マネーボイス メニュー

悪材料は蜜の味、ファンド勢が買い戻しを余儀なくされる10月中旬までは…=近藤駿介

株式市場にネガティブな材料が続くなか、米国市場は堅調に推移。さらに、日経平均も目立って上昇することとなった、その背景を解説します。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

※本記事は有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』2018年10月1日号の抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。著書に、平成バブル崩壊のメカニズムを分析した『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社)など。

10月中旬を境に市場状況が変わるかもしれない、その理由とは

ネガティブ材料が続くなか、米国株式市場は堅調に推移

中国製品に対する2000億ドルの追加関税が実施され、FOMCで利上げが実施され、長期金利が3%台に乗ってくるなど、常識的には株式市場にネガティブな材料が続く。そんななか、米国株式市場は堅調に推移している。それはまるで、株式市場が悪材料を肥やしにしているかのようだ。

先週目立ったのは日経平均株価の上昇。一時27年ぶりの高値を記録し、2万4,000円台に乗せてきた。その原動力になったのが海外勢の先物買。

年初から9月第1週目まで日経平均と東証株価指数(TOPIX)の現物株と先物合計で8兆5千億円売り越した。だが9月2週目に買い越しに転じると、3週目は買越額が1兆4703億円と週間で約4年ぶりの高水準となった。<中略>

国内勢を中心にまだ半信半疑の域を出ていない株高はいつまで続くのか。米系証券の手口から垣間見える日本株買いは、強気相場が意外に長く続く可能性を示唆する。

出典:米国系の先物買い、株高持続のサインか – 日本経済新聞(2018年9月28日配信)

日経新聞は海外勢の先物買についてこうした楽観的過ぎると思われる見解を示している。

欧州系は相場の上げ下げに追随する商品投資顧問(CTA)が主体とされるが、米系はやや趣が異なる。市場では、背後に世界経済の動向を見極めて有望な市場に投資するグローバルマクロ系ヘッジファンドがいるとの見方が多い。

出典:同上

この記事ではCTAやマクロといったヘッジファンドの影響を指摘しているが、ユーリカヘッジのインデックスベースでみると、8月時点でCTAの今年のリターンは▲1.15%、直近3ケ月で+0.69%、マクロ型は同じく▲1.09%、▲0.82%と、同期間のNASDAQのリターン+17.5%やS&P500の+8.5%はもとより、MSCI Worldの+3.4%をも大きくアンダーパフォームしている。

この状況に9月末という時期的な要素を考え合わせると、足元の海外勢の日本株買いが長期投資家の動きに裏付けられたと考えるより、リターンがあげられていない投資家によるポートフォリオの修正によるものだと考えた方が合理的である。CTAとマクロ型では投資戦略の立て方は異なるが、昨年、今年とパフォーマンスが良くないことには変わりはない。ここでのポイントは、リターンに苦しむ投資家によるポートフォリオの修正が長期にわたって行われる可能性は低いということである。

Next: なぜ足元で海外勢の日経先物買いが進んだのか? 考えられる3つの要因



海外勢の日経先物買いが進んだ「3つの要因」

日本の株式市場で注目すべき点は、7月31日の日銀金融政策決定会合で、日銀が「8月6日以降の買い入れは、6兆円(含む新型ETF3000億円)のうち、4兆2000億円はTOPIX連動型ETF(それまでは2兆7000億円)を、1兆5000億円(同3兆円)はTOPIX、日経平均、JPX日経インデックス400の3指数に連動するETFを対象に銘柄ごとの時価総額におおむね比例するように買い入れる」と、TOPIX連動ETFの購入比率を増やしたことである。

こうした日銀のETF購入配分の変更は、常識的にはNT指数(=日経平均株価/TOPIX)の低下、TOPIX優位の展開になることを想像させるものだった。

しかし、7月末時点で12.86倍だったNT指数は、9月末時点で13.27倍まで上昇し、日経平均がTOPIXを大きくアウトパフォームする反対の結果となった(この2か月間のリターンは日経平均+6.9%に対してTOPIX+3.6%と、TOPIXは日経平均を大きくアンダーパフォームしている)。

日銀がETF購入配分の変更を発表した7月時点で、NT指数が過去5年間の最高値12.79倍を超えて来ており、日経平均が相対的に割高だといえる状況にあったことを考えると、日銀のETF購入配分の変更によってNT指数の低下に賭けるポジションが増えたとしても不思議ではない。

こうしたNT指数の動きから想像されることは、足元の海外勢の先物買は日本株のショートポジションが足かせとなっているヘッジファンドによる買い戻しに加え、日本株をアンダーウェイトにしてきた年金資金等による買い戻し、さらにTOPIX等のBMと戦っている内外の年金資金などがTOPIX型に近付き過ぎた日本株ポートフォリオを日経平均型に近付けるポートフォリオの修正を図る過程で生じた売買である可能性が高いということである。

つまり、足元の日経平均先物を中心とした上昇は、

という3つのショートの修正がもたらしたといえる。

米中の貿易戦争の激化や中間選挙を控え、本来ならば長期投資家は動き難い局面にある。

しかし、10月中に行われる解約通知を前に今年のリターンがマイナスであるだけでなく、S&P500を10%以上アンダーパフォームしている多くのヘッジファンドは動かざるを得ない状況にあるといえるだろう。

Next: ヘッジファンドの事情で動く相場。10月中旬以降は要注意?



足元の株価市場を動かしたヘッジファンドの事情

市場価格は売り買いが一致した時点で付くが、その原則は時間的余裕のない投資家が歩み寄るというものである。10月中までに解約するかの結論を出されてしまう運命にあるヘッジファンドには時間的余裕がない状況であることを考えると、彼らが歩み寄っている可能性が高い。

つまり、足元の株式市場では、ヘッジファンドの事情が強く反映した株価形成がなされているということである。

換言すれば、彼らが必要な商いを済ませる、あるいは投資家から解約等の最後通牒を突き付けられる10月は、ファンダメンタルズから乖離した動きが見られる可能性が高いということだ。

9月14日のBloombergでは「ある投資家は権利行使価格20ドルの11月限コール(買う権利)を約7万6000枚購入と同時に、同じ枚数の同26ドルの11月限コールと約9万5000枚の同13ドルの10月限プット(売る権利)を売却した」ことが報じられた。

この戦略が成功するかは分からないが、少なくともこうしたポジションをとった投資家は、10月の取引最終日の19日まではボラティリティは大きく低下せず、それ以降ボラティリティは上昇に転じることを見込んでいる。一般の投資家にとって重要なことは、「ある投資家」の見通しが当たるかどうかではなく、こうしたポジションを正当化する論理が足元の株式市場に存在しているということだ。

「ある投資家」がこうした見通しを立てるのは、ヘッジファンドの「45日ルール」に当たる10月中旬まではパフォーマンスの悪化を招いてきたショートポジションの断続的な買い戻し圧力によって株価が下支え或いは上昇し、それ以降は中間選挙を控えて長期投資家が動きにくいなかで、ヘッジファンドの解約や撤退に伴うポジション解消市場のボラティリティを上昇させるという見通しを持っているからだろう。

ショートポジションの買い戻しを余儀なくされる投資家にとって、「悪材料は蜜の味」なのだ。

10月中旬以降は要注意

ボラティリティの上昇を招くのが株価の大幅上昇か下落なのかは定かではないが、10月の中旬を境に一旦市場状況が変わる可能性があることは頭に入れておいた方が賢明そうだ。

10月中旬まで「悪材料は蜜の味」であっても、それ以降は「悪材料は悪材料」に変化する可能性があるからだ。

続きはご購読ください。初月無料です

<初月無料購読ですぐ読める! 10月配信済みバックナンバー>

※2018年10月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。

・悪材料は蜜の味?(10/1)
・明らかになったパウエルFRBの正体 ~ Goldilocksは終わった(10/7)
・ドル調達コスト上昇 ~ 理屈は恐怖に敵わない(10/8)
いますぐ初月無料購読!

【関連】日本人は地方を見捨てるのか。2024年、少子高齢化で認知症が這い回る地獄絵図となる=鈴木傾城


※本記事は有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』2018年10月1日号の抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

【関連】日本円での貯金はもはや自殺行為。必ず来るインフレが「老人の国」日本を殺す=鈴木傾城

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込3,996円)。

9月配信分
・日米有権者の意識の差と、FRBと市場の認識の乖離(9/25)
・米国株を支える季節風~「誰か」は中間選挙前に株価が上昇することを知っている(9/18)
・4日新甫は荒れる?~ 攻勢から守勢へ(9/10)
・白バイ隊はヒーローなのか、それとも「反則金徴収マシン」なのか?(9/7)
・存在価値を失ったヘッジファンドが支えるトランプ相場(9/3)
2018年9月のバックナンバーを購入する

8月配信分
・したたかさを見せた「実務派」パウエルFRB議長(8/27)
・中国が歩み寄った米中関係と、中国が救った金融市場の混乱(8/20)
・「トルコ・ショック」〜 「能動的リスクオフ」か「受動的リスクオフ」か(8/13)
・日銀による「敗北宣言」(8/6)
2018年8月のバックナンバーを購入する

7月配信分
・旬を過ぎた中国とEU、旬を迎える日本(7/30)
・トランプ政権からの「独立性」が問われるFRBと安倍政権(7/23)
・2018年下期入りと共に見えて来た「主菜」と「刺身のツマ」(7/17)
・佳境を迎えた戦い〜W杯、貿易戦争、そしてFRB(7/9)
・「謎」は解けたが長期金利は上昇しなかった(7/2)
2018年7月のバックナンバーを購入する

6月配信分
・地政学リスクを抜けたらリスクオフだった(6/25)
・真打「貿易戦争」の登場 〜 影響を受ける中国と日本(6/20)
・「高債務国から逃げるマネー」が金利差拡大下での円安の阻害要因?(6/11)
・成功に向かう米朝首脳会談と決裂したG7(6/11)
・米朝首脳会談の陰て台頭した「逆イールド」と「中立金利」(6/4)
・株式投資における「失敗の母」(6/2)
2018年6月のバックナンバーを購入する

5月配信分
・地政学リスクは百難隠す(5/28)
・政治的イベントと変化の気配を見せる金融市場(5/21)
・「Show Time」の裏で生じ始めた乖離(5/14)
・関連性がある興味深い2記事(5/13)
・遅行指数となった物価指標 〜「behind the curve」か「over kill」か(5/7)
・融和ムードの中で再び注目を集めるFRB(5/1)
2018年5月のバックナンバーを購入する

4月配信分
・新著「1989年12月29日 日経平均3万8915円」のお知らせ(4/27)
・安倍退陣を意識し始める日本市場と、「謎」が解け始める米国物価(4/23)
・大国間の暗黙の了解と「トランプが通れば道理が引っ込む」(4/16)
・顕在化してきたトランプリスクと、苦境が迫るパウエルFRB(4/9)
・キューバ危機からの教訓 〜 JFKを演じようとしているトランプ大統領(4/2)
2018年4月のバックナンバーを購入する

3月配信分
・暴れ馬「トランプ」を乗りこなせるのか不安を感じさせたFOMC(3/26)
・内憂外患 〜 底が見えた安倍政権(3/24)
・「ゴルディロックス相場再来」というはかなき夢(3/19)
・「経済統計の綾」と「株式市場の綾」(3/12)
・「踏襲されたイエレン路線」と「踏襲されなかったイエレン路線」(3/5)
2018年3月のバックナンバーを購入する

2月配信分
・米国株安を招いた「誤解」と、これからの「誤解」(2/26)
・日本人の期待を裏切る動きを見せる金融市場(2/19)
・変化する株式市場とFRB、変化を求めない日銀(2/12)
・「もはや低インフレとは言えない米国」を織り込み始めた市場と、それに苦しむ日本(2/5)
2018年2月のバックナンバーを購入する

1月配信分
・金融市場を知り尽くしたトランプ政権と、信頼を失った日銀総裁(1/31)
・「トランプ減税に」に反応し始めた経済 〜 ハト派寄りになったFRBと取り残される日本(1/22)
・ロケットスタートを切った2018年 〜 膾吹きに懲りて羹を飲む(1/15)
・2017年の延長線上で始まった2018年 〜 リスクは国内にあり(1/9)
2018年1月のバックナンバーを購入する

12月配信分
・ビットコイン急騰を演出した「懐疑の中で育ったトランプ相場」(12/25)
・割高になり過ぎた都心不動産 〜 メザニンで不動産市況は救えない(12/23)
・税制改革に対する過度の期待とFRBが抱えるジレンマ(12/18)
・リスクに備えることを忘れたリスク(12/11)
・2018年は2017年の延長線上にある?(12/4)
2017年12月のバックナンバーを購入する

【関連】豪雨に負けない森はどこへ…。今国会で成立「森林経営管理法」が日本の山と林業を殺す=田中優

【関連】2019年から日本国は衰退へ。海外メディアも一斉に警告「少子高齢化という時限爆弾」

元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』(2018年10月1日号)より一部抜粋
※タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚

[月額4,070円(税込) 毎週 月曜日(祝祭日・年末年始を除く)]
時代と共に変化する金融・経済。そのスピードは年々増して来ており、過去の常識では太刀打ちできなくなって来ています。こうした時代を生き抜くためには、金融・経済がかつての理論通りに動くと決め付けるのではなく、固定概念にとらわれない思考の柔軟性が重要です。当メルマガは、20年以上資産運用、投融資業務を通して培った知識と経験に基づく「現場感覚」をお伝えすることで、新聞などのメディアからは得られない金融・経済の仕組や知識、変化に気付く感受性、論理的思考能力の重要性を認識して頂き、不確実性の時代を生き抜く一助になりたいと考えています。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。