヘッジファンドであるINDRA Investmentsを設立し国内外の年金基金や富裕層への投資助言を開始。2006年10月からのファンド開始後はリーマンショックや東日本大震災で、期間中TOPIXは5割程度下落した中で、6年連続のプラス(累積30%)のリターンを達成。運用歴25年超。

ノーサプライズではなく「タカ派」? 中間選挙以降に要注意だ

織り込み済みで無反応な市場

米連邦準備理事会(FRB)は26日まで開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を2.00~2.25%に0.25%ポイント引き上げることを決定しました。利上げは今年6月以来で、今年3回目となります。また、今後の見通しについては、年内は12月にあと1回の利上げが実施されると予想。来年は3回、再来年は1回の利上げを行い、20年の利上げをもって打ち止めにするという見通しを発表しました。

今回、FOMCの決定を受けても米国株を始めとするマーケットはあまり変わりませんでした。しかし、決してノーサプライズな内容ではなく、ややタカ派とも言える内容と私は考えています。

従って、今回の決定は徐々にボディブローのように効いてくると思われますので、本日はその辺りの説明をしてみたいと思います。

利上げ頻度が上がる可能性が出てきた

まず、今回の声明では、「労働市場は引き締まり続け、経済活動が力強い速度で拡大していることを示している」と指摘し、今回の声明から金融政策の運営姿勢に対し「緩和的」という文言を削除しました。

2年前から既に利上げを始め、今回は8回目となる利上げとなるほか、昨年からは債券回収も始めているわけですので、従来から緩和的とは言い難い運営を行っていました。

従って、「緩和的」という文言を外しただけではペースは変わらないように思えますが、今年に入ってから躊躇なく3ヶ月に1度の利上げをしていることを考えると、緩和的ではない運営になると、もう少し頻度が上がる可能性も出てきたと言えます。

それにも関わらず、今回マーケットはリスクオンを継続させていますが、それは声明で述べられた強い経済を好感しているからでしょう。ドットマトリックスでは、従来どおりのペースでの利上げを示唆している一方で、2020年で打ち止めと示唆されたので、引き締めの上限も見えたので安心感があるためです。

しかし、今回の声明には矛盾も窺えます。

Next: トランプの介入をシャットアウト? FOMC声明にある矛盾とウラ



金融引き締めを示唆している?

というのも、現時点での金融政策は中立的という印象をマーケットに与えているのに、なぜ2020年までにあと1%の利上げを見込むのでしょう?

今回、FRBは失業率が2021年にかけ4.5%を下回り続ける見通しをする一方、コアインフレの加速を全く見込んでいません

現在コアインフレはFRBの目標である2%に近いと見られるために、ガイダンスどおりに2020年まで利上げをするということは、コアインフレを上回る引き締めをし続けると示唆しているのです。これは中立的とは呼べず、十分に引き締めです。

トランプの介入を防ぐ巧妙な仕掛け

なぜ今回の声明では、整合性が取れないガイダンスをしているのでしょう?

これは声明発表後に開催された会見でも明らかにされませんでしたが、私はトランプ大統領による金融政策への介入を防ぐための巧妙な仕掛けかと考えています。

ご存知のように、トランプ大統領はこの数ヶ月で何度かFRBの金融政策を批判し、利上げを止めるべきだと発言してきました。中央銀行の独立性を考えると、このトランプ大統領の脅しともいえる発言は異常なことです。

この発言で従来の利上げペースが変わると、FRBに対する信認は一気に失われてしまうでしょう。このためFRBの金融政策がブレることはないというメッセージを市場に出す必要がありますが、かといって理事の任命権をトランプ大統領が握っているので、FRBが独立性を維持しようとしたら、トランプ大統領と正面きって衝突することは避けたいところです。

このような状況で、FRBができることは面従腹背的な声明を出すことくらいではないでしょうか? つまり、声明では経済の強さを褒め上げ、「緩和的」という文言を外して中立姿勢に転じただけのように振る舞っています。しかし、ドットチャートなどではコアインフレを上回る引き締めを予想することで、将来的な引き締めを示唆しているのです。

ガイダンスが引き締めなので、いつかは大統領サイドも気付くでしょうが、この迷彩で11月に開催される中間選挙までは凌ぐことは可能かと思われます。

Next: ひっそりと進められる「引き締め」の準備。中間選挙以降に注意?



近い将来、さらなる金利上昇がありえる

もちろん、声明で書かれた経済環境とガイダンスで示されたインフレや金利の水準がずれている真相は、現時点で誰も知りえることはありません。

しかし、どちらかが正しい場合、残る一方はミスリーディングになっている可能性が高く、それは修飾された声明文の文言よりFOMCメンバーによる見通しの集合体であるドットチャートの方がFOMCメンバーの真意に近い可能性が高いと思われます。

このように、今回のFOMCは一見すると、現在のリスクオンマーケットが持続し続けることを阻害しないノーサプライズなものでした。しかし、過熱経済に対する引き締めを暗に謳っている可能性が高いため、近い将来の金利上昇に繋がる可能性があると私は考えています。

中間選挙前はトランプ大統領が神経質になっているでしょうから、そのタイミングは中間選挙以降ではないでしょうか?

image by:Wikimedia Commons

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年9月30日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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日本株のファンドマネージャーを20年以上、うち8年はヘッジファンドマネージャーをしてきたE氏による「安定して稼ぐコツ」「相場の見方」「銘柄情報」を伝授していきます。

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