マネーボイス メニュー

投資家に役立つ情報の宝庫「官公庁レポート」に注目するメリットとは?=山田健彦

官公庁がほぼ毎日公表する、さまざまな経済指標やレポートは、投資家にとって情報の宝庫です。新聞やテレビの解説をきっかけに見てみるのもよいでしょう。(『資産1億円への道』山田健彦)

経済・物価情勢の展望(展望リポート)を見る必要性とは

今年度の景気は心配ないものの、来年度からはやや注意

官公庁はほぼ毎日、さまざまな経済指標やリポートを公表していますが、それらの原文を読み込んでいる人は、その分野のアナリストやエコノミストなどを除けば殆どいないと思います。

理由としては読む時間がない、自分に関係があるとも思えない、難解で良く分からない、といった所だと思いますが、これらの資料は投資家にとっては情報の宝庫です。新聞やテレビで解説されていたら、たまには原文を見てみるのも良いと思います。

今回は経済・物価情勢の展望(展望リポート)の要点を見てみます。

結論から先に書きますと、今年度の景気はおおむね心配はないものの、来年度からの景気動向はやや注意を要する、との内容です。

国内要因は消費増税の影響とオリンピック特需がピークを迎え、その後の動向が懸念される。国外要因は、英国のEU離脱を巡る混乱、米国の突発的な新政策、政策変更に経済が振り回される懸念です。

「経済、物価ともに下振れリスクの方が大きい」18年度の成長率・物価上昇率見通しを小幅下方修正したうえで「経済・物価ともに下振れリスクのほうが大きい」という判断。

政策委員の消費者物価上昇率の見通し(中央値)は、18年度は7月時点の1.1%から今回は0.9%に下方修正。19、20年度についてもそれぞれ0.1ポイント下方修正し、1.4%、1.5%とした。

「下振れリスクのかなりの部分が海外から来る可能性がある」。黒田日銀総裁の31日の金融政策決定会合後の記者会見での発言。

経済のリスク要因は1つは、海外経済の動向。特に米国のマクロ政策運営、保護主義的な動きの帰趨とその影響、英国のEU離脱交渉の展開やその影響など

国内では2019年10月に予定される消費税率引き上げの影響。特に駆け込み需要とその反動など。設備投資はオリンピック関連投資一巡の影響も加わり、徐々に減速。

Next: 官公庁が公表する、先行きの経済指標の傾向は?



先行きの経済指標は概ね改善・拡大基調

<先行きの海外経済について>

米国経済は拡大、欧州経済は回復を続けるとみられる。中国経済は米国の対中関税率引き上げの影響があるものの、政府が財政・金融政策を機動的に運営すると想定されほぼ安定した成長経路をたどるとみられる。その他の新興国・資源国経済については、全体として緩やかな回復を続けると予想。

<輸出の先行き>

海外経済の成長に伴って「世界貿易量」が緩やかな増加を続けるとともに、それに占める「日本の輸出シェア」もごく緩やかな上昇傾向をたどる、と予想。

<日本の輸出シェア>

日本が比較優位を持つ情報関連や資本財への需要増加もあり、輸出は上昇傾向。先行きも世界的な設備投資需要の回復を背景に、資本財輸出の増加基調が続く。しかし傾向はごく緩やか。

<対外収支の先行き見通し>

貿易収支の改善傾向、海外経済の成長に伴う第一次所得収支の改善、入国者数の増加による旅行収支の受け取り増加などにより経常収支の黒字幅は緩やかに拡大すると予想。

<企業収益の先行き見通し>

内外需要の増加を背景に、企業収益は改善傾向を続けると予想。2020年度は、消費増税の影響で景気が減速方向に向かう。また人件費の増加などで収益の伸び率は低下していくと予想。

<設備投資の先行き見通し>

設備投資は、増加を続けていくと予想。背景は、企業収益の改善、低金利や緩和的な金融機関の貸出スタンス、財政投融資や投資促進税制の効果の発現、期待成長率の緩やかな改善など。

具体的には、景気拡大に沿った能力増強投資、オリンピック・都市再開発に関連した投資、人手不足等に対応した効率化・省力化投資成長分野への研究・開発(R&D)投資などの増加が見込まれる、としている。

賃金は増加傾向、企業はその分のコストを省力化投資で吸収

<名目賃金>

一般労働者の所定内給与の前年比は、0%台半ばにとどまっているがパートの時間当たり所定内給与の前年比は2%程度の高めの伸びとなっている。

<先行きの賃金動向>

一般労働者の所定内給与は緩やかに伸び率を高めていくと予想。先行きのパートの時間当たり所定内給与も、労働需給の更なる引き締まり等で上昇率を高めていくと予想。

総じて、企業は人手不足に見合った賃金上昇をパート等にとどめ、省力化投資の拡大やビジネス・プロセスの見直しにより賃金コストの上昇を吸収しようとしている

<先行きの個人消費>

消費税率引き上げにより個人消費は一時的に減少に転じるものの、雇用者所得の増加と株価上昇による資産効果、耐久財の買い替え需要により、緩やかな増加傾向をたどると予想。

<PMIや業況判断DIに着目>

海外経済発のリスクシナリオが実現しているか否かの判断をする際には、まずは公表時期が早い新規輸出受注PMIや業況判断DIといった企業サーベイで変調をきたしているかどうかをみることが有用。

その次に、実質輸出の動向が重要。実質輸出が落ち込んだ際には、設備投資などへの波及も含め、実体経済に対する悪影響が大きくなるため、当然株価にも影響を与える。

Next: いま、各業界の企業が体感する景気の先行きに注目



さくらレポートから、中国・米国の動向に注目

ここで10月初旬に日銀から公表されたさくらレポートから抜粋します。

<【先行きに対する懸念・警戒感】>

・生産は高水準を続けているが、最終需要先の中国メーカーは、部品在庫を多く抱える傾向があり、現在の発注量が必ずしも需要を反映している訳ではない。米中貿易摩擦の激化もあり、警戒を怠らないようにしている(水戸[はん用機械])。

・中国で生産して米国に輸出している製品はないが、当社部品を用いた製品が米中貿易摩擦の影響をどの程度受けるか判然としない。事態の進展も読めない中、業績への影響を懸念している(本店[化学])

・米中貿易摩擦の影響については、サプライチェーンが多国間にまたがって複雑化するもとで見極め難くなっている。足もとで中国向け等の受注減少はみられていないものの、今後の受注減少を懸念している(大阪[電気機械]<京都、神戸>)。

・米中貿易摩擦については、今後、安価な中国製品の流入により国内市場における製品需給のバランスが崩れることなどを懸念している(札幌[金属製品])。

・米中貿易摩擦について、当社が生産する高付加価値品への影響はほとんどないが、安価な中国製品の流入による国内市況への影響を懸念している(下関[鉄鋼])。

・中国から米国に輸出している自動車部品の関税が引き上げられ、グループ全体でみた利益率が低下している。先行きはNAFTA新協定の合意を受けたさらなるコストアップを懸念している(広島[自動車関連])

・需要増加や人手不足感が強まる中、材料の搬入から機械加工までの全工程を自動化する新しい生産ラインの導入を急いでいる(秋田[輸送用機械])。

・共働き世帯の増加等を背景に、調理の手間が省ける冷凍野菜の需要が増加しているため、生産ラインを増設した(鹿児島[食料品])。

・画像認識技術を応用したセルフレジを導入したところ、作業効率が上がり従業員から好評であったため、今後も積極的に省力化投資を進める(松江[小売])。

・省力化を企図してセミセルフレジの導入を進めており、導入店では人手不足感が緩和した(高知[スーパー])。

・建設会社の人手不足等による工事遅延が徐々にみられている。取引先の工場増設の工期が遅れた結果、当社の機械を予定通り納入できないケースが出てきている(金沢[はん用機械])。

・海外の半導体メーカーにおける設備投資計画の延期を受けて、このところ当社への受注額が計画を大幅に下回っている。このため、予定していた生産設備の導入を延期した(甲府[生産用機械])。

生産者側は先行きについては懸念を深めているところが多いが、省力化投資を行わなければならないような企業は、投資意欲は盛んということが読み取れます。

「サプライチェーンが複雑なために、影響の試算ができない」という指摘も相応にみられる。これは、企業側としても、貿易摩擦の影響の経路や規模は、実際に受注が変調をきたすまではわからないということを示唆しているものと思われます。

このような状況のときは、マーケットの方向性も強気と弱気が交錯して展開が予測できにくくなります。

【関連】コストゼロの株を持て!「株価2倍で半分売る最強投資法」成功の条件=山田健彦

【関連】「史上最大のボロ儲け」天才ポールソンの手法から個人投資家が学ぶべきこと=田渕直也

【関連】バフェットの遺言。億万長者を生む「インデックス投資」の秘密とは?=東条雅彦

image by:StreetVJ / Shutterstock.com

資産1億円への道』(2018年11月7日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

資産1億円への道

[無料 ほぼ 週刊]
資産が1億円あるとゆとりある生活が可能と言われていますが、その1億円を目指す方法を株式投資を中心に考えていきます。株式投資以外の不動産投資や発行者が参加したセミナー等で有益な情報と思われるものを随時レポートしていきます。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。