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「増税しないと日本の財政は破綻する」は本当なのか?=山田健彦

2019年10月に消費税が10%に増税される予定となっている。しかしこの増税は、本当に必要なものなのでしょうか?今回はこの増税の本質について改めて考えてみます。(『資産1億円への道』山田健彦)

来年10月には消費税10%へ。必要派の意見は本当に正しいのか?

国際公約したのは「財政赤字の削減」で「増税」ではない

安倍首相は15日の臨時閣議で、2019年10月の消費税率10%への引き上げを予定通り実施する旨表明しました。

この2%分の消費増税は幼児教育の無償化などに充て、来年10月から子育て世帯の家計負担を和らげるのだそうです。以下、増税は必要なのかと増税した場合の日本経済に及ぼす影響を考えてみたいと思います。

増税必要派の議論根拠は財政赤字の削減です。「財政赤字は、人々が納税額以上のものを受取っているのと同じで実質的な減税。これを返すのは将来の世代なので彼らにとっては増税となる。これは宜しくない」何となく説得力はあります。

さらには「増税は国際公約だ」とか「増税を見送れば、日本への信任がなくなる」などと事実とかけ離れた発言も飛び交っています。

まず国際公約したのは「財政赤字の削減」であって増税ではありません。

「増税を見送れば、日本への信任がなくなる」というのも、過去2回増税は先送りしましたがその際に円が暴落したとか、国債が暴落したということはありませんでした。

それどころか、何か事が起きると「安全資産である日本円に資金の避難が起こった結果、円高になった」と市場関係者は常に解説しています。「日本への信任がなくなる」というのがいかに事実とかけ離れた議論であるか、分かると思います。

ところで財政赤字の削減が必要とした場合、その対策としては、増税もしくは規制緩和等を実施し、経済活動を活性化させることで(増税なしに)税収をアップさせるの2つの方法が綱引きを演じています。

後者の規制緩和論はアベノミクスの本質であったはずですが、この規制緩和は全くといって良いほど進んでいません。行政が既存の事業者側の視点に偏っており、利用者本位のものになっていない事が原因です。

その間に海外では新たなビジネスが興隆し、日本は置いてきぼりになってしまっているのは、さすがに増税賛成派の人も否定できない事実です。

獣医学部を新設するだけで、あれだけ叩かれたのでは推進側の意欲も削がれるというものです。

日本の破綻は考えられない!財政赤字削減は本当に必要か?

昨年の衆議院議員選挙での自民党の公約は「消費税アップによる税収増は約5兆6千億円の見込みで、約1兆7千億円を教育無償化などに回す方針。借金返済には約4兆円を充てる予定だったが、約2兆8千億円に抑える」というものでした。

「アレッ!消費増税は全て財政赤字を減らすためではなかったの?」なんて話は脇に置いておいて「そもそも財政赤字の削減は本当に必要か?」という議論も一部の経済学者からは発せられています。

「日本国が持っている対外資産、主として米国国債を考慮に入れると日本の財政赤字は何ら危惧すべきレベルではなく、主要先進国のうち最も財政バランスは良好だ」という論です。

筆者はこの論に賛成なのですが、主要メディアは全く報じていません。

これを少し詳しく見ていきます。

IMFのデータによると、日本はバランスシート上、資産が負債を上回っています。

資料:IMFブログ「国富論 政府は資産と負債の管理を強化できる」

ここではグラフでしか示されていませんが、日本は負債より資産のほうが多いのです。

仮に「日本が財政破綻しそうで、この国はもうダメだ」と多くの投資家が信じ国債を売却し、国債価格が大幅に下落したとします。そうなれば政府は高い金利を提示しないと借り換え国債が発行できないので利払い負担が増し、それが一層国の破綻の疑惑を強め、国債価格が文字通り暴落するかもしれません。

しかし、それでも日本国は破綻はしません

日本国が破綻するとなれば、資金は日本円から他通貨、主として米ドルに避難します。猛烈なドル買い/円安が発生して1ドルが数百円、ひょっとすると千円位になるかもしれません。

ここで日本政府は外貨準備として巨額のドルを持っているのを思い起こすと、それを高値で売却し暴落している国債を一気に買い戻せば良いわけです。

ポイントは現在まで日本国債は円建てでしか発行されていないことと、多額の外貨建て資産を持っている事にあります。

超円安/ドル高になるような事態が生じたら、一気に発行済み国債の多くを買い戻すことができ、暴落の翌日には「無借金」になっている可能性すら無いとも言えないのです。

つまり「日本国が破産すると皆が信じて国債と円を売れば売るほど、日本国の借金は減っていく」という不思議なパラドックスが存在するのです。

過去ギリシャや中南米諸国が実際に国債の利払いが出来ない状態になったのは、外貨建て国債を多く発行していたのと外貨建て資産が殆ど無かったからです。日本とは状況が異なります。

トヨタ自動車は20兆円を超える借金がありますが、実質無借金経営です。借金を上回る剰余金を抱えているからです。

日本の財務省は意図的にこの借金の額だけを声高に叫んでいて、真の姿を国民に伝えていません

Next: このまま消費税を上げると、どのような影響が出る?



駆け込み消費や五輪特需を阻む?消費増税の影響は

ところで消費税を上げると景気への影響が心配されます。

消費税率を2%引き上げた時の税収増は5兆6千万円程度です。これは名目GDP552.8兆円の1%程度。いまの日本の潜在成長率は内閣府推計で1.1%、日銀推計で0.78%。消費税税率を2%引き上げると、潜在経済成長以上に国が需要を吸収することになるのです。

前回までは4月からの増税でしたが、今回は初めて10月からの増税です。この増税のタイミングも問題です。10月15日付の日経によると、「9月に大量に駆け込み購買されてしまうと、一年で最も売上が期待できる年末年始の商戦が組み立てられない」のだそうです。

『ギフトに向く洗剤などを相手先が駆け込み購入していたらどうなるか。「贈り先もたくさん買っているのでは」と考えると自然とギフトの候補から外される』ギフトはほぼ定価販売なので安定した利益が取れます。いろいろと問題はあるのです。

また増税時は東京五輪の特需の反動が起こる時期と重なり、最悪という説もあります。

「五輪特需は建設投資が主で、ピークは五輪の前年。1964年10月開催の東京五輪では経済成長率のピークは63年10~12月期だった。20年8月開催の今回の東京五輪にあてはめると19年7~9月期だ。」

特需の反動が落ちたところに増税では目も当てられません。

さらに19年は家電と車の買い替えサイクルと重なります。10年は家電エコポイント制度やエコカー補助金の特需があり、これらの買い替えサイクルはおよそ9年程度。19年は増税前の駆け込み需要が起きやすい。増税後には買い控えが大規模になる可能性も指摘されています。

今回導入される軽減税率で対象外の外食産業、特に居酒屋はかなり苦境に陥る、という見立てもあります。

「来年夏の参議院選挙で増税を押し立てたま、自民は選挙に臨むのか疑問」としてどこかで「やはり消費増税は延期します」という発言も出てくるのでは、との希望的(?)観測もありますが…。

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資産1億円への道』(2018年10月25日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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