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混迷する韓国経済、青年の5人に1人が失業へ。文在寅大統領がハマった罠とは?=勝又壽良

文在寅大統領の政策で最低賃金を引き上げた韓国では、中小企業による大量解雇が起こって失業率が急増しました。その悲惨な現状と失敗要因について解説します。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)

※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2018年12月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

支持率50%割れ。文在寅「韓国は不平等な社会」発言に見る敗因は

「最低賃金引き上げ」で雇用崩壊

ビル・クリントン元米大統領が、初の選挙スローガンで「経済こそが重要なのだ、愚か者」という言葉を使ったことは有名です。政治の要諦は、経済を成長させて国民生活を豊かにすること。それを、見事に言い当てたものとして、人々の記憶に残っています。

韓国の文在寅大統領は、政権発足に当たり「雇用政権」という看板を掲げました。クリントン元米大統領並みの意気込みでした。韓国大統領府の執務室には、31種類の経済データのパネルが持ち込まれました。それが、記者団に公表されたほどです。皮肉にも、「雇用政策」の目玉であった「最低賃金引き上げ」が、韓国経済に大きな混乱を持ち込みました。最低賃金が、実態経済から乖離してあまりにも大幅な引き上げになったことです。

今年は、昨年より16.4%もの最低賃金引き上げをしました。この結果、これに耐えられない中小・零細の企業では従業員の大量解雇が行なわれています。完全失業率は、4%に接近する状態で、就業者数が激減しています。最低賃金の大幅引き上げが、雇用を破壊するという逆効果をもたらしたのです。普通の政権であれば、すぐに政策失敗を認めて軌道修正するものです。

失敗を糊塗する新政策パッケージ

文政権は、この失敗を認めず新たな政策パッケージを持出しました。

文在寅大統領は、先にアルゼンチンで開かれたG20首脳会議で、次のような演説をしました。「人中心の経済が定着すれば、成長の恩恵を幅広く分ける『包容的成長』が可能になる。『人が優先』は、私の政治スローガンであり、以前からの政治哲学」と述べたのです。

所得主導成長論=大幅な最低賃金引き上げは、失敗しているにも関わらず、その失敗の原因を総括せず、新たに「包容的成長」を展開しました。

「包容的成長」は、これまで使われてきた「所得主導成長論」と同じ内容です。それが、「包容的成長」に言葉が変わったのは、OECD(経済開発機構)が、今年5月に「包摂的成長」という新たな政策枠組みを提案したことと関連しています。韓国大統領府は、韓国の「包容的成長」は、OECDの「包摂的成長」の先駆的な概念であると自慢しています。これが、先のようにG20の場で、文大統領の演説となって現れたのでしょう。

OECDはこの5月に、「包摂的成長」を加盟各国に提案しました。その内容は次のようなものです。

「各国は、経済成長をあらゆる人々の生活水準の向上に変換する取り組みを進めることが、不可欠である。社会の中で最も貧しい人々でも、自分の能力を最大限生かせるように手助けし、政府がそのための手段を得られるようにしなければならない。そうなれば、社会全体が繁栄と暮らし良さを享受できる」

要約すれば、社会の底辺にいる最も恵まれない人々の暮らしを引き上げる経済政策を行なえば、社会全体が繁栄するとしています。

韓国では、所得主導成長論として最低賃金の大幅引き上げをして、逆に社会底辺の人々の暮らしを破壊しました。それは生産性を大幅に上回る最低賃金引き上げであったからです。この大幅引き上げについて、OECDもIMF(国際通貨基金)も警告を発したものです。韓国政府は、それを強行して惨憺たる結果を招いているのです。

Next: 支持率は50%割れ。文在寅氏の発言「韓国は不平等な社会」に敗因が見える



文大統領が落ち込む正義の「ワナ」

文大統領は、韓国は不平等な社会である。公正でない社会であると常に主張しています。ここで問われますのは、「公正」とは何か。小難しいことではありません。

  1. 努力したことに正当に報いる「公正」
  2. 不平等を取り除く「公正」

の2種類があるのです。文氏は、前者の「公正」を無視して、後者の「公正」だけを取り上げています。ここが、文氏の陥っている最大の「ワナ」と言えます。

文氏は、反企業主義者です。企業は、労働者を搾取する。そういう古典的な社会主義思想に染まっています。具体的には、法人税率を引き上げたり、規制を強化するという企業性悪説に取り込まれています。そこから脱して、「企業が生産性を上げ、働く者に高賃金を支払う」。この単純な事実こそ、高生産性=高賃金を実現させます。こうして、先の2つの「公正概念」が同時に成立することになります。以上の関係を要約します。

・企業が生産性を上げる=(1)努力したことに正当に報いる「公正」
・働く者に高賃金として支払われる=(2)不平等を取り除く「公正」

文氏の経済政策の根本的な誤りは、(1)の公正を否定して(2)の公正だけを拡大させる点にあります。並列する二輪に例えれば、片方だけ大きくし、もう一方を小さくするのと同じ愚を演じているのです。これでは車はスムーズに動くはずがなく、経済は破綻して当然です。現在、韓国の失業率が高まっている事情の裏には、こういう歪な考え方が存在しています。

OECDの提案する「包攝的成長」は、前記の2つの公正を実現することが暗黙の前提でしょう。韓国の大幅最低賃金引き上げを批判したOECDが、韓国政府の唱える所得主導成長論=包容的成長を容認するとは思えません。

経済不振反映で支持率50%割れ

再び、冒頭のビル・クリントン元米大統領が、初の選挙スローガンで用いた「経済こそが重要なのだ、愚か者」という言葉に戻ります。いくら美辞麗句を並べても、経済面で実績を出せない政権は、国民の支持を得られません。文政権が、その試練の場に立たされています。

文大統領の支持率は、11月28日発表で就任後初めて50%を割り48.8%になりました。政権与党である「共に民主党」も37.6%と最低水準に落込みました。5月末の世論調査では85%の高支持率を得ていました。文大統領の訪朝で、「民族融和」への夢が膨らんだものと見られます。これは、一時的な「噴き上げ現象」でした。その後は、厳しい失業問題に足を引っ張られ、50%を割り込むことになりました。

最近期である10月の完全失業率は3.5%で、前月より0.3%ポイント上昇して10月を基準に13年ぶりの最高値となりました。失業率は、文政権の支持率に敏感に響いています。まさに、「経済問題こそが重要なんだ」というクリントン発言を証明しています。失業の被害は青年に集中しています。その実態を見ておきます。

Next: 青年の5人に1人が失業している? 韓国の雇用情勢は壊滅的…



失業で苦しむ青年たち

今年7~9月期、青年層(15~29歳)の失業率は、9.4%で昨年同期に比べて0.1%の上昇でした。7~9月期基準では1999年以降19年ぶりの最悪値となりました。

これだけではありません。就職活動学生まで含めた「拡張失業率」(体感失業率)という青年層の失業率が異常な高さです。拡張失業率は、就職浪人で公務員試験の勉強中という者まで含めています。韓国独特の指標で22.8%にもなります。

この「拡張失業率」は、2015年の統計作成以来の最悪値でした。青年の5人に1人の割合で失業している状態を意味するからです。こういう人的資源の無駄は、日本とかけ離れた公務員志望(お上意識の強さ)の結果でしょう。

韓国は儒教社会です。朝鮮李朝時代、「科挙(かきょ)」(公務員)は絶対的な権力を握っていました。その伝統が、未だに若者に受け継がれているものです。公務員にならずとも、職業はいくらでもあるはず。公務員になれば、科挙の歴史を継いで「エリート人生」を保障されているのでしょう。この辺りにも、韓国社会の前近代性を感じるのです。

前述のように文大統領の支持率は、就任後初めて48.8%になりました。この支持率を地域的に見ると、これまで重工業地帯として発展してきた地域で、文支持率の低下が目立ちます。

工業地帯の支持率がつるべ落とし

世論調査会社のリアルメーターは11月29日、釜山市、蔚山(ウルサン)市、慶尚南道での文大統領支持率が37.6%まで低下したと発表しました。9月第1週の62.7%から2カ月で25ポイントもの低下になります。この間、全国支持率は65.3%から48.8%へと17ポイントの低下でした。繰り返しますと、前記の3地域の支持率低下が25ポイント。全国平均が17ポイントの低下です。改めて、その落ち込み幅の大きさに気付きます。

もともと、これら3地域は保守色の強い地域とされます。文大統領が、地元出身であることから、党派を超えて支持したと見られます。だが、経済の落ち込みにしびれを切らして、不支持に転じたのでしょう。保守色の強い大邱市・慶尚北道での支持率(34.8%)と同じ傾向を示しています。

文在寅氏の大統領得票率は41%でした。すでに48.8%まで支持率が下がっています。

Next: この先、韓国経済の上昇はない。支持率40%割れで起きる衝撃波とは…



この先、韓国経済の上昇はない

この先、韓国経済が上昇することはありません。今年10月から「不況期」へ突入したからです。

韓国統計庁の正式発表があるまで、韓国政府は不況を否定し続けるでしょう。国民もそれを信じていれば別ですが、政府に都合のいい状況は続きません。失業率のさらなる上昇、GDPの低下などで、否応なく不況を実感させられるでしょう。

となると、文支持率は低下し続けます。問題は、大統領得票率の41%をいつ割るかです。その時、文政権は経済政策でどのような対応をするのかが注目されます。

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支持率40%割れで起きる衝撃波

その際の経済政策の争点は、最低賃金の大幅引き上を棚上げするか、引き上げ幅を縮小するかでしょう。来年の引き上げ幅は10.9%です。今年の16.4%ですら引き上げられず、従業員の解雇が急増して失業率を押上げました。来年の最低賃金引き上げ幅が予定通りとなれば、韓国経済は失速するでしょう。

問題は、文大統領がすでに「包容的成長論」を発表しており、文政権における経済政策の「憲法」のような位置を与えていること――
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勝又壽良の経済時評』(2018年12月3日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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勝又壽良の経済時評

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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。

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