マネーボイス メニュー

ソニーの復活が象徴する、日本市場に対する投資家のストック・マインド=山崎和邦

米中間選挙が市場の予想通り「ねじれ議会」で終了。株高維持の国策のもと、本当の意味での「大底」にはならない日本市場の今後の行方をどう見たらよいのか。(山崎和邦)

※本記事は、有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』(罫線・資料付)*相場を読み解く2018年11月11日号の一部抜粋です。最新の11月分の定期購読はこちらからどうぞ。

決算発表ピークが終了、日本市場はここから年末までどう動くか

米中間選挙後の株高をどう見るか

<米中間選挙の当日の動き>

11月7日後場の前半に米中間選挙の概要が判った。市場での予想通りのシナリオで展開された。予定通り「ねじれ議会」となった。両院がともに民主党多数である場合にトランプはレームダック化して行政が滞るであろうということで、NY株は売られると見ていた、両院ともに民主党でない限りは、市場では現状維持であるというのがおよその筋書きであった。

11月7日、日本株は高値から360円を下げて終わった。これは「ねじれ議会」でトランプがレームダック化するという意味の下げではなく、25日線が下げつつあるところに日経平均が上げて7日高嶺の上ヒゲが25日線に接した。そこで「25日線に敬意を表して」下げたということになる。市場内部要因だ。小型株指数は25日線を超えた。

<当面の市況>

終末前日の401円高も、今後のトランプ政権の弱体化・外交で点数稼ぐ迷惑さ、これらを意識して直ぐに正気に戻った。やはりハシャギ過ぎだった。果然、正気に戻った週末の米国市場は、NYダウ(▼201ドル)の下げ、ナスダック(▼123ポイント)の大幅下げを演じた。週末の引け時から言えば日本株もウリ先行で始まろう。

日経平均は2日に今年2番目の上げ幅を示現したが、翌月曜日には上げ幅の半分以上を下げた。米中貿易摩擦の早期妥結への期待が後退し、輸出関連株を中心に下がった。前週末の後場に伝わった米中貿易摩擦妥結への道は、米の夜中にNY市場も休場中に、日本が勝手にハシャギ過ぎたのではないかと本稿では先週号の(1)項で「邪推」したが、やはりそのようなものであった。

米国の国家経済会議の委員長は日本に伝わったその朗報を否定し、NY株式市場は下落した。貿易戦争の早期合意への期待は剥落し、週末2日に大幅高となった日本株は上げ幅の6割を下げた。9日は上海株の下落から中国経済を改めて市場は認識して下げた。この日はSQ日だったが、その値を一瞬クリアしたものの引け値では大きく下回った。

<QUICK、5日発表の国内投資家見通し>

標記によれば、QUICKが機関投資家ら市場関係者・機関投資家ら225人を対象に実施、140人から回答を得た結果は次の通りである。

1ヶ月後(11月末)の日経平均株価の予想平均は、2万2,410円(前回調査に比べて▼180円)。

3ヶ月後の2019年1月末は2万2,888円で緩やかに上昇するという。

Next: 本当の意味での「大底」は容易には来ない、その理由とは



狭いレンジの動きで循環買い相場が続くと見られる日本市場

何を買っても2倍か3倍になるという本当の意味での「大底」は容易には来ない

その理由は簡単に言えば、高株価維持が国策だからである。だいたい中央銀行が株式投信を直接に買い支えるなどということは先進国で日本以外にない。午前中のTOPIXが0.5%下がると後場に日銀がETF株式投資信託を買うことになっている。中央銀行が株を買い支えるなどという先進国は再度言うが世界にない。

はっきり言えば、高株価は国策である。高株価による資産効果によっての消費活性化を狙っているが、なかなかうまくいかない。したがって高株価政策は簡単には止めることは出来ない。少なくとも安倍政権が続いている間は、黒田日銀総裁と麻生財務相はこれを続ける。GPIF所管の人事さえも株価に理解ある者を選んでいる。そういう間は、株式は循環買い相場の様相を呈するであろう。

つまり今年前半のように小型株の饗宴が来たり、またはこの2年間を通して現象面に現れたように、先に大天井をつけて先に里帰りした(個別に大底を付けた)著名銘柄である。これは昔の萱場工業ことKYBや名門地銀だったスルガ銀行のように、事件性によるものと減収減益によるものがある。あるいは小型株の乱舞である。

そこで今回は小型株について考えてみると、次のようなことが言える。

小型株は大型株に対して輸出産業の占める割合が低い。したがって世界景気動向と関係なく利益成長が認められる場合が多い。しかし、大型株に対して小型株の方が優位にあるという点を探すのは難しい。

今回は「野村週報」の11月5日号を要約する。「小型株は情報が株価に織り込まれる速度が大型株と異なる。9月末時点で大型株の構成企業は平均9.3名のアナリストにカバーされているが、小型株をカバーするアナリストは平均2.1名に留まる」。

つまり証券会社の調査力が小型株に対しては薄いということだ。中小型投資信託への資金流入も鈍化した。小型株が有利で新しい時代が来たという見方も今年前半には一部にはあったろうが、それは循環物色買いの一様相であるとしか言えない。

欧米と比較した日本株の割安感

但し、これは単なる「レベル」の問題である。トレンドはまた別のところにある。レベルから言えば、東証一部の予想PERは14倍前後であり、アベノミクス相場の下限に近い。

一方、企業の純利益の伸びは順調に伸びているが伸び率は鈍化している。市場は「絶対値」よりも「伸び率やそのスピード」を敏感に嗅ぎとるものである。世界経済の先行き不透明感、米中貿易戦争の波を必ず受けるという不安感等々あるが、株価の基本構成要素はやはり企業業績そのものである。11月以降は19年度業績に市場の関心が集まるであろう。

4~7月決算をひと言でまとめるとこうなる

利益水準は高い。しかし増益のスピードが落ちた。つまり減速感が出てきた。株価変動はレベルそのものよりもトレンドを見るし、スピードは上下いずれにも自乗倍で効く。物理学の「E=MV自乗」は株価変動にも作動する。(既報で既述)。

企業業績に一服感が出てきた。ニュートンの運動の法則を真似れば「静止している物は他から力が加えられない限り(外部要因ない限り)静止し続ける」、つまり、狭い範囲での往来相場が続く、ということになろう。

主要企業の半数が株式市場の期待値に届かなかった。貿易摩擦の陰が現実に実勢悪として現れ始めたのだ。これが10月の株安の一因となった。貿易戦争の陰はやはり“This is Japan.”の代表格トヨタグループに現れた。4~9月期はグループ8社中6社が最終減益となった。

Next: 上方修正を素直に反映する日本株、その復活の象徴はソニー<6785>



上方修正に素直に反映する日本企業

上方修正した企業は、市場で高い評価を得て素直に反応しているようだ。日本市場の投資家のストック・マインドは健在だ。

ソニー<6758>がその象徴だという(日経ヴェリタス11月4日~10日号)。

古い話しだが、2003年の業績予想の下方修正は「ソニーショック」と呼ばれて株式市場全体を下方に引っ張った。良くも悪くも相場の転換点に重要な役割を演じてきたのはソニーだとすれば、筆者にとってこれはうれしい現象である。

筆者の個人的な印象であるが、ソニーこそ戦後日本の資本主義経済の象徴であった。長谷川慶太郎氏が説くように「製造業に強い日本」「技術に強い日本」の象徴であるだけではなく、当時は増資と言えば額面50円で募集したのに対してソニーは資本市場をフルに使って、「時価発行」と称して50円ではなくて株価の8割ぐらいの単価で資金を募集。

コストの低い資金を集めて→それを研究費に充て→新商品を発明し→高株価を示現し→また高株価で低コストの増資をし→それをもってまた技術開発し…というふうに技術力と資本市場とを縦横に使いまくって発展してきた。それがソニーである。一方、ブランド・マネージメントにも成功し、酒造家出身の盛田昭夫氏はブランドにこだわりブランドの樹立に成功した。

筆者が野村の本店営業部時代(新入社員の1961年春~65年末)、先輩諸氏はソニーを「トーツーコー」(ソニーの旧社名「東京通信工業」)と呼び、当時聞きなれない「時価発行増資」という、今でいう公募増資を700円位で新人に売らせた。容易に大量に売れた。「ソニー・ブランドの威力」と「調査の野村」のブランドで新入社員の営業力不足はカバーされたのだ。

出井伸之元社長が井深大・盛田昭夫・大賀元社長の遺伝子を破壊し、ソニーを「普通以下の会社」におとしめた。それまでのソニーは日本の資本市場を使い、技術ブランドを生かして米国の資本市場をも利用し、海外へ打って出てブランドイメージの樹立に成功し、戦後日本の象徴であった。

野村證券は主幹事証券としてソニー株を長期保有し、株価5千円になった時に業界紙の記者に「未だソニーを売らないのか」と聞かれると野村はこう答えた。「ソニー株が1万円になった時に君らはまた来て、まだ売らないのかと聞くだろう。3万円になった時にまた来て同じことを訊くだろう。答えはいつも同じだ」と。現にソニー株は3万円になった

ソニーは資本市場でも技術力でもブランドでも、当時はソニーこそが「This is Japan」であった。故にソニー株が崩れれば市場は崩れた。今秋のソニーの業績発表で市場全体が活気づいたとすれば「復活したソニー」を祝福したい

1960年代前半、「ソニーに入社できなければ大学へ行く」と言う高校生が多かったともいう。「ソニーの秘密」「6歳からでは遅すぎる」等の本がベストセラーになった。そしてソニーを破壊した出井元社長の頃に「ソニー本社6階で」「さよなら僕らのソニー」などが発刊された。

これは内部から出た暴露本ではない。ソニーを愛するあまりの哀惜の本であった。今、そのソニーが復活し市場のリード役を果たしたとなれば筆者にとってこれほど喜ばしいことはない。大げさに言えばソニー株は筆者の青春とともにあったとさえ言えるぐらいだった。

続きはご購読ください。初月無料です<残約15,000文字>

不透明感がなくなった「ねじれ議会」

「ねじれ議会」はトランプ政権に手かせ・足かせ

「裏の裏は表だった」による大いなる安堵感

景気拡大10年目を迎え試される米国経済の正念場

米中間選挙後に渦巻く不安と期待

ブラジルの事情とレアル相場、要約

トルコリラの戻りについて

米中の「新冷戦」について

中間選挙後の外交内政はより過激になる言

公募投資信託の純資産総額について

米中貿易戦争の落着見込みでの556円高は、前の項目で述べたように日本だけのハシャギ過ぎだった

返信への返信;宇都宮のKさんとの東電株の御質問における交信についての返信、大切なことを書き加えます(11月9日

DJ-【コラム】米中経済に「鉄のカーテン」 元財務長官の警告

※これらの項目は有料メルマガ購読者限定コンテンツです →いますぐ初月無料購読!

image by:charnsitr / Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報 「投機の流儀 (罫線・資料付)」*相場を読み解く』2018年11月11日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

【関連】日本の教育に勝ち目なし。なぜアメリカは天才を量産して世界覇権を握り続けるのか?=午堂登紀雄

【関連】日本円での貯金はもはや自殺行為。必ず来るインフレが「老人の国」日本を殺す=鈴木傾城

【関連】日本の地価崩壊はもう始まっている。東京五輪が「経済災害」になる日

山崎和邦 週報「投機の流儀(罫線・資料付)」』(2018年11月11日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

山崎和邦 週報 「投機の流儀 (罫線・資料付)」

[月額3,000円(税込) 毎週日曜日(年末年始を除く)]
大人気メルマガ『山崎和邦 週報「投機の流儀」』のHTMLデラックス版をお届けします。テキストメルマガではできなかったチャートや図解を用いた解説も掲載。より読みやすく、理解しやすく進化しました。投資歴55年を超える現役投資家だからこそ言える経験に裏打ちされた言葉は投資のヒントが盛りだくさん。ぜひご購読ください。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。