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下院敗北はトランプの狙い通り。経済政策の激化と、確実になる2年後の再選=近藤駿介

トランプの信任が問われた中間選挙は、上院は共和党、下院は民主党が過半数を占める「ねじれ議会」へ。この結果は再選を目指すトランプへの贈り物になりそうだ。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

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プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。著書に、平成バブル崩壊のメカニズムを分析した『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社)など。

トランプと民主党の双方に好都合?日本へのあたりも激しくなる…

米「ねじれ議会」は、日米経済にとって吉か凶か

2016年の大統領選挙で大方の予想を覆す形で大統領の座についたトランプ大統領の信任投票ともいわれた中間選挙。結果は上院は共和党が過半数を死守する一方、下院は民主党が過半数を占める「ねじれ議会」という世論調査通りのサプライズなしとなった。

中間選挙が事前予想通りのサプライズなしで終わったことで、日米の株式市場は不透明要因が晴れたという理由で大幅な反発を見せた。

しかし、株式市場の反応とは別に、民主党が過半数を握る「ねじれ議会」になることが確定したことによって、これまでのように政策を推し進められなくなる可能性が高まるなど政治面での不透明感は増したといえる状況にある。

トランプの強硬姿勢は今後も続く?

歴代の大統領の多くはねじれ議会の下では、議会と合意しやすい政策を優先するなどの議会との融和に配慮を示してきた。

トランプ大統領も中間選挙後の記者会見でインフラ投資や通商政策、薬価の引き下げを例に挙げてペロシ民主党下院院内総務と「協力できるだろう」と述べ、民主党に秋波を送って見せた。

しかし、下院の議会調査権をつかって、ロシア疑惑などトランプ政権のスキャンダルを追及する構えをみせている民主党に対して、民主党が疑惑の調査を進めた場合「我々も民主に対して同じことをやる」と強調し、民主による重要情報の漏洩疑惑を追及して対抗する方針も示し、ねじれ議会になったことでトランプ大統領もこれまでの強硬姿勢を改めるのではないかという一部の淡い期待を否定して見せた。

経済政策はむしろ加速する

中間選挙の結果生じた「ねじれ議会」の功罪については、トランプ大統領の暴走に歯止めを掛けられるという効用と同時に、これまでのように法案を成立させられなくなることによる政治停滞リスクが指摘されている。

確かに民主党が下院で過半数を握ったことで、これまで議会ではあまり取り上げられて来なかったトランプ大統領に関するスキャンダルや移民政策などで大統領と下院が対立する場面が増えることは想像に難くない。

しかし、念頭においておかなければならないことは、大統領の資質や政治的姿勢の面でトランプ大統領と下院の対立が起きる可能性に比べれば、経済政策で対立する可能性は低く、むしろお互いが歩み寄る可能性があることだ。

Next: 与野党の主な対立は人権・社会保障分野。対中国政策では考えが一致する



経済政策ではトランプと野党が共闘する

トランプ大統領の経済政策が、1兆ドルのインフラ投資や10年間で1.5兆ドルの減税というという財政主導であったことで「共和党=大きな政府」という印象が強まっているが、共和党はもともと「小さな政府」を標榜した政党である。財政負担を伴うトランプ減税も、「小さな政府」を目指す共和党にとっては自然な政策でもあるのだ。

「小さな政府」を標榜する共和党に対して、民主党は「大きな政府」を容認する立場に立っている。2016年の大統領選挙で「民主社会主義」を掲げるサンダース上院議員が台頭したのも、今回の中間選挙で国民皆保険や高等教育の無償化を訴える史上最年少下院議員が誕生したのも、「大きな政府」を容認する民主党ならではの現象だといえる。

人気歌手のテイラー・スウィフトがトランプ大統領や共和党候補の女性やLGBT(性的少数者)などに対する姿勢を批判して民主党支持を表明したことや、オバマケアに関して両党が対立し続けていることなどもあり、民主党とトランプ大統領の政策は相容れないものであるという印象が強まった。

しかし、それは人権や社会保障などの分野の問題であり、経済政策に関する主張は相容れないほど対立しているわけではない

米中貿易戦争は選挙対策のパフォーマンスではない?

特に対中国政策においては、民主党はトランプ大統領と同様に強硬派である。民主党のこうした基本姿勢はオバマ前大統領が中国に対して弱腰であり過ぎたことが中国の台頭を許す要因になったという反省も加わり、一段と増していると考えられる。

事実、2016年の大統領選挙で民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントン氏は「私が大統領になれば、(中国の指導者は)規則に従わなければならないだろう」と述べ、貿易問題ではオバマ氏よりも厳しい路線をとっており、不公正な貿易慣行をめぐって中国政府に挑むと誓っていた。

日本ではトランプ大統領が中国に仕掛けている貿易戦争は中間選挙に向けた政治パフォーマンスであり、中間選挙が終われば落としどころを探ることになるという見方が根強い。11月1日に米国側から持ち掛けた米中首脳による電話会議が開催されただけで「貿易戦争打開」への期待が高まったのも、こうした見方が根強いことの証左である。

しかし、民主党の中国に対する姿勢がトランプ大統領と方向として同じであるとしたら、こうした見方は楽観過ぎると言わざるを得ない。

Next: 「ねじれ議会」はトランプと民主党の双方に好都合。日本にも矛先は行く…



「ねじれ議会」はトランプと民主党の双方に好都合

むしろ、対中国を中心とした貿易問題に関しては、中間選挙の結果、共和党が上院を抑え、民主党が下院を抑えるという「ねじれ議会」が生れたことは、トランプ大統領、民主党双方にとって好都合だと考えるべきかもしれない。

上院を抑えた共和党の利点は、政府の人事権を抑えたことと、下院を民主党に抑えられたことによってトランプ大統領がこれまで通り、あるいはこれまで以上に外交・通商交渉で強硬姿勢を強めても自然の流れだと見做されやすいことである。

一方、下院を抑えた民主党は全ての委員会の人事を握ることで内政を中心に主導権を握り、スキャンダルなどでトランプ大統領を追い込むことが可能になった。それと同時に、それによってトランプ大統領を議会の権限が及びにくい外交や通商問題でより強硬姿勢を取って行くように仕向ければ、国際社会からの保護主義的という非難をトランプ大統領に担わせながら民主党の目指す方向に事態を近づけることが出来ることになる。

日米物品貿易協定(TAG)の交渉はより厳しくなる

今回の中間選挙の結果生じた「ねじれ議会」は、2019年1月から始まる米国議会から反映されることになる。そして2019年1月からは日米物品貿易協定(TAG)交渉がスタートする。

日本では安倍総理の「FTA(自由貿易協定)とは全く別物」という「イナダとブリは全く違う」というごとき詭弁が罷り通っているTAGだが、トランプ政権がこれまでまとめて来た韓国、メキシコ、カナダとの通商交渉全てに「為替条項」が入れられていることからも明らかなように、日本との貿易交渉で「為替」を絡めてくることは想像に難くない。

そこで忘れてならないことは、米国は為替報告書のなかで日本を「監視リスト」に指定していることである。そして、日本を「監視リスト」に指定したのはトランプ政権ではなく、オバマ政権下の2016年4月であったことである。

つまり、民主党が下院の過半数を握り「ねじれ議会」になったことで、貿易交渉においてトランプ政権の強硬姿勢がおさまることには期待できない。もともと民主党は日米貿易不均衡に不満を抱き、日本を「為替監視リスト」に指定したのだから。

米経済の拡大を維持するのはさすがに難しい

2020年の大統領選挙で再選を目指すトランプ大統領は、今回の中間選挙の結果「ねじれ議会」が生じたことを歓迎すべき事態として受け止めているかもしれない。

それは、減税の効果は剥げ落ちて行くことや当面FRB(連邦準備制度理事会)が漸進的利上げ政策を継続する可能性が高いことなどから、この先米国経済の成長が鈍化するのは避けられない状況にあるからである。

米国の戦後の平均的な『景気拡大』局面が5年であるのに対し、2009年7月から始まった現在の米国の景気拡大局面は10年目に突入し、1991年4月から2001年3月までに次ぐ戦後2番目の長さになっている。

失業率が48年ぶりに3.7%まで低下し完全雇用状態にある状況で、さらにあと2年間経済を成長させ続けて2020年の大統領選挙を迎えることは「トランプマジック」を使ったとしても容易いものではない。

Next: トランプは「ねじれ議会」を歓迎? 経済鈍化の責任を一人で負わずに済む…



トランプは「ねじれ議会」を歓迎している

9月時点でのFOMC(連邦公開市場委員会)のメンバーの景気見通しの平均値は、トランプ政権が3%成長を維持するという目標を掲げているなかで2021年までには1.8%に減速する格好になっており、それに伴い政策金利も2020年にはピークアウトする見通しになっている。

金融政策が緩和的でなくなったことや景気拡大期間からすればいつ景気拡大が止まってもおかしくない中で「ねじれ議会」が生じ、政策的自由度が失われていくことは、トランプ大統領にとって「政策的自由度が失われたことで景気が悪化した」と主張できる好都合なことでもある。

次の大統領選が始まる2020年1月に「トランプ待望論」が起きている?

景気がいつピークアウトするかは定かではないが、大統領選挙がスタートする2020年1月ころに景気がピークアウト傾向を示していたら、それは景気回復に向けての「トランプ待望論」を煽る絶好のタイミングだといえる。

戦後2番目の長さの経済成長を達成した実績を持ち、2020年の大統領選挙で再選を目指すトランプ大統領は、「ねじれ議会」の出現は天から再選にむけてのプレゼントだと感じているかもしれない。その位の図太さを持たなければ「トランプ大統領」を演じ切ること不可能だ。

日本人は、「ねじれ議会」がトランプ大統領の言動にブレーキを掛けることを期待するのではなく、「ねじれ議会」がトランプ大統領の牙を研ぐことになると警戒しておいた方が賢明そうだ。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年11月11日)
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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